2009年度上半期 調査研究プロジェクト
「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」フォローアップ調査(質的調査)

2009年度上半期 調査研究プロジェクト
「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」フォローアップ調査(質的調査) 概要
計画者 久保田美子
プロジェクト参加者 長坂水晶、簗島史恵
外部協力者 なし
日程

開始 2009年4月 ~ 終了 2010年3月

2009年 4月~8月
2008年度調査結果の分析とヒアリング内容の検討
2009年 1月~3月
ヒアリング
2010年 3月~5月
ヒアリング結果まとめ

目的と概要

プロジェクトでは、標記プログラムの修了生(1~7期生)の現状を調査し、プログラムの評価および今後の事業展開を考える資料を収集した。
とくに、次の3点について具体的に把握することを目的とした。

  1. (1)修了後、どのような成長(業務内容や考え方の変化)を遂げているか。それは、修士コースとどう関係しているか。
  2. (2)修了後、どのような問題に直面しているか。そして、それをどう解決しているか。
  3. (3)今後の成長のためにどのような支援を必要としているか。

2008年度研究プロジェクトでは、標記プログラムの修了生全61人(1~7期生)に対するアンケート調査を行い、33人から回答を得た(結果は2008年度上半期プロジェクト「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」フォローアップ調査結果参照)。このプロジェクトでは、その結果をもとに、33人の中から、所属機関や担当業務の異なりを視野に入れた上で、指導者として活躍や成長が見られる修了生3名を対象に、ヒアリング調査(録音方式)を行った。
ヒアリングの内容は、(1)修士終了による、仕事や研究の内容や幅、仕事に対するかかわり方や考え方における変化、(2)現在の担当業務や興味(研究も含む)と修士での経験とのかかわり、(4)修士終了後に突き当たった問題、及びその解決方法、(5)今後の仕事や研究活動についての抱負、(6)将来の希望実現のために必要な支援(修士修了生や修士担当者とのネットワークの活用法)


成果の概要

1. 終了後の成長と修士コースとの関係、問題解決について

*人についてケース別に報告する

1.1 Aさんのケース

<プロフィール>

  • 研究テーマ:コミュニケーション能力の養成と学習者中心の日本語教育を目指した中等教育機関用教科書改善のための調査・研究
  • コース参加時の所属:中等教育機関
  • 現在の所属:教育省の教員養成所
  • 業務内容:中等教育のシラバス改善のためのニーズ調査、日本語教師養成コースのシラバス開発及びコースの実施

<問題解決>
教育現場から教員養成所に異動を命じられたとき、研究の成果が授業に還元できなくなったと感じ、挫折した。しかし、その後、教師を通して「コミュニケーション能力の養成」「学習者中心」を実現するという新たな目標を見出すことができた。

<帰国後の仕事内容と修士コースとの関係>
授業で、コミュニケーション能力の養成、学習者中心の考え方を生かす工夫をした。また、この考え方について、同僚(シラバス作成委員)の理解を深めることができた。 自分の研究テーマを通して学んだこと
教師養成講座の学生に、コミュニケーション能力の養成、学習者中心の理念を理解してもらう工夫を行っている。 「教授法」の授業と、研究調査の経験が役に立った。
現地の教師に継続的な自己教育や専門能力の発展の重要さについての意識調査を実施
ポートフォリオ評価の実施・改善にむけての研究を継続中 学習者中心に関する勉強が役に立った

1.2 Bさんのケース

<プロフィール>

  • 研究テーマ:日系企業のニーズを踏まえた大学生用日本語会話教材の開発
  • 所属:JFセンター
  • 業務内容:中等教育支援(教師研修への出講)、高等教育支援(勉強会や研究会・学会における発表、勉強会・セミナー運営、発表する教師への支援)、日本語講座、教師向け日本語講座

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<帰国後の仕事内容と修士コースとの関係>
実施していること 修士コースとの関係
教師養成大学で教授法関係科目を担当 修士で学んだ科目の内容が参考になっている
仕事と研究の結びつきの意識化、地域の同僚との協働研究の実施 「特別課題研究」では教育現場と研究課題を結びつけることを経験、テーマや手法の利用
仕事と修士で学んだことのマッチング 修士で、自分の現場をふり返ることの重要性を学んだ、実践的知識重視の必要性を知った

<問題解決や抱負>
現在実施中の調査研究をどのようにまとめればいいかで悩んでいる。修士コースでは、仲間と問題を共有し話し合うことの重要さを学んだが、実際、誰とどのように話し合うと良いかがむずかしい。修士1年間だけの研究経験だけでは不十分な面もあり、国内の博士プログラムに進学している。継続的な勉強の場を確保することが必要。博士プログラムで学ぶことにより、修士プログラムで勉強したことがよりはっきりしてくると感じている。

1.3 Cさんのケース

<プロフィール>

  • 研究テーマ:漢字学習ストラテジー
  • コース参加時の所属:高等教育機関
  • 現在の所属:日本語教育指導者養成プログラム(博士課程)
  • 帰国後の業務内容:日本語の授業、日本語研究会の主催

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<帰国後の仕事内容と修士コースとの関係>
実施していること 修士コースとの関係
所属機関(大学)の漢字授業のシラバス作成 自分の研究テーマとして研究に取り組んだ成果
新しい教材の使用や、同僚への紹介 いろいろな授業の中で、国内外の教材の内容・使用法について紹介したり情報を得たりする機会があった
学部卒業生への論文検索方法の指導 「研究法」の授業の中で学んだ
日本語研究会の主催 コース中に研究会を2回実施することを通じて、研究会の運営方法を学ぶことができた

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<今後の抱負と修士コースとの関係>
抱負 修士コースとの関係
自国の日本語学習者向けの漢字学習教材の開発 研究テーマ
日本語研究会の実施など研究のための環境作り 「教師教育論」の中で、リーダー的な教師の役割の考える機会があり、環境作りの大切さをに気づいた

1.4 まとめ

  • 特別課題研究でやったことを、さまざまな形で現場に還元しようとしている
  • 研究継続の意志がある
  • 修士で学んだことが現場での実践や問題解決に役に立っている

2. 研修生の成長に求められている支援

2.1 研修修了者はどのような支援を必要と感じているか?

  • 研修修了者同士の情報共有が必要:現在行っている研究テーマや内容などについて
  • 海外で日本語を教えるノンネイティブ日本語教師同士の相互交流
  • 自国における学会の開催と卒業生の相互参加

2.2 提案・気軽に自由に情報交換ができるウェブサイトの構築

  • 学会参加支援対象枠の拡大(日本国内で開催される学会から他国で開催される学会へ)