黄金町のこれから

特定非営利活動法人 黄金町エリアマネジメントセンター
2017年度地球市民賞受賞
事務局長 山野真悟

2024年7月19日

子どもから大人までが集った黄金町バザール2024オープンニングレセプション
黄金町バザール2024オープンニングレセプション

黄金町エリアマネジメントセンターと地球市民賞

地球市民賞は、実は私たちにとってあこがれの賞でした。このような賞で、評価してもらえるような時が来たらいいなと思いながら活動を継続し、それがやがて2017年に現実のものとなりました。そのことについて、やはり今でも深く感謝せざるを得ません。私たちの活動に対して、背中を押していただいた、という気持ちです。

主な活動

私たちは主に三つの事業を行っています。ひとつは黄金町エリアに点在する数多くの施設を活用したアーティストインレジデンス事業であり、もうひとつは主にアジア圏の複数の拠点と相互交流を行う、国際交流事業です。そして、毎年開催している街中に展開するアートイベント『黄金町バザール』です。これらの活動を通して、私たちはアーティストの支援や、地域の文化的な活動の活性化を進めています。

これらの活動の成果指標になり得るかどうかは分かりませんが、私たちが活動を始めてからおよそ17年の間に、この地域(初音町、黄金町、日ノ出町と呼ばれる町を含む)は大幅な人口増加傾向を維持しています。そして近年の現象ですが、地域で活動するプレイヤーの多様化が進んでいること、また子どもの頃からアーティストの活動を身近で見ながら育った子どもたちがそろそろ大人になり始めて、アーティストという専門家の存在を当たり前のこととして受け入れる世代が形成されつつあり、これは他の地域ではあまり見られない黄金町ならではのことではないかと思います。
この世代の成長に私は大きな期待をかけています。

作品を囲み思考を巡らせるアーティスト達
定例のアーティストの集まりONAIR

海外アーティストの作品制作の様子
キム・ガウン中国成都市A4 Residency Art Centerの滞在制作

地域の人たちが持ち寄るハギレから生まれた仏像が並ぶ特設ショップ
黄金町バザール2024安部泰輔「黄金森」(竹内化成スタジオ) 撮影:笠木靖之

パンデミック化の苦悩と復活

2017年以降、私たちの事業は順調に展開していましたが、いうまでもなく、やがてコロナ禍がやってきました。この時に感じさせられたのは、距離の遠い、近いに関係なく、あらゆる場面で発生する人間関係の難しさでした。事務所ではお互いに顔の見えないままの会話が続き、地域との交流もほぼすべてのお祭りやイベントが中止されて、いつのまにか互いの関係が見えなくなっていました。そして、長期レジデンスのアーティストがアルバイトを失い、仕方なく退出する例が出てきました。また、海外アーティストは当然まったくレジデンスに参加することが出来なくなりました。こうした中、相互交流をしている海外の団体とはリモートでやりとりをしながら、アーティストの移動なしで作品の発表を行うという方法で、なんとか交流を維持していました。

コロナ渦中に雇用したスタッフの多くは長続きしませんでした。おそらく働きにくかったことと思います。

ただ、それでも私たちはコロナ禍の期間中、海外アーティストも含めてレジデンスアーティストの公募を継続していました。渡航可能になったら、来てください、という条件をつけて海外アーティストの多くを採用したのです。そしてレジデンスアーティストに対して多額の寄付を申し出て下さった方もありました。

2022年の夏から、事態は好転し始めました。海外アーティストのレジデンスが少しずつですが、復活し、黄金町本来のアーティストコミュニティが再構成されていく兆しが見えてきました。 同年、韓国の複数の団体が資金を出し合って、私を招聘してくれました。飛行機の便の多くが欠航しており、韓国を一周するような旅行になりました。しかし、それ以上にリアルな交流が復活したことを体験できる貴重な機会でもありました。

そして2023年度に入り、すべては従来以上の活気を呈することになりました。レジデンス施設は常にほぼ満杯の状態が続き、短期滞在の予定で来日していた海外アーティストが長期滞在に切り替えるというケースが相次ぎました。そして恒例のイベント『黄金町バザール』も海外アーティストの滞在制作が可能になりました。最近は、およそ50組から60組のアーティストが常時、黄金町で活動しています。そして私たち自身もこれからのさらなる国際化を見据えて、スタッフの多国籍化を図っています、現在、韓国、中国、フィリピン出身のスタッフが一緒に仕事をしています。

また、直近の大きな動向として感じていることがいくつかあります。ひとつは特に東アジア圏の拠点、団体との交流が複数化していること、例えばひとつの国で一拠点、ということではなく、その地域、内容を異にする多様な活動形態の団体からの交流のオファーが相次いでいること、そしてもうひとつは交流の対象がアジア圏に限定されることなく、その範囲が広がりつつあることです。もともとレジデンスアーティストはアジア圏だけでなく、ヨーロッパ、カナダ、アメリカから来るケースは多かったのですが、アーティストだけではなく、アジア圏以外の国々、あるいは都市との交流が今後拡大していくことが考えられる、というかすでにその兆候が現れています。

韓国・釜山で開催された「アジアの文化の多様性フォーラム」登壇し、他の登壇者と意見交換をする事務局長の山野氏
Asia Cultural Diversity International Forum(韓国釜山市)

京急の高架下に並ぶアーティストやクリエイターによるオリジナルグッズを眺め歩く人々
のきさきアートフェア(2023)

黄金町のこれから

私たちは次の段階の構想として、それらの複数の拠点同士を相互に結びつけることで、なにか新しい動きを作り出すことはできないかと、考えるようになりました。

私たちはこのプランを比較的関係が近い東アジア圏から始め、それから段階的に地域を拡大していくことをおおまかな方向性として考えています。私たちが交流している各拠点間は、互いにあまり顔が見えていない状況です。私たちはそれら各拠点の関係者が一同に集まり、それぞれプレゼンテーションを行い、ディスカッションを通して経て、それを受ける形で、いずれ共有可能な事業を展開することを想像しています。その実験モデルのひとつが、これまで黄金町で手がけてきた、レジデンス事業や都市の中に展開するアート展の開催です。そのような活動を通してアーティストのコミュニティづくりや各地域コミュニティとの関係づくりを行うことを基本的なテーマとし、それを異なる国、都市、地域で実験的に取り組んでみようというものです。その都市、あるいはそれぞれの地域特有の課題やその地域の特徴的な取り組み方法などを取り入れながら、展開していくこと、そしてその過程で、東アジアだけではなく、東南アジア、そして世界的な関係作りまでを視野に入れながら、さらに展開していくことができればいいと思うのですが、この話の後半はまだあまり進んでいません。前半部分についてはすでにいくつかの拠点との協議を始めています。

このアイデア構想の大きなヒントとなったものは、国内外のアーティストたちが黄金町という町の可能性を引き出し、あるいはそれをある視点から評価し、批評するという事例にこれまで何度も出会ってきたことです。アーティストは都市、あるいはコミュニティと対峙し、それを理解しようと努力するものです。都市あるいはコミュニティもアーティストに対峙し、理解しようと努力をします。そこに和解は存在しないかもしれませんが、理解しようとする努力はいつまでも残り続けます。私はこのような状況、というか出来事を最近「教育的関係の形成」と呼んでいます。

これは私個人が長い間この仕事を続けてきて辿り着いたひとまずの結論のようなものですが、多くの海外の友人たちと容易に解決しないであろうこのテーマについて語り合い、ともにプロジェクトを作ってみたいと思うようになりました。
黄金町の実験が外へ出ていくこと、それが黄金町のこれからの役割ではないかと思います。

改めて国際交流基金との関係について感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

国際的な文化交流について評価していただける機会は実は大変少ないものです。近くの人たちの視界にはあまり入らず、それにどれほどの意味があるのかもあまり理解されません。
しかし文化的な国際交流の重要性はその仕事に携わっている人たちにはよくわかっています。

国際交流基金が黄金町の事業に注目していただいていることに深く感謝いたします。

川の上のインスタレーション
黄金町バザール2017普耘 プ・ユン(中国)「揺れる家」(末吉橋横)

特定非営利活動法人 黄金町エリアマネジメントセンター(神奈川県)事務局長
2017年度地球市民賞受賞
山野 真悟

山野 真悟氏

略歴
1950年福岡県生まれ。1978年よりIAF芸術研究室を主宰。1991年よりミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長に就任。「まちとアート」をテーマに様々な美術展のプロデュースを手掛ける。2008年より拠点を横浜に移し、翌年黄金町エリアマネジメントセンター事務局長に就任。2014年芸術選奨⽂部科学⼤⾂賞受賞。2016 年横浜市⽂化賞受賞。著書に『アートとコミュニティ』(共著者:鈴木伸治、2021年 春風社)がある。

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