インドネシア(2023年10月現在)

目次(ページ内の該当箇所にリンクします)

1.日本研究の概況

(1)沿革

インドネシアでは、1958年のメラティ・サクラ財団(Yayasan Melati Sakura)による日本文化学院の設立が同国における日本研究の始まりであるとされ、在インドネシア日本国大使館の支援の下、日本語と日本文化入門が教えられていた。その後、研究体制が整備され、国内4つの国立大学や他の財団・個人によって日本語学校が創設されることとなった*1

また、日本の戦後賠償の一環としてインドネシア人留学生の受け入れが始まったことを契機に両国間の学術的な交流が活発となり、1970年代から1980年代にかけての高度経済成長期には日本への留学生の数がピークに達した。彼らはインドネシアにおける日本研究者の第一世代として、帰国後に各大学で日本の社会や文化をカリキュラムに加えるといった活動を行った。

その後、国際交流基金によるインドネシア大学への客員教授派遣やJICAによるインドネシア大学日本研究センター(PSJ-UI)設立などの支援を通して*2中核的担い手となるべき研究者の人材育成が進められた。

1960年代から2000年代にかけて、インドネシアの高等教育機関では計76の日本研究関連プログラムが開始されたが、2017年にはその数は88にまで増加したことから、依然インドネシアにおける日本研究への関心は拡大傾向にあるといえよう。この要因として挙げられるのが2000年代以降の、特にインドネシアの若者の間での日本のポップカルチャーへの関心と、日本企業のインドネシアへの進出による、キャリアアップのための日本語と日本文化への関心の高まりである*3

現在インドネシアの日本研究における中核機関となっているのは、インドネシア大学日本地域研究科(KWJ-UI)、インドネシア大学日本研究センター(PSJ-UI)、国家研究イノベーション庁地域研究センター(PRW-BRIN)及びインドネシア唯一の日本研究学会であるインドネシア日本研究学会(ASJI)である。

インドネシア国内屈指の名門大学であるインドネシア大学の戦略グローバル研究科内に設置されている日本地域研究科は1990年に大学院日本研究プログラムとして設立されて以降、数々の日本研究者を輩出している。同大学では日本地域研究科の他にも、インドネシアの持続可能な発展への学術面からの貢献、及びインドネシアと日本との相互理解の促進を目的に、JICAによる協力のもと、1995年に設立されたインドネシア大学日本研究センターも設置されている。

インドネシア政府によって設立された研究機関であるインドネシア科学院地域研究所は、日本研究の他、アジア太平洋、欧州、アフリカ地域を研究対象とする研究者が在籍していたが、2021年に同科学院はインドネシア政府による組織改革により解体されたため、日本研究を行っている地域研究科は新たに設立された国家研究イノベーション庁(BRIN)に再編された。

インドネシア日本研究学会は、インドネシアで唯一の日本研究学会としてインドネシア全土で活動しており、10の地域(ジャカルタ首都圏、西ジャワ、中央ジャワ、東ジャワ、ジョグジャカルタ、バリ、南スラウェシ、北スラウェシ、西及び南東スマトラ、北スマトラ)に事務局を設置し、年次のシンポジウム開催やジャーナルの発行等を行っている。

  1. *1 Surajaya I Ketut(1993)『インドネシアにおける日本研究の現状と将来』
  2. *2 独立行政法人国際協力機構人間開発部(2009)『インドネシア共和国日本圏友センタープロジェクト フェーズ3 終了時評価報告書』
  3. *3 Himawan Pratama(2020)『Japanese Studies in Indonesia

(2)略史

1958年
日本文化学院設立
1963年
パジャジャラン大学文学部日本語日本文学科設立(インドネシア最古の日本語学科)
1967年
インドネシア大学文学部において日本研究プログラム開始
1974年
国際交流基金ジャカルタ日本文化センター設立
1990年
インドネシア日本研究学会(ASJI)設立
インドネシア大学・大学院日本研究プログラム(現:日本地域研究科)設立
1995年
インドネシア大学日本研究センター(PSJ-UI)設立
2000年
インドネシア大学大学院戦略グローバル研究科(SKSG-UI)設立
2001年
インドネシア科学院地域研究所(P2W-LIPI)設立
2016年
インドネシア大学・大学院日本研究プログラムが日本地域研究科(KWJ-UI)に改名(インドネシア大学大学院戦略グローバル研究科内に設置)
2018年
第6回ASEAN日本研究学会のインドネシア・ジャカルタ開催
2021年
インドネシア科学院が組織改編により、国家研究イノベーション庁(BRIN)に統合される。地域研究所はBRIN内の社会科学・人文科学研究機構に地域研究センターとして再編

(3)特徴

インドネシアの日本語学習者数は中国に次ぐ世界第2位*1ではあるものの、日本語教育以外の狭義の日本研究としてのコミュニティは小さいと言える。歴史的な背景として日本占領下での日本人による教育が後に民間の語学学校やパジャジャラン大学日本語日本文学科の基礎を築くこととなり、論文のテーマとして扱われる分野は言語学が比較的多かったことで、日本語教育分野における研究が先に発展したという点が挙げられる。また、インドネシア国内からの日本語や英語で書かれた文献へのアクセスが限られていることも、日本語学、日本語教育学以外で日本研究者がこれまで少なかった要因として挙げられる。修士レベルで必要とされる大半の文献はインドネシア語訳されているものの、古いデータのままであることが多いため最新の研究状況を把握することが難しく、また日本語や英語での一次情報を読解できる学生の数も多くはないのが現状である。

また、1974年、田中角栄首相(当時)がインドネシアを訪問した際に発生したマラリ事件*2を境に日本との関係性が再注目されることとなり、学生たちの関心も日本文化や伝統、宗教といった分野に多様化していった。近年では、研究テーマの中心が言語学から経済やポップカルチャー等のテーマにシフトしつつある。

  1. *1 国際交流基金(2019)『海外の日本語教育の現状 2018年度日本語教育機関調査』
  2. *2 マラリ事件:1974年1月14日、田中角栄首相(当時)がインドネシアの首都ジャカルタを公式訪問した際、インドネシア全土で起きた反日暴動及び日本製品の不買運動。

2.最新動向

インドネシアの日本研究分野では、学部で教鞭を執るレベルにおいては日本語学・日本教育学を背景に持つ者が多く、それ以外は層自体が薄いのが現状ではあるものの、前述の2000年代以降の若い世代における日本のポップカルチャーの人気の高まりにより、日本文化に関する研究も割合としては徐々に増加しており、今後の発展が期待される。

インドネシアにおける日本研究の成果発表の代表的な場としては、インドネシア日本研究学会(ASJI)によって開かれる年に一度のシンポジウムがある。近年のシンポジウムのテーマは「COVID-19がインドネシアの学術機関・社会に与える影響と日本からの教訓」(2021年)、「日本とインドネシアにおける女性の役割:政治参加、社会的関与、雇用における機会均等」(2022年)、「人間の安全保障問題 :日本とインドネシアの視点から人間の安全保障の概念を再論する」(2023年)となっており、研究対象としてこれらのテーマが注目を集めている*1

*1 原文:「The Implications of COVID-19 on Academic Institutions and Society in Indonesia and Lessons from Japan (2021)」、「Women’s Role in Japan and Indonesia: Equal Opportunity in Political Participation, Social Engagement and Employment (2022)」「Human Security Issues: Revisiting the Concept of Human Security from the Perspectives of Japan and Indonesia (2023)」

3.機関情報(高等教育機関、研究機関など)

インドネシア大学大学院日本地域研究科
機関名 (原語)Kajian Wilayah Jepang Universitas Indonesia
(日本語)インドネシア大学大学院日本地域研究科
機関概要 インドネシア大学はインドネシア国内屈指の名門大学であり、日本研究で修士の学位を取れる国内唯一の大学院でもある。日本地域研究科はインドネシア大学大学院戦略グローバル研究科内に設置されており、2023年現在、日本研究科には教員15名、学生25名が在籍している。
ウェブサイト https://sksg.ui.ac.id/kaprodi-kwj/
連絡先 Eメール:sksg@ui.ac.id(戦略グローバル研究科連絡先)
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 日本研究関係講座(歴史、外交、教育、社会問題等)、客員教授受入、奨学金など。
インドネシア大学日本研究センター
機関名 (原語)Pusat Studi Jepang Universitas Indonesia
(日本語)インドネシア大学日本研究センター
機関概要 1995年にインドネシア大学内に設立された日本研究センター。研究施設はJICAの無償資金協力により設立された。2023年現在、12名が在籍している。
ウェブサイト -
連絡先 Eメール:humpemaspsjui@yahoo.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 日本への留学支援、公開講座、日本語・日本文化の研修など。
インドネシア国家研究イノベーション庁
機関名 (原語)Badan Riset dan Inovasi NasionalBRIN
(日本語)国家研究イノベーション庁
機関概要 1967年、インドネシア政府により、科学技術による国の発展を目標とした世界水準の研究機関として設立され、地球科学、生命科学、理工学、人文社会科学など幅広い分野での研究を推進するため、インドネシア科学院(Lembaga Ilmu Pengetahuan Indonesia)が設立された。
2021年のインドネシア政府による組織改革により、同科学院は研究技術省と他3つの政府機関と統合され、新たにBRINが設立された。日本研究を行っている地域研究センター(Pusat Riset Kewilayahan)は、BRINの社会科学・人文科学研究機構(Organisasi Riset Ilmu Pengetahuan Sosial dan Humaniora)に再編された。
ウェブサイト https://ipsh.brin.go.id/
連絡先 Eメール:ipsh@brin.go.id
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 BRIN社会科学・人文科学研究機構内の地域研究センターにおいてアジア、太平洋、欧州、アフリカの幅広い地域の地域研究を行っており、アジア地域研究の中に日本研究も含まれる。

4.機関情報(学会など)

インドネシア日本研究学会
機関名 (原語)Asosiasi Studi Jepang di IndonesiaASJI
(日本語)インドネシア日本研究学会
機関概要 1990年に設立された、インドネシアにおける唯一の日本研究学会。2023年現在、学会員は400名。
ウェブサイト https://asji.or.id/
連絡先 Eメール:halo.asji@gmail.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 公開講座、年次総会、ジャーナル発行。
東南アジア日本研究学会
機関名 (原語)Japanese Studies Association in Southeast Asia (JSA-ASEAN)
(日本語)東南アジア日本研究学会
機関概要 東南アジア全域における日本研究の促進を目的に2005年に発足した、地域を横断する唯一の日本研究学会。運営委員会は、各国の主要研究機関に属する代表的日本研究者から構成される。2006年10月の第1回大会はシンガポールで開かれ、以降ベトナム(2009年)、マレーシア(2012年)、タイ(2014年)、フィリピン(2016年)、インドネシア(2018年)、フィリピン(2021年)で計7回大会を開催している。
ウェブサイト https://jsa-asean.com/
研究・活動内容 2年に1回、ホスト国における代表的日本研究機関主導の下で大会を開催している。2018年の第6回ジャカルタ大会はインドネシア日本研究学会が主催。

5.主要学術誌、学会誌

6.助成団体に関する情報(※日本研究を支援する主な助成団体)

トヨタ財団
団体名 The Toyota Foundation
公益財団法人 トヨタ財団
助成プログラム 国際助成プログラム
ウェブサイト https://www.toyotafound.or.jp/
連絡先 https://www.toyotafound.or.jp/system_inquiry/base.git/public/index.php?page=message_entry.form&inq_type=program&language=j
住友財団
団体名 The Sumitomo Foundation
公益財団法人 住友財団
助成プログラム アジア諸国における日本関連研究助成
ウェブサイト http://www.sumitomo.or.jp/
連絡先 Eメール:sumitomo-found@msj.biglobe.ne.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)

7.関連リンク

What We Do事業内容を知る