ライブラリーオンラインミニ展示
「今月の貴重書」(2021年11月)

今回は、1889年にロンドンで出版された Cradock, C. Sporting Notes in the Far East. London: Griffith, Farran, Okeden & Welsh, [18--] をオンライン展示でご紹介します。

  • 『Sporting Notes in the Far East』の表紙
  • 『Sporting Notes in the Far East』の挿図
  • 『Sporting Notes in the Far East』の表紙
  • 『Sporting Notes in the Far East』の文面
  • 『Sporting Notes in the Far East』の挿図

本書は、1889年に出版された極東地域におけるスポーツ・ハンティングのガイドブックである。著者のイギリス海軍中尉クリストファー・クラドック(Christopher George Francis Maurice Cradock, 1862–1914)は、無類の狩猟愛好家であった。彼は軍務のため3年の間に、タタール地方、日本、韓国、中国に寄港し、余暇には各地で狩猟を楽しんだ。猟犬の世話における注意点、狩猟に適した衣服、ボートの形態や銃のサイズ、覚えておくと便利な日本語の文例など、実体験を披露しつつ、同好の士にアドバイスを伝えている。

クラドックは1862年7月、イギリス北部ヨークシャー州に生まれ、13歳でイギリス海軍に入隊した。おもに地中海や極東地域で軍務に従事し、着実にキャリアを積み重ねていく。1912年には海軍での献身的な働きと功績により、ロイヤル・ヴィクトリア勲章のナイト・コマンダーを授与された。その2年後、第一次世界大戦初期にチリのコロネル沖で戦死する。本書のほか、海軍に関する書物を2冊出版している。

スポーツ・ハンティングを主題とする本書は、内容とともに挿絵も魅力的である。クラドックが生涯の伴侶を犬としたためか、本書の扉絵は「ロック」という名の犬の版画であり、初めの章は猟犬について語られる。日本の章には、富士山と湖を背景に鳥居と幟が立ち、鳥が飛び交う挿絵が付される。19世紀末の「日本」を表象するモチーフが、現代とそれほど変わらない点は興味深い。クラドックは函館、札幌、横浜、神戸、下関、長崎を訪れており、それぞれの地域の猟場を案内するだけでなく、気候や風土、動植物、狩猟方法などを生き生きと書き残している。19世紀末期の極東地域を「狩猟」の観点から描き出す本書は、同時代の出版物のなかでも独自の位置を占める希少な書物と言えるだろう。

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