平成13年度 国際交流基金賞/奨励賞 授賞式 藤井理事長挨拶

理事長写真1国際交流基金理事長の藤井です。本日はお忙しい中、国際交流基金賞並びに国際交流奨励賞の授賞式にご出席を賜り、厚く御礼申し上げます。国際交流基金賞、国際交流奨励賞の授賞は今年で29回目を迎えました。本年もおかげさまをもちまして、大勢の方々のご推薦をいただき、8名の選考委員の先生方による選考を経まして、基金賞2名と奨励賞2名1団体の受賞者を決定することができました。この場をお借りして、世界中のさまざまな地域、さまざまな分野でご活躍の方々を多数候補者として挙げていただきました推薦者の皆様、また河合座長をはじめとする選考委員の皆様に対し、心から御礼を申し上げたいと思います。

 今年度の国際交流基金賞、国際交流奨励賞の選考にあたりましては、過去の受賞者を含む世界各国及び日本国内の有識者、文化交流関係団体、大学等の研究・教育機関、在京の大使の皆様、また海外にあります日本の在外公館長など多くの方々からのご推薦をいただきました167件の候補者、候補団体を対象とし、第1次選考を経て、本年7月30日に都内で選考委員会が開催され、厳正なる選考の結果受賞者が決定された次第です。

 今年度の選考委員は次の8名の方々です。お名前を読み上げます。浅尾新一郎氏、池端雪浦氏、小塩節氏、河合隼雄氏、高島肇久氏、中村紘子氏、宮内義彦氏、山崎正和氏の方々です。

 それでは今年度の受賞者を各賞アルファベット順にご紹介させていただきます。ウィリアム・ジェラルド・ビーズリー氏は東アジア史19世紀日本史研究の第一人者として35年にわたりロンドン大学で教鞭を取られ、英国の日本研究の基礎を固めるとともに、海外の日本近代史研究の発展に多大なる貢献をなさってこられました。

 氏は1945年に英国海軍の通訳等の業務のために初めて日本を訪れて以来、半世紀以上の長きにわたって英国における日本研究の発展と後進の育成、日英の相互理解の促進に尽くしてこられました。とりわけその旺盛な著作活動は、1983年にロンドン大学を退官されたあとも現在に至るまでいささかの衰えも見せず、1999年には日本の中世から現代までの歴史を描き出す300ページに及ぶ大著、『The Japanese Experience : A Short History of Japan』を出版されています。

 氏が1963年に出版した『The Modern History of Japan』は近代日本史の基本テキストとして世界中で読まれておりますが、1999年には氏自らが大幅な改訂を加えて『The Rise of Modern Japan』として再版され、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語も世界各国で版を重ねていると聞いております。近々ギリシャ語版も出版予定であると承知しております。

 氏は健康上の理由により残念ながら今回の授賞式にはご出席がかないませんでしたが、その名代として、ともに英国の日本史研究を半世紀にわたって支えてこられたロンドン大学名誉教授イアン・ニッシュ氏ご夫妻がお越しくださいました。ニッシュ氏は平成3年度に国際交流基金賞を受賞されており、ビーズリー氏とは51年にわたり親しい交友関係を続けておられます。

 平山郁夫氏についてはいまさら申し上げることもございません。文化の伝播の道であるシルクロードなどを描いて国際的に高い評価を受けている、日本を代表する画家でいらっしゃるとともに、世界各地で毀損・破壊の危機に瀕している文化遺跡の保存・修復のために献身的な奔走を続けてこられました。氏が提唱された文化財赤十字運動は国境、民族、宗教の垣根を越え、国際的な協力により地球上の貴重な文化遺産を未来に手渡していくための平和創造活動であります。

 これまでに中国の敦煌石窟、カンボジアのアンコール遺跡群、ウズベキスタンのテルメス仏教遺跡等の保存・修復の実績を積まれました。また朝鮮民主主義人民共和国の高句麗壁画古墳群の保存・修復とユネスコ世界遺産登録には、長年にわたって尽力されていらっしゃいます。さらにアフガニスタンのカブール美術館における美術品レスキューや、バーミヤン大石仏の保護等に努力されてきました。また『セーブ・アフガン(アフガニスタンを救え)』展を日本の6カ所で開かれ、アフガニスタンの文化財、文化遺産の保護の救済キャンペーンをなさいました。

 そのほかにも米国フリアー美術館、大英博物館、ギメ国立東洋美術館等の海外に流出した日本美術品の修復、文化財保存のための人材育成や人的交流など、世界各国で極めて多岐にわたる活動を展開されています。まさに今日の日本の国際文化交流を一身に体現しておられる方でいらっしゃいます。

 コスタ・バラバノフ氏は、マケドニアの文化遺産の調査研究で知られる旧セルビア・モンテネグロの誇る歴史学者です。1967年に東京国立博物館及び京都国立博物館で開催された中世イコン展の総監督として初来日されて以来、30年の長きにわたって自国において日本文化紹介活動を行なっていらっしゃいます。日本に関する情報が決して多いとは言えないマケドニアにおいて、独力で集められた資料を駆使して多彩な日本紹介事業を継続されており、1995年からはマケドニア語で日本の政治、経済、文化等を紹介する日本研究誌『曙』を3カ月ごとに編集・出版して両国の相互理解の促進に努めてこられました。

 今日のマケドニアの親日的な環境は、バラバノフ氏によって築かれたと言っても過言ではありません。現在全世界の人々が地球上で恒久の平和を熱望する場所の一つであるマケドニアにおいて、この授賞が日本の文化が平和を築く上での礎の一つとなれば日本人としてこれ以上の喜びはありません。氏のご活躍に声援を送り、今後のますますのご健闘を期待して国際交流奨励賞をお贈りするものです。

 三浦尚之氏は1975年から25年以上にわたって米国を中心に各地で『ミュージック・フロム・ジャパン』と題した演奏会シリーズを実施し、日本の現代音楽と日本の心を米国に、そして世界に発信し続けてこられました。設立当初から日米両国の演奏家を起用したユニークな文化交流として注目されたミュージック・フロム・ジャパンは、日本の作曲家の古典や現代オペラの上演、レクチャー、シンポジウムなど多彩な企画で構成され、これまでに世界初演40作品を含む日本人作曲家100名の作品300曲以上が紹介されました。

 三浦氏はまた1994年に極めて先駆的な事業である日本音楽資料センターを設立して、日本の音楽に関する豊富な資料と幅広い情報を提供されています。今後引き続いてのご活躍が期待されます。

 ベルリン・フェスティバル公社は1951年にベルリン芸術週間とベルリン国際映画祭の実施団体として発足し、60年代にはベルリン現代音楽祭、ベルリン演劇祭、ベルリン・ジャズフェスティバルなども加わって、あらゆる分野の世界のトップレベルの文化を紹介する大型芸術祭を毎年実施しております。

 1965年からは定期的に日本特集を組み、1981年の『ベルリンにおける日本』、1987年の『ベルリン市制750周年記念日本週間』などを実施されました。中でも1999年から2000年にかけて実施された、『ベルリンにおける日本』は『ドイツにおける日本年』の中心をなす企画として、能、歌舞伎、文楽などの伝統文化や現代音楽、ジャズコンサート、大型展覧会、日本映画回顧特集、講演会や作家朗読会など百花繚乱とも言うべき日本の芸術紹介が実施されました。

 本日は長年にわたり同公社の事務局長であり、現在は2000年に開設された同公社独自の展覧会スペース、マルティン・グロピウス・バウ館の館長であるゲレオン・ジーバニッヒ氏が授賞式に来てくださいました。ジーバニッヒ氏は1980年以来、特にベルリンを中心とする日本に関する大型文化芸術行事には常に中心的な存在、役割を果たしてこられた方です。

理事長写真2

 以上、今年度の国際交流基金賞及び国際交流奨励賞の各受賞者の紹介をさせていただきました。

 国際交流基金は来年で設立30周年を迎えます。これまで国際文化交流を推進してくることができたのは、本日受賞される方々を含む世界の多くの方々のご尽力とご支援のおかげです。本日ここに昨年の国際交流基金賞受賞者で日韓文化交流会議韓国側議長でおられる池明観氏をはじめ、過去の受賞者の皆様も多数ご出席くださっておりますが、これらの方々とともに、こうして受賞をお祝いできますことは大変喜ばしく、また光栄に存ずる次第です。

 世界が過渡期にあり、不安定さを増す今日、多様な異文化間の共生や、政府だけでは支えきれない国民同士の連帯の強化の必要性がとみに増大していると思います。国際交流基金といたしましても、皆様方のご指導、ご支援、ご協力を賜りつつ、国際文化交流に携わる団体や個人の方々と連携、協力を強化しながら、いっそうの努力を続けてまいる所存でございます。

 最後になりましたが、受賞者の方々及び本日ご来場いただきました皆様の今後のますますのご発展をお祈りいたしまして、私のごあいさつとさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

What We Do事業内容を知る