平成13年度 国際交流基金賞/奨励賞 プロフィール ウィリアム・ジェラルド・ビーズリー氏 挨拶

代読:イアン・ニッシュ氏

イアン・ニッシュ氏写真
イアンニッシュ氏

(ニッシュ)ロンドン大学名誉教授のイアン・ニッシュと申します。私は学生時代からビーズリー先生の指導のもと、日本の歴史を研究しました。卒業以後はロンドン大学でビーズリーさんの同僚になり、ビーズリー・ゼミのメンバーとなりました。そのときから今日まで親しい友だちです。ビーズリーさんは専門である幕末、明治維新に関する詳しい研究書を出版しました。退官後、長州からヨーロッパに勉強のために派遣された学者についても書いています。今年はこれまでの論文の集大成、いわゆるコレクティブ・ライティングスを一巻の本として上梓されました。それではビーズリーさんの受賞のあいさつのメッセージを読ませていただきます。
(以下、代読)

ウィリアム・ジェラルド・ビーズリー氏写真
ウィリアム・ジェラルド・
ビーズリー氏

 このたびは平成13年度国際交流基金賞を受賞いたしますことを、大変光栄に感じております。国際交流基金の業績に以前から敬意を抱いておりましたので、なおさらのこと光栄に思います。国際交流基金は、ほかでは難しいことでありますが、日本に関する知識を深めたい外国人の学生や教師・研究者に彼らの助けになる日本の個人の方々や団体、あるいは文献と接触を取れるようにしてくださっています。これは大変素晴らしい仕事です。

 私が駆け出しのころには、国際交流基金のような組織は存在しませんでした。ロンドン大学東洋アフリカ研究所(SOAS)の日本史講師に任命されたのは1947年10月のことでした。当時の私には、資格としては不十分なものがあったかと思います。たしかに歴史学で学位を修めてはおりましたが、それは英国史とヨーロッパ史でした。海軍時代にボルダーの米海軍語学研修所で日本語を学びはしましたが、これは軍務としてであり、後に役に立つとはまったく思っておりませんでした。同じように日本には1945年に占領が始まって最初の6カ月間滞在しましたが、やはりほとんど海軍の業務のみに携わって過ごしました。日本史の授業を受けたことも、一度もありませんでした。

 振り返ってみれば、最初のころの私の講義はあまりよいものではなかったと思います。授業の準備に必要な本もイギリスにはあまりなく、あちこちの図書館に散逸していました。図書の手引きもなく、電子目録もありませんでした。日本語の著作物はさらに少なく、所蔵していると思われる図書館をひとつひとつ訪問し、問い合わせなければなりませんでした。照会に対する回答も常に役に立つ、十分な情報に基づいたものというわけではありませんでした。

 たとえば大英博物館は、いまの大英図書館と一体だったころ、日本研究の蔵書数は最大であったとはいえ日本語の読める司書がいませんでした。ですからどのような蔵書があるのか調べるのは困難で、時間もかかりました。研究のため、講義のための資料にしても同じことでした。私の仕事は宝探しのようなもので、研究の成果は何が見つかったかに左右されました。


 私の場合、このような問題は1950年に日本に来てからはほぼ解決いたしました。この年に私は1年のサバティカル休暇と訪日のための資金援助を得て日本に参りました。東京に到着後すぐ英国公使館(その後すぐに大使館となりますが)の広報参事官であったヴィア・レッドマン氏に会い、彼の尽力で、私は東京大学の史料編纂所に入ることができました。日本の学会と初めて直接接触をすることが、しかも最高のレベルでできたのです。史料編纂所の方々は、非常によく力を貸してくださいました。日本の古文書へも専門家として手引きをしてくださいましたし、ともに歴史学の手法の問題について議論もいたしました。また日本各地の日本史研究者に引き合わせてくださいました。

 この1年で私は研究を大きく進めることができ、日本史の講義の能力全体をも高めることができました。たくさんの書籍も購入しました。そのころはとても安価だったからです。また東洋アフリカ研究所の図書館が購入すべき図書リストを英国本国に送ったりしました。日本の学者の方々の知己を得ることもできました。将来にわたって助言を求めることのできる友人ができたのです。ようやくロンドンで日本史を教えることが現実可能なことになったと感じました。

 付け加えれば、これは国際交流基金設立以前のことでした。当時から国際交流基金が存在していれば、はるかに容易であったことでしょう。とはいえ私は、この経験を心から楽しみました。それ以降、日本史の研究をも心から楽しんでいます。このような理由から、国際交流基金賞受賞を深く喜びとしているところでありますし、若干後ろめたい気もしております。楽しみながら続けてきた私の仕事に対して、このように賞をいただいているからです。


 (ニッシュ)以上がビーズリーさんのメッセージです。ご清聴ありがとうございました。(拍手)


What We Do事業内容を知る