日本語国際センターについて

2014年度下半期 研究プロジェクト報告書
長期研修における自律学習システムの成果と課題の整理:聴解自律学習に注目して

計画者 菊岡 由夏
プロジェクト参加者 山本 実佳

1.目的と背景

本プロジェクトは、当センターで実施している海外日本語教師長期研修(注)(以下、「長期研修」とする)における自律学習「聴解」(以下、通称として「聴解自律学習」と呼ぶ)について、その成果と課題を明らかにすることを目的とした。

聴解自律学習は、長期研修の研修参加者が6か月の研修期間を通して、自身の学習計画に従って、聴いたり見たりする学習活動を進め、自身の視聴解の力の向上と学習過程を見つめる学習活動である。自律学習は、長期研修の6つの研修目標のうちの一つとして位置付けられており、自律学習を通して「自己研鑽」の力の向上を図ることを目的としている。

聴解自律学習は数年来、学習に対する講師側の関わりの不十分さが指摘され、それを改善するための改訂作業が進められてきた。本プロジェクトではその改訂作業の過程のうち、特に2014年度の取り組みからその成果と課題を整理し、今後の改訂の基礎データとした。以下に、2014年度長期研修における聴解自律学習の方法を記載する。

<自律学習の進め方>

  • 研修参加者自身が「目標」「学習リソース」「学習方法」「進度」を選択する
  • 学習のプロセスを記録し、自分自身の学習過程を管理する
  • 自己評価によって成果をはかる

<自律学習サポート>

  • 聴解自律学習に関する「オリエンテーション」「中間ワークショップ」「(終了時)ワークショップ」を実施し、その学習過程の管理や選択のサポートを行う
  • 聴解自律学習用教材を設置し、気軽に活用できる学習リソースを用意する
  • おすすめのテレビ番組紹介を掲示し、教材以外の学習リソースへのアクセスを促す
  • 「自律学習記録シート」に「目標」「使用した学習リソース」を記録するよう促し、学習過程の管理をサポートする
  • 「クラスポートフォリオ(別添資料1)」を作成し、ホームルームで他のクラスメイトと選択した目標や学習リソースの共有を行い、学習の促進をサポートする

2.本プロジェクトの概要

本プロジェクトの概要について、(1)調査活動、(2)成果発表、に分けて述べる。

(1) 調査活動

調査活動としては以下の二つの調査を実施した。いずれも研修参加者の聴解自律学習における学習過程、および、その活動に対する評価について質問した。

  1. 【調査①アンケート】2014年度長期研修参加者57名全員に対し、聴解自律学習に関するアンケート調査を行った。有効回答数は56であった。調査結果は集計し、分析を行った。
  2. 【調査②インタビュー】2014年度長期研修参加者のうち希望者10名に対しインタビュー調査を行った。インタビューは文字化して分析を行った。

(2) 成果発表

本プロジェクトで得られた成果は以下の形で発表した。

①中間報告書
アンケート調査の集計結果および分析結果をもとに中間報告書を作成した。報告書は2014年度長期研修リーダーに提出し、2015年度長期研修聴解自律学習改訂の基礎データとして活用した。(別添資料1)
②2015年度日本語教育学会秋季大会ポスター発表
2015年度日本語教育学会秋季大会で研究成果の発表を行った。

菊岡由夏・山本実佳(2015)「非母語話者日本語教師研修における自律学習『聴解』 の実践と課題」『2015年度日本語教育学会秋季大会予稿集』日本語教育学会、pp.375-376.(別添資料2)

3.日程〔開始2014年10月~終了2015年9月〕

本プロジェクトは以下のスケジュールで行った。また、この間各作業と並行し、自律学習に関する文献調査、データの分析作業を行った。なお、上記2に記載した2015年度日本語教育学会秋季大会におけるポスター発表は、プロジェクト終了直後の10月に行ったため、併せて記載する。

2014年10月~12月 調査準備
2014年12月~2015年1月 インタビュー調査の実施(10名)
2015年2月~6月 インタビューデータ文字化作業(外部委託)
2015年3月 アンケート調査の実施(57名)
中間報告書の提出
2015年4月~9月 2015年度長期研修自律学習「聴解」の改訂
2015年10月 2015年度日本語教育学会秋季大会にて発表

4.成果の概要

1) アンケート結果の分析と考察

アンケートの各質問の回答を集計して表にまとめ、顕著な傾向について分析を行った。また、自由回答の項目は同様の回答ごとにまとめて整理をした。その結果、研修参加者が自律学習に用いる「学習リソース」は、自律学習用に用意された教材よりもむしろ、実際の日本社会にある音声や映像などを積極的に活用していることがわかり、学習リソースの広がりが確認された(表1)。

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表1 よく使った学習リソース
よく使った順位 自立学習用教材 テレビ番組 ラジオ番組 ドラマや映画のDVD オーディオブック ネットの映像 ネットの音声 日本人の生の会話 講演会の説明やスピーチ
1位 2 31 1 9 1 5 1 11 3
2位 3 12 5 12 1 6 3 6 3
3位 7 4 4 8 1 13 6 7 0
合計 12 47 10 29 3 24 9 24 6

また、アンケートの結果からは、聴解自律学習のサポート体制の中で、「学習者同士での情報共有(友だちとの相談)」が、自律学習の促進に役に立ったと捉えられていることがわかった。これはワークショップなどで、研修参加者同士の情報共有促進の機会を積極的に設けたことによる成果であると考えられる。さらに、2番目に多かった回答は「先生との相談」であった。これらの結果から、自律学習のような自己主導型の学習においても「他者」の存在が極めて重要であることが研修参加者にも自覚されていることがわかった(表2)。

表2 聴解自律学習で役に立ったもの
  特に役に立った 役に立った 合計
聴解自律学習用の教材 7 26 33
図書館の教材 10 27 37
目標Can-do 11 28 39
自律学習の記録 6 19 25
クラスポートフォリオ 1 25 26
中間ワークショップ 3 23 26
友だちとの相談 14 30 44
先生との相談 12 28 40

最後に、「聴解自律学習を通して変わった点はどこか(自由記述)」という質問から、聴解自律学習を通して、視聴解の力だけではなく、聴解および学習ストラテジーの向上なども実感されていることがわかった(表3)。ストラテジーについて自覚することは、自己主導型の学習を進めていくための重要なツールとなると考えられ、聴解自律学習が目的とする「自己研鑽」の力の向上につながるものであると考えられる。

表3 聴解自律学習を通して変わった点
内容の理解の向上 32
  • 日本人の話が前よりわかるようになった
  • ニュースを見るとき、意味がわかるようになった
  • 新しい言葉を勉強できた
聴解ストラテジーの多様化 3
  • 内容を想像しながら、聞くようになった
  • 聞き返して、前より相手の話すことを確認するようになった
学習ストラテジーの多様化 27
  • 日常会話を観察しはじめた
  • 番組や映画をみるとき、目的を決めてみる
  • 自分なりの自律学習のやり方を作れるようになった

2) インタビュー結果の分析

インタビューでは、聴解自律学習の過程についてより詳しく聞いた。また、その中でも特に、自律学習に重要だと考えられる「意志決定」の様相に注目し分析を行った。その結果、学習の進め方に関する意思決定の方法として、①「自覚性を伴う意思決定」と②「自覚性を伴わない意思決定」の2種類の意思決定の様相がみられることが明らかになった。

①「自覚性を伴う意思決定」とは、学習リソースや学習方法の意思決定のプロセスを語る際に、その選択の理由や根拠までを自覚的に述べているものであり、その語りには「(自分で)選びました」「やってみる」など自身の意図的な選択であることがわかる表現が用いられている。一方、②「自覚性を伴わない意思決定」とは、同様に意思決定のプロセスを語る際、それがその場の状況に影響されて決定されたことを述べるものであり、その語りには、「しようともできない」「そういう気持ちになっちゃった」など、自身の意図とは異なる結果になったことを示す表現が用いられている。本プロジェクトは、これらの語りのうち、①「自覚性を伴う意思決定」を自律学習のような自己主導型学習に必要な学習者オートノミーが発揮されている語り、②「自覚性を伴わない意思決定」を学習者オートノミーが発揮されていない語りと捉え、②「自覚性を伴わない意思決定」の語りを①「自覚性を伴う意思決定」の語りへと導くことが、自律学習サポートの一つであることを提案した。

<①「自覚性を伴う意思決定」>

  • 私は専門的なことならいたかったので私はテレビを見るとあまり好きじゃないことを選びました。例えば、スポーツ、実はあまり好きじゃない。でもスポーツニュースじゃあちょっと見てみましょうと思って、テニスとかアイススケートとかサッカーとかその中でもどうやってコメントするかとか、日本語で。(2015年1月15日)
  • (聴解教材を)1回それを何冊か借りてみて自分だけきいてみたんです。それを聞きながら自分がどれだけのレベルっていうのを1枚ずつやってみてだんだんと普通にできているのを速い速度というか、速いスピードでやっているのを、これはもう大丈夫って、次、次、次っていってある点でとまどってくるとああ、じゃあこれだなあと思って、ここでどういうふうにするかっていうのをここのプランを考えて。(2015年1月9日)

<②「自覚性を伴わない意思決定」>

  • 一回聞くのに、聞こうとしても聞き取れないとかもあって、メモしようともできない。じゃあほかの方法とか、ずっと見て大体の事だけを聞いて内容だけ少しメモして、でも言葉の意味とかまではもう一回聞けないので、ああできないかな、そういう気持ちになっちゃった。ああ、めんどくさいな。結局書かないで聞くだけに集中しています。(2015年1月15日)

3) 2014年度聴解自律学習の課題の整理

アンケートおよびインタビューの分析から、2014年度の課題として以下の①〜③があることが明らかになった。

①時間の確保、②モチベーションの維持、③自己評価の方法

上記の項目はアンケート項目の中の「自律学習で大変だったこと」の回答数が多かったものと、自由記述、および、インタビューの結果を照らし合わせて整理したものである。具体的な記述としては以下のようなものがあった。

①時間の確保
=漢字(クイズ)や他のクラスの宿題があり、義務ではない自律学習が後回しになる。
②モチベーションの維持
=聴いたものを記録に残すのが大変。一度記録できなくなると、記録しなくなる。
③自己評価の方法
=聴いているものがどのぐらいかわからない。チェックテストなどがあるといい。

4) まとめ

青木(2010)では、自律学習を促進するサポート体制として、学習過程を管理するツールとしての「ポートフォリオ」、自由に学習者がアクセスできる「セルフアクセスセンター」、学習過程に関するアドバイスをする「アドバイジング」の三つが必要であるとしている。そのうち、特にアドバイジングは、自律学習の「PDSサイクルを助ける」「専門知識の提供」「動機の維持を助ける」などの効果があるとされる。上記で示した3つの課題についても、アドバイジングを通して解決の糸口を与えることが可能であると考えられる。そのため、2015年度長期研修では、本プロジェクトで得られた成果に鑑み、以下の改訂を行った。「HR/個別指導を活用した相談および共有機会の増加」「自律学習「聴解」サロンの実施」である。これらの取り組みを通して、アドバイジングの機会を増やし、研修参加者の学習過程のサポートをより強化していきたい。

参考文献
青木直子(2010)「学習者オートノミー、自己主導型学習、日本語ポートフォリオ、アドバイジグ、セルフ・アクセス」日本語教育通信第38号
(注)海外日本語教師長期研修の概要に関しては、海外日本語教師長期研修のURLをご参照いただきたい。
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