若狭が浦地域から広がる多文化共生の輪
特定非営利活動法人地域サポートわかさ
2022年度地球市民賞受賞
事務局長 宮城潤
2025年4月21日
2022年度国際交流基金地球市民賞記者発表会
地域サポートわかさと地球市民賞
NPO法人地域サポートわかさは、若狭が浦地域(沖縄県那覇市西側の海岸沿い)をより住みやすいまちにすることを目的に、学校・地域・家庭と連携し、活力ある地域づくりを進める団体です。那覇市若狭公民館と那覇市立若狭児童館の指定管理者を務め、住民主体のまちづくりや青少年の健全育成に力を入れています。
2022年の地球市民賞受賞は、特に若狭公民館の取り組みが評価されたものです。社会教育法において、公民館は住民の教養の向上や健康の増進、文化の振興、社会福祉の推進を目的とすることが定められています。そのため、活動範囲は多岐にわたり、国際交流や多文化共生に特化した団体ではないにもかかわらず、この賞を受賞できたことは驚きであり、同時に「地球市民」としての視点を持つことの意義を再認識する機会となりました。
2022年度国際交流基金地球市民賞授賞式
受賞後の影響と新たな展開
地球市民賞の受賞により、私たちの活動はさらに広がりを見せました。特に、活動が広く知られるようになったことで、外国にルーツを持つ方々を支援する団体や個人からの問い合わせが増え、ネットワークが強化され、多様な取り組みが生まれています。その一例が「多文化カフェ・わかさ」です。
多文化カフェ・わかさで行われる「多文化クッキング」1
「多文化カフェ・わかさ」
「多文化カフェ・わかさ」(以下、多文化カフェ)は、引きこもり支援団体からの相談をきっかけに始まりました。その団体は、休眠預金を活用した多様な居場所づくりを構想しており、外国にルーツを持つ方々の居場所を共に運営できないかと打診を受けたのです。こうして公民館としての可能性を模索しながら、この取り組みが始まりました。
具体的には、毎週木曜日の18時半から2時間、公民館の一室を開放し、参加者が自由にお茶を飲みながら交流できる場を提供しています。当初はネパール人コミュニティや日本語サークルのメンバーが中心でしたが、次第に台湾人エンジニア、スペイン人多言語学者、求職中のアメリカ人、短期留学中のカナダ人、中国人親子、キューバ人など、多様な参加者が集まるようになりました。移住直後でコミュニティに属していない人々にとって、この多文化カフェは貴重な居場所となっています。
参加者の日本語レベルはさまざまですが、翻訳アプリを活用しながら交流しており、希望者には日本語の学習機会としてカルタを用いた勉強会も実施しています。また、多文化カフェを通じて公民館の他の活動に参加する人が増え、公民館全体の交流が深まっています。例えば、多文化カフェ参加者が他の部屋から聞こえてくる音楽に誘われ見学したズンバサークルに入会したり、ロビーで自習をしていた高校生や「アート部」(公民館主催の地域の「美術部」)メンバーが活動後に多文化カフェに参加するようになったりと、新たな繋がりが生まれています。
カルタを用いた日本語勉強会
「多文化クッキング」2
また、台湾人エンジニアが「若狭公民館の役に立ちたい!」と「若狭公民館情報アプリ」を開発するというエピソードもありました。

台湾人エンジニアが開発した「若狭公民館情報アプリ」
助成期間終了後も、公民館独自の取り組みとして「多文化カフェ・わかさ」を継続できていることは、大きな成果の一つです。
防災を通じた多文化共生
また、若狭児童館館長とネパール人コミュニティ、観光危機管理に携わる方が「Team AMMA」というグループを立ち上げ、若狭児童館や若狭公民館を拠点として、在住外国人向けの防災啓発活動を展開しています。
毎月1回の「AMMAモーニング」では、非常食を外国人にも馴染みやすい味にアレンジする試みを行いながら、防災知識の共有や避難情報の伝達手段について学ぶ機会を提供しています。若狭公民館で取り組んでいる「おかず一品持ち寄り朝食会」や「なは防災キャンプ」と連動することで、地域住民にも在住外国人の存在や防災の必要性を意識してもらうきっかけになっています。
AMMAモーニング
AMMAモーニング(inなは防災キャンプ)
既存の取り組みの進化
また、これまで継続的に取り組んできた「ネパール・ニューイヤーパーティー」についても新たな取り組みが始まっています。生活での困りごとや健康上の困りごとなどを抱えながらも専門機関に足を運ぶことを躊躇する方も少なくありません。そのような方が気軽に相談できるように、「ネパール・ニューイヤーパーティー」会場の一角に相談ブースを設け、無料相談を受けられるようにしました。県立病院および法律事務所の協力を得て実施している取り組みですが、このような協力が得られるのも、地球市民賞受賞の功績によるところが大きいと感じています。
2024ネパール・ニューイヤーパーティー
健康相談・法律相談の様子
これからの展望
地球市民賞の受賞を契機に、さまざまな取り組みが有機的につながり、新たな展開が生まれています。終戦直後の日本で、平和と民主主義の実現を目指して生まれた「公民館」は、年齢・性別・国籍・文化的背景・職業などに関わらず、多様な人々が集い、学び合う場としての可能性を持っています。その可能性をさらに広げ、「誰一人取り残さない地域社会」の実現に向けて、一歩ずつ前進していきます。
ユーチュー部in多文化カフェ
最後に、あらためて国際交流基金への感謝を申し上げます。地球市民賞の受賞により、私たちの活動は大きく広がり、理念を再確認する貴重な機会となりました。誠にありがとうございました。
若狭公民館・図書館入口
特定非営利活動法人地域サポートわかさ(沖縄県)事務局長
2022年度地球市民賞受賞
宮城 潤
略歴
1972年沖縄県生まれ。2001年NPO法人前島アートセンター設立に参画、初代理事長を務める。2002年、2003年、2005年、2008年にまちの中のアート展「wanakio(ワナキオ)を企画開催。2006年に社会教育指導員として那覇市若狭公民館に勤務。その翌年に非常勤館長、その後一部業務受託団体事業責任者を経て、現在は指定管理者の館長を務める。2007年NPO法人地域サポートわかさ設立時から理事兼事務局長に就任。2017年度「第70回優良公民館表彰(文部科学大臣表彰)」において最優秀館に選ばれる。2019年地域再生大賞優秀賞。第10期・第11期中央教育審議会生涯学習分科会臨時委員(2019年度〜2022年度)、2022年度国際交流基金地球市民賞受賞。
