イスラエル(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
9 16 491
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 0 0.0%
高等教育 231 47.0%
学校教育以外 260 53.0%
合計 491 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 イスラエルでは、日本との人的交流が発展し始めた1970年代後半から、日本文化・日本語に対する関心が高まりを見せ、ビジネス面でも日本語の需要が増大した。後述のとおり、1990年代から2000年代に日本語学習熱に陰りが見えたこともあったが、近年では訪日観光を始めとする対日関心の高まりを背景に再び日本語への関心が高まっている。
 高等教育機関では、現在、エルサレム・ヘブライ大学、テルアビブ大学、ハイファ大学、イスラエル工科大学(テクニオン)、バール・イラン大学及びテル=ハイ・カレッジの6大学において日本語教育が行われている。大学外では、大使館日本語講座は1979年に開設され(その後2002年に閉鎖)、1980年代初頭および中期に私立語学学校で日本語講座が開設された。

背景

 当地における対日関心は、伝統的には経済的な側面が強かったが、最近では、若年層(中学生、高校生、大学生)を中心に日本文化・日本社会に対する関心も強くなっている。また、高等教育機関で日本語を学習している学生の多くは、言語の習得によるより深い対日理解を目的としている。
 当地では我が国を、世界第三位の経済大国としてののみならず、固有の文化・社会的価値をもつ極めて深みのある国としても認識しており、マスコミでも日本関連記事が頻繁に掲載されている。

特徴

 当地における日本語学習の中核を担っているのは日本語コースを有する高等教育機関。これらの期間で学習する学生の多くは、研究対象としての対日理解を主な目的としており、漢字の歴史や言語学的に見た日本語の位置付けなど、学習内容は深く、学習期間も長期にわたる傾向が見られる。他方で、近年ではイスラエル全体における対日関心(特に訪日観光)の高まりを受けて、中高年を含めたより幅広い層で日本語学習への関心が高まっており、民間語学スクール及びインターネットを通じて独習する学習者も増加傾向にある。
なお、ロシアからの移民学生の中には、ロシアの日本語教育機関で日本語を長年学習したため、イスラエルへの移住時にすでに高度な日本語能力を有している学習者が散見される。

最新動向

 1990年代に入ると、日本経済低迷の影響もあり、日本語学習熱の上昇に陰りが見え始めるとともに、2000年代には対パレスチナ紛争の激化2008年の世界経済危機によって対日ビジネスが減少したのに伴ってビジネスにおける日本語学習の需要が低下した。しかし、両国の国交樹立60周年に当たる2012年頃から対日ビジネスは回復基調に向かい、特に2015年に安倍総理が経済ミッションを伴ってイスラエルを訪問したことを契機として対日ビジネスが活発化し、イスラエル人ビジネスマンの間で日本語を学習する者が再び増加している。
 特に近年ではビジネス以外の面でも、日本語への関心が高まっている。インターネット等を通じて日本のアニメ・マンガに接することが容易になったこともあり、2003年頃から、イスラエルの若年・青年層(小学生~20代後半)の間で日本のアニメ・マンガへの関心が急激に高まっており、これらの若年層が日本語を学習し始めるという現象が生まれている。また、2015年頃からイスラエル人の訪日者が増え始め、現在では日本観光が一種のトレンドになっており、日本語や日本文化への関心はさらに高まっている。加えて、日本食ブームによって主要都市で和食レストランが増加し、町中で日本語を見かける機会が多くなったことも、相乗効果を生んでいるとみられる。2020年は新型コロナウイルスの影響により訪日観光客の絶対数は減少したものの、日本語や日本文化を中心とした対日関心は依然として高い。
 高等教育機関において近年開設された日本語教育機関としては、2008年10月にイスラエル工科大学(テクニオン)が日本語コースを定着講座として開講したほか、2009年秋の新年度にバール・イラン大学にて一般教養科目のひとつとして日本語コースが開講された。
 2013年月、イスラエル北部のテル=ハイ・カレッジ(BA授与高等教育機関)に東アジア学科が新設され、学科内に日本語教育コースが開設された。2016年から2017年にかけて、学生数の不足により同日本語教育コースは廃止されたが、その後再開され、2020年現在に至るまで一定数の受講生を確保して継続されている。これら高等教育機関で日本語を専攻した者の中には、様々な形態の日本留学により日本語能力を飛躍的に向上させ、学士修了後も日本研究の継続を含め、日本との関係に従事できる機関での就職を希望する学生が多く見られる。

教育段階別の状況

初等教育

 (下記【中等教育】を参照。)

中等教育

 イスラエル教育省のカリキュラムでは、初等、中等教育段階での日本語教育は義務づけられておらず、また外国語学習の選択肢にも日本語は含まれていない。ただし、学校が独自のカリキュラムで「異文化学習・国際理解教育」を実施する際、日本を教材として取り上げ、その一環として日本語に触れるケースもある。
 そのほか、イスラエルは地域や学校により、小学校から高校まで、英才教育コースを設置して、選抜された生徒に対し各学校機関独自もしくは数校の学校機関が合同で英才教育を施している。それらコースの中には日本語を週に数時間、通年で教えているケースも見られる(全国的にこれらをまとめたデータがないため、数や内容については不明)。

高等教育

 高等教育では以下の大学が次の通り日本語教育コースを開設している。

  1. (1) エルサレム・ヘブライ大学人文学部アジア学科日本語教育コース(3年間)
  2. (2) テルアビブ大学人文科学部東アジア学科日本語教育コース(3年間)
  3. (3) ハイファ大学人文科学部アジア学科日本語教育コース(3年間)
  4. (4) イスラエル工科大学(テクニオン)一般教養課程日本語教育コース
  5. (5) バール・イラン大学一般教養課程日本語教育コース
  6. (6) テル=ハイ・カレッジ人文社会科学部東アジア学科日本語教育コース(3年間)

学校教育以外

 学校教育以外の機関としては、次の機関が日本語コースを開設している。

  1. (1)オープン・ユニヴァーシティー「Dialog-Language School」の日本語コース(半年~1年間)
  2. (2)ハイファ市立ティコティン日本美術館市民講座日本語コース(3年間)
  3. (3)「アジア・インスティテュート(旧称:(ジャパン・ナリッジ)」(初級・中級日本語コース・私企業における日本語コース(半年~最大1年間)
  4. (4)日本語センター「Japanese Center」
  5. (5)Japaneasy

教育制度と外国語教育

教育制度

 6-3-3制。
 初等教育:小学校6年間(6~11歳)
 中等教育:前期3年間(12~14歳)、後期3年間(15~17歳)
 高等教育:大学(3年制)、短期大学(2年制)、職業専門学校(1~4年制など)
 イスラエルでの義務教育期間は、幼稚園(3年保育)のうちの最後の1年、初等教育(小学校6年間)、中等教育前期(3年間)および中等教育後期(3年間)のうち最初の1年の、合計11年間(5~15歳)となっている。また、原則18歳から男子3年間、女子2年間の徴兵制度があるため、高等教育開始時に既に20代前半となっている者が多い。
 また、イスラエルの教育機関はその文化的多面性を考慮して構築されており、イスラエル人生徒の大多数が通う国公立の学校に加え、ユダヤ教の教典の学習に重きが置かれている国立宗教学校(イェシバー)、アラブ人がドルーズ人に対してアラビア語で授業を行うアラブ系学校、主に欧米出身駐在者の子を対象に英語でカリキュラムが編成されている国際的な私立学校等が存在している。

教育行政

 ほぼすべての教育機関(初等・中等・高等)が教育省の管轄下にある。学校のカリキュラムや教育水準、教員の監督・指導、校舎の建設等は教育省が担当し、学校施設の維持や設備・消耗品の入手等は地方自治体が担当している。

言語事情

 人口の約8割であるユダヤ人が話すヘブライ語、約2割を占めるアラブ人が話すアラビア語はいずれもイスラエルの公用語と位置づけられている(2018年7月にイスラエル国会で可決された「ユダヤ人国家法」では、ヘブライ語を「国語」と位置づけ、アラビア語は国内で「特別な地位」を持つと規定されている)。また、国民の大多数が話す英語に加えて、イスラエルに移住する前の出身国の言語(ロシア語やフランス語等)が主に家庭内や地域内で話されている。

外国語教育

 中等教育前・後期全般にわたり、第一外国語(必修)として英語を修得。
 同教育段階の第二外国語(必修。学校によっては選択)はアラビア語かフランス語のいずれかを選ぶ。

外国語の中での日本語の人気

《事例1》

 主に一般市民を対象とする、ある私立語学学校によると、同校では合計15言語の学習コースを運営しているが、その中で日本語コースに対する照会が少なくない。ただし、実際の登録者数は、英語、フランス語、イタリア語等の主要言語学習コースよりは少ない。アジア系言語は日本語と中国語の学習コースがあり、日本語学習コースの選択者は上昇傾向にある。

《事例2》

 大学機関のうち、日本研究課程を有する3大学(エルサレム・ヘブライ大学、テルアビブ大学、ハイファ大学)の例によると、3大学とも、日本語クラスへの登録学生の割合は安定している。中国語クラスの登録を上回るケースも見られる。テルアビブ大学日本語教育主任の話によると、日本語・日本研究を専攻する学生は元々日本へのこだわりが強い学生のみが集まっており、その傾向は近年も変わらず、選択可能な他のアジア系言語(中国語、韓国語、ヒンディー語、サンスクリット語等)と比べ、日本語専攻を途中で止める学生はほとんどいない。

大学入試での日本語の扱い

 日本語は受験科目になっていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 大学により、またレベルにより、ソフト教材を始め種々の日本製の教材が用いられている。教師によってその種類は異なる。口読学習では、新聞・書籍等を題材にしたテキストを独自に編集・使用している。

学校教育以外

 一般に日本で出版された教材を使用している。語学学校の会話コースでマンツーマン方式を採用している場合は教師がテキストを独自に作成している。ヘブライ語が母国語であり、かつ移民の国であるため、英語教材は必ずしも適切ではない。

IT・視聴覚機材

 日本語自習ウェブサイト(ヘブライ語サイトも存在する。)にアクセスし、個人で学習する者も多い。また、インターネット上で閲覧できる日本のアニメ動画を通じて、日本語会話を独自に学習し、会話力を身につける者が若年層を中心に増加している。近年では特に若年層の間で、携帯電話に日本語学習アプリをインストールして独学のために活用するケースが多く見られる。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 日本語課程の講師は、最低限、学士号取得者であることに加え、日本語教師としての資格を有することが要求されている。
 私立語学学校における講師職では、日本語教師養成コースの修了者であることが条件となっている。
 現在日本語を教えている教師のうち日本人教師のほとんどは、日本国内もしくは欧州各国における日本語教師養成コースの修了者である。イスラエル人教師は、初等、中等教育機関を除き、ほぼ全員日本国内で日本語教師研修や教師養成コースを修了している。

学校教育以外

 高等教育機関と同様、学士号以上の学歴を有し、日本語教師としての資格を持ち、日本語教授経験のあることが資格要件となっている。現在、オープン・ユニヴァーシティー、ハイファ市立ティコティン日本美術館市民講座、アジア・インスティテュート(旧称ジャパン・ナリッジ)等の一般市民対象日本語講座では、在留邦人でこれらの資格を有する日本人教師が教えている。

日本語教師養成機関(プログラム)

 組織的な養成機関、プログラムはない。いずれの学習機関でも、日本語教師が情報交換するための会合を定期もしくは不定期に持つ程度である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 主要3大学は日本人教師とイスラエル人教師の双方を雇用している。
 各機関でほぼ共通しているのは、イスラエル人教師が比較的初級学年を受け持つのに対し、日本人教師は中級または上級学年を受け持つ、という傾向である。
 学士号取得者で日本語教師としての資格を持つ日本人教師は少なく(わずか数名)、その多くが数か所の教育機関における講師職を兼任している。

教師研修

 組織化された現職の日本語教師対象の研修はない。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 各大学の日本語教師は兼任の場合が多く、大学相互間の教師らの個人的なつながりは密接であるが、会の形態をとるものではない。
 教師間で主に使用教材についての情報交換が個別に行われている。
 また、全国日本語スピーチコンテスト(エルサレム・ヘブライ大学、テルアビブ大学、ハイファ大学が持ち回りで開催)の実施や、2012年よりイスラエルでも開始された日本語能力試験(「評価・試験」の項にて後述)の実施もあり、教師間の相互連絡はさらに密なものとなってきている。

最新動向

 日本語教師のみの公式ネットワークを設立する動きは見られないが、日本・イスラエル国交樹立60周年を迎えた2012年にイスラエル日本学会(IAJS)が発足し、IAJSが日本語能力試験の実施機関の役割を担っている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 国際交流基金が実施する日本語能力試験(JLPT)は、2012年、日本・イスラエル外交関係樹立60周年の機に開始された(年1回、12月実施)。同試験の受験者数は2012年の開始以来、過去6年間で約2.5倍に増加した。
 中等教育終了認定試験である「バグルート」の選択外国語科目にはアジアの言語では唯一中国語が採用されているが、日本語は導入されていない。

日本語教育略史

1964年 イスラエルで最初の日本語教育として、エルサレム・ヘブライ大学人文学部東アジア学科日本語教育コース(3年間)開講
1979年 大使館日本語講座開設(2002年に閉鎖)
1980年代~
1990年代
他大学でも日本語課程開設
1983年 オープン・ユニヴァーシティーにて「Dialog」言語コース(半年~1年間)開講(日本語コース開講年は不明)
1980年代
初頭~中期
私立語学学校にて日本語講座開設
1986年 ハイファ市立ティコティン日本美術館市民講座日本語コース開講
1995年 テルアビブ大学人文科学部東アジア学科日本語教育コース(3年間)設置
1999年 レウート高校(エルサレム)にて日本語教育を正規カリキュラムとして導入
2002年 ハイファ大学人文科学部東亜研究学科日本語教育コース(3年間)設置
(開講年不明)
2007年
ベルリッツにて個々の学習者のニーズに合わせた短期の日本語コース開講(ベルリッツのイスラエル校設立は1937年)
イスラエル工科大学(テクニオン)日本語コース開講(2008年に定着講座化)
2008年9月 レウート高校で行われていた日本語教育中断
2009年10月 バール・イラン大学一般教養課程日本語教育コース開講
2012年10月 テル=ハイ・カレッジ東アジア学科新設に伴い、日本語教育コース開設 (2015年に一旦閉鎖されたが、2017年に再開)
2013年9月 レオ・ベック高校(ハイファ)にて希望生徒対象の日本語学習クラス開講(2015年に閉鎖)
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