日本語教育通信 日本語教育ニュース 『まるごと 日本のことばと文化』中級1(B1)出版!

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

日本語国際センター教材開発チーム

『まるごと中級1』表紙の画像

 国際交流基金が開発中の日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』シリーズの8冊目、中級1(B1)が2016年9月に出版されました。入門(A1)、初級1,2(A2)、初中級(A2/B1)に続く、JF日本語教育スタンダード準拠のコースブックです。中級(B1)は、「中級1」「中級2」の2冊構成で、今回発売されたのは、はじめの1冊になります。
 トピックは、これまで以上に海外の学習者の知的好奇心をくすぐるものばかり。日本語の運用力を伸ばす仕掛けがたっぷり詰まった教材です。表紙のデザインも一新されました。

実際の場面で「できる」ことを増やす教材

 『まるごと』シリーズは、日本語を使ってコミュニケーションしたい、日本のことをもっと知りたいと思っている方々のための教材です。身近な場面で簡単なやりとりができる初級(A2)とは違い、中級(B1*)では、日本語を使える場面、話題、内容が広がっていきます。たとえば、日本人との会話に加わって自分の興味のある話題についてある程度くわしく話したり、日本に行ったときに日本語でいろいろなことに対応したりできるようになります。また、SNSなどを使って日本語で発信したり、ネット上から必要な情報を探したりできるようになることも、この教材の目標です。これまでの多くの中級教材のように、難しい語彙や文型の知識を増やしたり、長い読解テキストを精読したりすることが目的ではありません。実際の日本語使用場面で「できる」ことを増やす教材、それが『まるごと』中級(B1)です。

JFSの6レベルの画像

 『まるごと』は、JF日本語教育スタンダードの6段階(A1~C2)でレベルを表しています。各レベルの目標は、「~することができる」という文(Can-do)によって示されます。この6段階は、CEFRと共通です。

日本や世界との出会いを可能にする9つのトピック

 「中級1」「中級2」は、各冊が9トピックからなっています。トピックは、海外で日本語を学ぶ成人学習者の関心や興味を考えて選びました。たとえば「中級1」では、「温泉に行こう」「マンガを読もう」など身近な題材を入り口に、日本だけではなく世界のいろいろな国や地域の文化にも触れることができるようになっています。

中級1トピック4「温泉に行こう」扉ページの画像
中級1トピック4「温泉に行こう」扉ページ

中級1:2016年9月発行
中級1
1 はじめての人と
2 おすすめの料理
3 私の好きな音楽
4 温泉に行こう
5 最近どう?
6 マンガを読もう
7 武道に挑戦!
8 便利な道具
9 伝統的な祭り
中級2:2017年9月発行予定
中級2
1 どんな人?
2 富士登山
3 健康的な生活
4 舞台を見るなら
5 地元のニュース
6 これが欲しい!
7 お気に入りの映画
8 身近な交通機関
9 忍者、侍、その時代

5つの「できる」を可能にするトピックの構成

 各トピックには5つのPARTがあり、技能別に分かれています。各PARTは、それぞれひとつのCan-doを到達目標にしています。これらのCan-doは、海外の日本語学習者が「どんなとき、どんな場面で日本語を使うのか」というアンケート結果をもとに選びました。

<トピックの構成とCan-doの例>

構成 全体の目標 トピック4「温泉に行こう」のCan-doの例
扉/準備 トピックに関するスキーマを活性化し「できる」ようになりたいことのイメージを膨らませる
PART1
聞いてわかる
会話場面に聞き手として参加したり、音声や動画の内容をだいたい理解したりなど、目的のある聞き取りができる テレビの旅行番組の現地中継レポートを聞いて、温泉や旅館の特徴や魅力が理解できる
PART2
会話する
情報を交換したり、経験や感想を共有したりなど、相手とやりとりしながら会話が組み立てられる 食事や部屋などについて、ホテルや旅館に、理由を言って変更してもらうことができる
PART3
長く話す
会話に参加して、ある程度くわしいまとまりのある話ができる どこへ行きたいか、そこで何をしたいなど、旅行の希望や計画を、ある程度くわしく話すことができる
PART4
読んでわかる
身近な素材を読んで、大意を把握したり必要な情報を取ったりできる インターネットの旅行サイトに書かれたホテルや旅館の口コミを読んで、よい点や悪い点が理解できる
PART5
書く
いろいろな場面で、ある程度まとまりのある文章が書ける 宿泊予定のホテルや旅館に、メールで質問したり、希望を伝えたりすることができる
教室の外へ 教室の中の学習を、教室の外の実際のコミュニケーション場面につなげる

中級1トピック3「私の好きな音楽」PART5 書く:コンサートなどに友人を誘うメールを書くタスクの画像
中級1トピック3「私の好きな音楽」PART5 書く:
コンサートなどに友人を誘うメールを書くタスク

 教室の練習は、このCan-doを達成するために行います。たとえば、「PART1:聞いてわかる」では、「職場の同僚に現地にあるお勧めの日本料理の店を紹介してもらう」「インターネットなどで日本の祭りや行事紹介番組を見る」など、どんな場面で、どんな立場から、何のために聞くかを明確にして行います。
 「PART5:書く」でも、SNSの投稿、メールでの問い合わせなど、単なる作文練習ではなく、実際の場面ですぐに使えそうなタスクが中心です。ですから、この教材を使って勉強をすれば、現実のさまざまな場面で日本語を使ってコミュニケーションする力が身につきます。

生の素材に立ち向かう力を育てる工夫

中級1トピック4「温泉に行こう」PART4 読んでわかる:読解素材の例の画像
中級1トピック 4「温泉に行こう」PART4 読んでわかる:読解素材の例

中級1トピック2「おすすめの料理」PART2会話する:ストラテジー練習の例の画像
中級1トピック2「おすすめの料理」PART2会話する:ストラテジー練習の例

 中級レベルの学習者にとって大切なことは、生の日本語に出会ってもなんとか一人で課題(Can-do)を達成する力を身につけることです。そのため、中級(B1) の素材は、できるだけ生の日本語に近づけてあります。たとえば、「PART1:聞いてわかる」の音声には、縮約形、言い差し表現、ら抜き言葉など、日常会話で使われている口頭表現をそのまま取り入れています。
 また、「PART4:読んでわかる」の素材も、SNSのプロフィール、ブログ、旅行の口コミサイト、レシピ、手書きの手紙など、海外でも実際に目にする可能性のあるものを中心に、本物らしさを再現しています。
 このような日本語に出会って初めはびっくりする学習者もいるかもしれませんが、中級(B1)では、全部はわからなくても課題(Can-do)を達成する力を育てることを大切にしています。わからない日本語がある中で、理解できる日本語、自分が使える日本語を駆使してコミュニケーションが進められるように、聞く、読む、話すためのさまざまなストラテジーの練習を取り入れていることも特徴のひとつです。たとえば、「PART1:聞いてわかる」では、前後の文脈からわからないことばの意味を推測したり、「PART2:会話する」では、知らないことばを他のやさしいことばで言い換えたりするような練習があります。

インプットからアウトプットへ

 中級(B1)では、これまでの『まるごと』シリーズ同様、インプットからアウトプットへの学習の流れを大切にしています。「PART2:会話する」「PART3:長く話す」では、まず会話例を聞いて、「できる」ようになることのイメージを持つことから始めます。内容を理解し、そのあとで、大切な表現や文型を練習します。さらに、中級(B1) では、談話の流れや構造に注目させながら話す練習(図参照)があり、最後は、自分の言いたいことが無理なく話せるようになります。

中級1トピック3「私の好きな音楽」PART3 長く話す:メモを見ながら談話構成に注意して話す練習の画像
中級1トピック3「私の好きな音楽」PART3 長く話す:
メモを見ながら談話構成に注意して話す練習

文脈の中で学ぶ文法・文型

 文法、文型や表現など、語形式も課題(Can-do)の達成と関係づけ、意味と形だけでなく、使い方を重視します。たとえば、使役形は、相手とカラオケについて話すとき、「ぜひ、参加させてください」と自分がしたいことを丁寧にお願いしたり、「カラオケの店で、30分待たされました」と使役受身の形で困った体験を話したりするなど、実際の場面での使い方を考えた練習になっています。

中級1トピック3「私の好きな音楽」PART2会話する:使役受身形の練習の場面の画像
中級1トピック3「私の好きな音楽」PART2会話する:使役受身形の練習の場面

「教室の外へ」つなげるアイデア

中級1トピック2「おすすめの料理:「教室の外へ」の一部の画像
中級1トピック2「おすすめの料理:「教室の外へ」の一部

 『まるごと中級(B1)』の学習は、教室の中だけでは終わりません。むしろ、教室の中で身につけた日本語や日本についての興味を教室の外へ広げていくことが大切だと考えています。自分だけに必要な日本語をメモしたり、日本語を使って発信したり、地域の日本関係のイベントに参加したり、そういう自由な学びへのヒントがたくさん詰まっています。

 これまでの『まるごと』シリーズ同様、中級(B1)の音声は、すべて無料で、「まるごと」サイトからダウンロードできます。また、それだけではなく、PCで入力できる「書く」シート、「語彙表」や「聴解スクリプトや読解文」の各国語訳、「教え方の手引き」などの関係資料も、上記サイトで順次公開していく予定です。

(藤長かおる/日本語国際センター専任講師)

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販売情報

 『まるごと 日本のことばと文化』は、日本語教材を扱う書店、各オンライン書店よりお買い求めいただけます。海外では、紀伊國屋書店、丸善書店などの日系書店が取り扱っています。詳しくは発行元の株式会社三修社サイト内「販売のご案内」をご覧ください。

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