クロアチア(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
7 19 199
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 7 3.5%
中等教育 0 0.0%
高等教育 45 22.6%
学校教育以外 147 73.9%
合計 199 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 旧ユーゴスラビア時代は、首都にあったベオグラード大学にて1976年に日本語講座が開設され、日本語教育が行われていた。その後、1991年に旧ユーゴスラビアからクロアチアが独立し、クロアチアにおいては、1996年頃から首都ザグレブにおいて初等・中等教育が開始された。2004年、ザグレブ大学哲学部(注:「哲学部」という表記はクロアチア語表記の和訳であり,公式英語表記はFaculty of Humanities and Social Sciences)で日本学コースが開講されたが、学士号・修士号の学位が取れない非正規コースであるため、隣国のセルビア、スロベニアに比べ、高等教育機関での学習者数が少ない。2015年、プーラ大学人文学部が、クロアチアでは初めて学位の認定される日本学科を開講した。2019年9月には修士課程の設置認可が下り、2020年10月に修士課程を開講予定。

背景

 クロアチアでは、日本人駐在員が常駐している日本企業は極めて少なく、国内での就職を目的として日本語を専門的に勉強するケースはほとんどない。しかしながら、先端科学技術や独特の文化を有する国として日本に対する興味・関心を持つ人が多く、対日イメージは良好である。また、1990年代の紛争の戦後復興及び民族和解に貢献するため、日本が草の根・人間の安全保障無償資金協力による地雷除去や学校再建等に対する支援を行ったことも、対日感情の向上に貢献している。
 日本文化として、俳句、生け花、折り紙、盆栽、柔道、剣道、空手、合気道等が広く受け入れられている。特に、俳句については、首都ザグレブのほか地方約10都市にも俳句愛好会が存在し、日本などで開催される国際俳句コンテストで多数の入賞者を輩出している(これは、クロアチア数学界の第一人者であり、日本研究者及び俳句の愛好家としても名高い、故デヴィデ博士の功績によるものが大きい)。日本食に関しても、「シイタケ」「豆腐」「柿」「大根」など、日本語の言葉が現地でもそのまま使われている他、現地の日本食レストランも人気が高い。
 近年は日本からクロアチアへの観光客が急増していることから、日本語能力を持つ人材に対する需要は増えつつある。また、クロアチアが観光立国を標榜し、外国語教育に力を入れていることから、初等・中等教育においても、各学校の判断により、日本語教育が独自に行われている場合がある。また、各都市の民間の語学学校でも日本語教育が行われている。

特徴

 クロアチアでは、日本語教育の歴史が浅く、日本語を専門とするクロアチア人研究者が未だ育成段階にあることから、日本語教育は主に日本人講師が中心となって取り組んでいたが、近年は、クロアチア人講師も教育の中核を担うようになってきている。また、日本語学習の動機としては、アニメやマンガをきかっけに勉強を始める者が多く、その他、日本、日本文化又は日本語自体に対する興味から勉強を始める者も多い。

最新動向

 2004年秋に、ザグレブ大学哲学部において、クロアチアの大学としては初めて本格的な日本語教育機関である日本学コースが開講した。2019年現在は、1クラス定員30名の3年間コースとなっている。ただし、学士号・修士号の学位が取得できない非正規コースであるため、当初は日本語に関心を抱いていた学生も、本専攻のコースの学習に時間をとられ、途中で日本語の学習をあきらめるケースも散見される。このような事情を踏まえ、ザグレブ大学哲学部では、日本学コースを正規学科の一部とする計画を立てている。なお、2019年11月には、当地シンクタンク主催セミナーに登壇するためにザグレブを来訪した谷口智彦慶應義塾大学教授(内閣官房参与)が、ザグレブ大学哲学部において日本語学習者を対象にアニメを主題とするラウンドテーブルを主催、大きな反響を得た。ザグレブ大学の他には、2015年にプーラ大学が日本学科を開講し、クロアチアでは初めて学位の認定される正規コースとなった。同学科では、一般日本語の科目、アジア学入門、他の日本学の科目以外に、観光に特化した日本語教育も行っている。日本人講師も在籍している他、2020年10月の開講を予定している修士課程の設置に向け、当面の課題である日本語教師の育成をはじめ、通訳・翻訳者の育成を担う予定である。
 また、教師間のネットワークとしては、2008年10月にクロアチア日本語教師会が発足し、現在19名の会員がいる。

教育段階別の状況

初等教育

 小学校・中学校については、英語のみ必修であるが、内陸地方東部にあるスティエパン・ラディチ小学校では、選択科目として日本語も教えられている。

中等教育

 ザグレブ市内の高校では、ザグレブ大学哲学部日本学コースの卒業生が有志で日本語を教えている。

高等教育

1.ザグレブ大学哲学部インド・極東学科日本学コース
 2004年に開講した日本語や日本研究を専門とする定員30名、3年間のコース。2007年に第1期の修了生(約20名)を輩出し、その後も同コースの修了生を継続的に輩出している。しかしながら、同コースは学士号・修士号の取得に直結しない副専攻コースである。1年次から通常の学費に加えて追加の授業料負担があり(2年次以降は成績に応じて一部の学生を対象に授業料免除や減額あり)、毎年の募集には、一定数の学生が集まるものの、途中で同コースの履修を諦める者もいる。同コース修了時の到達レベルは日本語能力試験N4~N2程度であり、修了後は、国費留学やザグレブ大学と日本の大学との大学間協定等を利用して、日本に留学する学生もいる。
2.プーラ大学人文学部アジア研究科日本語・日本文化学科
 2015年に開講したクロアチアで初めての学位の認定される3年間の正規コース。地域の特性を生かして観光に特化した日本語の授業を行ったり、日本の大学とも協力して日本人教師を確保したりして、カリキュラムを充実させている。 開講以来、毎年40名前後の学生が国内各地から入学し、2019年には開講後初めて、卒業生を輩出した。日本への留学者数は10名を超え、また日本語教育実習生も積極的に受け入れるなど活発な交流を行っている。更に、国際学会の開催や、関連学会での発表、日本の研究者との交流などを積極的に行い日本語教育の普及に努めている。

学校教育以外

 ザグレブの4つの民間の語学学校及び日本友好協会が日本語講座を開設している。また、リエカ、スプリット、ザボック、ドブロブニクの語学学校や青少年センター、NGOが日本語講座を開設している。
 また、クロアチアではこれまで、日本語教師会、日本国大使館、国際交流基金が協力し、「日本語スピーチコンテスト」が開催されてきた(スピーチ部門と発表部門の2部内で構成)。ザグレブ大学やプーラ大学の学生、また民間の語学学校に通う生徒が優勝するなど、様々な参加者が日頃の日本語学習の成果を見せる場になっている。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 8-4(3)制。
 小・中学校(小学校・中学校一貫教育、7~14歳)が8年間、高校(15~18歳)が4年間(普通高校)、又は3年間(職業高校)。高等教育機関は大学。
 小学校、中学校、高校(又は職業高校)の12年間(又は11年間)が義務教育。

教育行政

 教育・科学省の管轄下にある。

言語事情

 クロアチア語が公用語。国民の構成はクロアチア人(90%)、セルビア人(5%弱)など。

外国語教育

 小学校1年生より高校4年生まで外国語(必修)として英語を履修する。また、学校によっては第二外国語としてドイツ語、イタリア語、フランス語、スペイン語等を履修できる。

外国語の中での日本語の人気

 高等教育機関では日本語の人気は比較的高いといえる。ザグレブ大学では、日本学コースが正規コースではないにもかかわらず、選択を希望する学生が相当数いる。プーラ大学では開設以来計196名の入学者を受け入れ、常時100名を超える学生が学位の取得を目指している。

大学入試での日本語の扱い

 ザグレブ大学哲学部の入学試験において、日本語を選択可能。2020年開講予定のプーラ大学修士課程では、日本学の学位がない場合は日本語試験の受験が必須となる見込み。

学習環境

教材

初等教育

 (詳細不明)

中等教育

 (詳細不明)

高等教育

 日本で出版された教科書・教材を使用している。 大学教育では、『みんなのにほんご』(初級1,2、中級1)や『とびら』等の教科書が利用されている。

学校教育以外

 『初級日本語 げんき』(前出)や『まるごと』等、日本で出版された教科書・教材を使用している。

IT・視聴覚機材

 日本語学習者の有志によりウェブ上の日本語学習教材や単語集の作成を計画している。 また、高等教育機関では、様々なオンラインリソースを学生に紹介する科目を設けている場合もある。

教師

資格要件

初等教育

 (詳細不明)

中等教育

 日本の大学で学士号を取得し、日本の教員免許を取得していることを求められる。

高等教育

 ザグレブ大学及びプーラ大学では、日本語講師は修士号取得者を条件としている。

学校教育以外

 特になし。現地人と結婚した在留邦人や帰国留学生等が教えている。

日本語教師養成機関(プログラム)

 現時点では日本語教師養成を行っている機関、プログラムはないが、2020年開講予定のプーラ大学修士課程で実施予定。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 ザグレブ大学哲学部日本学コースでは常勤助教授1名、常勤講師1名、外国人講師1名(日本語)、助手1名、非常勤講師2名が在勤しており、うち3名が日本人教師である。また、プーラ大学人文学部アジア研究科日本学科では、准教授1名、常勤講師1名、非常勤講師4名、常勤の助手1名が在勤しており、うち2名が日本人教師である。

教師研修

 2008年より、クロアチア在住の日本語教師を対象に、国際交流基金派遣の日本語専門家(ハンガリー常駐)による日本語教育セミナーが行われている。

現職教師研修プログラム<一覧>

  1. 1.国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語専門家による日本語教師向けセミナー
     2009年より開催されており、2014年5月には、セミナーがザグレブ大学哲学部で開催された。
  2. 2.国際交流基金欧州日本語教育研修会
     2008年より、クロアチアからも日本語教師1名が、フランスのアルザス地方で開催される同研修に参加している。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 「クロアチア日本語教師会」
 国内各日本語教育機関の教師の間で情報交換・交流を行っている。2008年10月発足。

最新動向

 なし。

日本語教師派遣情報

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 国・地方レベルでの統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 国際交流基金が実施する日本語能力試験は、現地日本語学習者の到達度を測るために、各日本語教育機関は非常に重要な試験として位置付けており、毎年、ブダペスト(ハンガリー)、リュブリャナ(スロベニア)にて実施される同試験に多くの学生が参加している。

日本語教育略史

1996年 ザグレブ第7高等学校、ザグレブ芸術高等学校で日本語教育開始
1997年 ザグレブ第2高校、第16高校、ザグレブ古典高校で日本語教育開始
2004年 ザグレブ大学哲学部に日本学コース(副専攻コース)開設
スティエパン・ラディチ小学校で日本語教育開始
2007年 スプリットの語学学校で日本語講座開設
2008年 クロアチア日本語教師会発足
2015年 プーラ大学にクロアチア初の学位が認定される日本学科が開設
社会人コースも開設
2019年 プーラ大学修士課程の設置認可(開講は2020年10月予定)
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