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理事長からのごあいさつ

このたび、2020年10月に国際交流基金理事長に就任いたしました。

1972年の設立以来、これまで半世紀近くにわたり国際文化外交の中心的な機関としての役割を担ってきた法人の長を務めることができるのは、私にとって大きな喜びであり、またその責任に心が引き締まる思いがいたします。

私は、1977年に外務省に入省して以来、さまざまな分野や地域と関わってまいりましたが、大使として赴いたスイスやイタリアでは、両国との国交150周年を記念する事業やミラノ万博をはじめ、数多くの文化・芸術イベントの企画や実施に直接携わる中で、日本の優れた文化・芸術が多くの人たちに大きな喜びや感動を与え、それが日本に対する敬愛の気持ちを増進し、ひいては日本外交にとり大きな資産となっていくことを現場で目撃することができました。

また、公務員としての最後の仕事は、環太平洋経済連携協定(TPP)の首席交渉官として、関係11か国の交渉に関与いたしました。米国が離脱を表明し、TPPの先行きが不透明となる中で、交渉は困難なものとなりましたが、最終的に合意に至ることができたのは、関係国の間で日本に対する信頼感があったからこそであると思っています。この信頼感は、単に日本の経済規模が大きいからということではなく、日本の持つ長い歴史と文化、高い技術力といったものに対する敬意に裏打ちされたものであると確信しています。

国際交流基金は、文化芸術、日本語教育、日本研究・知的交流の3つの事業を軸として、世界各国で日本のソフト・パワー外交を推進し、世界との絆を育む大きな力となってまいりました。

令和の時代の幕開けとなった2019年、国際交流基金は、重要地域・国との文化的なつながりの強化を図るため、日本と東南アジアの文化交流の祭典「響きあうアジア2019」と米国における「Japan 2019」の2つの大型文化事業を実施しました。

また、日本政府が新たに創設した在留資格「特定技能」による外国人材受入れ拡大を受けて、海外における日本語教育の重要性がますます高まる中、日本での生活や就労の場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測るテストとして、新たに「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」を開発し、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ネパール、モンゴル、ミャンマーにおいて実施いたしました。

あけて2020年。世界各地に広がった新型コロナウイルス感染症により、国を越えた人の移動や多人数の集まりを伴う多くの事業の実施を見合わせざるを得ない状況となり、国際交流基金の活動にも甚大な影響を及ぼしています。しかし、国と国との交流や連携が停滞しがちな現下の状況においてこそ、文化を通じた日本と世界のつながりを維持し、さらに発展させていくために、より積極的な取り組みが求められていると認識しています。

2022年の設立50周年という節目を視野に入れながら、国際交流基金は、オンラインでの文化交流事業の強化に取り組むなど、新たな国際環境、社会状況に適合した事業を積極的に展開してまいりたいと考えております。

引き続き皆様のご理解・ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。


2020年10月
独立行政法人国際交流基金 理事長 梅本 和義


国際交流基金理事長 梅本和義の写真