ライブラリーオンラインミニ展示
「今月の貴重書」(2022年3月)

今回は、Cassin, John. Birds. [s.l.]: [s.n.], [18--?]をオンライン展示でご紹介します。

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標題紙の挿図 標題紙

本書は、1856年に出版された『ペリー提督日本遠征記』(Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan : Performed in the Years 1852, 1853, and 1854, under the Command of Commodore M.C. Perry, United States Navy, by Order of the Government of the United States)より第2巻所収 “Birds by John Cassin” “Birds Collected in China, the Loo Choo Islands, the Islands of Singapore and Ceylon, and on the Coast of California” “Letter Describing the Manner of Hatching Ducks in China”を抜粋し、図版とともに製本した1冊である。抜粋・製本した年代は不明だが、見返しに貼付されたスミス(Smith, Ruth Cook)の蔵書票からある程度の推測が可能である。蔵書票の枠外に小さく”Spencely-1910”の文字が認められるため、1910年以前に現状の本の形態になったと見られる。19世紀アメリカにおける蔵書票デザインの「黄金期」を代表するデザイナー、スペンスリー(Spenceley, J. Winfred, 1865-1908)の系譜に連なる蔵書票だろう。

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蔵書票の挿図蔵書票

本文を執筆したのはアメリカの鳥類学者カッシン(Cassin, John, 1813-1869)である。彼自身はペリーの遠征に参加していないが、遠征隊に同行した画家ハイネ(Heine, Wilhelm, 1827-1885)の素描や記述、持ち帰られた標本などをもとに“Birds”の章を書いた。カッシンはペンシルベニア州出身の鳥類学者で、1842年にフィラデルフィア博物学協会の名誉学芸職に就いた人物である。26年にわたる任期中、同協会で鳥類のコレクション形成に尽力し、世界屈指の規模を達成した。『カリフォルニア、テキサス、オレゴン、イギリス領・ロシア領アメリカの鳥類図鑑』(Illustrations of the Birds of California, Texas, Oregon, British and Russian America, 1856)、『哺乳類学と鳥類学』(Mammalogy and Ornithology, 1858)、『北アメリカの鳥類』(The Birds of North America, 1860)などの著作があり、そのなかで200種近い新種の鳥を発表している。その功績により、数種の鳥が彼の名にちなんだ名前を与えられている。

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  • キジの挿図キジ
  • ヤマドリの挿図ヤマドリ

本書で報告される鳥類は、トビ、ツミ、ムクドリ、ホオジロ、セキレイ、メジロ、カッコウ、ハト、キジ、ヤマドリなど数多い。大半は函館(Hakodadiと記載)で記録・採集された種である。カッシンは、グメリン(Gmelin, Johann Friedrich, 1748-1804)『自然の体系』(Systema Naturae, 1788-1793)、レイサム(Latham, John, 1740-1837)『鳥類目録』(Index Ornithologicus, 1790)、ヴィエイヨー(Vieillot, Louis Pierre, 1748-1830)『王立庭園内自然史博物館の鳥類一覧』(Galerie des oiseaux du Cabinet d'histoire naturelle du Jardin du roi, 1825)、テミンク(Temminck, Coenraad Jacob, 1778-1858)、シュレーゲル(Schlegel, Hermann, 1804-1884)、ドゥ・ハーン(De Haan, Wilhem 1801-1855)『日本動物誌』(Fauna Japonica, 1833-1850)などの文献を参照して遠征隊の記録や標本に一致する鳥を同定し、名称や身体的特徴、生息地域などを記述した。どのような環境や状況で遠征隊が鳥に遭遇したのか、画家ハイネの日誌もしばしば引用される。

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  • ハリモモチュウシャクの挿図ハリモモチュウシャク
  • カオグロガビチョウの挿図カオグロガビチョウ

6枚の挿図はヒッチコック(Hitchcock, William E, 1822-1906)によるリトグラフで、精巧にして写実的な描写に、鮮やかな色彩を配し見事である。ヒッチコックはカッシンと同じくペンシルベニア州出身の石版画家で、カッシンの他の著作をはじめ鳥類学者オーデュボン(Audubon, John James, 1785-1851)『アメリカの鳥類』(The Birds of America, 1827-1839)でも挿図を手掛けた。本書の挿図下部には、鳥の学術名とカッシンが使用した参考文献の著者名、そしてヒッチコックの名が記される。ヒッチコックは、参考文献の図版やハイネの素描をもとにこれらの挿図を作成したと思われる。

『ペリー提督日本遠征記』では「日本の博物学」(“Natural History of Japan”)と章立てて、鳥類だけでなく、魚類や貝類、植物なども記録された。そのなかから鳥類に関する部分のみ抜粋・製本した本書は、鳥類への深い関心や愛着を伺わせるものだろう。蔵書票の絵柄に鷹が選ばれていることから、本の所有者であったスミスが鳥の愛好者で、本書を現状の体裁に整えたとも考えられる。19世紀後半の日本の鳥類の生態を伝える内容、色鮮やかな図版とともに、物理的な成立経緯についても興味深い1冊である。

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