タイ(2023年10月現在)

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1.日本研究の概況

(1)沿革

日本研究の基盤となる高等教育機関での本格的な日本語教育は、1960年代中頃にタマサート大学及びチュラロンコーン大学で日本語講座が設けられたことによって始まり、1971年にチュラロンコーン大学でタイ初の日本語主専攻が開設された。1980年代には日本経済のみならず、日本の政治、歴史、文化に対する関心が研究者を中心に高まり、タイにおける日本研究が大きな広がりを見せた*1 。1984年にはより広域の東アジア研究機関として、タマサート大学の日本研究グループを昇格させる形で、東アジア研究所の開設が公式に発表された。

1997年には、タイで初めてタマサート大学が日本研究の修士課程を設立。それに続く形で1999年、チュラロンコーン大学が同大の日本語学科に「日本語学・日本文学」の修士課程を設立した。2005年、首都バンコクに所在するこの2大学を中心に、地方を含む日本語・日本研究機関を網羅する全国的な組織として、タイ国日本研究ネットワーク(Japanese Studies Network, Thailand/JSN)が設立された。その後組織や体制をより安定させるため、2012年にタイ国日本研究協会(Japanese Studies Association in Thailand/JSAT)へと改名し、法人化を果たした。上述以外の修士課程については、2008年に地方における初の日本研究拠点として、チェンマイ大学日本研究センターが設立され、2013年には同センターに日本研究修士課程が設立されたものの、2019年に新規募集を停止。2009年には中部の地方都市ピサヌロークのナレスワン大学で、学際的な日本研究の修士課程が設立されたものの、2013年から新規募集が停止され、2018年に終了した。一方、バンコクの国立開発行政研究院(NIDA)は、2011年に日本関連の修士課程を設立し、現在も続いている。

日本研究の博士課程については、2016年にチュラロンコーン大学でタイ初となる博士課程(日本文化・日本文学)が設立されるが、教員不足等の背景により、同大修士課程とともに2017年募集を停止、2021年には外国語修士課程に統合された。一方、タマサート大学は2020年8月に日本研究博士課程を設置している。

* Siriporn Wajjawalku and Kitti Prasirtsuk. 2008. “Thailand”. In Past, Present, and Future, Japanese Studies Series XXXVIII(The Japan Foundation), pp.37-38.

(2)略史

1965年
タマサート大学、タイ初の日本語講座開設(82年主専攻コース開始)
1966年
チュラロンコーン大学日本語講座開設(71年主専攻コース開始)
1984年
タマサート大学東アジア研究所日本研究センター発足
1997年
タマサート大学、タイ初の日本研究修士課程を開設
1999年
チュラロンコーン大学、日本語学・日本文学修士課程を開設(17年新規募集停止)
2005年
タイ国日本研究ネットワーク(JSN)設立
2008年
チェンマイ大学日本研究センター設立
2009年
北部タイ日本語日本研究コンソーシアム設立
2009年
ナレスワン大学日本研究修士課程開講(13年新規募集停止、18年閉講)
2011年
国立開発行政研究院(NIDA)修士課程(日本語日本文化コミュニケーション専攻)開設
2012年
JSN、タイ国日本研究協会(JSAT)に改名し、法人化
2013年
チェンマイ大学人文学科日本研究修士課程開設(19年新規募集停止)
2016年
チュラロンコーン大学日本文化・日本文学博士課程設立(17年新規募集停止)
2020年
タマサート大学日本研究博士課程設立
2021年
チュラロンコーン大学日本語学・日本文学修士課程が外国語修士課程(日本語)に統合

(3)特徴

日本語学科における日本研究は、日本語学、日本語教育学、日本文学といった人文科学分野を中心に発展しており、これらの分野では研究テーマも細分化している。主要な日本研究者の多くが日本語能力を生かして日本の大学院へ留学し、本国で教鞭を執りながら研究を行うケースが多い。社会科学分野においては90年代以降からはじまったグローバル化の加速や日本の経済的影響力の相対的低下の影響もあり、社会科学系各学部の研究者が日本単独を研究対象にすることが少なくなり、現在は比較研究や国際関係論において日本を扱う研究が主流である。また、日本留学を経験し、修士論文や博士論文の対象エリアを日本としたような、政治、経済、その他のディシプリンの日本研究者は、いわゆる日本語学科以外の学部・学科に在籍している特徴がある。日本語学科を卒業した学部生のうち、そのまま修士課程に進み、日本研究者の道に進もうという者はチュラロンコーン大学やタマサート大学でもごくわずかであり、多くの日本研究機関の学部卒者はより高給な日系企業に就職する傾向にある。タイ国内での日本関連の修士課程には、日本語学校で日本語を教えていた教師や日系企業の通訳が、より高位の学位や専門性を取得するために進学するケースが少なくない状況である。また、バンコクとそれ以外の地方都市では日本研究者の数、得られるリソースにも大きな開きがあり、チュラロンコーン大学やタマサート大学といったバンコクの大学出身・所属もしくは日本留学経験をもつ日本研究者がほとんどである。

2.最新動向

タイ政府側から求められる教育課程開講のための要件は厳格化されている一方、博士号を有する日本研究者の慢性的不足という問題もあり、課程名で「日本」と限定するコースは維持が難しくなっている。たとえば、チェンマイ大学日本研究センター修士課程やナレスワン大学日本研究修士課程は上述の理由のため、新規募集の停止に至っている。また、チュラロンコーン大学はこうした理由に加え、入学する学生数の減少も相俟って、2017年には日本に特化した修士課程及び博士課程の募集を停止。2021年より英語、ドイツ語、中国語を含む外国語一般の修士・博士課程に統合された。このコースの日本語専攻では日本語学及び日本語教育学が中心となるため、日本文学について専門的に学びたい者の受け皿は、今後同大の文学・比較文学博士課程となった。ちなみに、2020年にカセサート大学が東洋言語専攻博士課程を開設しているが、こちらは狭義の日本研究コースではなく、あくまで日本語学・日本語教育学の専門的なコースである。タイにおいては、日本語学習者及び日本語教育機関数の増加や日本文化の浸透が必ずしも日本研究者の増加につながっているとは言えず、国際的競争力を高めるための外国語教育のひとつとして見られている日本語教育に比して、日本語学や日本語教育学を超えた日本研究は予算や人材の確保が難しい現実がある。このような状況下にありながらも、タマサート大学は2020年に日本研究の博士課程を開講し、人文科学と社会科学を組み合わせた分野横断的な教育課程の提供を目指している。

3.機関情報(高等教育機関、研究機関など)

チュラロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座
機関名 (英語)Chulalongkorn University, Faculty of Arts, Department Eastern Languages, Japanese Section
(日本語)チュラロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座
機関概要 チュラロンコーン大学は、名実ともにタイ最難関・最高峰の大学のひとつ。官吏養成のため、1917年にタイで最初の大学として設立された。同大文学部日本語講座は、1966年に開設されて以来、日本語学・日本文学など人文系でタイにおける日本研究の第一線をリードしている。
ウェブサイト Department of Eastern Languages (chula.ac.th)
連絡先 住所:10th Floor, BRK bldg., Faculty of Arts, Chulalongkorn University, Phayathai Rd. Pathumwan, Bangkok 10330, Thailand
電話:66-2-218-4741
Eメール:japsect@yahoo.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 高度な日本語能力を発揮して社会で活躍できる人材及び人文科学系の日本研究者の育成のために教育・研究活動を行う。特に日本語学、日本語教育学、日本文学の分野に強みがある。
タマサート大学教養学部
機関名 (英語)Thammasat University, Faculty of Arts
(日本語)タマサート大学教養学部
機関概要 タマサート大学は、チュラロンコーン大学と双璧を成すタイトップレベルの大学。1934年、当初は法律の専門家養成の目的で設立された。同大教養学部は1997年にタイ初の日本研究修士課程を開設し、以来チュラロンコーン大学と並びタイにおける日本研究の中核としての役割を果たしている。
ウェブサイト https://arts.tu.ac.th/
連絡先 住所(大学院):2 Prachan Road, Pranakhon, Bangkok
電話:66-2-613-2695
研究・活動内容 現在タイで唯一日本研究という名称を冠する修士課程及び博士課程を有し、広範囲かつ学際的な日本研究を推進しようとしている。大学院生は、日本語学、日本語教育学、日本文学に加え、社会科学分野も研究対象とすることが可能。
タマサート大学東アジア研究所日本研究センター
機関名 (英語)Thammasat University, Institute of East Asian Studies, Center for Japanese Studies
(日本語)タマサート大学東アジア研究所日本研究センター
機関概要 日本政府による無償資金協力により、1984年に建設。日本研究、韓国研究、中国研究、東南アジア、それぞれの研究センターから構成される。研究所敷地内には、日本式の茶室や講堂、セミナールーム、宿泊施設などが設けられている。
ウェブサイト https://sites.google.com/a/asia.tu.ac.th/center-for-japanese-studies/
連絡先 住所:99, Paholyothin Road, Klong-loung District, Pathumthani Province, 12121, Thailand
電話:66-2-564-5000
Eメール:japan@asia.tu.ac.th
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 日本研究センターは30年以上にわたり日本研究誌『Japanese Studies Journal』の発行、国際会議の開催など、アクティビティやアウトリーチ重視で日本研究の振興・発信に努めている。
チェンマイ大学日本研究センター
機関名 (英語)Chiang Mai University, Japanese Studies Center
(日本語)チェンマイ大学日本研究センター
機関概要 チェンマイ大学は、地方初の国立大学として1964年に設立。同大人文学部は北部タイにおける人文社会科学部門の研究及び高等教育の拠点として広く認知されている。2008年に、日本政府の草の根文化無償資金協力により日本研究センターが設置され、2013年には同センターに日本研究修士課程が開設された。しかし、2019年には修士課程の新規募集を停止、再開・統合の目途は未定。センター付属図書館は、10,000点以上の日本関連の蔵書がある。
ウェブサイト http://cmujpsc.blogspot.com/
連絡先 住所:239 Huaykaew Rd., T. Suthep, A.Muang, Chiang Mai, 50200, Thailand
電話:66-5-394-3284
Eメール:cmujapancenter@gmail.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 日本語学を専門とする同大人文学部東洋言語学科とは異なる部門として、文化人類学的要素を含んだ地域研究としての日本研究に力を入れている。今後は専門家養成機関ではなく、ライブラリーや各種セミナー等を通じた日本研究関連情報提供を中心に行う予定。

4.機関情報(学会など)

タイ国日本研究協会
機関名 (英語)Japanese Studies Association of Thailand(JSAT)
(日本語)タイ国日本研究協会
機関概要 タイにおける唯一の全国的日本研究ネットワーク。2005年、若手や中堅の研究者が中心となり、前身となるタイ国日本研究ネットワークが設立。2012年より上記の名称となる。現在では、所属機関や研究分野の垣根を超えて110名以上のタイ人日本研究者が所属している。会員形態には、終身会員と年会員の2種類がある。
ウェブサイト http://jsat.or.th/
連絡先 Eメール:jsnjsat2019@gmail.com(一般)
jsn.jsat@gmail.com(ジャーナル関連)
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 年に1回の年次総会をホスト校となる大学で実施、2日にわたり各専門家がパネル発表を行う。2022年はオンサイト及びオンラインのハイブリッド方式にて実施。また、年に1度2号ずつ、日本研究の学術ジャーナル『jsn Journal』も発行している。
東南アジア日本研究学会
機関名 (英語)Japanese Studies Association in Southeast Asia (JSA-ASEAN)
(日本語)東南アジア日本研究学会
機関概要 東南アジア全域における日本研究の促進を目的に2005年に発足した、地域を横断する唯一の日本研究学会。運営委員会は、各国の主要研究機関に属する代表的日本研究者から構成される。2006年10月の第1回大会はシンガポールで開かれ、以降ベトナム(2009年)、マレーシア(2012年)、タイ(2014年)、フィリピン(2016年)、インドネシア(2018年)、フィリピン(2021年)で計7回大会を開催している。
ウェブサイト https://jsa-asean.com/
研究・活動内容 2年に1回、ホスト国における代表的日本研究機関主導の下で大会を開催している。2014年の第4回バンコク大会はタマサート大学東アジア研究所が主催。

5.主要学術誌、学会誌

  • jsn Journal』(タイ国日本研究協会刊)
  • Japanese Studies Journal』(タマサート大学東アジア研究所刊)

6.助成団体に関する情報(※日本研究を支援する主な助成団体)

国際交流基金
団体名 The Japan Foundation, Bangkok
国際交流基金バンコク日本文化センター
助成プログラム 小規模助成
ウェブサイト https://www.jfbkk.or.th/en/grants/jfbkk-small-grant-support-for-online-projects-en/
連絡先 住所:10th Floor Serm-Mit Tower, 159 Sukhumvit 21, Bangkok 10110
電話:66-2-260-8560
Eメール:smallgrant-jfbkk@jpf.go.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
住友財団
団体名 The Sumitomo Foundation
住友財団
助成プログラム アジア諸国における日本関連研究助成
ウェブサイト http://www.sumitomo.or.jp/
連絡先 住所:〒105-0012 東京都港区芝大門1-12-16 住友芝大門ビル2号館
電話:03-5473-0161
Eメール:japan.related@sumitomo.or.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
東芝国際交流財団
団体名 Toshiba International Foundation
東芝国際交流財団
助成プログラム 調査研究
ウェブサイト https://www.toshibafoundation.com
連絡先 住所:〒105-8001 東京都港区芝浦1-1-1(東芝ビルディング)
電話:03-3457-2733
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
双日国際交流財団
団体名 Sojitz Foundation
双日国際交流財団
助成プログラム 国際交流助成
ウェブサイト http://sojitz-zaidan.or.jp
連絡先 住所:〒100-8691 東京都千代田区内幸町2-1-1飯野ビルディング7階
電話:03-6871-2800
Eメール:sojitz-zaidan@sojitz.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)

7.関連リンク

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