パキスタン(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

2018年度日本語教育機関調査結果に関する帯グラフ。機関数は8件、教師は16名。初等教育は0名で全体の0.0%、中等教育は5名で全体の0.9%、高等教育は244名で全体の41.6%、学校教育以外は338名で全体の57.6%。

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1981年、首都イスラマバードにある国立現代語学院(National Institute of Modern Languages)に日本語科が設置された。同学院はカイデ・アザム大学附属の国立機関としての位置づけであったが、2000年5月の大統領令により、名称が国立現代語大学(National University of Modern Languages(NUML))に変更され、独立した国立大学の資格を得た。2020年現在、NUMLでは、イスラマバードキャンパス及びラホールキャンパスに日本語学科が設置されている。イスラマバードキャンパスでは、6ヶ月の資格コース、1年間のディプロマコース及び5週間のサマーコースが開設されている。2020年11月現在、全コース合わせて77名が在籍している。開設当初よりJICAから日本人学科長がイスラマバードキャンパスに派遣されていたが2006年を最後に打ち切りとなった。2020年11月現在、NUML日本語学科には大学所属の日本人講師が2名、パキスタン人講師5名が在籍している。パキスタン講師のうち2名は国際交流基金の日本語教員研修プログラムの参加経験がある。さらに、イスラマバード在留邦人がボランティアで文字や作文の授業等を補佐している。2020年2月に新たに設置されたラホールキャンパスでは、6ヶ月の資格コースが開設され、35名が在籍、パキスタン人講師2名が指導にあたっている。
 また、在カラチ日本国総領事館が実施機関となり1972年7月に日本語講座が開講され、パキスタン・シンド州における日本語普及事業に努めてきたが、2003年からは同講座の実施機関はパキスタン・日本文化協会(シンド)に移管された。なお、JICAから派遣されていたシニアボランティアは任期満了により、2009年3月に帰任し、その後、後任は派遣されていない。
 カラチ大学(シンド州立)においては、2001年に人文学部に選択科目のひとつとして日本語コースが開設され、2年間のコースで週3回、計3時間の講義が行われていたが,現在は週2回の講義となっている。
 さらに、カラチ市内のインダス大学(私立)のコンピューターサイエンス学士課程においては、2016年度より日本語の授業が必須単位となり、約200人の学生が日本語を学んでいる
 また、ジャムショロ市内シンド州立シンド大学においては、東・東南アジア地域研究センター内にて日本語講座開始の機運が高まっており、その開設準備が始まったところである。一方、ナジーア・フセイン大学においては、日本語講座を開設する予定があったが、現在のところまだ実現されていない。
 民間の団体としては、ラホール、グジャランワラ、ファイサラーバード、シアールコートなどに日本語教育機関がある。ラホールにあるアルサニア日本語センター(AJLC)、オイスカエコロジカル日本語学校ラホール支部、ラホール近郊のグジャランワラにあるグジャランワラ日本語センター(GJLC)及びさくら日本人学校、カラチのジャパン・ハウス等がその例である。
 なお、日本語能力試験(JLPT)はイスラマバード及びカラチにて2002年から毎年1回ずつ、イスラマバードにおいては2019年からは毎年2回ずつ実施されている。さらに、外国人日本語能力検定テスト(JLPT)がイスラマバード、ラホール、グジュランワラにおいて実施されている。

背景

 パキスタン国内の良好な対日感情に対して、これまで日本語に対する関心は必ずしも高いとはいえず、また、ビジネスでの需要は限られていた。2010年前後までは、主としてギルギット・バロチスタン(旧北方)地域への日本人観光客増加により、日本語通訳や観光ガイドに対する需要が増大してきていたが、現在は観光客減少に伴い日本語ガイドのニーズが低下している。しかし、2019年4月に在留資格「特定技能制度」が新設されて以来、基礎的な日本語能力が同在留資格取得の条件の一つともなっていることもあり、当国における日本語教育に対する注目度が高まりつつある。また、近年はビジネスマンの学習者も増える傾向にあり、日本語に対する関心も徐々に高まりつつある。全国で約80社を超える日系企業が進出しており、それら企業の被雇用者が日本語を学ぶケースが出始めている (例えばJICAイスラマバード事務所では2019年10月よりNUMLの講師を招きスタッフの為に週二回、勤務終了後に日本語教室を開いている)。

特徴

 基礎(初等・中等)教育段階では日本語は教えられていない。上述のとおり日本語教育を行っている機関の数は限られており、パキスタン国内での日本研究、日本語学研究は根付いていないといえる。他方で、上述のとおり、2019年4月に新たな在留資格「特定技能制度」が導入されたことを受け、日本語をビジネスチャンスと結びつける見方が強まっており、今後、日本語学習者の規模が拡大する可能性が高い。また、潜在的に外国語を学ぶことに対して関心を持つ者が多く、また既述のように、商業都市カラチやラホールにおいては進出している日系企業に勤務する者やビジネスマン、また、日本文化に対する関心が高い者もおり、学習希望の動機となっている。学習者規模は近年、年間約300人前後となっている。現在パキスタン・日本文化協会(シンド)が行っている日本語講座の学習者総数は1972年の開講以来5,000名を超えている。

最新動向

 近年、YouTube等ソーシャルメディアを通して日本のアニメを見る若者層が増えてきており、その影響から日本語に興味を持つ若い世代が多くなってきている。特に、2012年から2016年の間に政府からYouTubeにかけられていた制限が解禁され日本のアニメ等にアクセスがしやすくなったことの影響は大きい。一方で、中国・パキスタン経済回廊計画の影響により各地に中国語クラスが多数開設されており東アジア言語の中では中国語が最も学びやすい言語となっている。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 NUMLに日本語学科が設置されている。またカラチ市内のインダス大学のコンピューターサイエンス学士課程では、日本語が必須科目となっている。カラチ大学でも日本語は開講されているが、空調の無い教室での授業を強いられており、そのため受講学生数の確保に苦労している。

学校教育以外

 パキスタン・日本文化協会(シンド)において、一般成人を対象とした日本語講座を開設している。学習者の大半は20歳以上の学生及び社会人(ガイド、コンピュータ関係、日系企業勤務者等)が占め、男女比はほぼ半々である。その他、カラチ市には、ジャパン・ハウスなどで日本語講座が開設されている。また、不定期ながら、日本からの帰国留学生の会などが日本語講座を開設することもあるが、教材等の不足により長続きさせることが困難である。ラホールでは、オイスカエコロジカル日本語学校やAJLC、グジャランワラのさくら日本語学校とGJLCの5つの語学学校が日系企業勤務者や留学希望者など、日本語を必要とする一般成人や学生に対し日本語講座を開設している。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 5-3-2制。
 一般に就学年齢は5歳で、初等学校(primary school)5年、中等学校(middle school)3年、準高等学校(secondary high school)2年を終えると、日本での中学校卒業と同レベルと見なすことができ、マトリック(matric)という修了証書が得られる。
 その後、高等学校(higher secondary school)2年、カレッジ(college:日本の大学教養課程に相当)2年、大学(degree college:日本の大学専門課程に相当)2~3年、大学院(university)と進む。法律上、義務教育制度はない(初等教育5年の義務化は以前から考慮されているが、実現されていない)。
 パキスタンの識字率は、2017年のUNESCO統計によれば約59%となっている。

教育行政

 監督官庁は教育省である。但し、高等学校以上の高等教育行政に関しては、高等教育委員会が管轄する。

言語事情

 公用語は英語、国語はウルドゥー語。
 国語ウルドゥー語の母語人口は全人口の約8%に過ぎず、シンド州でシンディー語が州の公用語として認められている他、各州で様々な言語が使用されている。したがって、日常会話はそれぞれの母語、他州の者とのコミュニケーションはウルドゥー語、仕事の多くは英語を用いるという、多民族多言語社会を形成している。
 公用語でもある英語の通用度は高く、官公庁の公式文書や高等教育の多くは英語が用いられている。

外国語教育

 大学教育では、選択科目として英語のほか、外国語は必修科目のひとつとなっている。ただし、日本語が大学入試で課されている例は見あたらない。
 初等教育の段階でも大半の私立校の場合、英語で全科目の授業が実施されている。

外国語の中での日本語の人気

 欧州言語の中では英語、フランス語、ドイツ語の人気が高い。また、アジア言語の中では特に中国語に対する関心が高い一方、上記在留資格の新設により、今後、日本語人気度がさらに増す可能性が高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 日本で市販されている英語版の日本語教科書・教材が用いられていることが多い。ただし、学生はコピーされたものを使用しているのが現状である。NUML日本語学科では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が使われている。また、2007年および2009年には、在パキスタン日本国大使館を通じて、国際交流基金よりNUML日本語学科に対して、日本語教材が寄贈された。さらに、2016年から草の根文化無償資金協力によりNUMLの日本語学科校舎新設及び機材と教材の提供を行っており2017年にプロジェクトが完成した。

学校教育以外

 日本から市販教材を購送してもらうなどしている。パキスタン・日本文化協会(シンド)主催日本語講座では、国際交流基金より寄贈を受けた教材を使用している。

IT・視聴覚機材

 1981年、国立現代語学院に日本語学科が開設された際、JICA等の機材提供により当時最新式のLL教室が設けられていた。その後、老朽化と日本人専門家の不在により利用されなくなっていたが、2017年日本政府の草の根無償支援による新教室設置の際、教員用3台と学生用10台のコンピュータ、4台の電子黒板、コンピューターサーバーが提供され、授業に活用されている。他方、その他の日本語教育機関においてはマルチメディア・コンピューターは使用されていない。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 日本語教師になるための資格要件は特に定められていない。一般の教員になるためには、教育学修士号を取得していることが望ましいが、絶対条件ではない。(NUMLのパキスタン人講師はその殆どが本学日本語学科ディプロマコースの卒業生で,ティーチングアシスタントというポジションに就き,シニア教員の指導により教授法の手ほどきを受けながら教員として育っている。)
 国立学校および州立学校の教員になるには、原則として、連邦レベル、もしくは州レベルの公務員採用委員会が実施する試験を受ける必要がある。私立学校の場合は、それぞれの学校の独自基準により選考が行われる。

学校教育以外

 日本語教師になるための資格要件は特に定められていない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 パキスタンで日本語教師を養成している機関、プログラムはない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 NUMLイスラマバードキャンパスにおいては常勤の日本人講師1名が授業を行っている(雇用形態は現地教員と同等)ほか、同大学においては、在留邦人、日本人留学生などが、非常勤もしくはボランティアとして授業をしている。その役割としては、発音及び言い回しなどの矯正や文字、作文などの授業の補助が主である。

教師研修

 国内で現職の日本語教師対象の研修はない。但し、国際交流基金の訪日日本語教師研修を受けた教師がいる。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 現在、在パキスタン日本国大使館を中心に日本語教育機関のネットワーク化を図っている。

最新動向

 なし。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

評価・試験

 国際交流基金主催の日本語能力試験がイスラマバードでは年2回、カラチでは年1回実施されている。

日本語教育略史

1972年7月 在カラチ日本国総領事館に日本語講座開講
1981年 国立現代語学院(National Institute of Modern Languages)に日本語科設置
2000年5月 大統領令により、国立現代語学院の名称が国立現代語大学(National University of Modern Languages)に変更。国立大学の資格を取得
2001年 カラチ大学(シンド州立)において人文学部にて選択科目のひとつとして日本語コース開設
2003年 在カラチ日本国総領事館の日本語講座がパキスタン・日本文化協会(シンド)に移管
2007年12月 日本語能力試験をイスラマバード及びカラチにて2年ぶりに実施(イスラマバード試験場では2019年から年2回の実施となった)
2016年9月 インダス大学(私立)のコンピューターサイエンス学士課程にて、日本語講座が必須科目として開講
   

2015年1月から1年間、ラホール大学(私立)に技能研修生向けの日本語コースが開設され、三期の履修者(約50名)が学んだ。講師は日本人一名。

参考文献一覧

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