2025年新年理事長挨拶
新年あけましておめでとうございます。
旧年中は国際交流基金の活動に関し、温かいご支援とご理解を賜り、心より御礼申し上げます。
視覚的にも実感するように、昨今の訪日外国人の伸び率は目覚ましく、円安の影響も追い風となり、2024年には過去最高の3,500万人を超えることが見込まれています。興味深いことに、訪日への関心は単なる観光にとどまらず、特に文化体験への志向が強まっている傾向があります。世界中の方々が文化の多様性を楽しむだけでなく、それぞれの趣味嗜好に応じた文化の奥深さを探求する動きが広がりをみせる等、日本文化が訪日外客を魅了し続けていることを実感するたびに、喜びを感じます。今年はいよいよ大阪・関西万博が開催される予定であり、これも契機として、今後も更なる国際的な交流が期待できます。国際交流基金として設立以来53年間にわたり、日本文化を世界に伝え、友好の絆を育んできたことで、こうした状況に少なからず寄与させて頂いていることを大変光栄に感じています。
一方、国際情勢に目を向けると、分断社会の傾向が強まったり、ロシアのウクライナ侵攻、中東地域の紛争はじめ、その他地域でも不安定な状況が続いたりしています。このような状況の中、国家安全保障の枠組みにおいて、各国とも兎角ハードパワーの重要性がクローズアップされがちなことを憂慮しています。未然にコンフリクトを防ぎ、混沌とする国際社会での平和を追求する意味において、人的交流や文化交流といったソフトパワーが果たす役割は、持続的安全保障を担保する上で、より一層重要になってきているのではないでしょうか。
人的交流や文化交流は、人々の相互理解を深め、緊張を緩和し、平和で安定した国際関係を築く基盤です。私たちはそうした活動を通じ、異文化に対して尊敬の念をもって接し、「共感」を育みながら、日本が国際社会において信頼される存在であり続けるよう努めていきたいと考えています。こうした考え方に伴い、これからも海外での日本文化紹介、日本語教育の更なる普及とこれに連動した日本文化の理解促進を推進するほか、文化人・学術専門家等とのネットワーキングや青少年交流等、多角的に人的交流を創造し、健全な多文化共生の実現へと貢献して参る所存です。
特に、ASEAN諸国との中長期的なプロジェクト「次世代共創パートナーシップ-文化のWA2.0-」を所属する各国、並びにASEAN Communityと共有化し、様々な施策を通じて、関係性を深めて行きます。具体的には、ASEANを中心とするアジア各国で、日本語授業のアシスタントや日本文化の紹介を行う「日本語パートナーズ」の派遣を通じて、現地との絆を深める活動を継続的に強化します。また、日本とASEAN諸国の文化関係者や若手リーダーをつなぎ、アートや学術分野等における共同制作や対話を促進のうえ、「共創」が実感できる環境づくりに努めます。
長年の良好な友好関係を持つアメリカについては、草の根ネットワークをさらに強化し、次世代へとその友情を引き継ぐ役割を果たして参ります。加えて、2025年8月に横浜で開催される第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)を契機に、アフリカの人々との文化交流や日本語を通じ、日本をより身近に感じてもらえるよう、取り組みを推進します。この他、育成就労制度を見据えた日本語教育・試験制度を通じた多文化共生社会への貢献、韓国との国交正常化60周年をはじめ、外交的節目に準じた強固な友好関係づくりを目指して諸施策を講じて行きます。
今年は戦後80周年の節目の年となります。国際交流基金として、この間国際社会の中で、日本の平和が維持されてきたことに対する感謝の気持ちを胸に、今後とも異文化との信頼を育み、未来志向で希望を共有できるパートナーづくりに向けて、世界中の関係機関と連携して取り組んで参ります。
本年もよろしくお願い申し上げます。
独立行政法人国際交流基金
理事長 黒澤 信也