2007年度下半期 調査研究プロジェクト
日本語教育に利用できる文学作品の収集と利用実態調査(略称「文庫プロ」) (報告書)
計画者 | 八田 直美 |
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プロジェクト参加者 | 前田綱紀 |
外部協力者 | なし |
日程 |
開始 2007年10月~終了2008年10月 1) 文庫本紹介活動
2) 集計・まとめ |
目的と概要
1. 目的
- 1) 日本語教育の中上級から上級の授業で利用できる現代日本文学の短編作品を収集し、データベース化する。
- 2) 海外の日本語教育現場での文学作品の利用に関する実態を調査する。
2.活動の概要
- 1) 文学作品のデータベースには以下の情報を盛り込む。
- 書誌データ
- 日本語の難易度に関するデータ(リーディングチュウ太による使用漢字、語彙分析及び1文当たりの文字数等)
- 2) 研修参加者から、教材としてどのような作品を、どのように扱っているかなどの利用実態を調査する。
- 3) 収集する作品は、入手しやすい文庫に収録されているものに限り、図書館で購入、配架する。
♦ なぜ文学作品?
文庫プロの「文学作品」とは、日本語で書かれた小説やエッセイで、いわゆる純文学に限らない。一つの作品は、短編集、ショートショートなどあまり長くない ものを扱う。文学作品を教材として取り上げる利点は、日本人の生活、考え方、言語使用などが文脈の中で自然に紹介されること、学習者向けに簡略されたもの にはない“本物、生”のおもしろさがあることが挙げられる。
♦ なぜ文庫本?
古本屋で安価で購入できる。小さくて軽いので研修参加者が帰国時に持って帰りやすい。
成果の概要
1)作品データベース
2)アンケート集計結果(非母語話者研修参加者30人分回収)
- 学習者の時に文学作品を教材として習ったことがある人は約半数(16/30名)だが、教師として文学作品を使ったことがある人は全体の3分の1(10/30名)。
- 教師として使った人が少ない原因は、担当レベルが初級(22/30名)または中級(19/30名)が多いことも一因と考えられる。
- 文学を利用したことに対する感想は、学習者としても教師としても肯定的なものが多い。
- 教材として使った作家・作品、印象に残った作家・作品
作家と作品 | 人数 | ||
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授業を受けた時の作家と作品 | 作家 | 志賀直哉 | 2/6 |
作品 | 伊豆の踊り子 | 2/16 | |
授業をした時の作家と作品 | 作家 | 星新一 | 2/10 |
作品 | 雪国 | 2/13 | |
印象に残る作家と作品 | 作家 | 村上春樹 | 6/40 |
夏目漱石 | 5/40 | ||
川端康成 | 4/40 | ||
作品 | ノルウェーの森 | 5/51 | |
吾輩は猫である | 3/51 | ||
窓際のトットちゃん | 3/51 |
3)今後必要な作業
- 文庫本は古本が安く買えて、軽いことを強調し研修参加者が帰国時に買って帰ることを期待 した。その結果がどうであったか調べることが必要だった。
- また、短期研修のトピック別の授業でも、トピックに合った作品を教材にすることは可能である。他のトピックの活動と調整をしつつ、幅広い日本語技能の育成と教室活動紹介の趣旨からも、日本語運用力の高いクラスでは積極的に文学作品を活用することを提案したい。
4)関連資料
(1) 日本語教育スタンダードと文学読解 別添2参照【PDF:34KB】
関連文献
- 木山登茂子(1999) 「漢字圏学習者のための読解教材とその利用に関する考察」『日本学刊』3号 香港日本語教育研究会
- 木山登茂子(2008) 「自律的な読み手になることを目指した読解の授業—選書の支援と読み方の指導と協働的な活動—」『第17回小出記念日本語教育研究会予稿集』
- 江田すみれ・飯島ひとみ・野田佳恵・吉田将之(2005)「中・上級の学習者に対する短編小説を使った多読授業の実践」『日本語教育』126号 日本語教育学会
- ハドソン遠藤睦子(2008)「短編を通して『日本』を教える—5技能融合・5C実践の短編講読講座—」畑佐由紀子編『外国語としての日本語教育—多角的視野に基づく試み—』くろしお出版