2017年度上半期 研究プロジェクトWEB報告書
文法授業用教材『日本語を通じたことばの見方』の共有・公開を目指して

計画者 生田 守
プロジェクト参加者 代表者のみ
外部協力者 なし
日程 3.2 参照

プロジェクト報告

1. プロジェクトの目的

平成26年10月より、調査研究プロジェクトにおいて、当センターの短期日本語教師研修(多国籍)における、最上位クラスの文法授業用の教材『日本語を通じたことばの見方』を開発し、昨年度(平成28年度)一応の完成を見た。今年度のプロジェクトは、シラバス作成(26年度)、教材作成(27,28年度)に続くものである。すなわち、完成教材を、当センターのサイトを通じて発信することを念頭に置きつつ、今後どのような形で存在させるか、つまり、どのような形で共有および公開していけるか、その可能性を専門家の評価を通じて模索していくことを目的とする。

2. プロジェクトの背景

当センターの海外日本語教師短期研修における、最上位クラスの文法授業において使用できる教材を開発する目的で本研究プロジェクトを実施した。本研究プロジェクトの背景には、日本語教師にとって文法とはどういう意味を持っているのか、という問題意識がある。

3. プロジェクトの概要及びスケジュール

3.1. プロジェクトの概要

プロジェクトの目的(第1項)である本教材の共有・公開の可能性を模索するため、外部の日本語教育学者および言語学者に依頼し、教材の質および公開可能性(公開の範囲、方法等)における評価とアドバイス(質問票および面談による)を求め、教材の評価を依頼した。また、「練習・例文が少ない」、「テストを増やしてほしい」という研修参加者からの意見が目立った背景から、練習問題や例文を増やす等の改訂作業も継続し、学習の手引きおよび指導用のマニュアルを制作した。さらに、夏期および冬期の海外日本語教師短期研修に加え、中国大学研修および中国中等研修でも本教材を試用し、参加者からの評価を継続して実施した。その結果、本教材が書籍という形で公開されることが決定した。

3.2. 日程・スケジュール

以下の日程で、プロジェクトを行った。

[2017年4月~6月]
  • 全体の方針策定
  • 評価票の作成
  • 指導、学習の手引き作成
  • メインテキストの改訂作業
[2017年7月~8月]
[2017年9月~12月]
  • 外部評価の依頼・実施
  • 外部評価の結果の分析
  • 公開の方法を検討
  • テキストの改訂作業
[2018年1月~3月]

4. プロジェクトの成果

4.1.教材の構成(本年度作成分)

「1」で前述したように、外部専門家(言語学者1名および日本語教育学者1名)に教材の質についての評価を依頼した。評価項目は以下の4項目で、5段階スケール評価した上でコメントを依頼した。さらに全般的に、問題点および改善点、公開方法の可能性についても意見を求めた。結果を以下の表にまとめる。

表1 外部評価項目及び結果

※よくできていると強く思う(5)⇔ 全くそう思わない(1)

評価項目 評価平均値(5~1) コメント概要
(1)タイトル/章立て 4.5 特に問題はないが章の冒頭文をそろえるべきではないか。
(2)例文・練習問題の質/量 5 言語学的な観点から文法形式の多様性がよくとらえられており、質・量ともに豊富で多彩であるが、章ごとに理解の消化を試す「理解確認の質問」があれば、なおよい。
(3)記述のわかりやすさ 5 平易な記述によって、世界の諸言語の多様性の中に位置づけて日本語を理解する試みがなされており、日本語の一層の国際化に向けても有意義である。
(4)言語学/日本語教育学的見地からの妥当性 4.5 言語学的に専門用語の誤解や拡大解釈がなく、著者のこれまでの研鑽がうかがわれる。 特に、テンス・アスペクト現象をテキスト(談話)レベルにも応用して解説している項は、類書に見られない貴重な部分であり、学習者に大きな助けとなる。日本語教育学的には、母語との比較において考えることを要求しながら納得させていく教室運営は高く評価したい。

「問題点および改善点」としては、大きな問題は見当たらないが、改善点として、以下の点が指摘された。

  • 記述のバランスの再点検
  • 編集上の改善(ナンバリングやクロスレファレンス)
  • 一般論と日本語固有の特徴についての書き分け
  • 人間関係をどう捉えるかが文法規則の中に入り込んでいる日本語の特徴という観点の導入

また、「作成教材の公開方法の可能性」に関しては、知識を体系的に身につけ、誤差なく共有するためには、教室での演習を通じて集約的な学習をする方が合理的、という理由で書籍の形での公開が望ましいとされた。ウェブ利用に関しては、書籍化後、例題を拡充した課題や、文法事項についての言語学的な解説等の補助教材を随時参照可能にすると良いということであった。講師が受講者とのオンラインのやり取りができるような仕組みを構築することが必要であるとする指摘もあった。

4.2. 研修参加者からの評価

研修参加者(18名)には、授業終了後に教材および授業に関して、項目ごとに5点法で評価をしてもらった。結果を表にした。

表2 研修参加者評価項目及び結果
項目 平均
興味深い/おもしろい 4.7
理解を深めることができる 4.6
章立て/トピックがいい 4.6
新たな視点が得られる 4.5
考える力がつく/独学に役立つ 4.5
知識の整理になる 4.5
日本語の特徴がよくわかる 4.5
ユニーク/新しい 4.4
役に立つ/実用的 4.4
母語をふりかえるきっかけになる 4.4
文法能力が上がる 4.2
教授法とつながる 4
わかりやすい 3.9
練習や活動が十分 3.7

「興味深い/おもしろい」、「理解を深めることができる」、「章立て/トピックがいい」の3項目が特に高く、「教授法とつながる」、「わかりやすい」、「練習や活動が十分」という項目は比較的評価が低かった。
自由記述のコメントでは、「練習・活動が足りない」、「外国語の例は不必要」、「用語が難しい」という否定的コメントが昨年度と比較して減少していた一方、「わかりやすい」、「役に立つ」、「新たな視点が得られた」、「母語をふりかえるきっかけになった」、「日本語の特徴がわかった」というような肯定的コメントは増加した。

4.3.マニュアル作成と改訂作業

以上の評価を受けて、指導・学習用マニュアルの作成およびテキストの改訂を行った。
本プロジェクトで新たに作成した指導・学習のマニュアル(A4版12頁)は「対象学習者、文法授業の目標、本教材の特徴、各章のねらい、指導時間」および解答例([考えてみよう]、発展学習、[問題]、[確認問題])からなっている。
また、テキスト改訂の主な部分は以下の通りである。

  • 各章へのサブタイトル付与
  • 各章末に理解確認問題を挿入
  • レファレンスの充実

4.4.結論

以上の評価から、書籍化の可能性を模索したところ、一出版社から刊行されることが決定した。

5. プロジェクトの課題

今後の課題を以下の2点にまとめる。

  1. (1) 調研プロジェクトをふりかえりつつ、「日本語教師向け文法講座の実践例」をテーマとして論文にまとめること
  2. (2) 評価者のコメントに従い、ウェブ上におけるインタラクティブな活用を模索すること