日本語国際センターについて

2014年度上半期 調査研究プロジェクト
インドネシアの高校・大学日本語教師への質問紙調査に見るインドネシア社会の日本語教育観の変化
-海外の日本語教育観の変化を探るための調査モデルの提案-

計画者 古川 嘉子 (専任講師)
プロジェクト参加者 木谷 直之(専任講師)
外部協力者 布尾 勝一郎(佐賀大学)
外部協力機関 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター

1.背景及びプロジェクトの趣旨

東南アジアは、現在、国際交流基金(以下、「基金」)の日本語事業の焦点の一つとなっており、特に、インドネシアは、2012年の海外日本語教育機関調査で学習者が872、411名で、世界第二位であった。そして、現地の日本語教師全体の96%をインドネシア人日本語教師(IJT)が占めている。本プロジェクトの目的は、IJTが今日までの自国の日本語教育の展開と、その中でのJFの支援をどのように捉えているかを探ることである。以下、これまでのプロジェクトの概要である。

●2010年度~2011年度:

インドネシア社会、二国間関係の動きと日本語教育の流れをまとめた年表作成
パイロット調査:IJT11名への、日本語学習・日本語教育経験に関する聴き取り調査の実施及びその結果に基づく調査票の作成

●2012年度:

ジャカルタ日本文化センターの協力による調査の実施(大学IJT18名、高校IJT23名回答)

●2013年度: 回答の分析

本プロジェクトの意義としては、プロジェクトの成果として、インドネシアの日本語教育について、基金の事業評価やNC研修事業・派遣事業に資する情報が提供できると考える。さらに、それ以外の地域の日本語教育についても調査が可能となり、広く俯瞰して日本語教育の実績や現状、将来の支援のあり方を考えるための資料作成につながるのみならず、基金ならではの知の集積としてのコンテンツを開発し、外部に発表していくことも可能となると考える。

2014年度のプロジェクト目標は、以下の2点であった。

  1. 目標1:調査の分析結果の発表(口頭発表・論文)
  2. 目標2:調査モデルの抽出と共有

2.2014年度プロジェクトの概要

今年度は、以下の2つの目標を達成するべく、調査活動を継続してきた。

目標1:調査の分析結果の発表(口頭発表・論文)

前年度日本語翻訳できていなかった調査結果の翻訳を行った。以下の口頭発表2件、論文執筆1件を行った。そのほかに、日本語国際センターのイベントにてポスター掲示を行った。

①2014年度日本語教育学会春季研究大会(2014年6月1日)
「質問紙調査の回答に見るインドネシアの大学日本語教師の日本語教育観-過去・現在-」
②同学会シドニー国際大会(2014年7月12日)
「インドネシアの高校日本語教師の日本語教育観」
③『国際交流基金日本語教育紀要第11号』
「インドネシアの高校・大学日本語教師への質問紙調査に見る日本語学習の意味づけの変化」【PDF:401KB】
④日本語国際センター25周年記念「国際交流まつり」掲示ポスター
インドネシア日本語教育の変遷と大学教師・高校教師それぞれ1名の意識

目標2:調査モデルの抽出と共有

2014年2月、3月には、報告会に向けて、調査モデルの抽出と共有の際の課題を検討した。


3.プロジェクトの成果と課題

以下、目標1・2それぞれの成果及び全体に対する課題を中心にまとめる。

3-1 目標1の成果

2014年度の成果として、上掲③について述べる。③では、高校と大学のIJTの調査結果の内、日本語学習の意味づけについて分析した結果を論文にまとめた。調査で聞いた過去(1970年代~90年代)と現在(2000年以後)の日本語学習の意味づけについて、その間の社会、日・尼関係、教育政策の変化の中で、日本語学習の目的・動機・社会的意味がどのように変わってきたのかを見た。過去には、日本語学習の意味として、高校教師・大学教師両者とも「仕事」を挙げていた。現在は、高校教師は「日本への留学」を第一に挙げ、一方、大学教師は「仕事を得ること」に加え、ポップカルチャーを挙げた。また、社会の日本語学習に対する受け止め方は、過去には地域差が見られたが、日本語教育の広まりとともにその差が縮小してきたことがわかった。さらに、日本語は、インドネシアにおいて学校や学習者がグローバル社会とつながっていくための一つのきっかけとして意味づけられている様子が見えた。

さらに、①~③で発表できなかった成果として、「年代及び地域ごとの日本語学習開始時の学習理由」を、大学教師(表1)、高校教師(表2)それぞれについてまとめた(具体的な記述は資料1(大学教師)・資料2(高校教師)参照)。大学教師も高校教師も、1970年代は日系企業のインドネシア進出、1980年代は高校での日本語科目の設置などの影響が表れている。日本語の文字に興味を持って学習を開始したという回答が複数の地域からあり、興味深い。

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<表1 インドネシア人大学教師の日本語学習開始時の学習理由(まとめ) 資料1参照>
  1970年代 1980年代 1990年代
スマトラ
  • 高校での学習
  • 将来の仕事
  • 文字への興味
  • 日本人との出会い
  • 珍しいためチャンスが大きい
  • 企業での通訳
ジャカルタ周辺  
  • 家族が日系企業で就業
  • 日系企業への投資増加
  • 周辺に日系企業が進出
西ジャワ
  • 日系企業への就職
  • 高校の選択必修科目
 
中部ジャワ    
  • 歌「こころの友」
  • 日系企業への就職
東ジャワ
  • 家族や親せきからのアドバイス
  • 文字への興味
 
バリ    
  • 日本の技術の移入
  • 観光業界への就職
北スラウェシ  
  • 日本語の魅力
  • 高校教師
 

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<表2 インドネシア人高校教師の日本語学習開始時の学習理由(まとめ) 資料2参照>
  1970年代 1980年代 1990年代・2000年代
スマトラ  
  • 日系企業多 仕事
  • 英語以外の外国語
  • 日本語の将来性
  • 外国語科目としてあった
  • 家族が日系企業で就業
  • 外国の言語・人への興味
ジャカルタ周辺  
  • 家族が日系企業で就業
  • 日本語と日本文化への興味
 
西ジャワ  
  • 文字(ひらがな)への興味
  • 高校の科目にあった
 
中部ジャワ  
  • 文字と日本文化への興味
  • 高校の科目にあった
  • 好き
  • 日本語の将来性
東ジャワ
  • 地域で唯一、日本語を教えている高校だった
  • 日本製品が身近
  • 日系企業への就職
  • 楽しい
  • 地域で最初に日本語を学べる大学だった
 
バリ
  • 仕事を探すため
  • 日本人との出会い
  • 語学語学校経営者と結婚
 
北スラウェシ  
  • 日本語のマスター
  • 日本語教師
  • 日本語への興味
  • 日本での就職
  • 日本で就職
南スラウェシ    
  • 日系企業への就職
パプア    
  • 日本人の来訪
カリマンタン
  • 英語に加えて外国語と異文化を学習したいため
   

3-2 目標2の成果

本プロジェクトでは、インドネシアの日本語教育関係者の日本語教育観の変遷を、インドネシア社会の歴史的・経年的変遷との関連性の観点から探った。ここでは、今回の調査方法を、作業過程ごとにまとめ、調査方法のモデル化につなげる。

①インドネシアの日本語教育関連年表作成
インドネシアの日本語教育の開始時点から現在までの日本語教育の動きと、同国の政治・経済・社会の動き、および日本との関係を年表にまとめた。リソースは、『国際交流基金15年史』『同30年史』の中のインドネシア関連の記述、関連する研究論文や調査報告等の記述、Web情報等。資料3「参考文献(分野別)」は、今回のプロジェクトで日本語教育史(日本側からの日本語教育支援事業の流れを含む)、インドネシア全体史、日本・インドネシア関係史をまとめる際に用いた資料、文献等のリソース一覧である。
②高校・大学のIJTの個人史記述
質問紙調査。調査対象者は、各地域の教師会や学会の役員であった。
主な質問項目は、「日本語を学習開始理由」「学習開始時のインドネシア社会の状況」「日本語教師になった理由」「日本語教授開始時期のインドネシア社会の状況」「基金の日本語教育支援事業に対する評価」「インドネシア社会における日本語教育の意味・意義」であった。質問項目の詳細は、資料4「インドネシア人教師の日本語教育個人史調査票」を参照のこと。
③インドネシア日本語教育関連全体史と個人史の関連を考える
個人の日本語教育観とインドネシアの政治・経済・社会の変遷がどのような関わり合いを持っているのかを考察した。個人史を調べる際には、「学習者として日本語教育に関わった時期」と「教師として日本語教育に関わっている時期」の違いに注目した。
データ分析の主要な視点は以下の4点であった。

図1 「IJTの日本語教育観」調査モデルは、上掲の①~③をモデル化したものである。

IJTの日本語教育観調査モデルの画像

「IJTの日本語教育観」調査モデル

学習動機や学習目的、日本留学・就職・文化理解、日本人社会との接触、ITの発達などの個人史を持った教師A、教師B、教師C、教師Dと、国際交流基金の日本語教育支援事業(講師/専門家派遣、シラバス・カリキュラム作成、教科書・教材作成、教師研修、ネットワーク)、日本語教育の歴史(中等教育)(教育制度、シラバス・カリキュラム、教科書・教材作成、教師研修、教師会活動、訪日研修)、日本語教育の歴史(高等教育)(機関のシラバス・カリキュラム、教科書・教材作成、教授法セミナー、学会活動、研究活動)、当該国の政治・経済・社会の動き(治体制、経済政策、日本との関係、教育制度、文化交流、サブカルチャー)との関連を示した

3-3 調査全体の課題

(1)課題(調査全体をふり返って)

次に、今年度重点的に整理したいと考えていた(2)の項目に着目した。そして 各記述の内容を仮に

  1. ①調査対象:調査対象者を指導的立場の教師にすることで、ある程度長い期間の日本語教育の移り変わりを見ることができたと考えるが、その反面、それ以外の立場の教師の声を集めることができなかった。また、語学学校の教師は今回の調査では対象としなかったが、ビジネスや看護・介護など、実務面とつながる日本語教育を見る上では、今後これらの対象への調査も必要となって来るであろう。
  2. ②質問紙:個人史を引き出すことを重視して、日本語学習、日本語教師としての経験を聞く問い、社会の日本語教育に対する見方を聞く問いを設けた。しかし、回答の量にはばらつきがあり、個人史と呼べるほど豊かな内容を提供してくれた数名以外は、簡単な情報や所感記述で終わっていた。この点、もう少し問いかけに留意する必要があったと考えられる。
  3. ③分析方法:個人史のデータを集めたが、これまでの分析は、回答を集計した結果から全体の傾向を見ることが多かった。ここでとった、年表作成→質問紙作成→調査実施→結果分析(全体の傾向分析)は、集合的にIJTの傾向を見ることにはつながった。今後は、全体の傾向を、個人史を読み解く際の検証材料(トライアンギュレーションのための手立て)として利用し、さらに分析を深めて行きたいと考える。

(2)一般的な活用に向けて

上記の課題を踏まえ、本研究で用いた調査手法を他の地域・対象に用いる場合の留意点を以下にまとめる。

①調査対象国の日本語教育関連年表作成について
先行研究や各種報告書等が豊富なインドネシアと比較し、国や地域によっては、その国の全体史を整理する段階で充分な参考資料や先行研究等の収集が難しい可能性がある。
今後、日本語教育史だけではなく、各国・地域の全体史の中に日本語教育を組み入れた年表作成を、基金の一事業として実施することも考えられる。事業として企画・運営することによって、情報整理・共有に関する、他の関係機関・団体との協力関係・連携作業が促進される可能性が高くなると考えられる。
②日本語教師の個人史記述のためのデータ収集について
  • 調査協力者の選定:インドネシアの場合、中等教育・高等教育ともに、教師会や学会の中心メンバー、あるいはシラバス・教材開発プロジェクトの参加者の多くは、基金の支援を当事者として受けた教師であり、今回のような調査の際に調査協力者を選定しやすい事情があった。他の国や地域に同様の調査を行う場合、調査協力者の選定は、調査目的や現状に合わせて行う必要があろう。また、本プロジェクトでは、基金の日本語教育支援事業のインドネシアの日本語教育の発展への貢献や、現地の日本語教師の基金の事業への評価も目標とした。客観的な評価を得るためには、これまで基金の支援事業に当事者として関わってこなかった当該国の日本語教育関係者が、基金の事業をどう評価するかという調査も行う必要がある。その場合、中立的な立場で基金の事業を評価できる調査協力者をどう選定するか、さらにどのような質問項目が必要か等を検討しなければならない。
  • 調査票の使用言語:今回のプロジェクトでは、調査票はインドネシア語で作成した。その結果、自由記述等の回答は、日本語に翻訳する必要があり、翻訳作業を誰に依頼できるか、そしてその翻訳の適切性/妥当性の検証をどのように進めるかが課題となる。
③データの分析・考察の視点について
データ分析の視点については、3-2 ③に述べた4点を参照いただきたい。そのほかに重要な点は、調査対象国・地域の全体年表を見直し、歴史的にその国・地域の経済や社会、日本との交流にどのような特徴が見られるかを丁寧に拾い出し、その独自の変化と日本語教育の関わり、日本語教師の考え方や価値観、イメージとの関わりを探ることである。

4.終わりに

海外の日本語教育は日本が主導していくものではなく、それぞれの国や地域が、日本の関係者と連携しつつ、独自に作り上げていくものである。現地主導の日本語教育確立をどう支援していけばいいか、本プロジェクトは、その点を考えるために、まず現地の日本語教師が自国の日本語教育の意味・意義をどのように捉えているのかを明らかにすることを目指して始められた。もちろん、一人ひとりの教師は単独で日本語教育に携わっているわけではない。そこで、その国や地域の政治・経済・社会・日本との関わり合いの移り変わりの中で、教師たちがどのように自身の日本語教育の意味づけを考えているかを、教師の語りの中に見出そうとした。当然のことながら、国や地域によってその動きは、多様であり、また、一人ひとりの教師の日本語教育に対する考え方やイメージ、価値観、意味づけなども多様である。すべての国や地域で同一の方法で調査すれば、同一の結果が得られるというような簡略なモデルが提出できるわけではない。しかし、本プロジェクト実践したような複数の調査を重なり合わせることによって、海外のさまざまな国や地域において、個人と社会との関わり合いの中で日本語教育の意味がどのように変化してきたのかを明らかにすることができていくのではないかと考える。本プロジェクトがそのような動きの一助になれば幸いである。

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