フィリピン(2024年10月現在)
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1.日本研究の概況
(1)沿革
フィリピンにおける第二次大戦後の日本研究の歴史は、1960年代のアテネオ・デ・マニラ大学日本研究副専攻の開設、フィリピン大学アジアセンター(アジア地域研究としての日本研究)の設置に遡る。特にアジアセンターは、近隣諸国との学術的関係の再構築を目的に設置され、戦後の学問的な「脱植民地化」の潮流の中で設立された点に特徴がある。同センターには中国、韓国を含む東アジア地域研究プログラムの一つとして、日本研究プログラムが設置され、その後のフィリピンにおける日本研究のパースペクティブを大きく規定したと考えられる。
1980年代以降、日本の経済発展への関心の高まりを受け、デ・ラ・サール大学、トリニティ大学等においても日本研究プログラムないしは関連講座が設置され、1990年代にはマニラ首都圏に限らず、ビサヤ地方、ミンダナオ地方も含め、20を超える大学での設置が確認されている。1998年には、アテネオ・デ・マニラ大学及びデ・ラ・サール大学が日本研究修士課程を開設した。また、国際交流基金を含む日本からの支援も、図書館への援助、客員教授の派遣、若手研究者への補助金、日本への留学生への経済的援助など多岐に渡り実施された。しかし、多くの大学で行われた日本語の言語に焦点を当てたアプローチは、日本語を通した日本研究にはつながっておらず、英語文献による社会科学分野の研究の方が盛んである。
現在では、アテネオ・デ・マニラ大学、フィリピン大学、デ・ラ・サール大学の3大学が拠点となっているが、日本研究学会等の有効なネットワークが形成されていない。また、日本研究プログラムないしは関連講座の減少に伴い、日本研究分野の研究・教育ポスト数が限定される中、日本研究者を志す学生が少なくなっている点も懸念されている。
(2)略史
- 1966年
- アテネオ・デ・マニラ大学に日本研究副専攻開設
- 1968年
- フィリピン大学アジアセンター(日本研究プログラム)設置
- 1983年
- デ・ラ・サール大学日本研究副専攻開設
- 1984年
- トリニティ大学日本研究副専攻開設
- 1991年
- 故シルヴァノ・マヒウォ氏、東京大学博士号取得(社会科学分野で初)
- 1996年
- 国際交流基金マニラ日本文化センター開設
- 2002年
- ミンダナオ国際大学開校(日本研究専攻コース設置)
- 2012年
- 故リディア・N・ユー・ホセ教授(アテネオ・デ・マニラ大学政治学部)、旭日中綬章受章
- 2018年
- 第1回全フィリピン日本研究論文コンテスト開催(フィリピン大学アジアセンター、マニラ日本文化センター共催)
- 2023年
- シンシア・ネリ・ザヤス氏(フィリピン大学教授)旭日小綬章受賞
(3)特徴
フィリピンでは、公教育における第二外国語教育に関する施策が乏しく、高等教育機関では選択外国語の一つとして扱われることが多い。その影響もあり日本語による日本研究が根付いていない。他方で、英語文献による社会科学分野の研究が盛んである点は、英語が公用語である強みを活かしたフィリピンにおける日本研究の特徴であるとも考えられる。また、単独の日本研究学科は事実上存在せず、社会学部の副専攻としての「日本研究プログラム」(アテネオ・デ・マニラ大学)、アジア研究における日本研究(フィリピン大学アジアセンター)として存在しているが、いずれも修士課程までであり、日本研究で学位を取得できる博士課程は現在のところ存在しない。
主な研究テーマとしては、歴史、政治/国際関係、経済、日本語、大衆文化等が挙げられる。これはフィリピンの日本研究が、日本による占領時代の記憶を伴って戦後に立ち上がり、「脱植民地化」の潮流の中で開始されたために、歴史(第二次世界大戦)や国際関係分野への関心が高かったことと、また1960年代以降の日本の高度経済成長への多大な関心から経済に注目が集まったことによると考えられる。
2.最新動向
近年、フィリピンの日本研究者は、米国アジア研究学会に積極的に参加している他、2021年にはアテネオ・デ・マニラ大学を中心に東南アジア日本研究学会(The Japanese Studies Association in Southeast Asia。略称「JSA-ASEAN))の運営を引き受ける等、東南アジア諸国の中でも活躍が目覚ましい。
主要な研究拠点がいずれもマニラ首都圏に位置し、全国的な日本研究ネットワークの構築、拡大は課題であるが、地方都市や、オンラインでの研究会議を開催する動きも見られている。
日本研究を専攻する学生の間では、伝統的な研究テーマに加え、アニメ、漫画、ビデオゲーム、テレビドラマ、アイドル等のポップカルチャーへの関心も高まっている。また、日本を含む諸外国における外国人材や難民の受入、それに伴う多文化共生といったイシューが重要課題として国際的に注目されるようになる中、中堅・若手研究者の研究テーマも明確な方向性を持つに至っている。移民、移住労働力、国際結婚、多文化共生、ダイバーシティ等をテーマに選択する研究者が増え、今後は世界中に移住者の広がる「グローバル・フィリピーノ」といった視点から日本社会を分析する新たな研究の登場が期待される。
3.機関情報(高等教育機関、研究機関など)
機関名 | (原語)ATENEO DE MANILA UNIVERSITY, School of Social Sciences, Japanese Studies Program (日本語)アテネオ・デ・マニラ大学社会学部日本研究プログラム |
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機関概要 | 1859年に創設され、160年の歴史を誇るイエズス会系の私立大学。当国の大統領、最高裁判所長官、国民芸術家など、多くの人材を政・官・学・経済各界に輩出している。フィリピン大学、デ・ラ・サール大学と並び国内屈指の名門大学として知られている。1966年、同大学に東南アジアで初めての日本研究プログラムが開設された。学部、大学院ともに、多彩なコースが設置されている。 |
ウェブサイト | http://www.ateneo.edu/ls/soss/japanese-studies https://www.facebook.com/AteneoJSP |
連絡先 | 住所:LH 209 Ricardo and Dr. Rosita Leong Hall, Ateneo de Manila University Katipunan Avenue, Loyola Heights, Quezon City 1108, Philippines 電話:63-2-8376-0966/63-2-8426-6001 Eメール:japanese.soss@ateneo.edu (メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。) |
研究・活動内容 | 学部:Minor in Japanese Studies Courses 大学院:Master of Arts in Japanese Studies |
機関名 | (原語)UNIVERSITY OF THE PHILIPPINES, Asian Center (日本語)フィリピン大学アジアセンター |
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機関概要 | 1908年に設置された当国を代表する国立大学で、全国にキャンパスを展開している。政・官・学・財界に多くのエリートを輩出する一方、政府から距離を置く大学自治の姿勢でも知られている。アテネオ・デ・マニラ大学、デ・ラ・サール大学と並ぶ名門大学の一つ。アジアセンターは、1955年にアジア研究所として設立。日本研究は、北東アジア研究(日本、中国、韓国)の中に位置付けられている。 |
ウェブサイト | https://ac.upd.edu.ph/ |
連絡先 | 住所:GT-Toyota Asian Cultural Center, Magsaysay Avenue cor. Katipunan Avenue, University of the Philippines, Diliman, Quezon City, Philippines 1101 電話:63-2-927-0909 Eメール:asiancenter@up.edu.ph (メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。) |
研究・活動内容 | 大学院: Master of Arts in Asian Studies (Northeast Asia) Masters in Asian Studies (Northeast Asia) |
機関名 | (原語)DE LA SALLE UNIVERSITY, College of Liberal Arts, Department of International Studies (日本語)デ・ラ・サール大学教養学部国際学科 |
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機関概要 | 1911年に創設されたカトリック系大学。アテネオ・デ・マニラ大学と並ぶ名門私立大学である。日本研究は、1983年に地域研究専攻の一部として開講。1990年より、現在の教養学部国際学科に統合された。 |
ウェブサイト | https://www.dlsu.edu.ph/colleges/cla/academic-departments/international-studies/ |
連絡先 | 住所:Faculty Center 4th Floor, 2401 Taft Ave., Manila City, Philippines 1004 電話:63-2-524-4611 Eメール:deancla@dlsu.edu.ph (メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。) |
研究・活動内容 | 学部: Bachelor of Arts in International Studies major in Japanese Studies Masters in Asian Studies (Northeast Asia) |
4.機関情報(学会など)
機関名 | (原語)Japanese Studies Association in Southeast Asia (JSA-ASEAN) (日本語)東南アジア日本研究学会 |
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機関概要 | 東南アジア全域における日本研究の促進を目的に2005年に発足した、地域を横断する唯一の日本研究学会。運営委員会は、各国の主要研究機関に属する代表的日本研究者から構成される。2006年10月の第1回大会はシンガポールで開かれ、以降ベトナム(2009年)、マレーシア(2012年)、タイ(2014年)、フィリピン(2016年)、インドネシア(2018年)、フィリピン(2021年)で計7回大会を開催している。 |
ウェブサイト | https://jsa-asean.com/ |
研究・活動内容 | 2年に1回、ホスト国における代表的日本研究機関主導の下で大会を開催している。2016年の第5回セブ大会は、デ・ラ・サール大学、フィリピン大学ディリマン校、アテネオ・デ・マニラ大学が主催。また、2021年の第7回大会(オンライン)はデ・ラ・サール大学、フィリピン大学ディリマン校、アテネオ・デ・マニラ大学が主催。 |
5.主要学術誌、学会誌
- 『Asian Studies Journal』(The Asian Center, University of the Philippines Diliman)
- 『Asia-Pacific Social Science Review』(De La Salle University)
6.助成団体に関する情報(※日本研究を支援する主な助成団体)
特筆すべき助成団体はなし。