ペルー(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
10 72 3,792
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 1,602 42.2%
中等教育 1,056 27.8%
高等教育 40 1.1%
学校教育以外 1,094 28.9%
合計 3,792 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月にペルー日系人協会が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1908年(明治41年)カニエテ市、旧慈恩寺に隣接したサンタ・バルバラ製糖工場内にペルー初の日本人小学校が創設された。その後、第2次世界大戦が開戦するまでに46校の日本人学校がペルーの首都リマを中心に創設された。1920年(大正9年)には首都リマに里馬日本人小学校が創設され(初代校長横瀬五郎氏)、約1600名の生徒が在籍した。そのほかにも、リマ市内、カヤオ、ワラル、ワチョ、チンボテ、ワンカヨ等において日本人学校が創設された。これは当時の日本人が、永くペルーに残る気持ちはなく、4~5年の間仕事に就き、故郷へ錦を飾るという気持ちを強く抱いており、そのためには子弟の教育も日本語でなければならなかったからである。
 第二次世界大戦が始まると、ペルーはブラジルに先駆けて日本へ宣戦布告する。そして政令により日本人学校は次々に接収されるか、自発的に門戸を閉じていった。学校名を日本語からペルーの名前に変更したり、校長をペルー人に変えるなど、存続に向けた努力も行われたが、戦前から現在まで残っているのは1926年5月5日創立のカヤオ校(現ホセ・ガルベス校)、1928年4月18日創立の時習寮(現サンタ・べトリス幼稚園)、1931年3月20日創立のインカ学園の3校のみである。
 戦後、1948年創立のラ・ビクトリア日系人学校をはじめ、各地において再度日本語教育機関が創設され、政府の認定校(公教育機関)として現在に至っている。

背景

 2019年に日本人によるペルー移住120周年を迎え、現在ペルーの日系人は約10万人強となった。日系三~五世が主体の現在において、日系二世及び三世が中心となり日本の文化を子弟及びペルー人に伝達すべく、日本語教育と併せて普及活動を行っているが、現在の主流は継承語としての日本語教育でなく、外国語としての日本語教育である。しかし、前述の日系教育機関では、日本語のみならず日本文化や年中行事、習慣等の指導にも力を入れており、継承語としての日本語教育も行われている。
 一方で、それら日系校卒業生のほとんどが十分な日本語能力を得ることができず、日本の大学への進学選択は容易ではない。また、大学等で日本語を勉強してもほとんどの場合、単位を取得することは不可能な上、クスコ等の観光都市の一部例外を除き国内において日本語を生かした職につくのは容易ではないのが現状である。

特徴

 2020年10月現在、大小含めて30以上の日本語教育機関、日本語コース、私塾等があるが、きちんと組織され、教師数・学習者数共に充分と言える機関は首都リマに集中しており、地方は体制が脆弱である。
 日本語学習者は、幼稚園レベルから大学レベルまで幅広く、近年はオンラインでの日本語指導がされるようになり、初等、中等、高等全ての教育機関で生徒数は増加傾向にある。
 日本語学習者は初級レベルが多く、日系人、非日系人、老若男女を問わない。主な学習動機として、(1) 日本語そのものへの興味、(2) マンガ・アニメ等の日本のポップ・カルチャーへの関心、(3)日本への留学、(4)将来の就職等があげられる。マンガやアニメ等、日本のポップ・カルチャーへの関心から学習を開始する若年層が増加している。また、学習者が力を発揮する機会として、年2回の日本語能力試験や全国日本語弁論大会等がある。

最新動向

ペルー日系人協会(APJ)の日本語普及部

 ペルー日系人協会(APJ)日本語普及部を中心に、日本語教師の育成を目的とした日本語教師養成講座や南米スペイン語圏連絡会議、日本語教師セミナー等が定期的に開催されている。また、日本語学習者の増加に伴い、各地の学習機関の増加や、日本語能力試験(JPLT)の開催数の増加(年1回から2回に)等が最近の動向として挙げられる。

教育段階別の状況

初等教育

 下記【中等教育】参照のこと。

中等教育

 2020年10月現在、リマではラ・ウニオン総合学校やラ・ビクトリア校など、日系人が設立し、ペルー教育省の公認を受けた5つの小中学校において、またリマ以外の都市では3つの小中学校において、第二外国語として日本語が教えられている。これらの学校では、既に非日系人の子弟が過半数を超えており、日常会話を中心に学習している。

高等教育

 日本語は正規の単位取得科目にはなっていないが、2020年10月現在、国立ラ・モリーナ農業大学の語学センター、私立サン・イグナシオ・デ・ロヨラ大学、国立サンマルコス大学で日本語講座を開講している。また、私立カトリカ大学の東洋研究所では、不定期に日本語講座を開講しており、同大学内に設置された山形大学のサテライトオフィスも日本語講座を開講している。一般的に、日本語教育を実施している大学が少ないため、日本語に関心を持つ多くの大学生は、民間の日本語教育機関で日本語を学んでいる。

学校教育以外

幼稚園、小学校、中学校、大学、語学センター、県人会、塾、家庭教師、オンライン教育にて、日本語教育が行われている。
 ペルー日系人協会が首都リマの日秘文化会館で開講している日本語コースは特に生徒数が多く、2020年2月現在、約600名が在籍している。次いで、2013年にリマに設立された鶴日本語学校が、2020年10月現在約150名の学生を抱えている。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-5制。
 初等教育が6年間(6~12歳)、中等教育(日本の中学、高校に相当)が5年間。計11年間が義務教育である。

教育行政

 教育機関のすべてが教育省の管轄下にある。

言語事情

 公用語はスペイン語。
 地方ではケチュア語やアイマラ語が使われている。

外国語教育

 公立の小中学校では英語は必修ではないが、一部の学校では教えている。私立学校では、学校により英語のほかに、フランス語、ドイツ語、イタリア語等が幼稚園の時から教えられている。大学では、各校によって選択できる語学に違いがあり、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語等から選択する。ほとんどの場合日本語では単位を取得できないが、教えている大学もある。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 下記【中等教育】参照のこと。

中等教育

 日本で出版されたテキストから必要な部分もしくは使用可能な部分を選択、または自作教材を使用している。

  • 『まるごと』(三修社)
  • 『にほんごドレミ』(国際協力機構)
  • 『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
  • 『こどものにほんご』子どもの日本語研究会(スリーエーネットワーク)
  • 自作教材

高等教育

  • 『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』(前出)
  • 『まるごと』(三修社)
  • 自作教材

学校教育以外

  • 1.日秘文化会館
    1. (1)幼児部、児童部
      • 自作教材
    2. (2)生徒部
      • 『こどものにほんご』(前出)
      • 『みんなの日本語』(前出)
      • 『国語の教科書』中・上級クラス(光村出版)(日本からの帰国子女の教育に使用されている)
    3. (3)成人部
      • 『みんなの日本語』(前出)
      • 『学ぼう! にほんご小中級』日本語教育教材開発委員会(専門教育出版)
  • 2.鶴日本語学校
    • 1.青年・成人部(13歳以上)
      • 初級『げんき』(ジャパンタイムズ)
      • 初中級『中級へ行こう』(スリーエーネットワーク)
      • 中級『テーマ別 中級から学ぶ日本語』(研究社)
      • 上級『テーマ別 上級で学ぶ日本語』(研究社)

IT・視聴覚機材

 ほとんどの日本語教育機関にはコンピューターが設置されている。数も使用方法も機関によってかなり違いがあるが、基本的なプリント教材作成、インターネットからのダウンロード、CDDVDなどの視聴覚教材を使ったクラス活動はどの機関でも行われているようである。

教師

資格要件

初等教育

 下記【中等教育】参照のこと。

中等教育

 特に資格や条件は必要ない。
 養成方法としては、ベテラン教師が研修やセミナーまたは実体験で得た知識をもとに、若手教師を養成している。

高等教育

 語学センターでの日本語講座では特に資格や条件は必要ない。

学校教育以外

 特に資格や条件は必要ない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 ペルー日系人協会(APJ)日本語普及部は日本語教師養成講座1年コースを隔年でおこなっている。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 2020年10月現在、13名の日本人の日本語教師がペルー各地で活動している。

教師研修

 国内研修としては、ペルー日系人協会日本語普及部及びペルー日本語教師会が実施する合同セミナー・勉強会がある。
 訪日研修としては、国際交流基金及びJICAが実施している日本語教師研修がある。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

  1. 1.リマ市在住の日本語教師を中心とした「ペルー日本語教師会」があり、弁論大会への協力、日本語能力試験への監督員の派遣、セミナーの開催、教材の貸し出しや相談の随時受け付け等を行っている。
  2. 2.ペルー日系人協会日本語普及部主催による「日系校及び日本語教育機関の校長とコーディネーターの会議」(必要に応じて開催)では、日本語教育について情報交換を行っている。

最新動向

 2020年度、ペルー日系人協会(APJ)が日本語教師資格認定を行う教師養成講座の実施を企画している。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

 なし(更新不要)

国際協力機構(JICA)からの派遣(2019年11月現在)

JICA海外協力隊

(新型コロナウイルスの感染拡大を受け、現在不在)

  •  ペルー日系人協会 クスコ 1名
  •  ペルー日系人協会(APJ) 日本語普及部 1名

その他からの派遣

 (情報なし)

日本語教育略史

1908年 カニエテ市に日本人小学校が創設
1920年 旧リマ日本人小学校ほか創設
1969年 リマ日本人学校開設
1976年 ペルーで初めての日本語教育短期巡回講師による研修会実施
1978年 ペルー日本語教師会創設
1991年 ペルー日系人協会日本語普及部創設
2015年~ 南米スペイン語圏日本語教育連絡会議を開催
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