マレーシア(2023年10月現在)

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1.日本研究の概況

(1)沿革

日本が高度成長期に入る1960年代までは、マレーシアでの日本研究の萌芽は見られず、当時のマレーシア人の心の中には、まだ日本の植民地支配による記憶が鮮明に残っていた。しかし、日本が高度経済成長期に入ると、マレーシアの政治家の間で日本への関心が急速に高まり始めた。1977年8月18日、日本の福田赳夫首相(当時)は、東南アジア諸国歴訪の最後の訪問地であるマニラで、のちに「福田ドクトリン」として知られる日本の対東南アジア外交3原則*1を発表。「福田ドクトリン」はマレーシアと日本の関係を、政治・経済・社会など多方面において、相互理解・信頼に基づく双方向性のある関係に変える転機となった。

「福田ドクトリン」に続くように、マレーシア第4代首相マハティール・ビン・モハマッドは「ルックイースト・ポリシー(東方政策)」を1981年に提唱、翌82年に開始した。これにより、マレーシア国内の学界と市民社会の双方で日本への関心が飛躍的に高まり、日本はマレーシアにとって経済的に重要な相手国としてだけでなく、マレーシアが目指すべき国家モデルとして日本研究が始まった。日本は、文化、労働倫理、技術など多方面においてマレーシアが目指すべきモデルとされ、多くのマレーシア人が日系企業への就業目的だけでなく、文化や価値観への関心から日本について学ぶようになった。こうして、日本語教育や日本研究に対するニーズが高まっていった。

ただし、マレーシアの日本研究の歴史を振り返ると、多くの大学において、言語としての日本語教育がまず開始され、人文・社会科学分野での日本研究コースの提供はずっと後になってからである。例えばマラヤ大学においては、1966年に前田清茂氏(京都大学東南アジア研究センター)が人文学部(当時)にて、マレーシアの大学で初めて初級から中級レベルの日本語コースを開始した。同時に歴史学部で日本の歴史に関する授業が開始されたが、日本について総合的に学ぶことが出来る社会科学分野のコースが開設されるのは、後述するように1990年代に入ってからである。

そのような中、1991年1月17日、マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS: Institute of Strategic and International Studies)と日本経済団体連合会が4対6の割合で経費分担し、日本研究センター(CJS:Centre for Japan Studies)が設立された*2 。同センター設立の主たる目的は、1.日本に関する研究を実施すること、2.日本に関するより多くの情報交換と議論の場を提供すること、3.日本についての知識をより広範な層へ普及させること、の3点であるが、最大の目的はマレーシア・日本間の文化交流の促進とマレーシアの経済発展にあった。日本研究センターが重視した研究分野は、1.貿易、2.投資、3.金融、4.技術、5.観光、6.人材育成、7.政府開発援助、8.政治、防衛、安全保障の8分野であった。

つづいて1993年、ISISと関係の研究者、国際交流基金クアラルンプール日本文化センターの間で協議が持たれ、その結果としてマラヤ大学人文社会科学部に日本研究プログラムが設立された。同プログラムは、ISISでの日本研究を補完するものとして、国際関係、政治、経済、文化、そして日本語を含む充実した総合的なコースを提供している。

上述のとおり、1980年代から2000年代にかけての日本への関心の高まりに伴い、日本語コースと日本関連のコース数が急増した。日本に関するセミナーや会議も頻繁に開催され、日本語は学生にとって最も人気の高い選択外国語となるなど、この間に日本語教育や日本研究が大いに発展した。

  1. *1 日本は平和に徹し軍事大国にならないことを決意しており、ASEANひいては世界の平和と繁栄に貢献する。(2)日本はASEANの国々との間に、政治、経済のみならず社会、文化など広範な分野において、真の友人として「心と心の触れあう」相互信頼関係を構築する。(3)日本とASEANは対等なパートナーであり、日本はASEAN及びその加盟国の連帯と強靭性強化に協力し、インドシナ諸国との間には相互理解に基づく関係の醸成をはかり、もって東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築に寄与する。
  2. *2 CJSは1990年代後半に活動を休止。

(2)略史

1966年
マラヤ大学人文学部で日本語コース開始。同年、同学部歴史学科において日本の歴史に関するコース開始
1969年
マラ工科大学(現在のUniversiti Teknologi MARA)工学部及び経営学部で日本語コースの提供を開始
1981年
マレーシア第4代首相マハティール・ビン・モハマッドが、ルックイースト・ポリシー(東方政策)提唱。翌年より開始
1991年
経団連の支援を得て、マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)内に日本研究センター(CJS)設立
1993年
マラヤ大学人文社会科学部内に日本研究専攻開設
1996-1997年
マラヤ大学人文社会科学部内に東アジア研究学科が設立されることに伴い、日本研究専攻が同学科へ移管
1998年
マレーシア日本研究学会(MAJAS)設立

(3)特徴

マレーシアでの日本研究の発展は、日本語コースが最初に提供され、続いて日本に関連する人文社会科学分野のコースが開始される傾向を示している*1 。例えば、上述の「(1)沿革」で記したように、1966年にマラヤ大学人文学部で、マレーシアで初めての日本語コースが開設され、その後、歴史、政治などの日本に関する社会科学コースが開始された。

現在、マレーシアには20の国立大学があり、うち19大学が日本語コースを提供している。しかし、人文・社会科学分野の学部を持っているのは14大学のみで、他の6大学は科学技術が中心の大学である。マラヤ大学(UM)の他、日本研究に関連するコースを提供している大学は、マレーシア科学大学(USM)、マレーシア国民大学(UKM)、マレーシア北大学(UUM)、マレーシア・サラワク大学(UniMAS)、マレーシア・サバ大学(UMS)の5大学である。

*1 Md Nasrudin Md Akhir, Proceedings of the University of Hawaii, 2019.

2.最新動向

現在の学部生や大学院生の日本への関心は、従来の日本研究と比較すると、より現代的な課題に移りつつある。具体的には、日本と近隣諸国の領土問題、日本と中国のナショナリズムの比較、2020年東京オリンピック延期の影響、マレーシアの消費者の日本ブランド商品に対する行動、ウーマノミクスの影響、オタクへのスティグマ、日本における多文化主義、日本におけるジェンダーロールの変化などである。学生が研究トピックを決定する際には、学生個人の興味・関心とデータの入手容易性が重要な役割を果たすが、研究対象の「ファン」として研究をスタートする、日本のポップカルチャーをトピックに選択する学生は多い。

もともと、日本研究の関心は、歴史、国際関係、経済、政治、文化、文学、言語学等の分野で一貫して強かった。マラヤ大学では、人文社会科学部に東アジア研究学科があり、研究テーマは、主に歴史、国際関係、政治、経済、文化に焦点を当てたものが中心であったが、上述のとおり、研究対象に変化が見られる一方、マレーシアと日本の比較研究も増えている。

2010年以降、日本関連のトピックに対する研究への関心は低下しており、その背景には多くの要因が存在すると考えられる。例えば経済大国としての日本の地位の低下、「韓流」の出現、中国の台頭、マレーシア政府の科学技術重視の方針などが挙げられる。

最近の話題としては、マレーシア科学大学において、日本をテーマとしたリベラル・アーツ・プログラムを新設する動きがある。現在、2024年10月に。

3.機関情報(高等教育機関、研究機関など)

マラヤ大学人文社会科学部東アジア研究学科
機関名 (英語)Department of East Asian Studies, Faculty of Arts and Social Sciences, University of Malaya
(日本語)マラヤ大学人文社会科学部東アジア研究学科
機関概要 1905年に設立された、マレーシア最古の大学。マレーシアでは唯一、日本研究専攻(人文社会科学部)、日本語専攻(言語学部)で学位取得が可能。
ウェブサイト https://fass.um.edu.my/department-of-east-asian-studies
連絡先 住所:Department of East Asian Studies Faculty of Arts and Social Sciences University of Malaya 50603 Kuala Lumpur, Malaysia
電話:60-3-7967-5631
ファックス:60-3-7967-5675
Eメール:fass_asiatimur@um.edu.my
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
マラヤ大学言語学部(日本語学)
機関名 (英語)Bachelor of Japanese Language and Linguistics, University of Malaya
(日本語)マラヤ大学言語学部(日本語学)
機関概要 マラヤ大学言語学部は、1972年に設立された。1996年に言語学の学士コースの提供を開始し、日本語コースは1998年に開始された。現在、日本語を含む9つの言語専門科目を有する。
ウェブサイト https://fll.um.edu.my/bachelor-of-japanese-language-and-linguistics
連絡先 住所:Department of Asian and European Languages, Faculty of Languages and Linguistics, Universiti Malaya, 50603 Kuala Lumpur, Malaysia
電話:+60-3-7967-3063
ファックス:60-3-7967-5675
Eメール:ketua_fbljbae@um.edu.my
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
マレーシア日本語教師会(MAJLIS
機関名 (英語)Malaysia Japanease Language Instractors Society
(日本語)マレーシア日本語教師会
機関概要 マレーシア日本語教師会(MAJLIS)は、言語、文化関係、教育機会に関わるマレーシアの日本語教師が、国籍や民族を問わず集まるために2016年に設立され、日本語教師によって運営されている。
ウェブサイト https://jp.majliskyoshikai.com/
連絡先 住所:Malaysia Japanese Language Instructors Society (MAJLIS)
c/o Dr. Normalis Binti Amzah Pusat Kajian Bahasa & Linguistik, Universiti Kebangsaan Malaysia, Bangi 43600 Selangor, Malaysia
電話:+6013-3486919 / 012-3090235 / 010-4520046
Eメール:majliskyoshigakkai@gmail.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
マレーシア科学大学(USM)社会科学部
機関名 (英語)School of Social Sciences, Universiti Sains Malaysia
(日本語)マレーシア科学大学(USM)社会科学部
機関概要 ペナン州に本部を置く1969年設立の国立大学。日本への留学歴を持つ人文・社会科学分野の教員が複数名おり、日本をテーマとしたリベラル・アーツ・プログラム新設を準備中。
ウェブサイト http://ppblt.usm.my/index.php/program/foreign-languages/japanese
連絡先 住所:School of Languages, Literacies and Translation, Universiti Sains Malaysia, 11800 Minden, Pulau Pinang, Malaysia
電話:60-4653-3145/3158/3751/4141
マレーシア国民大学(UKM)社会科学・人文学部政治・安全保障・歴史研究センター
機関名 (英語)Politics, Security, and History Research Centre (POSH), Faculty of Humanities and Social Sciences, National University of Malaysia
(日本語)マレーシア国民大学(UKM)社会科学・人文学部政治・安全保障・歴史研究センター
機関概要 スランゴール州にある1970年設立の国立大学。社会科学・人文学部の戦略研究・国際関係学科では修士課程で英語による東アジア研究プログラムを開設。
ウェブサイト http://www.ukm.my/ppbl/foreign-languages-and-translation-unit/
連絡先 住所:Centre for Research in History, Politics and International Affairs (SPHEA), Faculty of Social Sciences and Humanities (FSSK), Universiti Kebangsaan Malaysia 43600 UKM, Bangi Selangor, MALAYSIA
電話: 60-3-8921-5710
ファックス: 60-3-8921-3290
Eメール: pksphea@ukm.edu.my
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
マレーシア北大学(UUM)国際学部国際関係学科
機関名 (英語)Department of International Relations, School of International Studies, Universiti Utara Malaysia,
(日本語)マレーシア北大学(UUM)国際学部国際関係学科
機関概要 1984年に設立されたマレー半島北部ケダ州にある国立大学。日本で博士号を取得した研究者が1名おり、同人が日本研究分野の授業を担当。
ウェブサイト http://www.uum.edu.my/
連絡先 住所:School of International Studies Universiti Utara Malaysia 06010 Sintok, Kedah Darul Aman, Malaysia
電話:60-4928-8451
Eメール:sois@uum.edu.my
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
マレーシア・サラワク大学(UniMAS)、言語コミュニケーション学部
機関名 (英語)Faculty of Language and Communication, Universiti Malaysia Sarawak
(日本語)マレーシア・サラワク大学(UniMAS)、言語コミュニケーション学部
機関概要 1992年に設立されたボルネオ島サラワク州の国立大学。
ウェブサイト https://www.unimas.my/
連絡先 住所:Universiti Malaysia Sarawak 94300 Kota Samarahan Sarawak, Malaysia
電話:60-82-581-166
マレーシア・サバ大学(UMS)知識言語学習促進センター
機関名 (英語)Centre for the Promotion of Knowledge and Language Learning, Universiti Malaysia Sabah,
(日本語)マレーシア・サバ大学(UMS)知識言語学習促進センター
機関概要 1994年に設立された、ボルネオ島サバ州の国立大学。上記センターでは、政治学の大学院課程(修士・博士)で、東アジア政治専攻を選択可能。
ウェブサイト https://www.ums.edu.my/ppib/en
連絡先 住所:Centre for the Promotion of Knowledge and Language Learning, Universiti Malaysia Sabah, Jalan UMS, 88400, Kota Kinabalu, Sabah
電話:60-88-320-238
Eメール:pejppib@ums.edu.my
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)

4.機関情報(学会など)

マレーシア日本研究学会
機関名 (英語)MALAYSIAN ASSOCIATION OF JAPANESE STUDIES
(日本語)マレーシア日本研究学会
機関概要 マレーシアでの日本研究の発展を支援するために設立、全国の大学や他の研究機関に散在する日本研究に関するマレーシアの学者のためのハブとして機能。1998年3月21日に設立。
ウェブサイト https://sites.google.com/view/majasmalaysia/about-us?authuser=0
連絡先 Eメール:majasmalaysia@gmail.com
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研究目的
  • マレーシアでの日本研究に真剣に関心を持っている学者や他の人々との交流の機会を提供。
  • マレーシアの日本研究者と海外の研究者とのネットワーク促進。
  • 日本研究に関する国内または国際的なセミナー、講演などを開催。
東南アジア日本研究学会
機関名 (英語)Japanese Studies Association in Southeast Asia (JSA-ASEAN)
(日本語)東南アジア日本研究学会
機関概要 東南アジア全域における日本研究の促進を目的に2005年に発足した、地域を横断する唯一の日本研究学会。運営委員会は、各国の主要研究機関に属する代表的日本研究者から構成される。2006年10月の第1回大会はシンガポールで開かれ、以降ベトナム(2009年)、マレーシア(2012年)、タイ(2014年)、フィリピン(2016年)、インドネシア(2018年)、フィリピン(2021年)で計7回大会を開催している。
ウェブサイト https://jsa-asean.com/
研究・活動内容 2年に1回、ホスト国における代表的日本研究機関主導の下で大会を開催している。

5.主要学術誌、学会誌

日本研究に特化した学術誌、学会誌はなし。

6.助成団体に関する情報(※日本研究を支援する主な助成団体)

国際交流基金
団体名 The Japan Foundation, Kuala Lumpur
国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
助成プログラム 日本研究少額助成事業
ウェブサイト https://www.jfkl.org.my/
連絡先 住所:18th Floor, Block B, Northpoint, No.1, Medan Syed Putra Selatan, 59200 Kuala Lumpur
電話:60-3-2284-6228
マレーシア日本人商工会議所
団体名 The Japanese Chamber of Trade & Industry, MalaysiaJACTIM
マレーシア日本人商工会議所
助成プログラム JACTIM Foundation 助成プログラム(非公募)
ウェブサイト https://www.jactim.org.my/
連絡先 住所:Suite 6.01, 6th Floor, Millennium Office Block, Peti #4, 160, Jln Bukit Bintang, 55100 Kuala Lumpur
電話:60-3-2142-7106

7.関連リンク

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