日本につながる子どものための日本語教育 【第5回】「みんなの教材サイト」にて公開!「日本につながる子どもの実践」に込められた思い
- 日本につながる子どものための日本語教育
- このコーナーでは、「日本につながる子どもの日本語教育」の関係者や広く関心のある方々に向けて、複数のことばと文化の中で成長する子どもを支えるために役に立つ情報や活動例、新しい取組などを分かりやすく紹介していきます。
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2026年10月
国際交流基金日本語国際センター
世界各地で、創意工夫された「日本につながる子どものための日本語教育」の実践が行われています。国際交流基金日本語国際センターでは、そのような実践を、地域を超えて共有するため、2024年度から2025年度にかけて「日本につながる子どものための教材収集・共有プロジェクト(注1)」を実施しました。本プロジェクトには、海外で活動する6名の実践者が参加し、それぞれの教育現場で実践してきた学習活動や教材を持ち寄り、その背景にある考え方を整理・分析しました。さらに、それらを世界各地の現場で活用できるよう検討を重ねてきました。
その成果として、2026年5月から「みんなの教材サイト」で6つの「日本につながる子どもの実践」を公開しています。掲載している学習活動や教材は、そのまま活用できるだけでなく、地域や学習者(注2)の実情に合わせてアレンジしたり、新たな活動を考える際のヒントとして参考にしたりすることもできます。実践を参考にする際には、活動の内容だけでなく、その実践が生まれた背景や、実践者が大切にしている考え方を知ることも重要です。そこで今回は、プロジェクトに参加した実践者の皆さんにお集まりいただき、実践に込めた思いや、プロジェクトを通して得た気づきについて座談会で語り合っていただきました。対話を通して見えてきたのは、活動する地域や環境は異なっていても、子どもたち一人ひとりを大切にしたいという共通の思いでした。本記事では、「日本につながる子どもの実践」に込められた思いや考え方をご紹介します。

座談会登壇者のみなさん
【座談会登壇者】
- 深澤伸子(タイ バイリンガルの子どものための日本語教室アドバイザー=前列左)
- フックス‐清水美千代(スイス バーゼル日本語学校教諭=前列中央)
- 横溝みえ(ブラジル マイリポラン同志会日本語学校教師兼校長=前列右)
- 明石智子(香港 マルチリンガルな学習者のための継承日本語プロジェクト=後列左)
- 中村シャンド清夏(ニュージーランド 各種日本語教育活動=後列中央)
- 平野梓(メキシコ Kinder Internacional My Little Sunshine園長=後列右)
1. 地域を超えて実践を共有する意義
今回のプロジェクトには、6つの国・地域で活動する実践者が参加しました。プロジェクトへの参加のきっかけはさまざまでしたが、多くの実践者が、自身の実践をふり返りながら、他の地域の実践者と学び合えることに、地域を超えて実践を共有する意義を見出していました。
ブラジルの横溝さんは、「南米をアピールする大きなチャンスだと思いました」とふり返ります。「3世で言語は途絶えると言われることもありますが、実際には途絶えていません。そのことをもっと知ってほしかったんです」と横溝さんが語るように、ブラジルの日系社会では、4世、5世と世代が進んだ現在も、日本語や日本文化とのつながりが受け継がれています。
一方、香港の明石さんは、教材づくりに関する課題意識から参加を決めました。「教材づくりでは、子どもたちに合わせた活動にすることも、広く地域を超えてその知見を活用できることも、どちらも大切です。そのバランスをどう取ればいいのかを学びたいと思いました」と、教材を他の地域でも活用できる形で共有するにはどうしたらよいのかを考えたいと思っていたといいます。
タイの深澤さんは、「私たちの教室では、保護者全員が教師役を務めています。教師不足に悩む方に、保護者それぞれの特性を活かして、子どもと一緒に活動をつくっていけることを伝えたいと思いました」と話します。一方で、「活動を続けていくためには、記録し、ふり返ることが欠かせません。でも、日々の活動に追われる中で、後回しになってしまうこともあります」とも語りました。そこで、実践を記録し、見つめ直す機会にもしたいと考えプロジェクトに参加しました。
メキシコの平野さんは、これまで子どもの日本語教育について相談できる機会が多くなかったといいます。「メキシコにも、日本につながる子どもの日本語教育の実践があることを知ってほしいと思いました。また、他の方の実践から学べる貴重な機会だとも感じました」と話します。自身の実践を発信したいという思いとともに、他の実践者との交流にも期待を寄せていました。
このように、実践を共有することは、自身の実践を整理し、発信する機会であると同時に、他地域の実践から学ぶ機会にもなりました。プロジェクトでは、異なる国や地域で活動する実践者たちが互いの実践を紹介し合いながら対話を重ねました。その対話は、学習活動や教材を共有するだけにとどまらず、それぞれが大切にしている価値観や子どもたちへのまなざしを見つめ直す機会にもなっていきました。
2. 「子どもが主語」の学び
話し合いを重ね、「みんなの教材サイト」では、以下の学習活動・教材を共有することになりました(表1)。
| タイトル(実践者) | 主な対象年齢 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 子どもとつむぐ物語:遠足から始まった電車遊び(平野) | 幼児・未就学児 | 子どもたちの身近な経験から生まれた遊びを、日本語の活動につなげる。子どもたちを観察しありのままの姿を受け止め、家庭にも伝える。 |
| 子どもと保護者が全員で創る:子どもの好きから始まる「わたしプロジェクト」(深澤) | 高学年部 (11~15歳) |
子どもたち一人ひとりが、やりたいことを追求し、教室内外で共有する。子どもと保護者が一緒に幸せな記憶と体験の中でことばを学ぶ。 |
| 世代を超えて皆が心地よい場を創る:作ろUdon・食べよUdon(横溝) | 異年齢集団 (幼児~90代まで) |
世代を超えた仲間と一緒にうどんを手作りし、食べることで、ゆるく温かい場所でつながる。うどんを題材に発展的表現活動も行う。 |
| 「ことばにしたい!」「書けた!」が生まれる:今日の「トコトントコトン」(中村シャンド) | 小2~大学生まで | 一つのことを「トコトン」考え、思いつきをことばにする小さな書く活動。何を書いてもOKという気軽さと安心感の中で書く意欲を育む。 |
| 日本語力だけで決めない!日本語+αで「もっと知りたい」を揺さぶる(明石) | 小学校高学年以上 | 「マーシャルアーツ(武道)」をテーマに、個々の得意な言語や現地校で学んだ知識をフル活用し、多様な切り口で学びを深める。 |
| 生徒の「学びたい!」と親子のつながりを大切に:人権をテーマとして(フックス) | 中高生 | クラス全員で助け合って一緒に学び、「人権」に関する理解を深める。宿題を通して、親子のつながりも深める。 |
今回の座談会を通して繰り返し語られたのが、「子どもが主語」という視点でした。それは、日本語を教えることそのものを目的にするのではなく、その先にある子どもたちの人生や幸せを大切にしたいという思いです。
平野さんは、子どもも大人も一緒に考え、一緒に学ぶ保育を大切にしています。そんな平野さんにとって、プロジェクトを通して同じ思いを持つ実践者たちと出会えたことが大きな学びだったそうです。「子どもたちを1つのゴールに向かわせるのではなく、一人ひとりのありのままの姿を認めて、その子自身の力が伸びていくことを大切にしたい。そんな思いを持った方が世界中にいることが分かって、とても心強かったです」と語りました。
横溝さんは、世代を超えて学習者が学び合い、協働し、コミュニティや地域とつながる「ほどよく心地のいい場」を創ることを目指しています。他の参加者の実践について次のように語りました。「みんな愛があるなぁと思いました。今の子どもたちだけではなく、その先の将来も見ている。でも、教師がその子の人生を決めるのではなくて、伴走者として、その子がどうしたいのかを尊重したいという気持ちが伝わってくるんです」
深澤さんの教室は、隔週1回、年に20回ほど活動しています。限られた時間だけで日本語力を大きく伸ばすことは難しいとしたうえで、「幸福な記憶の中にあることばは、その子のことばになり、その後また学び直されると思います。だから、ことばとともにある豊かな体験を大切にしたいんです」と話します。
フックスさんは、生徒には対話によって平和で平等な社会を構築できる人になってもらいたいと考えています。「子どもたちの成長を支えるうえで大切なのは、知識を教えることだけではありません。一人ひとりが自身の能力と目的に合った日本語学習ができるように、子どもたちに合った教材をつくろうという、その子自身を大切に見る姿勢がなければ、教育とは言えないと思います」と話しました。
こうした議論の中で深澤さんは、「親が考える『子どものため』ではなく、『子どもが』と子どもが主語になる活動が必要なんです」と語りました。日本語を学ぶ理由も、目指す姿も、子どもによって異なります。だからこそ大切なのは、子どもたちを決められた枠にはめることではなく、一人ひとりの思いや選択に寄り添いながら、その成長を支えていくことなのかもしれません。
また、教材の背景について話す中で、実践者たちが特に印象に残った考え方として挙げたのが、中村シャンドさんの教育観です。中村シャンドさんの実践では、「自分のことばが届いた」「ことばを使えば伝えることができる」という経験をつむことで、書くことへの意欲を育むことを大切にしています。その中で、「書かなかったことも学びの足跡」という考え方を紹介しました。私たちは教育の場で、つい「できたこと」に注目しがちです。しかし中村シャンドさんは、「書かなかった」という事実にも意味があり、それも子どもの歩みの一部だと語ります。
さらに、子どもが日本語に対して消極的に見えるときは、教師や保護者が無理に教えようとするのではなく、一歩引いて子どもの学び全体を見つめたり、休むことも視野に入れたりする「引く勇気」が大切だといいます。そして、子どもには「日本語を休む権利」もあるという視点の重要性を中村シャンドさんは示しました。この考え方について明石さんは、「私たち教師はどうしても何かを学んで帰ってほしいと思ってしまうので、とても衝撃を受けました。『休む』ということも選択肢の一つにあることで、子どもたち自身も楽になると思いました」とふり返ります。
このように、教材を共有するために始まったプロジェクトでしたが、対話を通して実践者たちは、子どもたちをどのように見つめ、どのように関わるのか、自分がどのような場をつくりたいのかという問いにも向き合っていくことになりました。
3. 自分らしくいられる居場所づくり
座談会では、それぞれの実践者がどのような場づくりを目指しているのかについても語り合いました。そこで共通していたのは、子どもたちが安心して自分らしくいられる居場所をつくりたいという思いです。
明石さんは、「香港は土地柄、競争が激しい地域で、成績が重視されて自己肯定感が低い子が多いように思います。それでも、子どもたちはいろんなことばができるので、自分は他のことばだったら、これについてこんな深いことが言えるんじゃないかという気づきが生まれるような場所をつくりたいと思っています」と、子どもたちの持つ言語的文化的資源に目を向け、育んでいくことの大切さを話しました。
フックスさんは、「どんな日本語レベルの子どもも居心地よく過ごせること」を大切にしているといいます。新しく参加した子どもには、「人と比べなくていいこと」「あなたはあなたのままでいいこと」を必ず伝えているそうです。横溝さんも、「あなたはあなたとしてしか生きていかないんだから」という言葉を子どもたちによく伝えていると話しました。実際に卒業生から「人と比べないことを学びました」と言われたことが、何よりもうれしかったとふり返ります。
「日本につながる子どもの日本語教育」の現場では、日本語力の差が目につくこともあります。しかし、子どもたちが育ってきた環境や得意なことなどは、一人ひとり異なります。だからこそ、比較ではなく、それぞれの子ども自身を見ることを大切にしていることが伝わってきました。
また、深澤さんの実践からは、子どもだけでなく大人もともに育つ場の姿が見えてきました。深澤さんは、かつて教室の活動の中で一人の子どもの存在が周囲の意識から抜け落ちてしまった経験をふり返り、「集まったどの人にも意味がなければならない」と考えるようになったといいます。その経験をきっかけに、教室では保護者も含めて全員が何らかの役割を担うことを大切にするようになりました。関わり方はさまざまですが、一人ひとりが教室を支える大切な存在として受け止められています。深澤さんは、「関係性は育つもの」と語ります。
理想的なコミュニティが最初からあるわけではありません。子どもも大人も関わり合いながら、ともに成長していくのです。今回紹介された実践からは、人と人がつながり、それぞれが安心して自分らしくいられる居場所をつくろうとする実践者たちの姿勢が伝わってきました。
4. 「日本につながる子どもの実践」から広がる学び
最後に、公開された学習活動や教材をどのように活用してほしいかについて、実践者の皆さんに伺いました。その中で多く聞かれたのは、「自由に使ってほしい」という言葉でした。ただし、それは学習活動や教材をそのまま真似してほしいという意味ではありません。
横溝さんとフックスさんは、「目の前の子どもをよく見て、その子どもの家族をよく見て、一緒に考えて自由にやってほしいと思います」と語ります。同じ活動でも、地域や学習者が変われば、そのまま当てはまるとは限りません。大切なのは、活動の形だけを見るのではなく、子どもたちの置かれた環境や文脈をふまえて、活動の背景にある実践者の考え方や思いにも、目を向けることです。
また、中村シャンドさんは「私だったらこうアレンジするかな、とワクワクしながら見てもらえたらうれしい」、平野さんは、「自分のところでも、こんなことができたら楽しいよね、やってみたいね、と可能性を感じてもらえたらと思います」と、実践者自身が楽しんでほしいと話しました。
このように、座談会を通して見えてきたのは、「日本につながる子どもの実践」が単なる活動や教材の紹介ではないということでした。そこには、子どもを一人の主体として尊重し、その思いや選択に寄り添うこと、そして子どもを取り巻く大人やコミュニティもともに育つことを大切にする実践者たちのまなざしが込められています。
公開された実践は、そのまま使える教材例であると同時に、実践を見つめ直すためのヒントでもあります。ぜひ「みんなの教材サイト」を訪れ、それぞれの実践に込められた思いや工夫に触れてみてください。そこからまた、新しい実践や新しい出会いが生まれていくことを願っています。
注:
- 1.本プロジェクトは、2023年12月に実施した「日本につながる子どもの日本語教育関係者ミーティング」での議論と提案をきっかけに立ち上がりました。プロジェクトメンバーの募集は、本ミーティングの参加者、サポートメンバーを主な対象として行いました。また、プロジェクトの実施にあたっては、アドバイザーの加納なおみ先生(國學院大學)、ダグラス昌子先生(カリフォルニア州立大学ロングビーチ校)より、多くの貴重なご助言をいただきました。
- 2.本教材が主な対象とする学習者は、「日本以外の国・地域に暮らし、日本となんらかのつながりを持つ子ども」です。家庭内での日本語使用は多様で、例えば、国際結婚家庭の子どもや、保護者がみな日本語話者の家庭の子どもなどがいます。海外に永住や長期滞在を予定している家庭も多く、親が日系2世、3世という世代が進んだ家庭の子どももいます。なお、このような「日本につながる子ども」の学ぶ日本語は、「継承語」「ケイショウゴ」「繋生語(けいしょうご)」「Japanese as a Heritage Language(JHL)」などと呼ばれることがあります。
もっと知りたい方のために
- 池上摩希子・深澤伸子編著(2025)『バンコク発!ことばと文化を育む継承日本語教育実践―親子でつくる「テーマ型体験活動」の教室から』ココ出版
- ヨーロッパ日本語教師会(AJE)AJE-SIG 欧州継承日本語ネットワーク編(2025)『ことばのキャンバス~つながる・ひろげる ことばの力~』
インタビュアー・文:西島阿弥子(国際交流基金日本語国際センター日本語教育専門員)
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