リトアニア(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
11 | 17 | 373 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 10 | 2.7% |
中等教育 | 112 | 30.0% |
高等教育 | 167 | 44.8% |
学校教育以外 | 84 | 22.5% |
合計 | 373 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
日本語教育は、リトアニアの独立回復後間もない1992年にビリニュス大学文学部にて選択科目として開始され、翌1993年には同大学に東洋学センターが設置され、副専攻として認められた。2000年には同センターにて日本学が主専攻となった。
一方、リトアニア第2の都市カウナスでは、1995年にビタウタス・マグヌス大学人文学部で選択科目として日本語教育が開始された。2002年9月には同センターはアジア研究センターと対象地域を拡大し、2004年に日本語主専攻第1期生5名、2006年に第2期生9人が卒業した。現在、同大学の日本語・日本学は副専攻となっている。また、2013年2月にビリニュス市のミコラス・ロメリス大学にアジアセンターが開設され、初級の日本語教育が開始された。
1999~2000年、初等・中等教育機関においても自由選択科目として日本語教育が開始された。
背景
リトアニア国民は親日的であり、政治、文化、科学の分野で二国間関係は広がりを見せているが、両国の経済的関係は限定的なものとなっている。そのため、日本語能力を活かせる場が限られており、教育機関は入学者数を制限している。他方、日本文化(伝統文化とサブカルチャーの両方)、先端科学技術に対する関心は高く、日本語学習希望者、日本への留学希望者も毎年増え続けている。
特徴
- 中等教育での日本語教育は初期段階にあるが、学習者数は増加傾向にある。
- 高等教育においては、ビリニュス市、カウナス市の各国立大学で、選択科目、副専攻、主専攻扱いとなっており、増加傾向にある。
最新動向
2019年11月時点で、ビリニュス大学東洋学センター日本語主専攻の学生数は86名、夜間コースでは26名の学生が同センターにて日本語を学んでいる。
ビタウタス・マグヌス大学では、学部用東アジア研究プログラムが2012年秋から導入され、2019年11月時点で、日本語を専攻とする学生数は67名、日本愛好クラブ等課外活動でも日本語の学習が取り入れられている。リトアニア全体では、中等教育機関7機関、高等教育機関3機関、学校教育以外の教育機関5機関で日本語教育が行われている。
教育段階別の状況
初等教育
2011年よりドゥルスキニンカイ・アトギニモ学校において、2019年11月時点で、課外活動として約34名が学習している。
中等教育
3機関で正規科目として日本人教師により日本語教育が行われている。1997年より日本語教育が開始されたビリニュス市ウジュピス・ギムナジウムでは、高校生が必須科目として週2回。ビリニュス・ジェミーノス・ギムナジウム、ビリニュス・リセウスでも、高校生が必須科目として学習している。ビリニュス・リセウス、ビリニュス・ジェミーノス・ギムナジウム、ビリニュス市ウジュピス・ギムナジウムでは、日本人教師による授業が行われている。
また、課外活動として、ビリニュス・サロメヤ・ネリス・ギムナジウムで国際交流基金の日本語教師研修を終了した教師により、日本語教育が行われている。
高等教育
ビリニュス大学ではこれまで日本語専攻の生徒を受け入れてきており、2019年秋時点で1年生18名、2年生25名、3年生25名、4年生18名が在籍している。同大学は、早稲田大学、筑波大学、立命館大学、国際教養大学、山形大学と大学間交流協定を締結しており、毎年数名留学している。カウナスのビタウタス・マグヌス大学では、67名が日本語を専攻している。また同大学は、関西外国語大学、国際基督教大学、早稲田大学、中部大学、岐阜大学、明治大学、大阪大学、佐賀大学、文京学院大学、国際教養大学と交換留学協定を結んで毎年数名留学している。また、2013年2月にビリニュスのミコラス・ロメリス大学にアジアセンターが開設されたことにともない、日本語教育が開始され、日本人講師が後期(2月頃から6月まで)に初心者及び中級者向け日本語講座を担当しており、2019年後期時点で120名が同授業を受講。
学校教育以外
ビリニュス大学では、夜間コースを設け毎年日本語を勉強したい人を誰でも受け入れており、2019年秋時点で26名、ビタウタス・マグヌス大学でも同様に20名が学習している。その他には、5機関が現在日本語コースを開講している。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
4-6-2-4制または4-4-4-4制(進学する学校の種類によって異なる。
- 小学校:7~10歳(1~4年生)
- 中学校:11~14歳(5~8年生)、11~16歳(5~10年生)
- 高等学校(ハイスクール):17~18歳(11~12年生)
- ギムナジウム:15~18歳(9~12年生)
- 職業訓練学校:17歳~(11年生~期間はプログラムによって異なる)
- 総合大学(university):19~22、23、24歳(1~4、5、6年生 学部によって異なる)
- 単科大学(college):19~21、22歳(1~3、4年生 専攻によって異なる)
義務教育は10年間。
小学校で1~4年、中学校で5~10年、高等学校で11~12年を学習する生徒もいれば(4-6-2制)、9~12年をギムナジウムという人文学、科学、技術、芸術面でより専門化した教育施設で学ぶ生徒もいる(4-4-4制)。なお、11年生から職業訓練学校に進む生徒もいる。大学進学については、各大学による入学試験は実施されておらず、高等学校最終年に実施される全国統一試験の結果によって、進学できる学校、学部が決定される。
教育行政
教育・科学省が管轄。高等教育は、その下に置かれた科学・高等教育局が管轄している。
言語事情
公用語はリトアニア語。ソ連時代にロシア語と併用状況であったため、40代より上の世代はロシア語を第一外国語として使用している人が多い。30代以下は、英語を第一外国語としている。他に、ポーランド語、ドイツ語も人気がある。
外国語教育
一般の学校では、中学1年(10歳)から第一外国語を必修科目として学習する。英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語から選択でき、生徒の50%以上が英語を選択する。授業は週に2時間。中学3年より第二外国語として、ドイツ語、ロシア語、英語、フランス語等を選択できる。正規の科目としての日本語は、ビリニュス市ウジュピス・ギムナジウム、ビリニュス・ジェミーノス・ギムナジウム及びビリニュス・リセウスにて第三外国語として学習できる。大学では、小・中・高校で学習した外国語の勉強を継続するか、新しい外国語を選択することもできる。また、ビリニュス大学には孔子学院が設置され中国語教育の充実化が図られ、ミコラス・ロメリス大学においては韓国語の講座が開設されるなどアジアの国の言語を学ぶ機会が増加している。
外国語の中での日本語の人気
日本語は、アジアの国の言語の中では人気がある方だが、ヨーロッパ言語に比べれば学習者人口は格段に少ない。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
中等教育
中等教育機関では、国際交流基金から寄贈された日本語教材を使用している。
2002年『漢リ字典』が出版され、各日本語教育機関にて広く利用されている。
- 『新文化初級日本語Ⅰ』文化日本語専門学校(文化日本語専門学校)
- 『風のつばさ』アークアカデミー(凡人社)
- 『にほんごのきそ』海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)
- 『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
- 『BASIC KANJI BOOK 1』加納千恵子ほか(凡人社)
- 『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』国際日本語普及協会(講談社USA)
高等教育
各大学の教師が使用する教科書を選択するが、教師が独自に教材を作成する場合もある。主な大学の使用教材は次の通り。高等教育機関でも、国際交流基金から寄贈された日本語教材が広く使用されている。
ビリニュス大学
- 『みんなの日本語Ⅰ、Ⅱ』(前出)
- 『新日本語の基礎』海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)
- 『BASIC KANJI BOOK 1 2』(前出)
- 『SITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE Ⅰ~Ⅲ』筑波ランゲージグループ(凡人社)
- 『新文化初級日本語ⅠⅡ』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)
- 『ヤンさんと日本の人々』国際交流基金日本語国際センター(ビデオ・ペディック)
- 『A COURSE IN MODERN JAPANESE Ⅰ~Ⅳ』名古屋大学日本語教育研究グループ(名古屋大学出版会)
- 『中級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)
- 『会話に挑戦!中級前期からの日本語ロールプレイ』中居順子ほか(スリーエーネットワーク)
- 『日本語作文 Ⅰ 身近なトピックによる表現練習』C&P日本語教育・教材研究会(専門教育出版)
- 『日本語を学ぶ人たちのための日本語を楽しく読む本・初中級』『日本語を学ぶ人たちのための日本語を楽しく読む本・中級』『日本語を学ぶ人たちのための日本語を楽しく読む本・中上級』産能短期大学日本語教育研究室(産能大出版部)
- 『毎日の聞き取りplus40 上下』宮城幸枝ほか(凡人社)
- 『現代日本語コース中級Ⅰ、Ⅱ』名古屋大学総合言語センター日本語科(名古屋大学出版会)
- 『らくらく日本語ライティング』田口雅子(アルク)
- 『中級日本語聴解練習 毎日の聞き取り50日(上・下)』太田淑子ほか(凡人社)
- 『ロールプレイで学ぶ中級から上級への日本語会話』山内博之(アルク)
- 『日本語作文Ⅱ —中級後期から上級までの作文と論文作法』富岡純子ほか(専門教育出版)
- 『中・上級者のための速読の日本語』岡まゆみ(ジャパンタイムズ)
- 『トピックによる日本語総合演習 —テーマ探しから発表へ― 上級用資料集』佐々木薫ほか(専修大学国際交流センター)
- 『どんなときどう使う日本語表現文型500』友松悦子ほか(アルク)
ビタウタス・マグヌス大学
- 『楽しく聞こう』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)
- 『みんなの日本語Ⅰ、Ⅱ』(前出)
- 『初級日本語 げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)
- 『風のつばさ』(前出)
学校教育以外
- 『初級日本語 げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)
- 『J.Bridge to Intermediate Japanese』小山悟 (凡人社)
IT・視聴覚機材
ビリニュス大学及びビタウタス・マグヌス大学においては、日本政府の文化無償協力で供与された日本語学習機材によって、コンピューターを含むマルチメディアを活用した日本語教育が行われている。
教師
資格要件
初等教育
小学校の教師の資格要件は、4年制大学を卒業していることである。この要件は行われれば日本語教師にも準用されている。
中等教育
中・高等学校の教師の資格要件は、4年制大学を卒業していることであり、日本語教師にも準用されている。
高等教育
一般的にリトアニアでは修士号以上の学位が必要とされているが、日本語のネイティブスピーカーが少ないため、日本語教師に関しては例外的に修士号が絶対必要とはされていない。
学校教育以外
特に明確な資格要件はない。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成機関は、現在のところ設立されておらず、専門的な養成プログラムはない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
リトアニアでは在留邦人が少ないため、日本語のネイティブであれば、資格要件は問われない傾向がある。2019年11月現在、在留邦人4名が非常勤として数か所で教えている。
教師研修
一般の教師に対しては、5年ごとにリトアニア国立教育資質上達センターにて資質上達のコースを履修することが義務づけられている。コースを修了すると、新しい教師資格が与えられる。教師資格は一般の「教師」、「主任教師」、「教師メソディスト」、「教育専門家」の4段階の教師資格に分類されている。
国際交流基金の海外日本語教師研修を除けば、特に現職の日本語教師対象の研修はない。
教師会
2014年時点で、全国で日本語教師は15名ほどであり、教師会は存在しない。但し、教師間(個人ベース)で情報交換等が行われている。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
評価・試験
日本語学習者の到達度を測るための共通の評価基準や試験はない。日本語能力試験もあまり知られておらず、活用されていない。
日本語教育略史
1992年 | ビリニュス大学文学部にて日本語教育(選択科目)開始 |
---|---|
1993年 | ビリニュス大学東洋学センター設置、日本語(副専攻)開始 |
1995年 | ビタウタス・マグヌス大学人文学部にて日本語(選択科目)開始 |
1999-2000年 | 初等・中等教育機関日本語教育(自由選択科目)開始 |
2000年 | ビリニュス大学東洋学センターがアジア研究センターとして対象地域を拡大し、日本学が主専攻となる |
2012年 | ビタウタス・マグヌス大学が学部用東アジア研究プログラムを導入 |
2013年 | ミコラス・ロメリス大学アジアセンターで日本語教育開始 |
2018年 | ビリニュス大学東洋学センターがアジア・比較文化研究所に改組 |