2011年度下半期 調査研究プロジェクト
漢字学習のための教室活動作成の試み
計画者 | 濱川祐紀代 (専任講師) |
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プロジェクト参加者 | なし |
外部協力者 | 二瓶知子(ジャカルタ日本文化センター) ウラムバヤル・ツェツェグドラム(元政策研究大学院大学博士課程) |
日程 |
〔開始2011年11月半ば ~ 終了2013年3月〕
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目的と概要
現在,文法項目を定着させるための教室活動集や実際場面を想定したコミュニケーションゲーム集などさまざまなタイプの教師用参考図書が出版されている。しかし,漢字の場合,「この漢字を勉強したら何に使えるのか」「この漢字でどのような活動ができるのか」といった観点でまとめられた教師用参考図書はほとんどない。NCで文字・語彙指導を扱う際に「どこでどのように使うのか」確認してから指導するようにと伝えることもあるが,参考書籍がないため,なかなか具体的に伝わらない。そこで,教室活動を考える際に活用できるようなリソースを整えることが急務だと考え,プロジェクトを立ち上げた。
本プロジェクトは,まず,市販の漢字学習用教材(以下,漢字教材)を分析することから始める。漢字教材がどのようなトピック・どのような場面を設定しているのか確認したい。またそこに「一度に提示する漢字のまとまり」があるのか,そのまとまりは,複数の教材で共通している「まとまり」なのか確認する。そして,「まとまり」が見つかった場合,その「まとまり」を利用して,漢字学習のための教室活動を作成したい。本プロジェクトでは,教室活動を作成したり集めたりし,それをリストにしていくことをゴールとする。
成果の概要
1.教材分析:漢字教材で扱われているトピック
まず,『日本語教師のための実践・漢字指導』(濱川,2010)の教材リスト(pp.235-239)にある教科書30冊を対象に,課ごとの学習漢字や目次に書かれているトピックやテーマを入力する。次に,どのような「漢字のまとまり」があるか,どのような「トピックやテーマ」が設定されているかを確認する。
教科書で設定されているトピックやテーマは想像以上に多岐にわたり,また抽象度も異なり,六書,字形認識や,字源・連想法など,漢字特有の項目で並べているものもあり,ひとつの軸でまとめられないことがわかった。そこで,視点を変え,「JFスタンダードの15のトピックとキーワード」をヒントに分類し,漢字特有のものは「その他」として分類することにした。なお,検討した結果,分類・分析に適した教材は14冊(8種類)となった。
01 | BASIC KANJI BOOK 基本漢字500 VOL.1 | 凡人社 |
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02 | BASIC KANJI BOOK 基本漢字500 VOL.2 | 凡人社 |
03 | BASIC KANJI WORKBOOK 使って身につく 漢字×語彙1 | 凡人社 |
04 | ESSENTIAL KANJI FOR EVERYDAY USE Volume1 | Tuttle Publishing |
05 | ESSENTIAL KANJI FOR EVERYDAY USE Volume2 | Tuttle Publishing |
06 | 1日一語365 ポルトガル語で早覚え KANJI LESSON | 柏書房 |
07 | 漢字系学習者のための漢字から学ぶ語彙1 日常生活編 | アルク |
08 | 漢字系学習者のための漢字から学ぶ語彙2 学校生活編 | アルク |
09 | かんじだいすき(三)にほんごをまなぶ世界の子どものために | 国際日本語普及協会 |
10 | かんじだいすき(四)にほんごをまなぶ世界の子どものために | 国際日本語普及協会 |
11 | かんじだいすき(五)にほんごをまなぶ世界の子どものために | 国際日本語普及協会 |
12 | かんじだいすき(六)にほんごをまなぶ世界の子どものために | 国際日本語普及協会 |
13 | 初級から中級への橋渡しシリーズ①漢字・語彙が弱いあなたへ | 凡人社 |
14 | 留学生のための漢字の教科書 初級300 | 国書刊行会 |
トピック | トピックのキーワード | |
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1 | 自分と家族 | 自分や家族に関すること(家族構成、身体的特徴など) |
2 | 住まいと住環境 | 住居や住居地域に関すること(部屋、家具、周辺施設など) |
3 | 自由時間と娯楽 | 余暇や趣味に関すること(スポーツ、映画、音楽など) |
4 | 生活と人生 | 日常生活やライフステージに関すること(日課、入学、結婚、子育てなど) |
5 | 仕事と職業 | 仕事と職業に関すること(企業、職種、職務) |
6 | 旅行と交通 | 旅行と交通に関すること(旅程、公共交通機関、観光など) |
7 | 健康 | 身体や健康に関すること(病気、通院、生活習慣など) |
8 | 買い物 | 買い物に関すること(店、支払いなど) |
9 | 食生活 | 食生活に関すること(飲食、レストラン、料理など) |
10 | 自然と環境 | 自然や環境に関すること(天候、季節、環境問題など) |
11 | 人とのつきあい | 人づきあいに関すること(交際、トラブル、マナーなど) |
12 | 学校と教育 | 教育機関や教育に関すること(学校、学習環境、教材など) |
13 | 言語と文化 | 言語や文化に関すること(外国語、冠婚葬祭、伝統文化、ポップカルチャー、異文化体験など) |
14 | 社会 | 社会に関すること(政治、産業、経済、国際関係など) |
15 | 科学技術 | 科学技術に関すること(最新テクノロジー、サイエンス、メディアなど) |
次に,漢字教材が設定しているトピックは多岐に渡るのか,特定のトピックに偏っているのかについて確認した。設定トピック数が多かった教材は『漢字系学習者のための漢字から学ぶ語彙』『Essential Kanji for everyday use』『漢字・語彙が弱いあなたへ』『Basic Kanji Book vol.1&2』であった。また,よく使われているトピックは「12.学校と教育」「4.生活と人生」「6.旅行と交通」「7.健康」「2.住まいと住環境」「1.自分と家族」であった。
さらに,トピックごとに共通して出される漢字があるかどうかを確認した。トピックごとに,3つ以上の漢字教材で出されている漢字があれば書き出し,表にまとめた。その結果,漢字数が多いトピックは「12.学校と教育(49字)」で,次に「6.旅行と交通(28字)」「2.住まいと住環境(27字)」「4.生活と人生(24字)」と続くことがわかった。
2.教室活動作成
筆者がファシリテーター役を務めたJSL漢字学習研究会のワークショップやバンコク日本文化センターで行ったワークショップなどで,参加者に教室活動とその活動のトピックや活動目標を記述してもらった。その他に,H24年度長期研修Bコース選択科目「漢字学習法」で研修参加者が作成し,ポスター発表会で共有されたものも含めると,現在手元に,63の教室活動がある。まずは,それらをまとめ,活動の流れを簡単に記述した活動案の形で資料を作成した。それから,作成された活動がどのトピックであったか確認してみると,活動数が多かったのは「6.旅行と交通(17件)」で,次に「4.生活と人生(8件)」「2.住まいと住環境(6件)」と続いた。
トピック | 活動数 | |
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1 | 自分と家族 | 3 |
2 | 住まいと住環境 | 6 |
3 | 自由時間と娯楽 | 4 |
4 | 生活と人生 | 8 |
5 | 仕事と職業 | 1 |
6 | 旅行と交通 | 17 |
7 | 健康 | 1 |
8 | 買い物 | 4 |
9 | 食生活 | 1 |
10 | 自然と環境 | 3 |
11 | 人とのつきあい | 3 |
12 | 学校と教育 | 4 |
13 | 言語と文化 | 2 |
14 | 社会 | 1 |
15 | 科学技術 | 1 |
16 | その他 | 4 |
3.プロジェクトの今後
教師用の資料として表に出すには,未整理な部分が多すぎ,目標や手順の書き方が統一できていない。今後は,実際に教室活動をやってみながら,記述を改めたり,説明を加えたりしていく必要がある。また,初級レベルの漢字を用いた教室活動が多いため,初級後半や中級レベルの漢字を用いた教室活動を増やしていく必要もあるだろう。
最後に,研究会やタイ出張でワークショップをする機会を得,講師役を経験することで,活動集を作ることよりも,「活動作成のポイントと手順を広め,どこでもだれでも作れるようになること」が重要なのではないかという気づきが得られた。今後もそういった機会を活用して,教室活動作成のポイントや手順を伝えていきたい。
<参考文献>
- 濱川祐紀代・二瓶知子(2012)「漢字学習のための教室活動と活動目標」『JSL漢字学習研究会誌』4号,pp.59-65,JSL漢字学習研究会
- 濱川祐紀代(2013)「漢字学習のための教室活動と活動目標を考える」『JSL漢字学習研究会誌』5号,pp.58-64,JSL漢字学習研究会
- 濱川祐紀代・編著(2010)「漢字学習用教材」『日本語教師のための実践・漢字指導』,pp.235-239,くろしお出版
- 濱川祐紀代(2013予定)「タイで漢字を教えるための教室活動と活動目標」『国際交流基金バンコク日本文化センター日本語教育紀要』第10号