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2009年度上半期 調査研究プロジェクト
ノンネイティブ日本語教師のビリーフ調査(ビリーフの要因、教授活動との関係に着目して)(報告書)

2009年度上半期 調査研究プロジェクト
ノンネイティブ日本語教師のビリーフ調査(ビリーフの要因、教授活動との関係に着目して) 概要
計画者 久保田美子
プロジェクト参加者 阿部洋子、横山紀子
外部協力者 なし
日程

開始2009年4月 ~ 終了2010年3月

2009年4月~7月:
研究1:
2008年に行なった調査結果(学習経験、ビリーフに関する半構造化インタビュー: 対象者 ベトナム人教師2名、中国人教師3名、米国人教師3名)の分析
研究2:
学習ストラテジー調査(発話思考法)
対象者 ベトナム人教師1名・オーストラリア人教師1名
2009年5月:
研究1:
分析結果の発表(久保田美子(2009)「ノンネイティブ日本語教師のビリーフの要因—インタビュー調査から共通要因を探る—」水谷信子監修『日本語教育をめぐる研究と実践』凡人社)
2009年7月:
研究2:
調査結果の分析
学会発表(JSAA-ICJLE2009国際研究大会:横山紀子・久保田美子・阿部洋子(2009) 「学習方法が口頭表現能力に及ぼす影響—オーストラリア・ベトナムの比較」)
2009年8月~2010年3月:
追加分析・最終的なまとめ

目的と概要

◆ 研究背景と目的

本研究は、2007年度調査研究部会研究プロジェクト「ノンネイティブ日本語教師のビリーフ調査(ビリーフの要因、教授活動との関係に着目して)」、2008年度プロジェクト「ノンネイティブ日本語教師の個人差要因に関わる研究(ビリーフ、初期学習体験、日本語運用力に着目して)」(代表者:久保田美子)の継続研究である。教師(あるいは教師を目指す者)各人のビリーフ(言語学習観、教育観)は、先行研究からも地域性が強いこと、またこれらのビリーフは、過去の日本語学習経験との関連が強いこと、そのことが後の学習や教授スタイルにも影響し、さらに教師自身の日本語運用力の伸びにも影響することが明らかになっている。こうしたビリーフ、学習経験などの個人差要因は複雑な要因を含み、単純な量的調査だけでは測れないものが多い。量的、質的な調査を積み重ね、日本語運用力や教授行動との関係を明らかにすることは、日本語教師の特性を明らかにする上で重要な意味をもつ。また、これらの研究成果は、研修参加者の日本語運用力を伸ばし、より効果的な日本語教授法の授業を設計する上で役に立つものと考える。

◆ 2007年度、2008年度研究プロジェクトの成果

2007年度の量的調査、2008年度の前年度調査結果の分析と補足的質的調査では、各個人の日本語運用力の技能バランスの特徴が、初期学習経験やビリーフに影響を受けている可能性があること、ただし、これらの関係性は単純なものではないことを明らかにした。この結果については、2008年11月、ハノイ大学・日本語教育開始35周年記念国際シンポジウムで「ベトナム人日本語教師の日本語運用力の特徴−初期学習経験・ビリーフとの関係から−」というタイトルで、特にベトナム人日本語教師を例に発表した。

◆ 2009年度研究の概要

3年目にあたる本年度は、質的な研究に重点をおき、より詳細に個別要因を把握した上で、日本語運用力との関係について分析することを目的とし、次の二つの研究を行なった。

研究1. 半構造化インタビューによるビリーフの要因の解明
  1. 課題1) ビリーフの要因の一つである学習経験に含まれる要素は何か
  2. 課題2) 日本語運用力に対する意識はビリーフに影響を与えているのか
  3. 課題3) ノンネイティブ日本語教師のビリーフに共通の要因はあるのか
    • 調査対象者:ベトナム人教師(2名)、中国人教師(3名)、米国人教師(3名)
研究2. 課題遂行時の発話プロトコルによる学習ストラテジーの調査
  1. 課題1) 学習方法、学習ストラテジーは、口頭表現能力の特徴と関係があるか
  2. 課題2) 関係があるとすれば、そこにはどのようなメカニズムが働いているのか
    • 調査対象者:ベトナム人教師(1名)、オーストラリア人教師(1名)
    • 調査方法:暗記暗唱活動、情報差活動の発話プロトコルとインタビュー調査

成果の概要

研究1.

課題 1) ビリーフの要因の一つである学習経験に含まれる要素は何か
ビリーフに影響を与える教師の学習経験に含まれる要素はさまざまであった。たとえば、「文法・暗記・訳読型」因子に同様に強い傾向を示していたベトナムと中国の教師も、それぞれ経験した「文法説明」「暗記」「翻訳」などの組み合わせは異なり、さらにその経験は変化し続けていた。
課題 2) 日本語運用力に対する意識はビリーフに影響を与えているのか
ノンネイティブ日本語教師は、それぞれ日本語運用力の面で自分に不足しているものを自覚していたが、それを克服することも、自らの仕事の一部と考えているようであった。明示的な説明を得意とし、肯定的にとらえる傾向は共通し、それが「正確さ志向」の強さに影響を与える要因の一つとなっている可能性があった。
課題 3)ノンネイティブ日本語教師のビリーフに共通の要因はあるか
発音の正確さへのこだわり、自らの学習経験を伝えたいという意識などがあった。

研究2.

調査内容(1) 暗記暗唱の発話プロトコルとインタビュー
  • オーストラリア人教師Aの特徴:暗記は苦手である。暗記の習慣がなく、正確さより意味に注目している。
  • ベトナム人教師Bの特徴:学生時代は毎日暗記をしていて、暗記のストラテジーが身に付いている。部分を積み重ねるように暗記する。
調査内容(2) 情報差活動の発話プロトコルとインタビュー
  • オーストラリア人教師Aの特徴:活動の目的を意識している。相手への意味の伝達を重視する。補完ストラテジーを多用する。
  • ベトナム人教師Bの特徴:活動に慣れていない。描写や説明ではなく名称で伝えようとする傾向がある。また、ことばを知らないとあきらめてしまう傾向もみられた。
課題 1) 学習方法、学習ストラテジーは、口頭表現能力の特徴と関係があるか
  • 2008年度の同プロジェクト調査では口頭運用力の特徴について次のような結果が出ていた。
  • ベトナム人日本語教師:語彙、文型が豊富。やや流暢さに欠ける。抽象的な描写を試みる。
  • オーストラリア人日本語教師:基礎的な語彙を多様、限られた文型、基礎的な文型の使用。
  • 会話がスピーディで流暢。具体的な描写が得意。

これらの特徴は、調査内容(1)(2)で明らかになった課題遂行時のストラテジーの違いと関係があるように思われる。

課題 2) 関係があるとすれば、そこにはどのようなメカニズムが働いているのか。
  • 暗記学習で働いていたメカニズム(ベトナム人日本語教師の場合)
    自らのインプットとアウトプットを繰り返し行なっている。テキストの学び残しがない。
    インプットに対して明示的知識を照らし合わせることで、気付きや認知比較が起きている。強いモニターが働いている。
  • 情報差活動で働いていたメカニズム(オーストラリア人日本語教師の場合)アプトプットする際に、もてる知識をフルに活用している。コミュニケーションの相手に働きかけるストラテジーをもっている。相手と共有する背景知識や文脈を利用して相手の推測を誘うことができる。

本研究によって3年間行なってきたノンネイティブ日本語教師の個人差要因に関わる研究は終了する。本研究は、ノンネイティブ日本語教師の日本語学習者、学習経験者としての側面に注目し、その学習経験、学習スタイル、学習ストラテジー、ビリーフ、日本語運用力の関係性について調査、分析を試みたものである。各個人の日本語運用力の技能バランスの特徴が、初期学習経験やビリーフに影響を受けている可能性があること、ただし、これらの関係性は単純なものではないこと、さらに、異なる学習経験が異なる学習ストラテジーにつながり、それは習得のメカニズムに異なる影響を与えている可能性があることを示した。

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