日本語国際センターについて

2013年度上半期 調査研究プロジェクト
短期研修ポートフォリオに見る研修参加者の文化的気づきの整理

2013年度上半期 調査研究プロジェクト
短期研修ポートフォリオに見る研修参加者の文化的気づきの整理 概要
計画者 簗島史恵 (専任講師)
プロジェクト参加者 木谷直之 (専任講師)・坪山由美子 (専任講師)
外部協力者 なし
日程

〔開始2013年5月~終了2014年3月〕

2013年5月~
2012年度の多国籍短期研修を中心に、4つの研修のポートフォリオ 計170名分×7週分の記述のデータベース化
2013年7月~
上記の一覧表より「文化的気づき」に関わる記述の抜き出しと整理
2014年1月~
記述の分析および考察

目的と概要

国際交流基金日本語国際センターでは、海外で日本語教育に従事する非母語話者教師研修の研修を年間15~20本行っている。本プロジェクトでは、このうち、「多国籍短期研修」と呼んでいる年間3回、2ヶ月ずつ行う研修の参加者を対象とした。この研修は、教授歴2年以上の海外の中堅日本語教師を招へいし、日本語、日本語教授法、日本文化の研修を行うものである。

現在、この研修では、授業内外での自らの学びを記録し、各自の振り返りとそれを他の研修参加者や教師と共有することを目的としてポートフォリオを導入しており、研修参加者は、その記録の一環として、毎週「日本での体験と学び」というシートを記入している。日本滞在中、研修参加者が、何に気づき何を学んだとこのシートに記述したのかを改めて整理し、分析することは、まず、今後の短期研修でのポートフォリオの取り組みを改めて検討するために重要である。

一方、本プロジェクトのメンバーは、「汎用的日本語学習辞書開発データベース構築とその基盤形成のための研究(文化情報研究)」(以下、「辞書科研」)という科学研究費による研究グループに属している。この研究は、自力で辞書を開発する人材・資金・ノウハウに欠ける環境でも辞書開発を可能にするため、日本語の語法情報、用例、学習者コーパス、日本語母語話者コーパスなど、辞書開発に必要な情報を搭載したデータベースを構築することを目指している。報告者3名は、このデータベースの項目記述の中に、海外の教師や学習者にとって必要となると思われる文化情報を入れていく取り組みを行っている。つまり、海外の日本語教育の現場で語義自体は習ったり、訳は辞書で見たりしたものの、その言葉の実際の日本での文化的社会的意味づけがわからないために本当の意味で理解や使用が難しいものを取り上げ、記述の中に日本の文化情報を込めようとする試みである。本科研費の研究にとっても、このポートフォリオに書かれた非母語話者教師の日本での「気づき」は、項目の選択や記述に多くの示唆を与えてくれるものと考える。

したがって、本プロジェクトの目的は、上記研修の参加者によるポートフォリオの記述から、特に文化的記述に関係するものを整理し、①短期研修のポートフォリオの取り組みに対してフィードバックを行うこと、さらに②「辞書科研」の研究データの一環として用いることの2点である。


成果の概要

1.記述のデータベース化と整理

ポートフォリオの「体験と学び」の記述項目は、研修の期によって若干の変更はあるが、

  1. (1)日本語や日本語の使い方について、気づいたこと・考えたこと
  2. (2)文化・社会(日本文化やその他の国の文化)について、驚いたこと・ 困ったこと・おもしろいと思ったこと・気づいたこと
  3. (3)ほかの人にも紹介したい学習方法
  4. (4)新しく学んだことば、表現
  5. (5)もっと書きたいこと

という項目は共通している。本プロジェクトでは、まず、このすべてについて、Excelへの書き出しを行い、記述をデータベース化した。

次に、今年度重点的に整理したいと考えていた(2)の項目に着目した。そして各記述の内容を仮に

  1. ①交通 ②衣 ③食 ④住 ⑤買い物 ⑥街の様子
  2. ⑦制度/マナー/ルール ⑧習慣/行動/性質 ⑨仕事
  3. ⑩考え方 ⑪文化体験プログラム ⑫その他

というカテゴリーに大きく分類した。この中は、さらに、例えば、①「交通」は、「駅」「Suica」「時間」「身障者への対応」など、⑦「制度/マナー/ルール」は、「自転車」「エスカレーター」「ごみ・ごみ箱」などから「箸のルール」「食事のマナー」、さらには「人前で鼻をかむこと」「席を譲ったときの反応」などと小分類できる。⑪の「文化体験プログラム」では、参加者の多くが体験したと思われるイベント(文化体験プログラムなど)について、どのような記述がされているか、訪問先別に整理を試みた。多く言及されたのは、「東京見学」「学校訪問」「歌舞伎」「各種デモンストレーション」「ホームステイ」「市民交流会」などである。

2.「辞書科研」の研究データとしての利用

このように整理した記述は、辞書科研の研究においては、①例文化する、②エピソード化する、という2つの方法で用いることとした。

①例文化の例
  1. *例文化の元となる記述:
    日本の道で女の人だけでなく年を取った女の人、お母さんのような人も自転車の乗っていることを見てびっくりしました。
  2. *作成した例文:
    私の母は、毎日、小さい弟を後ろに乗せて、自転車でスーパーに買い物に行く。
    (結びつける項目:【自転車】【買い物】)
②エピソード化の例
一般化しないほうがいいと思われるものや、動きやストーリーの中に文化的なポイントが入っていると思われるものについては、多少日本語を整えるだけで、そのままの記述をエピソード化する。
  1. *エピソード化の元となる記述:
    駅で電車を待っているとき、身体障がいのある人が二人駅に来て、電車を待っていました。そのとき、駅員がランプ(?)を持ってきて、二人が電車に入るのを手伝いました。二人が降りる駅にも駅員が待っていて二人を手伝いました。そのようなサービスを見て本当に驚きました。
  2. *作成したエピソード文
    駅で電車を待っていると、車椅子に乗った人がホームに来ました。しばらくすると、駅員さんが板のようなものを持ってきて、その人が車椅子のまま電車に乗るのを手伝いました。その人が電車を降りる駅でも、同じように駅員さんがホームで待っていて、電車を降りるのを手伝っていました。
    (結びつける項目:【駅】【プラットフォーム】【駅員】)

3.研修のポートフォリオの取り組みに対するフィードバック

一方、研修で行ってきたポートフォリオの試み自体で今後検討すべき課題としては、①記述が事実列挙の作文にとどまるケース、②常に「日本は」「日本人は」という書き出しで始まり、捉え方がステレオタイプになっていると思われるケース、③書いたことに誤りがあるケース、などが散見されたこと、また、どんどん記述が詳しくなったりとても興味深いポイントが書かれるようになっていくクラスと、次第に記述が減っていったりおざなりになっていくクラスがあること、などが見えてきた。短期研修のポートフォリオは、原則として日本語で書かせている。研修のこのポートフォリオの目的をどこに置くか、各々の「気づき」を「書かせる」こと、しかも「日本語で」書かせることにどんな意味があるのか、取り組みを始めて5年目になるこの活動について、 研修担当講師の中でも、今一度考え、話し合っていきたいと考えている。すでに、今までも、どのクラスでも、「振り返る」「共有する」などの時間は持たれてきたが、これをどのように行えば、研修担当講師が期待する、より積極的な「気づき」が起こるのか、または、せめて「気づく」ことに関心を持とうとする姿勢が作られるのか、私達にも更なる工夫が必要であろう。また、記述の中には、少ないながら、相違点だけでなく、自国や自国の人との類似点についての記述や、研修の特徴を活かし、日本と自国の一対一の比較ではなく、クラスメートの様々な国の習慣について休み時間に話し合った内容なども見られた。多国籍の短期研修ならではの、このような観点も大切にしながら、まず参加者である教師自身が、ただ、「目で見えるもの」が「違う」ことに気づくだけでなく、本当の意味での異文化理解能力や多文化が共に存在することを積極的に受け入れる意識や態度を持てるようになり、ひいては、それを学習者にも伝えられるようになるための支援の仕方を考えていきたい。

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