日本語教育通信 授業のヒント 入門・初級レベルのオリジナルの「本」を作ろう

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

概要
目的
  • 入門・初級レベルから日本語の本をたくさん読み、「日本語で読めた」という経験を重ねる
学習者のタイプ
  • だれでも
対象とするレベル

日本語の「本」を何冊読みましたか?

 「先生!日本語の本を読みたいので紹介してください!」「日本語の勉強を始めたけれど、日本語の本は一冊も読んだことがない」「自分のレベルに合った本がなかなか見つからない…」という学習者、皆さんの周りにもいませんか?

 そんな学習者におすすめしたいのが多読用の図書です。多読とは、日本語の読み物をたくさん読むことです。ただたくさん読むのではなくて、自分がわかるレベルのものから始めることが大切です。そして、わからない言葉があっても辞書は使わずに挿絵や文脈から推測しながら、どんどん読み進めていきます。すると少しずつ語彙や文法が身について、難しく長い本もだんだん読めるようになります。このように「日本語で読めた」という経験を重ねていくことで、読む力がついてきます。この多読の活動が知られるようになって、少しずつ、多読用にレベルを分けた図書が作られるようになってきました。

 しかしながら、入門・初級レベルの多読用の図書はまだそれほど多くはありません。特に海外では本の入手が難しいですよね。私もカタールやオランダで教えていた時に、学習者から日本語の本を読んでみたいと言われたものの、薦められるものがあまりなくて困っていました。ここは一つ、みなさんが作家になって、学習者のために本を書いてみませんか?今回は関西国際センターでの実践を例に、入門・初級レベルでもどんどん読める本の作り方を紹介します。

ステップ1:テーマを決める

 「本を作る」と言っても、何を書けば?そう思った方も多いかもしれません。市販の多読用の図書には、日本の昔話や日本文化に関するものが多く見られます。みなさんが作る本は、学習者により身近なことを書いてみてはどうでしょうか。JFスタンダードのA1・A2レベルというのは、どこに住んでいるか、それはどんな町か、自分の家族についてや近所のこと、仕事のことなど非常に身近な話題についての内容であれば理解できるというレベルです。ですから、学習者にとってより身近なテーマを扱うことをこころがけましょう。以下に例を挙げます。

例1)国や町の紹介
みなさんが日本語を教える国や地域、町はどんな所ですか。気候や観光地を紹介してみましょう。また、祭りやイベント、おみやげなどもいい題材となります。
例2)国や町の昔話
国や地域の昔話や伝承を日本語で書いてみませんか。学習者がすでに知っている話をぜひ本にしてください。
例3)学習者や教師の体験
学習者やみなさん自身の日常生活や休日の出来事、趣味、旅行の経験等を紹介してみましょう。時間表現や基本動詞など入門・初級レベルで学ぶ語彙が活用できますよ。
例4)授業で扱った日本の文化や習慣
日本の祭りやコンビニなど、授業で扱った内容を本にしてみてはどうでしょうか。学習者が関心を持っているトピックをどんどん本にしてみましょう。

 いかがでしょう?本のイメージが浮かんできましたか?

 関西国際センターでは、地元大阪の動物園の紹介や、センターの図書館の使い方、『まるごと 日本のことばと文化』で勉強した「生活と文化」の内容を本にして図書館で貸し出しています。今後は関西弁やホームビジットなど、センターでの生活に密着した内容の本を作成しようと考えています。

関西国際センターで作成した多読図書の写真
<関西国際センターで作成した多読図書>

ステップ2:執筆する

 何を書くかは決まったけれど、どうやって書こう?キーボードに向かったあなたの次の疑問はそこではないでしょうか。書く前には基準を決めておくことをお勧めします。基準を作るときには、「NPO多言語多読」のウェブサイトの中にある記事「読み物作成方法」(http://tadoku.org/writers/w-method)と「レベル分けの目安」(http://tadoku.org/learners/book_ja)が非常に参考になります。

 例えば、関西国際センターでは以下の基準で多読図書を作成しています。

① 語彙・文法
『まるごと 日本のことばと文化』A1・A2-1レベルの語彙と文法項目を使用する。未習語は最小限にして、挿絵・写真を見て推測できるように配慮する。

② 語彙数・字数
NPO多言語多読」のレベル分けの目安を採用。0~5までの全6レベルのうち、レベル0~2の語彙数・字数に合わせることにした。

レベル 語彙数 字数
0 350 ~400
1 350 400~1500
2 500 1500~2500

③ 挿絵・写真
挿絵・写真は1ページに1つか2つ入れる。
挿絵や写真は著作権フリーのイラストや写真を探すか、自分で撮影するようにしています。絵の得意な学習者に描いてもらうのも一つの方法でしょう。

④ その他のポイント

  • 文はなるべく短く、簡潔にする。
  • 不自然な日本語にならないよう注意する。
  • 漢字には全てふりがなをつける。

 さあ、みなさんも使用教科書やコースの内容に合わせて基準を作ってみてください。

ステップ3:製本する

 いよいよ製本です。製本なんて大変なんじゃないの!?と考えてしまいそうですが、実は製本が一番簡単です。たったの4ステップでできあがりです。

① 本を書く 「①本を書く」の画像
② 1枚の紙に2ページ分が印刷されるように設定 「②1枚の紙に2ページ分が印刷されるように設定」の画像
③ 印刷 「③印刷」の画像
④ 2つに折って、ホッチキスで留める 「④2つに折って、ホッチキスで留める」の画像

 もう少し本格的に作る場合は製本テープを使ったり、表紙に厚紙を使うとよいでしょう。製本テープは日本では100円ショップでも簡単に手に入ります。

できあがり!さあ、読んでみよう

 本ができあがったら、いよいよ読書タイム!自分のレベルに合った本をどんどん読みましょう。図書の利用方法はいろいろありますが、ここでは関西国際センターで月に2回行っている多読イベントYom Yom Salonの様子を紹介します。時間は60分ですが、学習者はイベント後も残って本を読み続けています。「今日だけで8冊読めた!」や「辞書なしで日本語の本が読めてびっくりした!」など喜びの声が聞かれます。

① レベル別に本を並べる 「①レベル別に本を並べる」の画像
② 好きな所で自分のペースで読書 「②好きな所で自分のペースで読書」の画像
③ 日本語や自国語でコメントを記入 「③日本語や自国語でコメントを記入」の画像
④ 多読記録シート(※)に記入 「④2つに折って、ホッチキスで留める」の画像

 また、図書を人数分作成して読解クラスの教材にしたり、読書を宿題にして次のクラスで感想を話し合うのもよいでしょう。

 あなただけのすてきな本をたくさん作ってください。学習者はあなたの本を待っていますよ。

※ 多読記録シート記載の4つのルールと英語訳は、「NPO多言語多読」の「多読実践方法」(http://tadoku.org/learners/l-method)および「How to do Tadoku」(http://tadoku.org/en/l-method)から引用させていただいております。

【参考資料】

(東 健太郎 / 関西国際センター日本語教育専門員)

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