EPA(経済連携協定)日本語予備教育事業
─ 事業概要 ─
1. EPA(経済連携協定)日本語予備教育事業とは
経済連携協定(EPA)に基づき来日を希望するインドネシア人・フィリピン人看護師・介護福祉士候補者を対象に、現地で約6ヶ月間実施する初級から中級程度の日本語教育です。
2. 訪日前研修開始の経緯
外国人看護師・介護福祉士候補者(以下「候補者」)の受入れは、EPA(経済連携協定)に基づき、インドネシアは2008(平成20)年度から、フィリピンは2009(平成21)年度から開始されました(※1)。候補者は、一定の日本語能力(日本語能力試験N2(旧2級)程度の日本語能力)を有すると認められた場合を除き、EPAの協定では、6か月の日本語研修を受けることになっています。
しかしながら、EPAに基づく候補者受入開始後、6か月の日本語研修のみでは、病院・介護施設での就労・研修開始時点の日本語能力が十分ではないという声を受け、日本政府は2010(平成22)年度に追加的な予算措置を行ない、日本語の基礎を習得するための訪日前日本語予備教育(以下、「訪日前研修」)を現地で開始することになりました。国際交流基金は、訪日前研修が始まったインドネシア4期、フィリピン3期より、研修を実施しています。
開始当初2~3か月だった訪日前研修は年々充実し、2012(平成24)年度のインドネシア6期、フィリピン5期からは両国ともに6か月となりました。現在、国際交流基金が訪日前研修を担当しているインドネシア人及びフィリピン人候補者を対象にした日本語研修は、訪日前6か月、訪日後(協定に基づき)6か月の合計12か月となっています。
※1:厚生労働省HP「インドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて」
3. 訪日前研修の目的など
国際交流基金では訪日前研修を、訪日後研修を効果的に実施するための準備段階と位置づけ、「来日後の日本での生活と、国内研修に必要な日本語能力と社会文化能力を身につける」ことを目的として実施しています。候補者、受入病院・介護施設関係者、学習支援団体、関係省庁・機関などの意見を踏まえつつ、研修カリキュラムの策定を行なってきています。
候補者には、大きく分けて「日常生活の日本語」、「業務(仕事)に必要な日本語」、「看護師・介護福祉士国家試験の日本語」の3つが必要となりますが、関係者の意見、各段階の継続性(アーティキュレーション)に鑑み、訪日前研修では、「それら全ての基礎となる日本語の基礎知識(初級後期修了程度)と運用能力を4技能バランスよく身に付けること」を日本語研修の目標とし、また、就労後の候補者を取り巻く学習環境・支援体制には病院・介護施設ごとに違いがあることから、候補者自身が足りないものを意識し、その目標に向かって「自律的に学習できる習慣」をつけることにも力点を置いています。
インドネシア | フィリピン | |
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1.目標 |
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2.期間 | 例年11月~翌年5月頃(約6か月間) ※年度や派遣先により多少の変動があります。 | |
3.場所 | (ジャカルタ) 教育省語学教員研修所 P4TK Bahasa Pusat Pengembangan dan Pemberdayaan Pendidik dan Tenaga Kependidikan |
(マニラ)
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4.対象 | 約330名 看護30名・介護300名 既習80名、未習250名程度 ※年度により変動があります。 |
約330名 看護30名・介護300名 既習50名、未習280名程度 ※年度により変動があります。 |
5.運営体制 | ジャカルタ日本文化センター 日本語専門家:4名 講師:日本人講師32名、インドネシア人講師15~25名程度 調整員:4名 |
マニラ日本文化センター 日本語専門家:4名 講師: 【研修A】日本人講師24名、フィリピン人講師 12名程度 【研修B】フィリピン人講師10名程度 【研修C】フィリピン人講師3名程度 調整員:4名 |
研修施設全景(インドネシア・P4TK)
研修施設寮(フィリピン・TESDA)
4. カリキュラム・授業内容
日本語授業
一般日本語
総合日本語
初級
- 【レベル】
- 初級前期~初級後期
- 【主教材】
- 『みんなの日本語初級』ⅠⅡ 本冊、翻訳文法解説、付属CD、ほか
- 【副教材】
- 『みんなの日本語初級Ⅰ/Ⅱ 聴解タスク25』『みんなの日本語初級Ⅰ/Ⅱ 初級で読めるトピック25』ほか
- 【学習内容】
- 初級文型と語彙の導入・練習を行う。また会話、聴解、読解練習を行う。原則として直接法による授業を行う。コミュニカティブな口頭練習を多用し、コミュニケーション能力の育成を図る。会話練習では必要に応じて看護・介護の場面を採り入れる。国家試験を意識し、早い段階からある程度まとまった読解文の練習を行う。
- 【評価】
- 復習テスト、大テスト
中級
- 【レベル】
- 中級前期~中級後期
- 【主教材】
- 『みんなの日本語中級』ⅠⅡ 本冊、翻訳文法解説、付属CD、ほか
- 【副教材】
- 『新毎日の聞き取り50日』等
- 【学習内容】
- 中級文型と語彙の導入・練習を行う。また会話、聴解、読解をバランス良く学習する。読解では医療・福祉関係の資料など、現代日本の看護・介護事情を学ぶ教材も取り入れる。
- 【評価】
- 復習テスト、大テスト
かな・漢字
初級
- 【主教材】
- 『一人で学べるひらがな・カタカナ』、『みんなの日本語初級漢字英語版』ⅠⅡ
- 【学習内容】
- ひらがな、カタカナを学習する。その後、基本的な400字程度の漢字の意味・読み方・書き方と、それに付随する漢字語彙を学習する。
- 【評価】
- 大テスト
中級
- 【主教材】
- 『留学生のための漢字の教科書 中級 700 改訂版』国書刊行会
(インドネシアのみ) - 【学習内容】
- 基本的な500~800字程度の漢字の意味・読み方・書き方と、それに付随する漢字語彙を学習する。
- 【評価】
- 大テスト
専門日本語
ケア基礎語彙
- 【主教材】
- 『ケア基礎語彙』(国際交流基金関西国際センター作成)
- 【学習内容】
- 看護・介護の仕事に関する基本的な身体表現などの語彙・表現を学ぶ。声かけ表現は簡単なロールプレイで練習する。
自律学習
【学習内容】
- 候補者自身の日本語能力について、振り返る。
- 「振り返りシート」を用い、学習内容と自分の習得状況について、定期的に振り返る。
- 学習の成果物を「ポートフォリオ」として整理し、記録を残す姿勢を養う。
- 基本的な予習復習のやり方を身につける。
- 効果的な学習方法、学習スタイルについて、情報交換する。
- 教師が状況に応じて個別に学習相談を行う。
- 自己目標と自分の学習計画を立てる。
- 研修終了後、国内研修までの期間の学習計画を立てる。
社会文化理解
日本事情
- 【内容】
- 日本の地理、気候、交通、社会制度等、基本的な日本事情について、必要に応じて現地語、または現地語の通訳を介して、可能な範囲でインタラクティブな参加型の授業を心がける。
- 【テーマ例】
- 「生活環境:交通・買い物」「日本人の生活・宗教観」「日本の地理:地形と気候・自然」等
日本語運用と文化理解
- 【内容】
- 授業で習った日本語を活用して、日本事情・日本文化への理解のための活動を行う。例えば、グループでテーマを設定して調べた結果を発表する。
- 【テーマ例】
- 「グループ調べ学習」「朗読発表会」「日本語コンテスト」等
看護介護事情
- 【内容】
- 日本の看護・介護事情の講義を行う。
- 【テーマ例】
- 「介護の概要」「日本の看護師・介護福祉士の仕事と職場」等
5. モデル時間割
未習者クラスの例(インドネシア、フィリピン両国の現地事情等により変動します)
時限 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
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1 | 総合日本語 | 総合日本語 | 総合日本語 | 総合日本語 | 総合日本語 |
2 | |||||
3 | |||||
4 | 自律学習支援 | 自律学習支援 | 自律学習支援 | 自律学習支援 | 漢字 |
5 | 漢字 | 漢字 | 漢字 | 漢字 | 社会文化 理解 |
6 | 総合日本語 | 総合日本語 | 総合日本語 | 総合日本語 | |
7 |
自律学習支援の時間(フィリピン)
1か月の学習の進捗をグループでシェアし、コメントをもらう
クラスミーティング
社会文化理解の時間(インドネシア)
日本語運用と文化理解を目的とした朗読発表会