日経フォーラム 第28回「アジアの未来」 パネルディスカッション「文化交流が育てるアジアの次世代」

日経フォーラム 第28回「アジアの未来」パネルディスカッション「文化交流が育てるアジアの次世代」の写真

2023年5月25日(木曜日)に日経フォーラム 第28回「アジアの未来」(主催:日本経済新聞社)がハイブリッド形式にて開催され、国際交流基金(JF)が特別共催したパネルディスカッション「文化交流が育てるアジアの次世代」が行われた。異文化やアートとビジネスの接点で活躍する専門家が、それぞれの経験を踏まえた議論の中で、若い世代が世界に興味と関心を持ち続け、積極的に文化交流に関わっていくことの重要性について意見を交わした。

PROFILE

〔パネリスト〕

ユパレート・エークトゥラプラカン氏の写真
ユパレート・エークトゥラプラカン(ジー・ユー・クリエイティブ創業者兼CEO)
日本に関わるイベントの企画・運営などの総合的なサービスを提供する企業、ジー・ユー・クリエイティブ 創業者兼CEO。日本語を学ぶタイ人の増加を受け、1997年にタイで毎日アカデミックグループを創立し、翌年に日本語学校を開校。日本好き同士が交流できる場として、2005年に「JAPAN FESTA」を初開催。
その後、ライブパフォーマンスや出展ブースを通じて日本文化を多岐にわたり総合的に紹介する「JAPAN EXPO THAILAND」へと発展させ、3日間で50万人以上を動員するアジア最大級のイベントへと拡大させてきた。タイ人の目線で日本文化の魅力を発信する「ローカライズ」戦略を特徴としてビジネスモデルを確立し、マレーシアでも同様のイベントを展開。マヒドン大学インターナショナルカレッジ卒業後、ロンドン・サウスバンク大学にて修士(国際経営・マーケティング)を取得。
タイ社会と世界社会の変化に対応するタイのリーダー/エグゼクティブに与えられる「CEOタイランドアワード2023」を受賞。
葛山 智子氏の写真
葛山 智子(グロービスアジアキャンパス プレジデント兼CEO)
名古屋大学教育学部卒業、オハイオ大学経営大学院修士課程(MBA)同大学院スポーツ健康学部スポーツマネジメント修士課程(MSA)修了。大学院卒業後、ナイキ・ジャパン、アマゾン・ジャパン、外資系コンサルティング会社を経てグロービスに参画。グロービスでは、経営戦略・マーケティング領域の研究・プログラム開発に携わると共に、G1 グローバルなどの世界会議の立ち上げ・運営を行う。
2014年よりグロービスの東南アジア統括会社グロービスアジアキャンパスに駐在。現在はグロービスグループ経営メンバーを務めるとともに、東南アジア統括拠点会社のプレジデント兼 CEOとして、海外事業をリードする。特にシンガポール・タイなど東南アジアのリーダーシップ開発・人材育成事業に携わりながら、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」というグロービスビジョンの実現に向け邁進している。
プリム・プルーン氏の写真
プリム・プルーン(リビング・アーツ・インターナショナル エグゼクティブ・ディレクター)
農村部の若い職人に伝統工芸の技術を教え、作品の販路を開拓する職業訓練プログラム「アルティザン・アンコール(Artisans d’Angkor)」を共同で創業。これが自身のキャリアのスタートとなる。
2010年にカンボジアン・リビング・アーツ(CLA)のディレクターに就任。紛争後の状況下における芸術コミュニティの回復力(レジリエンス)に触発されたプリム氏は、政策主導型、協働型、そして国境を越えた文化活動を推し進めながら、この 10年の間に、カンボジアン・リビング・アーツをリビング・アーツ・インターナショナルへと発展させてきた。
さらに 5年前には、包括的で持続可能なアジアの実現というビジョンに向けて活動する多様な文化実践者を応援するために、リビング・アーツ・インターナショナルの地域組織であるメコン・カルチュラル・ハブを立ち上げた。

〔モデレーター〕

佐藤 百合氏の写真
佐藤 百合(国際交流基金(JF)理事)
上智大学外国語学部を卒業し、アジア経済研究所にてインドネシアを中心とする東南アジア研究、とくに経済・産業・企業、政治経済分析に携わる。
在インドネシア海外研究員(1985~88年、1996~99年)、インドネシア商工会議所(KADIN)特別アドバイザー(2008~10年)、アジア経済研究所理事・日本貿易振興機構(JETRO)理事(2015~19年)を経て、2021年10月より現職。
JETRO 理事として東南アジア・大洋州との経済交流を担当し、国際交流基金理事としては国際文化交流、とくに国際対話と次世代交流の促進、海外における日本研究の支援に取り組んでいる。現在、アジア政経学会理事長、インドネシア研究懇話会副代表、日本インドネシア協会理事、東京大学非常勤講師なども務める。
インドネシア大学経済学博士。『経済大国インドネシア』をはじめ、インドネシアおよび東南アジアの経済産業発展、開発政策、政治経済に関する著書、編著、論文を多数執筆している。

[以下は、当該セッションの内容を抄録した広告記事(2023年7月14日付 日本経済新聞朝刊全国版にて掲載)を転載したものである。]

異文化理解こそソリューション

パネルディスカッション 文化交流が育てるアジアの次世代

世界はいま、気候変動やインフレ経済、新型コロナに代表される感染症への対応といった多くの課題に直面している。加えて、ロシアのウクライナ侵攻や米中の対立が激化するなど、安全保障上の問題も深刻さを増す。その根底にあるのはナショナリズムの台頭や相互の不理解だ。5月に開催された日経フォーラム第28回「アジアの未来」(主催:日本経済新聞社)では各国・地域のリーダーが集まり、世界経済の成長をけん引するアジアがその潜在力を発揮し、地球規模の課題を解決するための方策を議論した。登壇者の発言からは、異文化を理解し合うことが世界課題を解決するソリューションになることが浮かび上がった。

違いから学び創り出す

パネル討論には、異文化との接触をきっかけに、グローバルな活動を展開するアジアのビジネスパーソン3人が登壇した。モデレーターを務める国際交流基金理事の佐藤氏は「それぞれのビジネスを展開するうえでの工夫や苦労をお聞きしたい」と、文化交流とビジネスという切り口で討論をスタートさせた。

タイで日本に関わるイベントを数多く企画・運営するユパレート氏は、異文化間ビジネスで重要なのは現地の発想を尊重することと強調した。「タイではインスタ映えを重視し、料理人のパフォーマンスまで写真に撮って楽しむOMAKASEが流行している。日本の料理屋の『おまかせ』とは異なるが、それでいい。現地のアレンジを否定しないローカライゼーションという戦略は、現地の人たちの理解を得るために大切で、成功の鍵」との持論を展開。

ユパレート・エークトゥラプラカン氏の写真ジー・ユー・クリエイティブ
創業者兼CEO
ユパレート・エークトゥラプラカン氏

シンガポールを拠点に東南アジアのビジネスリーダーの育成に取り組む葛山氏は「異文化の中で仕事をすることは新しい価値をつくり、発想を豊かにするきっかけとなる」と話した。異文化間ビジネスでは想定外のトラブルが頻発する。葛山氏は「違いがあると、多くの場合、自分は正しく相手が間違っていると考えるか、理解しがたいと目を閉ざしてしまう。それが自然な反応だからこそ、違いから学び、何かをつくり出すスキルを意図的につくることが大切。異文化間ビジネスは戸惑いではなく、新しい価値をつくり、発想を豊かにする起点だ」と強調した。

葛山 智子氏の写真グロービスアジアキャンパス   
プレジデント兼CEO
葛山 智子氏

カンボジアで社会と芸術をつなぐ活動に取り組むプリム氏は、近年若者たちの間でナショナリズムが強くなっていることに懸念を示した。「彼らは自分たちの文化が正しいと信じ、それが地域で支配的になると考えているように見える。そんな今だからこそ異文化交流の機会を増やすべき。そうすればナショナリスティックな視点の中で孤立して生きるのではなく、ほかの国、地域とのつながりが重要だと考えるようになる」と話した。

プリム・プルーン氏の写真リビング・アーツ・インターナショナル
エグゼクティブ・ディレクター
プリム・プルーン氏

不便や戸惑いは好機

アジアの若い世代へ向けてのメッセージには、多くの重要な示唆が含まれた。
ユパレート氏は「情熱を持って好きなことをしていくと、それがやがて人々をまとめる力につながっていく。次世代の人たちには、ぜひソフトパワーを使ってお互いにコネクトし合ってほしい」と次世代に向けエールを送った。

葛山氏は、自身が長く住んだ日本が快適だと率直な心情を述べた上で、「それでも東南アジアという異文化の中に身を置いているのは、自分自身がイノベーティブでありたい、クリエーティブでありたいという思いがあるからだ。異文化との接触で感じる不便こそ最高のイノベーションの機会だと捉えてほしい」とアドバイスした。

プリム氏は「世界の多くの地で紛争が起き、分断が深刻化している。それを解決する唯一のソリューションは異文化交流だ。若者は世界に興味と関心を持ち続けて、近隣の人たちのこと、世界のことを積極的かつオープンに捉えてほしい」と切実な思いを語った。

最後にモデレーターの佐藤氏が、「地球規模の課題を解決する重要なソリューションは、ナショナリズムを超えて、違う文化、違う人たちを理解していくことだと再確認できた」とし、「認め合う、リスペクトし合うといった文化交流の本質の重要性が本セッションのメッセージとして浮かび上がった」とパネル討論を締めくくった。

佐藤 百合氏の写真国際交流基金 理事
佐藤 百合氏

企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ

※セッションのアーカイブ動画はこちらから視聴できます。

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