米国(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
1,446 4,021 166,905
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 17,609 10.6%
中等教育 70,455 42.2%
高等教育 68,237 40.9%
学校教育以外 10,604 6.4%
合計 166,905 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1970年代頃までは、日本研究のための日本語教育が主であったが、1980年代以降、米国において日本の経済的プレゼンスが拡大し、日系企業が進出するに伴い、日本語を学ぶことでビジネスや雇用機会の拡大を狙う学習者が増加し、日本語ブームが起きた。その後、日本のバブル崩壊から、行政や世論の日本に対する関心が薄れたと言われてきたが、近年ではマンガ、アニメやゲームなど日本のサブカルチャーが若年層に普及しており、それをきっかけに日本語学習に興味を持つ学習者が増えている。さらに一部地域では在米日系企業による雇用創出も進んでいる。一方で、連邦政府による教育予算削減などにより、特に2010年度以降、主要科目(数学、英語、理科など)を優先するために、日本語も含めた外国語科目が削減されるといった動きが見られる。

背景

 2001年の米国同時多発テロ以降、外国語教育は国家安全保障の面でますます重視されるようになってきた。特に、2006年1月に発表された国家安全保障言語構想(National Security Language Initiative; 通称NSLI)により、米国人の外国語レベルを効率的に上達させることは国家安全保障にとって重要であるという認識が高まった。
 2002年から2015年まで施行されたNo Child Left Behind法(以下NCLB)では、連邦政府が主管となり、学習者が皆揃って一定基準を上回る習熟度を達成する教育現場を目指してきた。具体的には、NCLB法で「地方自治体(つまり州)には、高度な教育能力を有する教師と校長を採用し、教師が教育能力を得るために必要な準備や教育を施す責任がある」とされ、2005年度以降、公立学校では必須科目の達成度を測る学習者の習熟度(Adequate Yearly Progress、以下AYP)が測定されることになった。教師には、NCLBで求められている基準(「高度な教育能力」)を自身が有していることを示すことが求められ、教師資格・免許の取得・維持が厳しくなった。
 NCLBでは、外国語は必須科目の一つとして定義されていた一方で、AYPの測定対象は数学や英語など一部必須科目のみとされ、外国語は対象外となっていた。その結果、日本語教師を含む外国語教師の教師資格・免許の取得・維持が厳しく求められる一方で、AYP対象外である外国語の予算を削減するといったねじれが生じているケースも見られた。
 州ごとに教育事情が異なる中で、連邦政府主管でNCLBを進めていくことは非現実的であることから、2015年12月からNCLBに代わる新たな法律であるEvery Student Succeeds ActESSA)が施行された。これにより学習達成目標(Student Performance Targets)や学校の評価(School Ratings)などを含めた全ての決定権は連邦政府から州へと委譲され、より現実的な適用が州レベルで行えるように改善された。
 全米の大学入試を司る「カレッジ・ボード」が提供するAPAdvanced Placement)に、2006年からAdvanced Placement Japanese Language and Culture(以下AP日本語)が加わり、中等教育の日本語教育レベルの向上及び中等教育と高等教育間のアーティキュレーションが改善するきっかけとなっている。AP日本語は高校でのAP日本語コースと、学年度末に全米で一斉に実施されるAP日本語試験から構成される。AP日本語コースは、高校で大学レベルの日本語コースを履修することを目的としたもので、通常のクラスよりも成績の最高得点が1点多く5点となる学校が多いため、有名大学入学を目指し、より高いGPAGrade Point Average:成績評価値)を求める際に有利となる。また、AP日本語試験の合格者は大学進学後に初級レベルの日本語コースが履修免除となったり、クラスを取らずに単位が認められたりするなどの特典が与えられる。最近では、州の条例でAPのスコア3以上を大学の単位として受け入れる州も増えている。このようなことから、AP日本語プログラムの導入は、中等教育の学習者やその保護者への日本語の大きなアピールとなり、日本語の普及を大きく後押しする推進力になっている。AP日本語試験は第1回が2007年に実施され2020年は2,581人が受験し、スコアが3以上の受験者は83.6%であった。
 2010年からは、全米日本語教育学会(AATJ)の主催により初中等学習者向けの日本語テストNational Japanese ExaminationNJE)が開始された。NJEのレベルは、日本語能力試験(JLPT)のN5よりも易しい内容で構成されており、米国の学校教育の進度に即して学習レベルが確認できる試験として活用されている。受験者は年々増加している状況。AATJは、米国の外国語全国標準 World-Readiness Standards for Learning LanguagesStandards for Foreign Language Learning in 21st Centuryから2015年に改定。後述「教育制度と外国語教育」を参照。)に準拠した、信頼できる学習評価のツールとして、NJEの汎用性を高めたいとしており、2013年には、試験内容の見直しを実施し、学習者の習熟度により重点を置くテストとなるように改訂を行った。改訂以降は、中高生のみならず大学生も受験できるようになっている(https://www.aatj.org/national-japanese-exam)。
 また、2011年から世界規模で取り組まれている「日本語教育グローバルアーティキュレーションプロジェクト(Japanese Global Articulation Project:通称-J-GAP)に関して、米国ではAATJ主導で2011年から2015年にかけてバージニア州とメリーランド州を中心に、当該地の教育事情に即した形での日本語教育のアーティキュレーション改善を目指して活動(J-GAP USA)が進められ、その4年間の活動報告が以下に掲載されている。
https://jfstandard.jp/casereport/000307/j-gap_finalreportsupplement.pdf
 このアーティキュレーション強化の取り組みは、2016年より、「J-CAN」(Japanese, Core Practices, Articulation/Advocacy, and Network)という米国発展形プログラムとして中西部・南東部(オハイオ、フロリダなど)にも広がり、全米レベルでのアーティキュレーション強化に繋がっている。
https://jcanproject.weebly.com/conferences.html

特徴

 米国の日本語教育を支えているのは小学校から大学までの学校教育機関である。民間の語学学校で日本語を学んでいる人は、学校教育機関と比べて少ない。地域的には西海岸の州(ワシントン・オレゴン・カリフォルニア)と中西部(イリノイ・ミシガン)やハワイ州の学習者数が多いが、ニューヨークを中心とした東海岸や日系企業を積極的に誘致している地域にも学習者は多い。総体的に見ると日本語教育は全米で行われているが、南部の一部やロッキー山脈北部以東周辺などではコミュニティーにおける日本や日本語に対する認知度が低く、エアポケットの状態にある。しかし、南部においては近年日系企業の進出が進んでおり、学校行政の日本語教育に対する関心が高まってきている。2019年日本語能力試験はジョージア、フロリダ、アーカンソーなど南部の州も含め全米18都市で実施されており、受験申込者数は7,000人を超え、年々増加している。

最新動向

 2018年度の「海外日本語教育機関調査」の米国結果を見ると、前回調査(2015)で減少した教師数が、今回の調査(2018)では若干持ち直し、約3%増という結果が出たが、この増加分は非常勤ポストやティーチングアシスタント(TA)である場合が多い。また、日本語学習者数については、高等教育レベルは引き続き緩やかな伸びを見せている一方で、初中等教育レベルは微減となり、全体で約2%減(2006調査以来はじめての減少)へと転じた。これは全米の各州で教育予算が削減され、外国語教育に回される予算が大きく落ち込んでいることに起因すると考えられる。特に2012年度に連邦政府による初等・中等教育の外国語教育に対する助成プログラムForeign Language Assistance Program (FLAP) が廃止となって以降は、外国語教育全般に対する公的支援の弱体化が顕著となっており、公立教育機関においては、日本語を含む外国語履修者数の1クラスあたりの最低必要人数を大幅に増やしたり、1クラスで異なるレベルの生徒を教えたりすることによって、実質的な講座数を削減するといったケースが多く見られる。その一方で、他の外国語が削減される中でも、日本語が残されている地域や、講座の新規開講・拡張、講師数の増加などにより、日本語教育が発展している地域も見られる。地域の自治意識が強い米国においては、学校区の行政担当や学校長、保護者といった関係者の意向が実際の学校運営に直接反映される傾向があり、常日頃からの地道なアドボカシー活動が日本語講座の存続に少なからず影響する。また、日系企業の進出など、日本との経済的な繋がりの動向も、日本語講座の増減の要因として挙げられる。
 2020年のコロナ禍の影響については今後の調査が待たれるが、各州の財政悪化により教育予算のさらなる削減は避けられないとみられる。

教育段階別の状況

初等教育

 日本のマンガやアニメといったポップカルチャーに幼少期から身近に触れており、それをきっかけに日本語に興味を持つ学習者は多い。他方、学校行政側は連邦政府助成金や外国政府からの支援など外部資金で運営できる言語のプログラムを選ぶ傾向が、保護者は将来の進学・就職に有利な外国語を学ばせたいと考える傾向があり、必ずしも学習者のニーズによって、学習言語が決められるわけではない。

中等教育

 初等教育に同じ。

高等教育

 学習者数はゆるやかながら一定の伸びを示している。初等・中等教育レベルで日本語を学んだ学習者が大学に入って学習を続けるといったケースも増えている。また、近年増えている中国・韓国など漢字圏からの留学生も日本語を履修する傾向にあるため、大学における日本語レベルに広がりが出てきており、中上級レベルの層が徐々に厚くなっている。学習動機については、ゲームやアニメなどのポップカルチャーや現代の若者文化に興味を持った学生が顕著に増えており、日本研究やビジネスなど実学志向以外の個人的な理由が加わり学習者の多様化が進んでいる。

学校教育以外

 米国での日本語教育は学校教育が主流のため、民間の語学学校等において日本語講座が占める割合は少ないが、従来主に日本への帰国を視野に入れた日本人子女を生徒として迎えていた補習校で、近年米国永住を前提とし米国内の大学進学を希望する子女や、国際結婚により片親が日本人の米国人子女が増加している。それに伴い、補習校での日本語の位置づけも変わってきており、AP日本語を念頭に置いた講座や継承日本語としての講座などが設けられるようになってきている。また、日本語が非母語の生徒を対象にした日本語講座を併設する補習校も見られ、一部地域では「補習校の日本語講座=日本帰国に備えての国語教育」といった認識は薄れつつある。またここ数年の傾向として、機関での教育に頼らず、インターネット等のみを利用して日本語を学習する所謂「自立学習者」が増えているが、その性格上、統計的に実態を把握することが難しい。今後このような学習者をいかに捕捉し支援していくかが課題となっている。

教育制度と外国語教育

教育制度

 義務教育は高校までの12年間。
 州や学校区によって制度が異なり、多様性に富んだ、独自のカリキュラムが進められている。
 日本の学習指導要領にあたるコモンコアCommon Core(初・中等教育レベルの学力低下を改善するために、大学進学までに身につけておくべき共通学習内容を学年ごとに記したもの)が全米州知事会の主導により開発された。コモンコアの採用については、かつてのNCLB法では義務付けられていたが、2015年12月からのESSA法では(上下両院の議会主導で、NCLB法に代わり制定された教育法)各州の自由裁量となっており、現在41州、及びワシントンDC、グアム、北マリアナ諸島などにおいて、Common Core State Standardsが採用されている。
http://www.corestandards.org/standards-in-your-state/

教育行政

 各州に教育庁があるが、特に初等・中等教育レベルにおいては、学校区に多くの権限が委ねられている。

言語事情

 米国には連邦政府の定めた公用語はないが、英語が最も広く使われている言語である。次に使われているのがスペイン語である。
 外国語に関しても確固とした言語政策はないが、English Only(英語の識字率を高めることが最も大切)と、English Plus(英語に加え外国語を習得することが大切)を主張する二つの動きがある。近年、国際的競争力(Global Competitiveness)を身につけた米国人の育成が必要であるとの主張も、過去になく増しており、その一要素として、外国語教育の必要性も言われるようになってきている。

外国語教育

 外国語教育には全国標準(World-Readiness Standards for learning Languages)が設定されているが、これに準じた教育を行っているかどうかは、各学校、学校区により状況が異なり、千差万別である。外国語は選択科目の場合が多く、学校行政における優先度は低いが、ESSA法の中でも、外国語や芸術などのリベラルアーツ科目は“Well-Rounded Education”に必要な教科として含められており、州によっては高校の卒業単位や大学への入学願書提出の条件として外国語の履修を課すところもある。
http://ecs.force.com/mbdata/mbprofall?Rep=HS01↦=article_inline
 二つの言語を使って一般科目を学習する「イマージョンプログラム」(Dual Language Immersion Program)において、目標言語として日本語を導入している学校も、米国内で40校以上確認されている。
https://www.jflalc.org/jle-parents-immersion
 また、「Seal of Biliteracy」と呼ばれる外国語習得の認定印章(高校卒業時に授与されるもの)が多くの州で導入されるようになっており、高校における外国語履修の大きな動機付けになっている。
https://sealofbiliteracy.org/

外国語の中での日本語の人気

 全米外国語教育協会(ACTFL)の調査によると、日本語は、米国人の学習したい外国語として、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語に次ぐ人気となっている。その一方で、経済的な台頭による中国語への関心や、安全保障上の必要性からアラビア語へのニーズも高まってきている。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試は存在しない。ただし、大学入学にあたって、学習成績の参考として、高校生のStandardized TestであるSATACTを提出することが多い。日本語は、1993年からSATの教科に加わっている。しかし、日本語を母語とする学生が圧倒的に有利なため、外国語として学習している学生にとってはSAT日本語よりも、前述のAP日本語プログラムが大学進学には有利とされている。(「【背景】」を参照)
 現在APコースの存在する外国語は、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ラテン語、イタリア語、日本語、中国語の7言語だが、それぞれのコース内容は、前述の米国の外国語全国標準 (World-Readiness Standards for Learning Languages)に基づいている。実施団体であるカレッジ・ボードは、AP外国語として7言語の試験形式を統一する予定だが、日本語の試験形式が更新される時期は確定していない。

学習環境

教材

 米国では、各教育段階においてさまざまな教材が使われている。教師が独自に作成した教材を使用する場合も多い。市販されている主な教材のリストは、http://bookshelf.nealrc.org/Japaneseにて検索が可能。

初等教育

 絵本などの児童図書(『はらぺこあおむし』等)や教師が独自に作成した教材を使用する場合が多い。また、イマージョン教育においては、日本の小学校の教科書を使用することもある。

中等教育

 かつては、米国の高校生向けの教科書がなかったため、『OBENTO』や『Kimono』などオーストラリアで作成された教科書が多く利用されていたが、1998年に『Adventures in Japanese』Hiromi Peterson & Naomi Omizo (Cheng & Tsui)が出版され、アメリカの高校生のために作られた教科書として各地で使われるようになった。また、2006年に始まったAP日本語で大学初級レベルの内容を高校でも教えることが求められるようになったことから、次第に『Yookoso!Yasu-Hiko Tohsaku (McGraw Hill)や『なかま』Seiichi Makino et al. (Houghton Mifflin)、『げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)Eri Banno et al. (The Japan Times) といった大学生向けに作成された教科書も高校の中・上級クラスで使用されるようになってきた。また、公立の教育機関では、授業中に生徒が学校区の保有する教科書を借りる形で使用するため、通常同じ教科書が5年から10年使われることが多い。また、一旦決まってしまった教科書は教師の意思で簡単に変更することができないため、教科書はあくまでも参考書の一つとして扱い、自作の教材を主教材として使っている教師もいる。自作教材については、生教材の使用を奨励しているAP日本語の影響もあるものと思われる。

高等教育

 初級では、上記サイトで紹介されている大学向けの教科書が主に使用されているが、中級から上級にかけては、Content-based Instructionの教授法に倣い、生教材を元にした自作の教材を用いる教師が増えている。

学校教育以外

 さまざまな教材が使われている。教師が独自に作成した教材を使用する場合も多い。

IT・視聴覚機材

 日本に比べると、初等教育機関においてもITリテラシーが高く、教室で電子黒板やタブレット型コンピューターが日常的に使用されることも珍しくない。高等教育機関では、インターネット上で自由に使える教材の開発が活発で一般公開されているものも多く、リソースは豊富である。IT環境の改善が進み、日本語環境が可能なコンピューターをそろえたラボや無線LAN化したキャンパスのある学校が増えている。2007年から開始したAP日本語試験では、コンピューター試験となっているため、中等教育でのカリキュラムへのIT技術導入が進んだ。また、バージニア州やフロリダ州など一部の州では、初等・中等教育のオンラインコース開発が進んでおり、学校単位では履修者数が少なすぎて教員を採用できないような教科でもオンラインで学習者を集めてコースを提供できるようになった。オンラインコースの開発には予算と労力が必要なため、現在は日本語のオンラインコース開発に取り組んでいる州はまだ多くないものの、将来的にはコース数は増加すると考えられる。
 積極的にIT技術を勉強し、有効に活用している教師も増え、学習者のニーズからも、インターネットから得た情報をレッスンプランに組み込むことも求められるようになっている。地方自治体の財政難の影響で未だにIT環境が整わなかったり、教師自身のITの知識が不足していたりと、コンピューターを十分に生かせない教育現場もあったが、2020年のコロナ禍により遠隔教育技術の普及が急速に進んだ。

教師

資格要件

初等教育

 公立校においては州の認める教員免許が必要となるが、その資格要件は州によって異なる。原則的に私立校においては必要ないが、学校の方針によっては教員免許取得が奨励されているところもある。

中等教育

 初等教育に同じ。

高等教育

 機関によって要件は異なる。

学校教育以外

 特に要件はない。

 詳細は国際交流基金ロサンゼルス日本文化センターFAQを参照。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教育課程を有する大学はあるが、公立の初等・中等教育の日本語教師資格を取得するための教育課程は、通常、教育学部が運営している。教育課程では、外国語教育や義務教育一般に関する授業単位取得や授業見学、実習などが主体となっているため、日本語を教えるために必要な日本語教授法や上級レベルの日本語能力を充分に学ぶ機会を得ずに、日本語教師の資格を取得している場合もある。そのため、就職した後でも、教師研修などの機会を利用して、教授レベルの向上をはかることが求められる。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 教師の78.5%が日本語のネイティブ教師である。ただし、この割合は、教育段階によって異なり、中等教育レベルでは、約半数52.6%の教師がノン・ネイティブ教師となっている。

教師研修

 各教師会、大学等がそれぞれ主導で研修やワークショップを実施している。春か秋の年次総会時に行われ、週末を利用して半日から2日かけて行われるケースが多い。州によって教育のフレームワークやガイドラインが異なるため、このように地元教師に特化した形での研修は、理に適っている。前述の通り、初等・中等教育ではNCLB法の施行以来、州に特化した教師養成の需要がますます高まっており、今後も地方特化型研修が増加する可能性が高い。
 研修内容としては、アーティキュレーション、Core PracticesWorld-Readiness Standards for Learning Languagesに即した教授法、ITを使った授業といったテーマがよく見られる。これらのテーマは、日本語に限らず、アメリカの外国語教育全体の課題でもある。
 また、2008年より、AATJが主催するオンライン研修JOINTJapanese On-Line Instructional Network for Teachers)が始まり、費用や時間の問題で地元の研修に参加できない教師にとって貴重な研修機会となっている。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 地方もしくは州レベルの教師会が35団体あり、日本語教育に携わる教師のための全米ネットワークとして、AATJAmerican Association of Teachers of Japanese:全米日本語教育学会)がある。AATJは、K-16+(幼稚園から大学院まで)全てのレベルの日本語教育のための学会となっており、個人会員のほか、各地域の教師会も団体会員として加入している。AATJは、AAS (Association for Asian Studies:アジア研究学会) 、ACTFLAmerican Council on The Teaching of Foreign Language:米国外国語教育協会)と連携し、年2回の学会のほか、教師の養成、学習者の奨励、アドボカシー活動など、全米の日本語教育の発展を目的とした活動を行っている。

各地の教師会については、国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター地方教師会情報を参照。

日本語教師等派遣情報

国際交流基金からの派遣(2020年10月現在)

 米国若手日本語教員派遣(J-LEAP) 14名
 米国若手日本語教員派遣事業(Japanese Language Education Assistant Program, J-LEAP)では、2020年10月現在全米5州の初等・中等教育機関に合計14名の指導助手(Assistant Teacher)を派遣している。これは、海外の教育現場で研鑽を積む意欲のある若手日本語教員を米国の初等・中等教育機関に最長2年間派遣する事業である。派遣者は受入機関の日本語教師(Lead Teacher)と一緒にチームティーチングを行うことで、現地校での日本語の授業を更に盛り立て、日本語プログラムを強化することを目的としている。

国際協力機構(JICA)からの派遣

 JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 民間日本語学校(日本語教師養成機関)から提携機関へ派遣や国際交流団体によるインターン派遣プログラムによる派遣などが行われている。

シラバス・ガイドライン

 1990年代に中等教育レベル以下での日本語教育が普及するにつれて、全国的な目標基準と教育指針の設定の重要性が唱えられ、まずNFLCNational Foreign Language Center)が“A Communicative Framework for Introductory Japanese Language Curricula in American High Schools and Colleges”を1993年に発表した。
 その後ワシントン州において、中等教育の日本語教育の向上を目指し、“A Communicative Framework for Introductory Japanese Language Curricula in Washington High School”が1994年に作成された。次に、隣のオレゴン州でも同様に“The Oregon Proficiency Package for High School Japanese”が制定され、中高生の日本語能力の具体的な評価基準と検定法が明確化した。また、ウィスコンシン州においても、“Japanese for Communication: A Teacher's Guide”が1996年に刊行された。
 その他の多くの州でも1990年半ばから初等・中等教育カリキュラムの基準化が進み、州の教育庁公式ウェブサイトで閲覧できるようになったが、ほとんどは外国語全般を対象にした一般的な基準であり、マサチューセッツ州のCurriculum Frameworks for Foreign Languages(1998年)のように中には中国語と合わせてアジア言語として少しだけ日本語に言及したものも見られる。日本語だけを対象にした基準はフロリダ州のFlorida Course Description(1998年)、ジョージア州のQuality Core Curriculum Standards and Resources(1995年)がある。
 さらには、ACTFLが開発した全国レベルでの各言語共通のGeneric Standardに基づいて、日本語教育界全体より代表者がタスクフォースを結成し、日本語版スタンダーズ作成に取り組み、その成果は1999年にStandards for Japanese Language in the 21st Centuryの一部として出版された。2015年以降は同スタンダーズの改訂版であるWorld-Readiness Standards for Learning Languagesが使用されている。このスタンダーズは強制的なものではなく、これを実際に取り入れるかどうかは州や学校区が決定するが、高校と大学の連携の鍵とされるAP日本語がスタンダーズに準拠しているため、特に中等教育を中心に、教育現場へのスタンダーズ浸透が進んでいる。また、初中等教育レベルでは、日本の学習指導要領にあたるCommon Core State Standardsは、約9割の州で適用されている。

評価・試験

 口頭試問についてはACTFL開発のOPIOral Proficiency Interview)とオレゴン州のCASLS(The Center for Applied Second Language Studies)が開発したOregon Japanese Oral Benchmarksがある。CASLSは読解・作文能力を評価するOregon Japanese Literacy Benchmarksや中等・高等教育レベル向けオンライン評価システムのSTAMPStandards-based Assessment & Measurement of Proficiency)、初等教育レベル向けオンライン評価システムのNOELLANational Online Early Language Learning Assessment)等も開発している。
 また、AP日本語試験では、コンピューターの特性を生かし、World –Readiness Standards for Learning Languagesの3つのモード(InterpersonalInterpretive、Presentational)の観点から4技能を評価している。

日本語教育略史

1941年 米陸軍が日本語プログラム創設
1988年 Educational Exchange Program(北米大学教育交流委員会)による日本語教員派遣開始
1990年 REXRegional and Educational Exchanges for Mutual Understanding)計画による日本語教員派遣事業開始
1992年 国際交流基金ロサンゼルス日本語センター開設。NCSTJNational Council of Secondary Teachers of Japanese)発足、JALEX Program始まる
1993年 College Boardachievement testSAT)に日本語が加わる。A Framework for Introductory Japanese Language CurriculaNFLCNational Foreign Language Center)より発表。米国において、日本語能力試験実施開始
1994年 NCOLCTL(National Council of Organizations of Less Commonly Taught Languages)発足。ワシントン州において日本語スタンダードカリキュラム完成
1995年 オレゴン州において日本語スタンダードカリキュラム完成。NCSTJが正式にACTFL(American Council on the Teaching of Foreign Languages)に加盟
1996年 ウィスコンシン州において日本語スタンダードカリキュラム完成。ACTFLによる、"The Standards for Foreign Language Learning for the 21st Century"完成
1998年 NCSTJが団体名をNational Council of Secondary Teachers of JapaneseからK-16を含む National Council of Japanese Language Teachers (NCJLT)に改名し、活動開始
1999年 ATJNCJLTAlliance officeとしてAATJAlliance of Association of Teachers of Japanese)を開設
1999年 The Standards for Japanese Language LearningNational Standards)完成
2001年 NBPTSNational Board for Professional Teaching Standards)が日本語のNational Board Certificationを開始するも受験者不足のため頓挫
2004年 AP日本語プログラムの開発が本格的に始動
2006年 AP日本語コース開始
2007年 第1回AP日本語試験実施
2009年 California Foreign Language Standardsが完成
2010年 第1回NJENational Japanese Exam)日本語試験実施
2011年 J-LEAPJapanese Language Education Assistants Program)開始
2012年 1月にATJNCJLTが統合し、AATJAmerican Association of Teachers of Japanese)発足
2015年 ACTFLの"The Standards for Foreign Language Learning for the 21st Century"が “World-Readiness Standards for Learning Languages”に改名、更新される
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