国際交流基金賞 特別企画~受賞者が見るコロナ下での国際交流~
細川 俊夫さんからのメッセージ

細川 俊夫さんの写真 cpyright深堀瑞穂

2018年受賞

作曲家

細川 俊夫

―この一年、コロナは活動にどのような影響を及ぼしましたか。

私はコロナ禍が始まる今年の初めまでは、1年に6回から8回ぐらい渡航して、日本と海外を往復する生活を、すでに30年以上続けてきていました。自作が主にヨーロッパで上演される機会が多く、その演奏会に立ち合い、演奏家との打ち合わせやその土地のメディアでのインタビューに応じ、レクチャーをするのが、私の仕事です。そうした演奏会や音楽祭が、コロナ禍でほとんど全てキャンセルとなりました。また日本で私が企画している武生国際音楽祭も、海外の音楽家の入国が叶わずに、大幅に規模を小さくして、日本人の音楽家たちのみで開催しました。もちろんお客さん入場も、ほんのわずかに制限して行いました。

自分自身の音楽を発表する場が失われたことで、非常に大きなダメージを受けています。特に大きな世界初演曲が、キャンセルになったことは、とても悲しい思いをしました。一方、そうした中で、演奏会が無観客で行われ、ネットによって配信されたり、ヨーロッパの音楽祭にズームで参加して、リハーサルを聴いたり、レクチャーをしたりもしました。しかしこうしたインターネット上での演奏会は、実際にその現場での演奏家の息遣いや、聴衆とのライブの反響がわからず、本当に演奏されたという実感は薄いです。このような状態がさらに長く続くと、私の関わっているクラシック音楽の世界は、壊滅的な影響を受けることになると思います。多くのフリーの音楽家たちは、出番を失い、経済的にも大変な思いをしています。

―今後の国際交流の在り方、展望についてお聞かせください。

私の作曲の仕事は、ほとんどがヨーロッパのオーケストラや音楽祭、演奏家たちから頼まれたものです。日本国内でも演奏されますが、それはほとんどヨーロッパからの逆輸入の形で行われています。私の関わっている現代音楽の世界は、残念ながら日本ではとても弱くて、西洋音楽というと、日本ではクラシックな18、19世紀の音楽のみが重要視され、聴衆のつかない新しい音楽は敬遠されています。このような現状なので、日本での私の仕事は、作曲よりも、むしろ海外の新しい20、21世紀の音楽を啓蒙していくような企画、教育の仕事が中心になります。クラシック音楽には「歴史」があり、それをきちんと勉強していかないと、その本当の魅力は見えなく、聴こえなくなるのです。そうした歴史観の中に立って、全く異なった伝統を背負った日本人の私が現代に触れる音楽をどのように創っていけるか。そしてそれが日本人だけではなくて、国際的な音楽シーンの中で通用する音楽をどのように生み出していけるかを、常に考えています。そのために常に世界の新しい音楽の動向を、海外に出て体験し、異文化を勉強し、友人を作りながら、国際的な交流を維持しておくことが大切です。コロナ禍によって、海外の音楽家たちがほとんど日本に入れない鎖国の状態が続いています。私自身も、海外に出ていけない状況が続いています。私たちは、海外の音楽家たちと触れ合い、そこでお互いの持っている多様な音楽性を尊重し合い、学び合い、その地点から新しい音楽を創造していかねばなりません。国際交流は、私たち音楽家にとって、最も基本的なことです。いくらネットでつながっていても、インターネットの世界では、伝えることのできないライブの力、場所の力がとても大切なのです。その国際交流の場所が、1日も早く回復してくれることを、心から祈っています。

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