令和元（2019）年度 日本語指導助手レポート さまざまな日本語とのかかわり
バンコク日本文化センター
植田 志穂
バンコク日本文化センター（以下、JFBKK）に赴任して、早くも任期の半分にあたる1年が過ぎました。JFBKKでは、日本語指導助手は大きく2つの日本語教育事業に関わります。ひとつは中等日本語教育、もうひとつは一般日本語教育です。
中等日本語教育
グローバル化が進む現代に対応すべく、タイは中等教育における外国語教育に力を入れています。とくに日本の高校に相当する後期中等教育では、第二外国語として、ドイツ語、フランス語、日本語、中国語、アラビア語、パーリ語、スペイン語、イタリア語の8科目から1科目選択することができます。ありがたいことに日本語はその中でも人気が高く、多くの高校生が日本語を学習しています。
JFBKKでは、中等教育機関で日本語を教えるタイ人の先生方を支援するため、様々なプログラムや研修を実施してきました。その中で、私は「日本語ブラッシュアップ集中研修」にて「漢字」と「聴解」の授業を担当し、支援のお手伝いをさせていただきました。これは、中等教育機関で日本語を教えるタイ人教師の日本語運用能力向上を目指す研修です。普段は国内各地、それぞれ離れた学校で教鞭をとっている先生方がひとつの教室に集い、机を並べて約1か月間、共に授業を受けます。他面から捉えればこの研修は、先生同士のネットワークを強化する場として機能しているともいえます。授業では、とくにそのことを念頭に置き、できる限り先生同士が言葉を交わす機会を持てるよう心がけていました。「ここの答えはこれで合っていますか」と問われたときに、反射的に「はい、そうですよ」と答えをこぼしてしまいそうになるのをぐっと耐え、「先生は、どう思いますか」「ほかの先生は、どうですか」と先生方に話を振り、互いに考えを話し合ってもらえるよう意識しました。
研修終了時、アンケートには「他の研修生と学び合いや話し合いができたことがとても役に立った」という声が寄せられました。先生同士の関係を深めるという密かな目標も達成されたことがうかがえ、大変うれしかったです。この研修を通して日本語教師仲間ができたことが先生方の自信につながり、ひいては先生方のもとで日本語を学ぶ学生たちにも良い影響を与えてくれることを願っています。
一般日本語教育
JFBKKでは、上述の中等教育機関の教員養成プログラム・研修を行うほか、一般の方々に向けての日本語講座も開かれています。タイは日系企業が多く進出しており、とりわけバンコクは日本の食べ物や製品、日用品に溢れています。物のみならず、アニメやドラマをはじめとする日本のポップカルチャーも浸透しており、それらに触れたことをきっかけに日本語学習に関心を持ってくれた日本語講座の受講生も少なくありません。私は教科書『まるごと 日本のことばと文化』（以下、『まるごと』）を用いた入門クラスと初級クラスを担当しています。どのクラスにもさまざまな年齢、職業の方が在籍しており、授業は毎回にぎやかで楽しい雰囲気です。
『まるごと』の魅力のひとつは、ことばと合わせて文化も学ぶことを大切にしている点です。「季節と天気」というトピックには、「春はあたたかいです」というフレーズが出てきます。ここで受講生から出てくるのが「あたたかい」ってどんな感じ、という疑問です。たしかに常夏の国タイでは、芯から冷えた体にじんわりと血がめぐって「ああ、あたたか～い」と感じる機会はめったにありません。うーん、冷房でキンキンに冷えた屋内で、上着を羽織ったときの心地よさや安心感、が一番近いかなあ、などとタイで出会い得る「あたたかい」感覚について考えを巡らせたのは、まさにことばと文化のつながりを感じる場面でした。また、同じトピックでは日本の「『すずしい』夏」として、風鈴や肝試しが紹介されています。「エアコンはつけないの？こんなんじゃ暑さは乗り切れないでしょ！」と驚く受講生や、「耳や頭からも暑さを取り払おうという発想は、おもしろい」とコメントしてくれた受講生、「タイでは昔、このようなデザートを食べて暑さをしのいでいましたよ」と写真を見せてくれた受講生、さまざまな反応があり、盛り上がりました。
これから
このようにJFBKKには、日本語を共通項として様々な背景を持つ方々と関わる機会が豊富にあります。どんな場面で、だれと日本語を話すのか、どんな内容について話すのか、日本語を使って今後さらにどんなことができればうれしいか、それは十人十色です。接する方の背景、とくに日本語を学ぶ目的を吟味することを大切に、今後の業務に取り組んでいきたいです。
2019年より作成を開始した高校生向けの漢字学習動画。「上」を学ぶ一場面。
同じく高校生向け漢字学習動画の一部。「かんじくん」というキャラクターを使用して漢字学習のポイントを教える。