タジキスタン(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
2 4 186
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 0 0.0%
高等教育 186 100.0%
学校教育以外 0 0.0%
合計 186 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1991年、ソ連邦崩壊とともにも独立したタジキスタンは、1991年から1997年まで熾烈な内戦を経験し、一般国民の生活に関わる多くの社会インフラが破壊された。内戦中は一般教育における状況も混乱に陥った。
 こうした状況のもと、タジキスタンにおける日本語教育は、未だ初期段階にある。2002年9月、国立言語大学に日本語の専門課程である日本語学科が開設された。設立当初は日本人教師はおらず、現地人教師のみで日本語教育がなされていたが、その後2004年9月より数名の日本人ボランティア教師がほぼ1年交替で日本語教育に携わってきた。2007年6月には学科創設以来、初めての卒業生を輩出した。その後、2007年から2年間日本人教師が不在であったため、一時的に学科への新規入学が凍結されていた時期があった。2009年9月からは再びボランティアの日本人講師が赴任していたが、2010年7月に同日本人講師が帰国した。
 2015年2月からはJICA短期シニアボランティア(SV)が継続的に巡回指導を行っており、日本人講師による現地人教師の育成及び学生への指導が実施されている。
 2006年9月にはロシア・タジク・スラブ大学に第二外国語として日本語コースが開設され、2014年6月までJICA短期シニアボランティア(SV)が断続的に派遣され単位の取得がない特別クラスを実施していた。2015年2月から、JICA短期SVが継続的に派遣され、単位の取得があるクラスを現地人教師と共に実施していた。しかしながら、世界的なコロナ禍を受けて、SVは2020年3月に帰国した。
 2007年9月には国際NGOアクテッドが運営するバクトリア文化センターにおいて日本語コースが開設されたが慢性的な教員不足が続き、2008年には同コースは閉鎖された。その後、2018年には再度コースが開講され、現地人教師が教えている(不定期)。
 2009年には、ロシア・タジク・ギムナジウム特別中学校において、放課後の自由選択授業として、日本語講座が開設された。現在同校では、20人が週3回、現地人教師の下で日本語を学んでいるものの、日本人講師によるサポートは行われていない。同校では、教材が慢性的に不足した状況が開講以来続いている。
 2015年9月には、パンジャケント教育大学に日本語学科が開設され、2020年10月現在、現地人講師1人が15人の学生に日本語を教えている。
 2019年9月には現地人教師が主催する日本語教室「ココロ」が開講し、2020年10月現在、19人が日本語を学んでいる。

背景

 タジキスタンでは独立後の内戦にて生じた国内経済・インフラの損失、優秀な人材の国外流出等が生じ、これらが未だ経済成長の足かせとなっている。こうした状況の中、タジキスタンの将来を担う人材の育成は政府も急務とするところである。学生の海外留学志向は高く、従って言語教育は大変重要視されている。
 タジキスタンにおいて日本は、先端技術や武道の国として比較的好意的に認識されてきたが、中国の台頭と、日本との経済的・文化的関係の希薄さから、若年層を中心に日本に対する認知度の低下がみられる。未だ日本企業の進出は極めて限定的であり、在留邦人も少ない中、社会における日本語のニーズは低く、日本語学習者数も限定的である。

特徴

 開発途上にあるタジキスタンでは、「語学能力=職を得るためのツール」と考える向きが多く、従って英語、中国語、ドイツ語、フランス語、等、国際機関やビジネスシーンで有用性の高い言語の学習者が多い。日本語学習希望者は近年増えつつあり、ロシア・タジク・スラブ大学により社会人向け講座が開催されることがあるものの、継続的に開催されておらず、また、学習を積み上げていくようなカリキュラムが整っていないため学習希望者数のニーズを十分に満たせていない。
 日本語学習者の学習動機としては、日本の大学・日本語学校への留学、日本の文化・伝統への関心、日本語そのものへの語学的興味などであるが、最近はアニメ・マンガなどの日本のポップカルチャーへの関心から日本語を学習し始める人が増えてきている。
 問題点としては、十分な学習環境が整備されておらず、かつ十分な質と数の教員が存在しないことから日本語教育レベルが低水準に留まっていること、更に日本語を使う就職先等、日本語の習得を活かせる場が非常に限られているということがある。

最新動向

 現在、タジキスタンでは国立言語大学、パンジャケント教育大学、バクトリア文化センター、日本語学校「ココロ」、ロシア・タジク・スラブ大学及びロシア・タジク・ギムナジウム特別中学校において日本語教育が実施されている
 国立言語大学では、5名の現地人教師、1名の日本人日本語教師(JICA短期SV※コロナ禍で2020年3月に帰国)によって日本語学科が運営されており、2020年10月現在約91名の学生が日本語を学んでいる。
 パンジャケント教育大学に日本語学科が開設され、日本人講師1人が15人の学生に日本語を教えていたが、コロナ禍を受けて同講師が2020年7月に帰国し、現在は現地人講師が教鞭を執っている。
 ロシア・タジク・スラブ大学では、2016年9月に日本センターを開設、1名の現地人教師、1名のJICA短期SV(2019年12月末に離任。コロナ禍を受けて後任なし)により同校日本センター・日本語クラスが運営されている。2020年10月現在、3学科で日本語の履修ができ、70名の学生が日本語を学んでいる。
 ロシア・タジク・ギムナジウム特別学校では、2020年10月現在約20名の児童・学生に対し、1名の現地日本語教師が日本語を教えている。
 このほか、2016年11月に、当地初となる日本語教師会「タジキスタン日本語教師会」が、JICA短期SVの支援のもと設立された。現状、タジキスタンの日本語教育に対する支援としては、JICAシニアボランティア(※2020年10月20日現在、コロナ禍により一時的に派遣中止)が中心となり、日本語教育カリキュラムの作成、教科書の選定、現地人教師の指導、学生への日本語教育にあたっている。また、国際交流基金による日本語教師研修プログラムを活用し、現地人教師のレベル向上に取り組んでいるほか、教材購入助成プログラムを活用して日本語教育教材の充実化を図っている。
 また、交換留学制度等の拡大により、日本留学の機会が増えている。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育は実施されていない。

中等教育

 ロシア・タジク・ギムナジウム特別学校において日本語講座(希望者のみ)が実施されている。

高等教育

 国立言語大学(専門課程)及びロシア・タジク・スラブ大学(選択科目)で日本語教育が実施されている。

学校教育以外

 バクトリア文化センター、日本語教室「ココロ」

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 11-4制
 初等・中等教育は11年制(6~17歳)で、義務教育。後期中等教育機関にあたるリツェイ(8~11年生の3年間)もある。高等教育機関である大学は4年制。

教育行政

 初等・中等教育機関も大学も教育科学省の管轄下にある。一部の専門大学では、教育科学省ではなく他省庁の管轄下にある(例えば農業大学は農業省、芸術大学は文化省の管轄下にある)。

言語事情

 タジク語が国家語であり公用語であるが、ロシア語も民族間交流語として公用語の位置づけが与えられている。その他、ウズベク系住民がウズベク語を、キルギス系住民がキルギス語を使用し、ゴルノ・バダフシャン自治州ではパミール諸語が使用されている。

外国語教育

 1年生より第一外国語としてロシア語を履修(必修)。
 4年生から第二外国語として英語、ドイツ語、フランス語等(学校によって異なる)から選択履修(必修)。

外国語の中での日本語の人気

 ロシア語を別とすると、外国語の中では英語、中国語、ドイツ語、フランス語、アラビア語の人気が高い。特に、中国は「一帯一路」政策のもと経済的結びつきを急速に強めており、孔子学院を中心に中国語教育機関が大規模に整備されているため、中国語学習者は急増している。また、近年はK-popなど文化的人気を背景に韓国語の人気も高まっており、世宗学堂を中心に教育機関も整備され、韓国語学習者も増加傾向にある。他方、日本語については専門課程が現在二大学にしかなく、中国や韓国のような大規模な語学教育支援も行われておらず、日本語学習者は微増にとどまっている。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
 『まるごと入門、初級』国際交流基金 (三修社)

高等教育

 『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』『ひらけ日本語』拓殖大学留学生別課(凡人社)、『BASIC KANJI BOOK』 加納千恵子他(凡人社)、『ジェイ・ブリッジ』(凡人社)などがよく使われている。

学校教育以外

 青少年コース『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク
 『まるごと入門、初級』国際交流基金 (三修社)
 社会人コース 新聞記事や手製教材

IT・視聴覚機材

 日本語教育にIT・視聴覚機材は使用していない。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 学士号が必要。

高等教育

 基本的には修士号以上であるが、日本語教育能力検定試験合格、またはそれに準ずる資格が必要。

学校教育以外

 特段の基準は定められていない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成を行っている機関、プログラムはない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 パンジャケント教育大学に1名現地採用の日本人教師がいる。同大学には、タジキスタン人教師がいないため、コースの全てを日本人が1人で運営している。

教師研修

 年1回、中央アジアのJF専門家がタジキスタンを訪問し、数日間の研修を実施。

現職教師研修プログラム(一覧)

特になし

教師会

 2016年11月に「タジキスタン日本語教師会」が発足。

日本語教育関係のネットワークの状況

「タジキスタン日本語教師会」が中心となって、ネットワークが構築されている。日本語能力試験や各種日本語関連イベントの際には、日本語教師会が中心となって、日本語学科卒業生などへの広報活動も行っており、日本語関係者のネットワークは拡大傾向にある。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

 なし

国際協力機構(JICA)からの派遣(2020年10月現在)

JICA海外協力隊

タジク国立言語大学 0名
ロシア・タジク・スラブ大学 0名

その他からの派遣

 なし

シラバス・ガイドライン

初等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

中等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

高等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

学校教育以外

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

評価・試験の種類

 共通の評価基準や試験はない。

日本語教育略史

2002年9月 国立言語大学にて日本語教育開始
2006年9月 ロシア-タジク(スラブ)大学で日本語教育(第二外国語)開始
2007年6月 国立言語大学で、日本語学科創設以来初の卒業生輩出
2007年9月 アクテッド・バクトリア文化センターで日本語コース開設
2008年9月 アクテッド・バクトリア文化センターにおける日本語コース閉鎖
2009年9月 ロシア・タジク・ギムナジウム特別中学校での日本語講座開始
2012年7月 ロシア-タジク(スラブ)大学での日本語教育中止
2014年4月 ロシア-タジク(スラブ)大学での日本語教育再開
2016年11月 タジキスタン日本語教師会が発足
2016年12月 日本語能力試験の初実施
2018年6月 クテッド・バクトリア文化センターにおける日本語コース再開
2019年9月 日本語教室「ココロ」開設
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