日本語教育ニュース まるごとCan-do(B1)追加公開!課題遂行型の授業作りにお役立てください

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2023年9月
国際交流基金日本語国際センター

2023年5月にB1レベルの新しいJF Can-doが、Can-doのデータベース「みんなのCan-doサイト」に追加されました。「みんなのCan-doサイト」には、CEFR注1 Can-doとJF Can-do注2とがあります。新しく追加されたJF Can-doは、『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)で具体的な会話やタスクなどが確認できるとても便利な JF Can-doです(以下、まるごとCan-do)。今回は、まるごとCan-doの特徴と活用方法を紹介します。

まるごとCan-doとは

まるごとCan-doとは、JF日本語教育スタンダード準拠のコースブック『まるごと』の各課の学習目標に対応したJF Can-doです。今回追加された52のまるごとCan-do注3は、『まるごと』中級1、2(B1)に対応しています。まるごとCan-doには、対応する学習目標の情報が表示されているため、その『まるごと』の活動を見れば、Can-doに書かれた言語活動が具体的にわかります(図1)。

「ニュースの記事を読んで、主要な情報が理解できる」の学習目標と活動を示した図

図1:まるごと Can-doとそれに対応する学習目標・活動の例

B1はどんなレベル?

A2は、コミュニケーションをとるときに、ゆっくりはっきり話してもらったり、繰り返してもらったり、相手の助けを必要としますが、B1は普段の生活の中で起こるたいていのことに一人で対応することができるレベルです注5。やりとりの相手や内容の幅が広がり、社会生活の中で「できること」が増えていきます。例えば、日常生活や旅行などで起こるトラブルに対応したり、自分の関心のあることについてある程度詳しく説明したり、新聞記事などのまとまりのある文章を読んだりすることができるようになります。

今回追加したまるごとCan-doでも、ネットショッピングで買った商品が壊れていたとき、商品の返品を求めるクレームのメールを送る(図2)、好きなアーティストについて好きな理由や魅力を語る(図3)、テレビニュースを見て、出来事の主要な点を理解する(図4)など、日常生活で遭遇する幅広い言語活動を扱っています。

「商品の返品を求めるクレームのメールを送る」の学習目標と活動を示した図

図2:メールを書く活動

「好きなアーティストについて好きな理由や魅力を語る」の学習目標と活動を示した図

図3:話す活動

「テレビニュースを見て、出来事の主要な点を理解する」の学習目標と活動を示した図

図4:聞く活動

まるごとCan-doはどこで見られる?

まるごとCan-doは「みんなのCan-doサイト」で探すことができます(図5)。

まず、「Can-doを探す」の検索ページで、【種別】の(1)「JF」と(2)「B1」にチェックを入れ、(3)【例示があるCan-do】の「JFまるごと」にチェックを入れると、B1のまるごとCan-doがすべて表示されます。具体的な言語活動の場面や内容のイメージがあるときは、(4)【トピック】や(5)【カテゴリー】注6で絞り込むこともできます。

Can-doサイト検索画面の画像1 Can-doサイト検索画面の画像2

図5:Can-doサイト検索画面

今回の検索ではトピックを「旅行と交通」とし、また、自分が経験したこと、知っていることを話す活動を想定して、カテゴリーを「経験や物語を語る」にしました。図6のCan-doは、以上の検索で表示されたまるごとCan-doのうちの一つです。一番右の(6)「参考情報」の欄で『まるごと』がどの課の学習目標に対応しているかを確認することができます。

Can-doサイト検索結果画面の画像

図6:まるごとCan-doの例

「自分の国に赴任してきた同僚などに、交通機関の利用方法や注意する点などを、ある程度詳しく説明することができる。」(JF559)

まるごとCan-doのここがおすすめ!

次に、まるごとCan-doの活用法を紹介します注7。まるごとCan-doは、参考になる具体的な活動が『まるごと』にあり、課題遂行型の授業注8を考えるときにとても便利です。課題遂行型の授業とは、「現実社会の中で日本語を使って何ができるか」に重点をおいた授業です。

  • B1のタスク達成のレベルがわかる
    B1のCan-doには、「ある程度長い/詳しい」「まとまりのある話」などの表現がよく使われていますが、Can-doを読んだだけでは、実際にどの程度の文章の長さを指すのか、どのような談話構成が想定されているのかがイメージしにくいことがあります。『まるごと』の具体的な文章やタスク、モデル会話を見れば、B1のレベルのイメージや目標達成例を確認することができます。
  • 教室活動の一例が見られる
    まるごとCan-doは、特にCan-doを学習目標にした授業や教室活動、教材の例を知りたいときに便利です。図7は、Can-do「自分の国に赴任してきた同僚などに、交通機関の利用方法や注意する点などを、ある程度詳しく説明することができる。」に対応する『まるごと』の活動です。まずは、(1)モデル会話を聞き、語彙や表現の確認をします。それから、(2)切符の買い方や路線の利用方法などモデル会話のポイントを整理し、構成を考えながら話す練習をします。最後に、(3)自分でメモを作って自分の国の交通機関について話します。このような『まるごと』の活動の流れや具体的なタスクなどを参考にして、教師は授業を組み立てたり、教室活動のヒントを得たりすることができます。
    Can-do“自分の国に赴任してきた同僚などに、交通機関の利用方法や注意する点などを、ある程度詳しく説明することができる。”に対応する『まるごと』の活動を示した図

    図7:『まるごと』の活動例

  • 自分の学習者に合ったCan-doの目標を作ることができる
    そして応用編を紹介します。まるごとCan-doの特徴は、やりとりの相手や場面、話す内容などが具体的に示されている点です。Can-do文の構成がわかりやすいため、まるごとCan-doをもとに、学習者のニーズや目的に合った独自のCan-do(MY Can-do注9)を作ることができます。例えば、先ほど紹介したまるごとCan-doのトピックは「旅行と交通」ですが、海外の学校で学ぶ学習者向けに「学校に新しく赴任してきた日本人の先生に、図書館の利用方法や注意点をある程度詳しく説明することができる」としたり、または、国内で働く学習者向けに「職場に新しく入った社員に、コピー機やプリンターなどの事務機器の利用方法や注意点をある程度詳しく説明することができる」などと書き換えることができます。学習者の身近な状況に置き換えて目標を立てることで、現実場面でのコミュニケーション能力を伸ばすことができます。

JF Can-doをご活用ください!

CEFR公開から約20年が過ぎ、JF日本語教育スタンダードも公開から12年が経ちました。最近では、文化庁より「日本語教育の参照枠(報告)」も公開され、課題遂行型の授業について考える機会がますます増えてきているのではないでしょうか。ぜひ、まるごとCan-doを学習目標にして、日本語の授業を組み立ててみてください。そして、今後も「みんなのCan-doサイト」とJF Can-doをご活用ください!

注:
  1. 1.CEFRとはヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages:Learning, teaching, assessment)の略で、欧州の言語教育・学習の場で共有する枠組みとして、2001年に欧州評議会が発表しました。欧州をはじめとする世界の各言語で利用されています。
  2. 2.日本語のコミュニケーション言語活動を例示したCan-doです。国際交流基金がCEFRを参照し、独自に作成しています。15のトピックがつき、具体的・現実的な場面や状況を示しています。「みんなのCan-doサイト」では、493のCEFR Can-do (A1-C2レベル)、604のJF Can-do(A1-B2レベル)が利用できます。
  3. 3.52のまるごとCan-doが追加されたほか、25の既存のJF Can-doに『まるごと』中級1、2の情報がつきました。
  4. 4.Can-doサイトでは、JF Can-doに番号をつけており、「JF●●●(数字)」で表示されます。Can-doサイトのキーワード検索で、JF番号を入力して検索することができます。
  5. 5.6レベルの大まかなイメージは、「CEFRの共通参照レベル:全体的な尺度」【PDF:422KB】で確認できます。
  6. 6.カテゴリーは、大きく「受容・産出・やりとり(話しことば・書きことば)」に分かれていて、言語活動の特徴を表しています。
  7. 7.過去に書かれたまるごとCan-doの活用方法に関する記事もご参照ください。「みんなのCan-doサイト」に“まるごとCan-do”が追加されました!
  8. 8.詳しい説明は「JF日本語教育スタンダードとCan-doについて」をご覧ください。
  9. 9.MY Can-doづくりの詳しい手順はJF日本語教育スタンダードのガイドブックをご参照ください。

(池田香菜子・伊藤由希子/日本語国際センター専任講師)

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