2011年度上半期 調査研究プロジェクト
インドネシアにおける日本語教育 −ケーススタディ地域研究−

「インドネシア人教師のキャリア形成との関係から見た、インドネシアの日本語教育と国際交流基金の日本語教育支援のつながり −中等教育支援を中心に−」

2011年度上半期 調査研究プロジェクト
インドネシアにおける日本語教育 −ケーススタディ地域研究− 概要
計画者 古川嘉子 (専任講師)
プロジェクト参加者 2010年度 堀川晃一(教材開発チーム職員)
藤長かおる(専任講師)

 

2011年度 木谷直之(専任講師)
布尾勝一郎(専任講師)
外部協力者 なし
日程

〔開始2010年 4月 ~ 終了2012年 3月〕

2010年4月~2011年3月
文献調査、インタビュー質問の作成、インタビューの実施 仮年表の作成
2011年4月~2012年3月
インタビューの実施、インタビューデータ整理 年表作成、質問紙作成及び予備調査、質問紙インドネシア語版作成 中等教育を主体として年表作成、報告書執筆
 

目的と概要

背景・趣旨

1. 背景とプロジェクトの趣旨

インドネシアに対する第2次世界大戦後の日本語教育支援は1960年代にはじまり、国際交流基金(以下、JF)は設立当初から継続的に支援を続けている。また、インドネシアの日本語学習者は、これまでの海外日本語教育機関調査においてつねに上位を占め、1990年調査で4位(38,050名)になって以降、2003年調査(6位:54,016名)、2006年調査(4位:272,719名)、2009年調査(3位:716,353名)とめざましい増加を示している。本プロジェクトでは、長期にわたって展開されてきたインドネシアの日本語教育の発展の様相を歴史的・重層的に捉えられないか、そして、そこでのJFの支援がどのように行われ、どのように現地の日本語教育に影響を与えているのかを、日本語国際センター(以下、NC)の研修に参加したインドネシア人日本語教師自身から得られる情報を整理し、基金のインドネシアに対する日本語教育支援に資する資料を作成することを目指す。さらに、他の地域の日本語教育支援事業で活かせるような、調査や結果の提示の方法のあり方を探る。

2. 国際交流基金のインドネシアの中等教育に対する日本語教育支援

1991年のジャカルタ日本語センター開設に伴い、特に伸張著しい中等教育への支援が本格的にはじまった。また、日本語学習者数の増加を支えているのは高校の日本語学習者であることから、本報告では、特に中等教育支援に焦点を当てていくこととする。

  1. (1) 専門家派遣(特に、教員養成大学への派遣及び中等教育支援関連の派遣)
  2. (2) 教育省との連携の支援
    1. 研修支援
    2. 教師会活動支援
    3. プロジェクト支援(教科書作成、カリキュラム改訂への協力など)
  3. (3)訪日研修
  4. (4)その他(教材助成、フェローシップなど)

調査概要

1時間から1時間半程度の半構造化インタビューを実施、その後、言いよどみや言い換え等は省き、回答者の意図を損なわないよう文字化を行った。調査項目は、日本語学習動機、日本語学習歴、日本語関連の職歴とそこでの目的(動機)、職歴に関する所感及び基金事業との関連、さらに各自のキャリアと基金の日本語教育諸事業との関連、インドネシアから見た日本語・基金事業の意味、日本語教師という職業に対する考え、であった。

インタビュー対象者:2010、2011年度のNC研修参加者及び同時期に来日した関係者11名(高校教師:8名 大学教員:2名 教育省職員:1名)

*地域における指導的立場にある参加者を対象とした。ただし、インタビューは基本的に日本語で行ったため、日本語で意思疎通が十分できる参加者を選んだが、中には、日本語での意思疎通が難しくてもインタビューを行う必要性のある対象者にはインドネシア語で実施したケース(2名)もあった。


成果と課題

結果と考察

中等教育で教える教員のほとんどが教員養成大学の出身者であることから、インドネシア教育大学(旧バンドン教育大学、以下UPI)、スラバヤ国立大学(旧スラバヤ教育大学、以下UNESA)、マナド国立大学(旧マナド教育大学、以下UNIMA)の卒業生である高校教員へのインタビュー結果の内、①日本語学習、日本語教育に関連する事項、②JF事業と関連する事項を年表上に配置し、さらにインタビューの中でそれらの事項に関するコメントがあればそれを記載した。(資料1:(内部資料)中等:インドネシア日本語教育年表、資料2:(内部資料)調研報告会インドネシアの日本語教育PPT)

<例として取り上げた中等教育関係者のケース>

  1. ①C氏(ジャカルタ)インドネシア教育省語学研修所スタッフとして日本語教師の研修をJFジャカルタと連携で担当。UPI卒業。
  2. ②S氏(西スマトラ州)西スマトラ州教師会会長として地域の日本語教師研修をJFジャカルタとともに実施。UPI卒業。
  3. ③SE氏(東ジャワ州)教育省・JF共同制作の『にほんご1・2』教材作成委員。UNESA卒業。
  4. ④D氏(パプア州)パプア州教師会会長。UNIMA卒業。
  5. ⑤H氏(中部ジャワ州) 技術研修生としての職業プログラムで訪日後、日本語教師となる。西ジャワ州教師会会長。旧スマラン教育大単位取得。

成果

  • JFが重点支援をした大学出身者や技術研修生経験者の指導的立場の教師の個人の語りを見ていくことで、専門家派遣、教師(現地・訪日)研修、教材作成プロジェクト支援などのJF事業がそれぞれの日本語教師としてのキャリア形成の上で、専門性の向上につなげたり、次の段階への弾みとなる等の影響を与えている様子が見えてきた。
  • 年表と個人のキャリアの変遷を重ねてみることで、学習者総数などの数値では見ることができない、質的な情報を捉えることができた。
  • ただし、本調査では、まず前提としてNCの研修参加者であり、日本語で意思疎通が可能で、しかも現地の教育である程度中心的な役割を果たしている対象としぼったことで、限定的な調査となっている。
  • 今回の調査、結果分析でとった手法が、基金の事業を質的に把握するための方法論を探索する上で1つの足がかりとなるのではないかと考える。たとえば、他国・地域の日本語教育の様相を歴史的な観点と個人史の観点で見ていこうという際に利用したり、日本研究などの経年的な事業展開を評価する際にも利用が可能ではないか。

今後の課題

  • 今後、これまでの調査では対象としなかった地域や年齢層などの幅を広く見ていく必要がある。さらに、中等教育だけでなく、大学教育についても幅広く見たい。そのために、12年度には質問紙調査を実施すべく、11年度には中等教育教員用、大学教員用質問紙をそれぞれ作成し、インドネシア語訳を行った。次年度は実際にインドネシアの教員に対する調査を実施していきたいと考える。
  • 結果の蓄積方法を検討する必要がある。一案として、個人史データベースにしていき、テキストマイニングを利用した定量的研究につなげる、などがある。