日ASEAN映画プログラマー交流事業(2024年度開催分)

国際交流基金(JF)では、日本とASEAN諸国の次世代交流および人材育成を目指す包括的なプロジェクト「次世代共創パートナーシップ-文化のWA2.0-」の一環として、映画の上映企画や上映作品選定に関わる専門家(映画プログラマー)にフォーカスしたプログラムを2024年度に開始しました。以下はその初年度の実施報告です。

第一フェーズ(東京でのワークショップ・リサーチ)

開催時期:2024年10月~11月 

広い会議室に囲うように机を並べ、前方に投影したスクリーンを見ながら20人程で会議をしている
国際交流基金本部でのプレゼンテーションの様子

本事業の第一フェーズでは、日本映画の上映プログラム作りを前提としたワークショップのほか、日本をはじめとする各国の映画関係者とのネットワーク構築と日本映画に関する情報収集などを行います。

2024年度は東京国際映画祭(TIFF)会期に合わせてASEAN各国から8名、日本から5名の映画プログラマー等上映に携わる若手専門家計13名が東京に集まり、以下のようなプログラムに参加しました。参加者からは、「他の参加者やメンターと語り合い、あらためて映画のプログラミングについて考えるよい機会になった」「たくさんの時間を他の参加者と共に過ごし、確かなつながりが生まれた」等のコメントが寄せられました。

展示会場の展示物の前で一人の女性を囲んで10数人が談笑している
Stranger(菊川)訪問の様子
概要
開催期間 2024年10月28日(月曜日)~11月4日(月曜日)
開催場所 東京(国際交流基金本部、東京国際映画祭会場等)
主催者 国際交流基金、東京国際映画祭
アドバイザー 土田環(山形国際ドキュメンタリー映画祭、早稲田大学)
メンター 土田環 山下宏洋(イメージフォーラム・フェスティバル ディレクター) 若井真木子(山形国際ドキュメンタリー映画祭) Marion Klomfaß (Nippon Connection ディレクター)
参加者
  • Chandara So (カンボジアフィルムメーカーネットワーク創設者・マネージングディレクター/カンボジア)
  • Raslene (映画プログラマー/インドネシア)
  • Yustinus Kristianto Eko Prasetyo (ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭映画プログラマー/インドネシア)
  • Yu Ern Chia (マレーシア国際映画祭プログラムマネージャー(当時)/マレーシア)
  • Eunice Joyce Helera (映画プログラマー/フィリピン)
  • Grace Marie Lopez (フィリピン大学セブ校助教授/フィリピン)
  • Putthapong Cheamrattonyu (タイ・フィルムアーカイブ映画プログラマー/タイ)
  • Nguyen Le (映画評論家・字幕翻訳者/ベトナム)
  • 上田 真之(早稲田松竹プログラムディレクター/日本)
  • 大久保 りさ(山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局スタッフ/日本)
  • 樺沢 優希 (ユーロスペース上映企画編成/日本)
  • 直井 梓(早稲田松竹プログラムディレクター/日本)
  • 新谷 和輝(映画研究者、東京外国語大学大学院/日本)
プログラム
  • ASEANからの参加者が事前に用意した日本映画を含む上映企画案についてのディスカッション(メンター及び他の参加者によるフィードバックを含む)
  • 日本からの参加者による各自の活動等についてのプレゼンテーション
  • 東京都内のミニシアターの視察
  • 各種講義(「日本映画史」、「国際映画祭におけるプログラミング」、「日本映画の情報収集方法」など)
  • 「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」における各種イベントへの参加
  • 「ドキュメンタリードリームショー 山形in2024」「TIFF/NFAJクラシックス」上映への参加
など

主催者 国際交流基金、東京国際映画祭

第二フェーズ(実施報告)

本事業の第二フェーズでは、第一フェーズ(東京滞在)の成果発表として、ASEANからの参加者が上映会などを行います。

マレーシアの実施報告

クアラルンプール

上映会場でスクリーンの前でマイクを持って観客席に向かって男性が話している

パネルなどで飾られた会場の入り口にパンフレットなどが置かれた長机に3名の男女が座っている

上映会の様子

第二フェーズの第一弾として、マレーシア国際映画祭プログラマーのYu Ern Chia氏が「Characters in bloom」をテーマとした日本映画の上映会及び関連イベントを企画・実施しました(詳細下記の通り)。 上映会には若者を中心に多くの鑑賞者が集まり、岩井俊二監督・是枝裕和監督・沖田修一監督の計3名の著名監督がオンラインQ&Aに応じるなど充実したものになりました。 また、日本から参加者のひとりであり、本上映会の企画をサポートした直井梓氏と、事業アドバイザー・メンターである土田環氏が、それぞれ監督とのQ&Aセッションのモデレーターを担当したほか、関連イベントとして実施した講演・トークセッションの講師を務めました。両名はマレーシアの上映・映画関係者とも面談し、交流を深めました。

Chia氏からは「このプログラムに参加しなければ出会えなかった日本のメンターや同志と出会い、大変貴重な機会になった。今後も日本映画の紹介を続けていきたい」というコメントがありました。

概要
事業名 Japanese Cinema Mini Showcase 2025 ― Characters in bloom
開催期間 2025年2月21日(金曜日)~2月24日(月曜日)
開催場所 GSCミッドバレー(上映)、Wayang Budiman、Sunway大学(関連イベント)
企画者 Yu Ern Chia(マレーシア国際映画祭プログラマー)
企画協力 直井梓(早稲田松竹 プログラムディレクター)
上映作品
  • 『幻の光』(是枝裕和監督/1995)(★)
  • 『Love Letter』(岩井俊二監督/1995)(★)
  • 『横道世之介』(沖田修一監督/2012)(★)
  • 『あん』(河瀨直美監督/2015)
(★)は一部上映後、監督によるオンラインQ&Aあり)
関連イベント
  1. (ア)土田環氏 講演
    • 実施日・会場:2025年2月22日於Wayang Budiman
    • 参加者・参加者数:マラ工科大学の講師・学生、映画ファンなど約30名
  2. (イ)直井梓氏 トーク(シェアリング・セッション)
    • 実施日・会場:2025年2月24日 於 Sunway大学
    • 参加者・参加者数:Sunway大学の映画製作を学ぶ学生・講師 約60名
主催者 国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
協力 マレーシア国際映画祭(MIFFest)、Golden Screen Cinemas(GSC)
事業URL

タイの実施報告

サラヤ (バンコク近郊/タイ)

上映会上の入り口前の黒いデスクにパンフレットなどが置かれ、スタッフが入場者の受付をしている

前方に大きな上映スクリーンが見えている、階段状に椅子が並んだ上映会場内部を観客の後方から

上映会場・上映前トークの様子

第二フェーズの第四弾として、タイ・フィルムアーカイブ の映画プログラマーであるPutthapong Cheamrattonyu氏が「日本とタイの戦前のトーキー映画」をテーマとした日本とタイの作品の上映会及び関連イベントを企画・実施しました(詳細下記の通り)。

タイ・フィルムアーカイブはバンコク郊外に位置しますが 、珍しい上映企画に映画ファンが集い、特に日本映画作品においては毎回約100席近くを占める盛況ぶりでした。

また、日本からの参加者であり、本上映会の企画をサポートした上田真之氏が、上映前トークセッションに登壇して日本映画の作品解説を行い、観客の理解を深めました。

Putthapong Cheamrattonyu氏からは「映画史におけるタイと日本の関係に焦点を当てたプログラムだったため、プログラム冊子の作成には一番苦労した。本事業に参加したことで自分自身にとって得るものがあったが、更に、観客にとってもより多くの事柄を学べる機会となっていれば嬉しい」とのコメントがありました。

Japanese & thai prewar talkies とタイトルの書かれた冊子モノクロの男女の映画のワンシーンが表紙に使用されている
Putthapong Cheamrattonyu氏が作成したプログラム冊子

概要
事業名 日本とタイの戦前のトーキー映画
開催期間 2025年6月6日(金曜日)~6月8日(日曜日)
開催場所 タイ・フィルムアーカイブ
企画者 Putthapong Cheamrattonyu(タイ・フィルムアーカイブ映画プログラマー)
企画協力 上田真之(早稲田松竹プログラムディレクター)
上映作品
  • Srisuk Wasuwat, Chuea Intharatut監督『Luead Chaona』(1936)
  • Prince Bhanubandhu Yugala監督『Pid Thong Lang Phra』(1939)
  • 成瀬巳喜男監督『二人妻 妻よ薔薇のやうに』(1935)
  • 『Klong Chang』(1938)
  • 五所平之助監督『マダムと女房』(1931)
  • 木村莊十二監督『音楽喜劇 ほろよひ人生』(1933)
  • 山田洋二監督『キネマの天地』(1986)
  • 小津安二郎監督『一人息子』(1936)
※全作品上映前にトークセッションあり
主催者 国際交流基金バンコク日本文化センター
協力 タイ・フィルムアーカイブ
事業URL

インドネシアの実施報告

(1)ジャカルタ

階段状に椅子が並ぶ映画会場に観客が着席している

壁にカーテンで覆われた天井の高い会場の前方の壁にプロジェクタースクリーンがあり赤い椅子の登壇者と、観客が向き合う形で着席している

上映会・トークセッションの様子

第二フェーズの第二弾として、インドネシアの映画プログラマーであるRaslene氏が「Young Adult Angst Club」をテーマとした日本映画の上映会及び関連イベントを企画・実施しました(詳細下記の通り)。 チケットは販売開始から1時間足らずで全上映全席完売する盛況ぶりとなり、上映会には若者を中心に多くの鑑賞者が集まり、観客からは「コンセプトや映画のセレクションが大変気に入りました。私だけでなく多くの若者が映画に共感したのでは」といったコメントもあり、充実したものになりました。

また、日本から参加者であり、本上映会の企画をサポートした新谷和輝氏が、上映後Q&Aセッションや関連イベントとして実施したトークセッションに登壇しました。 トークセッションで新谷氏とRaslene氏は、上映会プログラムの企画意図について触れた後、インドネシアと日本でのプログラマーとしての経験、新谷氏のラテンアメリカ映画紹介活動の経験などを交えながら、それぞれの国での映画上映事情と課題、プログラマーの役割や具体的な活動事例紹介、コミュニティとの関わりなどについて意見を交わしました。

Raslene氏からは 「また日本映画のプログラムを企画したい。今回はジャカルタの中心部のシネマコンプレックスで上映したが、次回は少し形式を変えたり、郊外で行うなどし、上映へのアクセシビリティの「脱中心化」を図ってみたい」という趣旨のコメントがありました。

概要
事業名 Young Adult Angst Club
開催期間 2025年5月10日(土曜日)~5月11日(日曜日)
開催場所 CGV Cinemas Pacific Place(上映)、
国際交流基金ジャカルタ日本文化センター さくらホール(関連イベント)
企画者 Raslene(映画プログラマー)
企画協力 新谷和輝(映画研究者、東京外語大学大学院)
上映作品
  • 空音央監督『Happyend』(2024)
  • 長久允監督『そうして私たちはプールに金魚を、』(2017)
  • Riri Riza監督『Eliana, Eliana』(2002)
  • 金子由里奈監督『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023)
  • 山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』(2024)
※全作品上映後にQ&Aセッションあり
関連イベント
  • 新谷和輝氏とRaslene氏によるトークセッション
    実施日・会場:2025年5月8日 於 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター さくらホール
    参加者・参加者数:映画関係者など36名
主催者 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター

(2)バンドゥン

白い壁手展示物が飾られた会場で、上映スクリーンを前に観客に向けて男性が解説をしている

派手な色彩の壁の会場に机にグッズが並べられて人々が集まっている

上映会・ポップアップショップの様子

第二フェーズの第三弾として、ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭の映画プログラマーであるYustinus Kristiano Eko Prasetyo氏が、「PAUSE:REPOST」と題した日本とインドネシアの映画の上映会及び関連イベントを企画・実施しました(概要下記の通り)。

企画者はバンドゥンにあるアートスタジオを兼ねるハンバーガーショップを会場に選び、上映時間に合わせて地域のアーティストによるポップアップショップ招致するなどしました。その結果として上映会には映画ファン、日本映画ファンだけでなく、アート全般に関心のある若者を集まり、大いに盛り上がりました。

また、関連イベントとして本事業のメンターである山下宏洋氏が日本の実験映画についての講義と、映画を学ぶ学生を中心とした聴衆との意見交換を行いました。

企画者からは「東京滞在中に、様々な映画祭・上映館を見たことにより、多様な上映会の実施方法・観客の喜ばせ方があると学び、それを今回の上映会で実践することができた。今後は短編・アート映画を中心に、日本映画をリサーチし上映を続けていきたい」という趣旨のコメントがありました。

概要
事業名 PAUSE:REPOST
開催期間 2025年5月29日(金曜日)~6月1日(日曜日)
開催場所 Abraham & Smith HQ(上映)、パラヒャンガン・カトリック大学(関連イベント)
企画者 Yustinus Kristiano Eko Prasetyo(ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭映画プログラマー)
上映作品
  • 『インドネシア人技能実習生、河童の狩猟技術を学ぶ』(小鷹拓郎監督/2021)
  • 『エメラルドの海へ』(林飛鳥監督/2024)
  • 『音楽』(岩井澤健治監督/2020)
  • 『Dimana Saya? (“Where Was I?”)』(2008)、 『Maaf Senin Tutup (“Sorry, Closed on Monday”)』(2018) 『Evakuasi Mama Emola (“Evacuation of Mama Emola”)』)(2022)、以上Anggun Priambodo監督
  • 『AKIBAT INTERNET BEBAS (“Guide to Internet”)』(Azzam Fi Rullah監督/2024)
※Anggun Priambodo監督、Azzam Fi Rullah監督によるQ&Aセッションを実施
関連イベント 山下宏洋氏 講演
  • 講演テーマ:「今日における実験映画の意義とは」
実施日・会場:2025年5月31日 於 パラヒャンガン・カトリック大学
  • モデレーター:Rizki Lazuardi (Indeksキュレーター、アーティスト)
  • 参加者・参加者数:映画を学ぶ学生、大学講師、シネマクラブメンバーなど約20名
主催者 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
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