平成13年度 国際交流基金賞/奨励賞 授賞式 三浦尚之氏 挨拶

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 本日、このように栄えある国際交流奨励賞をミュージック・フロム・ジャパンの理事長として受賞いたしますことはまことに光栄であり、また心よりうれしく、国際交流基金と関係者一同に厚く御礼申し上げます。ミュージック・フロム・ジャパンは1975年にニューヨークにおいて開設されました。当初からの国際交流基金及び日本作曲家協議会を通した文化庁からの助成が、現在まで25年を超えてこの小さな非営利団体が存続してこられた最も大切な理由と深く感謝しております。

 私は1966年にフルブライト奨学生としてニューヨークでコントラバスの研鑽を読むため、渡米しましたが、ストコフスキー創設のオーケストラなどで仕事を始めて、当地では日本の音楽が演奏される機会がほとんどないことに気づきました。現代音楽は日本で学生時代にかなり手掛けており、日本の作曲家の質の高さも十分承知しておりました。しかし、当時のアメリカ人一般の日本に対する知識はまったく限られておりました。日本の文化が高性能オーディオや電気器具、小型乗用車、そして寿司と天ぷらにとどまらないことを、言語のハードルを超越して伝達できる音楽を通して伝えたい。伝統芸術ではない日本の現代音楽を紹介して、いまの日本を知ってもらいたい。そんな願いから日米協会で始められたささやかなコンサートが25年以上も続く仕事になるとは、まったく考えてもみませんでした。

 日本人作曲家の作品をできる限りアメリカ人奏者、団体により紹介し、作品の秘められた可能性を引き出すとともに、国際性を追求し、また彼らのレパートリーとして再演されることを期待する。これは、それまでの日本文化紹介には珍しいアプローチで、小さな波紋が少しずつ広がってくれました。そうはいってもロックンロールの躍動的なリズムやブロードウェイ・ミュージカルのハッピーエンドに慣れている聴衆に、耳を澄まさなければ聞こえてこないような、はっきりしたテンポもつかみにくい日本の音楽を理解してもらうのは至難の業でした。第1回コンサートにはモダンダンスも含めたり、78年のコンサートでは日本食お弁当つきというのも試みたりしました。

三浦尚之氏写真2

 1979年秋に初めてカーネギーホールで黛敏郎の『涅槃交響曲』などを私自身もアメリカン交響楽団の一員として演奏し、総立ちの聴衆のなりやまない拍手に感激いたしました。その後三善晃の『響紋』では、ニューヨークの公立小中学生の合唱団が日本語の歌詞を本当に一生懸命歌い、心を打たれました。また湯浅譲二、武満徹、間宮芳生、石井眞木、池辺晋一郎、その他数々の作品が世界の檜舞台で高く評価されました。10周年の1985年には日米間の情報流通の不均衡をなんとかしたいと、アメリカ音楽評論家協会と提携し、両国の作曲家、演奏者、音楽評論家、学者、教育者間の意見とアイデアの交換の場を提供するシンポジウムを開始しました。

 以後活動の範囲はワシントン、ロサンゼルス、メキシコ、カナダ、そして1995年には国連とブラジル、日本、加えて99年秋にはカザフタンとウズベキスタンへと拡大しています。また20周年記念事業の三島由紀夫原作、黛敏郎作曲のオペラ『金閣寺』米国初演と、日本音楽資料センター開設に伴う日本人作曲家データベースを含むWebサイト設置など、仕事の内容はますます増えております。ことにデータベースは、英語でアクセスできる日本の音楽や作曲家に関する貴重な体系的資料としてさまざまに利用されており、今後ますます内容を充実していきたいと望んでいます。

 私は東京芸術大学で西洋楽器コントラバスを専攻し、いわゆる洋楽の環境で教育を受けました。子どものころには祖母の三味線を聴いたり、多少音楽に触れる機会はありましたが、ミュージック・フロム・ジャパンで日本の伝統楽器による古典と現代の音楽を紹介し始めるまで、日本の音楽がいかに幅広く、また奥深いか考えてみることはありませんでした。いま日本の作曲家は邦楽と洋楽の垣根を乗り越え、己の中に流れる伝統に根差した現代の音楽を書きつつあります。私の夢は、日本人作曲家の作品がバッハ、モーツァルトやベートーベンと同様に、世界の音楽家に演奏され、また世界中の聴衆に愛され、楽しんでもらえることです。

 最後に、この賞は私だけのものではありません。聴く人の心に訴える多くの素晴らしい作品を創造した作曲家、時間のかかる現代曲の習得を積極的に引き受け、聴衆を魅了する演奏してくれた音楽家たち、耳慣れない音楽を真摯に評価してくれた批評家、限られた予算の中で労を惜しまず働いてくれたスタッフ、経済的に援助してくださった基金、財団、企業、また長年の間私の頻繁な日米間往復を許可してくださった福島学院短期大学、そして何よりも、朝から夜中まで土日もなく協力してくれる私の公私のパートナーに心から感謝し、受賞のあいさつとさせていただきます。本日はまことにありがとうございました。(拍手)

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