【取材のお願い】第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示~作家・毛利悠子による個展「Compose」を開催~

2024年4月16日

国際交流基金(JF)は、2024年4月20日から11月24日にかけて、イタリア・ヴェネチアで開催される「第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館において、毛利悠子による個展「Compose」を主催します。

環境のさまざまな諸条件によって変化する「事象」に着目し、キネティック・スカルプチャー(動的な立体作品)やサウンド・インスタレーションを軸に国内外で表現活動をする作家・毛利悠子(1980年生まれ、東京在住)は、「第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」日本館での個展「Compose」において、英国・マンチェスター大学ウィットワース美術館ディレクターの、イ・スッキョンをキュレーターとして迎えました。日本館においては、今回が初めての外国人キュレーターとなります。ふたりは、イがアーティスティック・ディレクターを務めた「第14回光州ビエンナーレ」で協働しました。同展覧会では、中国の思想家・老子の一説である「天下に水より柔弱なるは莫し(Soft and weak like water)」というテーマによって、毛利の創作にある繊細な力が一層際立ちました。この展示を経て、毛利は「Compose」展において水を共通の要素に持つふたつの作品を天井から地上へ、音と光、動き、そして匂いがゆっくりと、そして絶え間なく空間全体を包み込むサイトスペシフィックな新作インスタレーションを展開します。

  • Yuko Mohri:
    Yuko Mohri: “Compose”, 2024
    Installation, Japan Pavilion at the 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia
    Photo by kugeyasuhide Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space,
    mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery

■ キュレーターノート
毛利の創作の実践の特徴は、日用品の多用とありふれた状況の変容性への着眼にある。本展のインスタレーション《モレモレ》は、地殻変動が活発な東京の地下鉄構内で散見される水漏れという小さな「危機」に対し、駅員たちがペットボトルやバケツ、ホースといった日用品で器用仕事(ブリコラージュ)的に対処する方法に着想を得ている。作品は、毛利が日本館で作為的に起こした水漏れを、ヴェネチア近郊の古道具屋や家具屋、蚤の市などで入手したさまざまな日用品を駆使してそれに即興的に対処した結果として提示される。枝分かれした水が漏洩から逃れてポンプによって循環されることで、その流れの軌跡がキネティックなスカルプチャーとして現前化される。日本館の建築において特徴的な吹き抜けのある天井から、雨天時には雨粒すら入り込むのだ。特にこれまで幾度も洪水に見舞われたヴェネチアにおいては、不安定な気候危機の時代において増える世界各地の洪水を考えさせるだろう。
フルーツに電極を刺して常に推移するその水分量の変化を電気変換し、持続音(ドローン)と明滅する光を生成するなど、さまざまな構成要素からなる作品《デコンポジション》は、展示室からピロティ部に展開される。ヴェネチアの八百屋や農家から集められたフルーツは、その状態が時間の経過とともに変化することで、ドローンの音程や光量を絶え間なく変えつづける。そしてフルーツが熟れ腐敗するにつれ、いつしか甘い腐臭を放ち、ピロティ部のコンポスト(堆肥容器)に蓄積されたのちにジャルディーニの植生の源になっていく。
両作品ともに日本から大規模輸送することを避け、毛利は数か月間、日本館全体を自身のスタジオとしてヴェネチアに滞在し、作品の素材のほとんどを地元の店やマーケットから集めた。「Compose」展は、ゆえに現代のヴェネチアに住まう人々と日常生活を反映させた貴重なプレゼンテーションでもある。
本展タイトル「Compose」の原義は「com・pose=共に・置く(place together)」とされている。「Compose」展は、コロナ禍後の分断、争い、地球規模の課題や危機に直面する世界において、ばらばらになった人々があらためて共に置かれ(placed together)、住まうことの意味を問いかける。人々はどのようにして「危機」において創造性を与えられるのか それこそが、予期せぬ水漏れに立ち向かう駅員の姿を見た毛利が作品を着想するに至った背景にある。水漏れは完全には修復されることなく、フルーツはやがて朽ちてコンポストとなってゆく。しかし、こうした小さな営みにこそ、私たちの慎ましい創造性がもたらす希望の鱗片があるのだ。

イ・スッキョン(本展キュレーター)

■作家 毛利悠子 略歴
美術家。コンポジション(構築)へのアプローチではなく、環境の諸条件によって変化してゆく「事象」にフォーカスするインスタレーションや彫刻を制作。近年は映像や写真を通じた作品制作も行う。2015年、アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成にてニューヨークに6か月滞在。同年、日産アートアワードでグランプリを獲得。2016年、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館及び、カムデン・アーツ・センター(いずれも英国)にそれぞれレジデンスとして滞在。2018年、東アジア文化交流使として中国の4都市を訪問。2019年、アンスティチュ・フランセのレジデンスとしてパリに3か月滞在。
「第14回光州ビエンナーレ」(2023年)、「第23回シドニー・ビエンナーレ」(2022年)、「アジア・アート・ビエンナーレ2021」(台中)、「第34回サンパウロ・ビエンナーレ」(2021年)、「グラスゴー・インターナショナル2021」、「第9回アジア・パシフィック・トライエニアル」(ブリスベン、2018年)、「第14回リヨン・ビエンナーレ」(2017年)、「コチ=ムジリス・ビエンナーレ」(2016年)など国内外の展覧会に参加。 https://mohrizm.net/

■キュレーター イ・スッキョン(Sook-Kyung Lee)略歴
イ・スッキョン博士は、2023年よりマンチェスター大学ウィットワース美術館ディレクター及びマンチェスター大学キュラトリアルコース教授。「第14回光州ビエンナーレ」(2023年)ではアーティスティック・ディレクターを務め、「天下に水より柔弱なるは莫し(Soft and weak like water)」というタイトルのもと、抵抗、先住民性、脱植民地性、エコロジーといったテーマを探求した。2023年までテート・モダン(英国)のインターナショナル・アート部門シニア・キュレーターとして、展覧会企画やコレクションの展示及び収集に携わる。同時に、テート・モダンでは複数年にわたる大規模な研究イニシアティブ「ヒュンダイ・テート・リサーチ・センター:トランスナショナル」の代表として、その戦略ビジョンと関連プログラムを総括した。第56回ヴェネチア・ビエンナーレ韓国館(2015年)及び第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館(2024年)キュレーター。企画した主な展覧会に、「A Year in Art: Australia 1992(オーストラリアのアートの1年、1992 年 )」(テート・モダン、2021–23年)、「Nam June Pike(ナム・ジュン・パイクの回顧展)」(テート・モダン、アムステルダム市立美術館、サンフランシスコ近代美術館、シンガポール・ナショナル・ギャラリー、2019–22年)や、「Doug Aitken: The Source(ダグ・エイケン:The Source)」(テート・リヴァプール、2012年)など。

■ コミッショナーについて
独立行政法人国際交流基金(JF)は、1976年よりヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示の主催者/コミッショナーを務め、世界の全地域で総合的に国際文化交流事業を実施する日本で唯一の専門機関です。海外に25か国・26の拠点を持ち、「日本の友人をふやし、世界との絆をはぐくむ」をミッションに掲げ、世界の人々と日本の人々の間でお互いの理解を深めるため、さまざまな企画や情報提供を通じて人と人との交流を作りだしています。

■ 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館
展覧会タイトル:「Compose
会期:2024年4月20日(土曜日)〜11月24日(日曜日)
会場:日本館(ビエンナーレ会場 ジャルディーニ地区内)
作家:毛利悠子
キュレーター:イ・スッキョン(Sook-Kyung Lee、英国マンチェスター大学ウィットワース美術館 ディレクター)
主催/コミッショナー:国際交流基金(JF)
特別助成:公益財団法人 石橋財団
協賛:大林剛郎、牧寛之(株式会社 バッファロー)、伊藤友紀子、Lîn (Eric) HuangRongChuan Chen, RC FoundationJenny Yeh, Winsing Arts Foundation、福武英明(株式会社 南方ホールディングス)、保科卓(株式会社 アルフレックス ジャパン)、森佳子、公益財団法人 大林財団、荻野いづみ、株式会社 レジストアート、白石正美、子幡哲昭、中村春雄、公益財団法人 野村財団、公益財団法人 小笠原敏晶記念財団、田口美和、八城千鶴子、川村喜久、松島悠衣、藤原達男・鈴木布美子、服部今日子、堀遵、南條史生、多田野祐子、高根枝里、植島幹九郎 協力:株式会社 三宅デザイン事務所、株式会社 リーテム
日本館公式ウェブサイト:https://venezia-biennale-japan.jpf.go.jp/

■ 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 全体概要
会期:2024年4月20日(土曜日)〜11月24日(日曜日)
会場:ジャルディーニ地区(Giardini di Castello)、アルセナーレ地区(Arsenale)など
総合テーマ:「Foreigners Everywhere
総合ディレクター:アドリアーノ・ペドロサ(サンパウロ美術館 アーティスティック・ディレクター)
ヴェネチア・ビエンナーレ公式ウェブサイト:https://www.labiennale.org/en/

以上

■ 日本館公式カタログ
ヴェネチア・ビエンナーレ会場内のブック・ショップ、出版社オンライン・ショップ(https://www.moussemagazine) などにて2024年4月発売予定。
Yuko MohriCompose

出版: Mousse Publishing(イタリア)
出版年:2024年
言語:英語
160頁、ソフトカバー、16.5 x 23.5 cm
ISBN 9788867496174
25ユーロ/30米ドル
イ・スッキョン(本展キュレーター)、橋本梓(国立国際美術館主任研究員)による論考、ビセンテ・トドリ(ピレリ・ハンガービコッカ 館長)と毛利悠子の対談などを収録。

■ 広報用画像
本プレスリリースに掲載の画像は、すべて広報利用が可能です。
画像を希望される方は、日本館広報担当(venezia_press2024[at]jpf.go.jp)までご連絡ください。

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1–8 “Yuko Mohri: Compose”, 2024. Installation, Japan Pavilion at the 60th International Art Exhibition – La Biennale di Venezia. Photo by kugeyasuhide. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.
9 Yuko Mohri (left) and Sook-Kyung Lee (right). Photo by kugeyasuhide.
10–11 Yuko Mohri, Moré Moré (Leaky): Variations, 2022. Photo: Lorenzo Palmer. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.
12 Yuko Mohri, Shinjuku Station, November 2, 2015. From the series “Moré Moré Tokyo (Leaky Tokyo): Fieldwork,” 2009–2021. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.
13–14 Yuko Mohri in Venice. Photo by kugeyasuhide.
15 Yuko Mohri, Decomposition, 2022. Photo by Naoki Takehisa. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.
16 Yuko Mohri, Decomposition, 2021. Photo by Naoki Takehisa. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.
17 Yuko Mohri, Moré Moré (Leaky): Variations, 2022. Courtesy of the artist, Project Fulfill Art Space, mother’s tankstation, Yutaka Kikutake Gallery, Tanya Bonakdar Gallery.

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国際交流基金 広報部(広報担当:小堤(おづつみ)、篠原)
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