2008年度下半期 調査研究プロジェクト
「異文化コミュニケーション」に対する母語話者・非母語話者日本語教師の実践的知識及び意識

2008年度下半期 調査研究プロジェクト
「異文化コミュニケーション」に対する母語話者・非母語話者日本語教師の実践的知識及び意識 概要
計画者 金孝卿
プロジェクト参加者 松浦とも子、篠崎摂子
外部協力者 なし
日程 開始2008年11月 ~ 終了2009年9月
調査対象:
JENESYS若手日本語教師派遣プログラムの母語話者日本語教師6名
調査方法:
半構造化インタビュー及びPAC分析(派遣前)

目的と概要

1) 目的

本研究プロジェクトでは、海外の日本語教育現場における母語話者・非母語話者教師のコミュニケーション上の問題を明らかにし、教師自身や教師の置かれた状況や環境の多様性を考慮した研修プログラム開発を目指す。今期のプロジェクトでは、小規模の基礎調査として、海外の教育機関に派遣される若手の母語話者日本語教師を対象に、それぞれの派遣機関において、現地の日本語教師と一緒に問題解決していく上で抱えるコンフリクトは何か、そのコンフリクトをどのように解決しているか、そこに言語と文化の違いに起因する問題は何か、その他の要因はあるかなどを明らかにする。

本プロジェクトは、対象者の10ヶ月の派遣期間を含む縦断的研究であるが、今回の中間報告では、海外派遣前の「異文化の中で働く日本語教師」についての意識の構造から見えてきたものをまとめる。


成果の概要

「21世紀東アジア青少年大交流計画JENESYS Program」の一環として、ASEAN事務局より国際交流基金が受託して実施している「JENESYS若手日本語教師派遣プログラム」の事前研修では、海外派遣に必要な講義及び、教授法の面での講義と演習を行っている。本調査では、一連の事前研修を終えた対象者が派遣前に抱く「異文化の中で働く日本語教師」についての自己イメージを、インタビュー調査から明らかにした。分析の結果から、対象者の派遣前の自己イメージとして、「役割(目的)」、「壁や不安」、「異文化に対する態度」、「適応のためのスキル」、「今後へのつながり(海外体験の意味)」が挙げられた。一例として、「役割(目的)」意識について、海外教授未経験者の場合は、相手国への貢献(生の日本語や平和)やNNTとの協働を上げており、漠然とした役割イメージを抱いているのに対し、海外教授経験者の場合は、教授対象となる学習者や派遣される機関に必要な教授法の工夫を担う者として意識していた。「異文化に対する態度」や「適応のためのスキル」について、前者は言語やコミュニケーション上の壁や不安を強く持っているのに対し、後者は相手国に対する知識や具体的なコミュニケーションスキルを意識している様子がうかがえた。また、「海外体験の意味」については、前者の場合、教授技術の拡大や今後へのつながりとなる経験として期待感を示しているのに対し、後者の場合は、帰ってきても何が待っているか不透明といったイメージを持っていた。

現地からの内省レポートの内容分析(一部)の結果からは、派遣前に抱いていた自己イメージが、現地での教授経験や異文化体験、カウンターパートの教師との関わりの中で変容し新たな見方やスキルを見出している様子がうかがえた。今後、引き続き、帰国後のインタビュー調査を行い、対象者の意識や自己イメージの変容の背景にあるエピソードや変容のプロセスをより詳細に記述していく予定である。(了)