海外日本語教師の養成・研修

日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)17期生
(研修期間:平成29(2017)年~平成30(2018)年)
「修了・帰国から半年経って思うこと」

 政策研究大学院大学と連携で実施している修士課程を2018年9月に修了したキルギス、エジプトからの2名の日本語教師からの報告です。
 このプログラムでは、参加者はそれぞれの日本語教育の現場の事情を踏まえた研究テーマを自ら設定して、その研究成果報告を提出します。1年間という限られた期間の中で、講義や研究に必要な個別指導等を受け、一時帰国して自国の教育機関で実習を行い、自国で収集したデータを分析し、その研究成果を「特定課題研究」としてまとめるものです。
 帰国後、自分の職場で改めてその研究テーマについて考え、発展させることもあります。修士修了後半年たった2019年春に、2名が研究テーマに関して、取り組んだことや、取り組もうと思っていることや今の考えについて書きました。

アセーリさん(スルタナリエワ アセーリ/SULTANALIEVA ASEL/キルギス/ビシケク人文大学)

【研究テーマ】中級学習者を対象にした通訳授業の改善-まとまった話をする能力養成を目指して-【PDF:304KB】別サイトへ移動します

アセーリさんの写真
中央がアセーリさん
 日本語教育指導者養成プログラムを修了し、10月から所属機関のビシケク人文大学に戻りました。学期が9月から始まりましたが、通訳論と異文化コミュニケーションの授業を前任の先生から引き継いで、通訳論を3年生に、異文化コミュニケーションを1年生に教え始めました。通訳論の授業は3年生の前期だけで、後期は異文化コミュニケーションを1年生に教えています。  まず、通訳論の授業ですが、本プログラムで教授法をはじめ、授業デザインやフィードバックなどについて勉強しましたが、帰国後すぐに仕事に復帰したので準備時間が少ない中、得た知識や情報を活用しようとできるだけ努力しました。研究論文の実習授業のために作成した2つのトピックを授業で使用しましたが、コース全体の目的やシラバスが必要だということが改めてわかりました。  以前、通訳論の授業は講義と実践に分けて、講義では通訳の歴史と理論を教え、実践では翻訳をしていました。しかし、研究論文を書きながらわかったことは、通訳には口頭のトレーニングが不可欠だということでした。そのため、中級の学生対象の通訳の授業で、まず、日本語でまとまった話をする能力養成を目指すことにしました。3年生の学生に研究論文で実験授業のためにデザインした授業をやってみました。ところが、『まるごと 日本のことばと文化』(中級1B1)を使用してみると、表現や言葉の説明に計画した以上の時間がかかりました。それに、日本語国際センターで第二言語習得理論の授業で学んだように、学生に気づきを起こすように、学習者が新しい情報をちゃんとインプットするために正しいフィードバックを与えないといけないことに気づきました。その学習者の性格やインプット方法によってそれぞれに違うフィードバックを与えるように頑張っていますが、上手にできるようになるにはまだ時間がかかりそうです。授業中、先生の説明より学生の積極的な参加が大事だと教わりましたが、学習者の数が多いとそこにも時間が結構かかることも気づきました。通訳の授業がまるで日本語の授業のように行われているような気がするかもしれませんが、中心は話す能力をアップすることです。そのために、 新崎(2005)* の英語学習法を基に日本語で聴解して日本語でメモを取って、また日本語で再表現するような授業をしました。  学習者の感想や反応からすると使用した教材は少し難しかったようです。当時の学習者の日本語能力は、予想に反してJLPTのN3よりはN4の方が多かったからだと思われます。また、通訳スキルを身につけるために、何回かキルギス母語話者にロシア語で同じ練習、またロシア語母語話者にキルギス語でやらせてみました。来年、2019年9月からの学期にコース目的と、学習者のニーズに合う通訳論の授業のシラバスを作成できるように頑張りたいと思います。そのため、今のところで同じ目的の教師仲間に声をかけています。  異文化コミュニケーションの授業は、1年生対象なので、授業はロシア語で行われています。日本語国際センターの異文化コミュニケーションの授業で勉強したように、21世紀型スキルの育成を目指す授業にしてみたいと思い、チームワークの課題を与え、テーマ発表または課題によっては演劇をしてもらっています。また、学習者にポートフォリオも作ってもらいましたが、そのチェックの方法が今後の課題です。このような授業に初めて挑戦してみましたが、学生は楽しんで学んでいます。  1年間の修士プログラムは新しい情報や勉強の機会が豊富でしたので、得た知識をなるべく全部活用していきたいと思います。また、日本語国際センターの他の研修で知り合った先生方(インド、エジプト、ロシア)とネットワークができて意見交換などもしています。 *新崎隆子(2005)「英日逐次通訳プロセスを応用した英語学習」『通訳翻訳研究』第15号、191−192.


マリーナさん(マリーナ バハー ハビーブ/MARINA BAHAA HABIB/エジプト/アインシャムス大学)

【研究テーマ】感覚に着目したオノマトペの学習活動-日常生活のリソースを用いて-【PDF:957KB】別サイトへ移動します

マリーナさんの写真  「日本語教育指導者養成プログラム 修士課程」(以下、修士プログラム)に参加し、1年間授業を受けたり、研究したりしました。 その1年で大変なことがたくさんあったおかげで、得た知識や経験を宝物のように思っています。修士プログラムを修了して帰国した後、所属機関であるアインシャムス大学外国語学部日本語学科(以下、アインシャムス大学)の同僚に、修士プログラムをはじめ、国際交流基金が実施している海外日本語教師長期研修や短期研修などの研修を詳しく紹介しました。  帰国から半年経って、その間に色々なことが起きました。本報告では、帰国してから現時点まで行ってきた活動や現場の日本語教育事情を伝えようと思います。その活動は「担当している授業」「研究の発表会」「その他の活動」に分けて説明します。 1. 担当している授業  エジプトの学年度は2学期に分けられており、前期は9月下旬から1月下旬、後期は2月中旬から6月中旬までです。2018年度の前期では日本人教師とチームティーチングで、3年生の「小論文」のクラスに「反転授業」の方法を取り入れました。予習教材として、「Zoom」のアプリを使用してビデオを作成しました。授業は週に2回で、表現の説明などの基本的な学習をビデオ教材にし、それを授業前に学習者に送って、見てもらいました。クラスでは、表現を使った作文、作文の流れの確認などの実践練習を行いました。帰国する前に、このクラスのシラバスは日本人教師がすでに作成しており、シラバス作成過程にはあまり大きな役割を果たしていないのですが、「反転授業」のやり方、ビデオ教材作成の仕方などを見習って実施しました。  後期は、4年生の「会話・聴解」のクラスを担当しています。修士プログラムの「異文化コミュニケーション」の授業で紹介していただいた『ビジネスコミュニケーションのためのケース学習』を主教材として使っています。このクラスの大目標は、異文化の理解とコミュニケーション能力を身につけ、中・上級の日本語表現を使って、職場において違和感のない会話ができることです。日系企業で働いている場面が設定されているので、学習者は卒業する前の練習だと思い、授業に参加しています。ケースの本文は授業前に読み、クラスでは主に話し合いやロールプレイに時間をかけています。まだ足りないところがたくさんあると思いますが、試行錯誤しながら完成していきたいと思います。 2. 研究の発表会  帰国してから、日本で行った研究について2回発表しました。1回目は2018年11月27日に、学科内の発表で、アインシャムス大学の先生方と現在卒業論文を作成している4年生が出席しました。2回目は2019年1月19日に、国際交流基金カイロ日本文化センターが毎年実施している「中東・北アフリカ日本語教育セミナー」(以下、中東セミナー)で、出席者はエジプトにおける日本語教育に関わる各機関の日本人・エジプト人日本語教師、また、UAE、トルコ、ラトビアから1名ずつの日本人教師でした。  日本で何度も発表し、もう慣れてきたはずの私ですが、大勢の前で発表する際にまだ緊張したりします。ただし、中東セミナーの発表後、元同僚の日本人専門家に「日本で苦労した1年の成果が見えたほど、聞かれた質問に細かく答えてかっこよかった」と言われ、とても嬉しかったです。 3. その他の活動  授業や研究以外、別の活動もしてきました。例えば、アインシャムス大学は毎年4月に「日本文化紹介デー」というイベントを実施しています。このイベントは学習者が中心となり、自分でイベントのプログラムや内容を考え、実施し、運営します。毎年エジプト人教師から1、2名が監督者として準備や練習の進捗をチェックしますが、今年は私に任されており、イベント自体は4月18日に行われる予定です。  また、アインシャムス大学の学習者は本学が実施しているイベントだけではなく、日本語・日本文化に関わる他の機関が主催しているイベントにも積極的に参加しています。そのイベントは以下の表のとおりです。

アインシャムス大学の学習者が参加している日本語・日本文化に関わる他の機関が主催しているイベント
  主催機関 イベント 日付
(1) カイロ日本人学校 秋祭り 2018年10月20日
(2) カイロ日本人学校 運動会 2018年10月30日
(3) カイロ日本人学校 (同学校生徒による)学習発表会 2018年12月11日
(4) 在エジプト日本国大使館 東日本大震災追悼コンサート 2019年3月9日
(5) カイロ大学文学部日本語・日本文学科 日本語弁論大会 2019年3月30日

 各イベントの際、日本人・エジプト人教師から1、2名が学習者を会場まで連れていったり、案内したりしますが、私は(3)番のイベントの案内を担当しました。  また、修士プログラムに参加したおかげで、様々な国の日本語教師と知り合いました。それがきっけかとなり、アインシャムス大学の日本語学科はどんな学科か、そこで日本語を学習している学生がどんな活動をしているかなどを世界中の日本語教育関係者に紹介するものを作る必要があると考えはじめ、帰国した後、学科会議で「日本語・英語ウェブサイト作成」を提案してみました。学科の先生方の同意を得た上で、現在、無料でウェブサイト作成ができるサイトを使用し、日本語学科を紹介する「試行ウェブサイト」を作成しています。完成し、大学に認めてもらえたら、「正式なウェブサイト」になる予定です。  最後に、修士プログラムで得たことを振り返ってみると、自分の中で一番変わったのは「コース/授業の目標設計」に対する見方です。大学生に初・中・上級の日本語を教えること自体が目標ではないことがわかりました。何のためにそれを教えるか、どのように教えるか、教えたら学習者が何ができるようになるかということをより重視するようになりました。また、学習意欲やモチベーションを上げるために、学習者にその目標をちゃんと説明して、色々な工夫をするようになりました。これからも頑張っていきたいと思います。

お問い合わせ

国際交流基金日本語国際センター
教師研修チーム
電話:048-834-1181 ファックス:048-834-1170
Eメール:urawa@jpf.go.jp
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