ボスニア・ヘルツェゴビナ(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
3 4 76
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 0 0.0%
高等教育 9 11.8%
学校教育以外 67 88.2%
合計 76 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 旧ユーゴスラビア時代は、首都にあったベオグラード大学言語学部に1975年に開設された日本語講座が日本語学習の中心であった。1990年代の紛争を経てボスニア・ヘルツェゴビナが旧ユーゴスラビアから独立した後、一部の都市で高校や外国語学校において日本語クラスがあったが、講師の不足や財政難により、その多くは閉講となり、2022年時点の日本語教育機関は、首都にあるサラエボ大学哲学部及び北部デルベンタ市内高校のみとなっている。
2013年からサラエボ大学では一般市民を対象とした日本語公開講座を開設しており、同講座は総合的に日本語を学習できる国内唯一のプログラムとなっている。また、2019年には将来的な日本学科への発展を目指してサラエボ大学哲学部内に修士・博士課程学生を対象とした日本語選択コースが開設され、今後、日本研究の拠点となることが期待されている。

背景

 マンガ、アニメ、ゲームなどの影響を受け、若い世代には、独学で日本語を学習しているものも多い。

特徴

 若者を中心に日本語学習を希望する者は多いが、ボスニア・ヘルツェゴビナの日本語教育環境はほとんど整備されておらず、国内各地より日本語講座の開設の声が聞かれるが、圧倒的な教師不足により講座開講は実現が困難である。

最新動向

 2021年、令和元年度草の根文化無償資金協力「サラエボ大学哲学部日本語・日本文化教室整備計画」によって、サラエボ大学哲学部内に日本語及び日本文化コース専用の教室が新設された。オンライン授業も可能となるテレビ会議システムが使用可能な機材などを伴う教室であり、新型コロナウイルス感染拡大時に効果的に活用されたほか、遠隔地の受講者の受入れや日本の大学と回線を繋ぐ授業など、今後増えるであろう多様なニーズにも応えうる日本語学習環境が整備された。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 バニャルカ市の高校において、2014年から課外講座ながらも民間企業などの資金援助を得て、日本人教師による日本語講座が開設されていたが、資金不足などにより2017年に閉鎖された。
 デルベンタ市の高校において、2000年3月にボランティア・ベースの日本語教室が開講され、日本に滞在経験のある教師が課外活動として日本語を指導し、毎年10~15名程度の生徒が日本語を学習、ベオグラード大学(セルビア)の日本語学科に進学した受講者も数名いた。 同教室は2007年に閉講となったが、2019年10月同市在住の日本人がボランティア・ベースで講師となり、同高校における日本語クラスが再開された。その後新型コロナウイルス感染拡大によって閉講を余儀なくされたが、2022年10月に再び開講の運びとなり、現在約25名の生徒が日本語を学んでいる。

高等教育

 サラエボ大学と上智大学との間の協力覚書に基づき、2016年から毎夏、上智大学が大学院生をサラエボ大学哲学部に派遣し、一般市民を対象とした夏期日本語講座を開講している(2020年度、2021年度は新型コロナウイルス感染拡大によりオンラインで実施、2022年度は対面でのクラスとなり約60人が受講した)。
 2019年10月、サラエボ大学哲学部は、将来の日本学科開設を目指し、英文学科下に同大学の大学院生を対象とした正規の日本語選択コースを開設。授業は日本人の講師が担当し、2022年8月時点で10名の学生が登録されている。

学校教育以外

 サラエボ大学哲学部日本語公開講座は、初心者/初級/中級/中上級/上級の5つのレベルで開講されており、中学生から社会人まで一般人40~50名が受講している。
 また、同学部では、1月の書き初め大会、3月の弁論大会,7月の日本語能力試験などの行事も毎年行い、学習者のモチベーションアップに努めている。講師は日本人講師1名及び同講座卒業生1名のみであり、他国からの派遣や現地講師の育成を含めた講師の確保が大きな課題である。
デルベンタ市では、2021年12月に市内盲学校にて日本語クラスが開講された。生徒の障害に応じて点字及び墨字(印刷された文字)の教科書を使用し日本語の授業を行ったほか、味覚や触覚をもって日本の文化を感じる体験授業を行った。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 9-3(4)-3制
プレ・スクール(1年間)
初等教育:義務教育(9年間、6~14歳)
中等教育:専門学校(3年間) 進学予備学校(4年間)
高等教育:学士(3年以上) 修士(2年) 博士(3年)

教育行政

 ボスニア・ヘルツェゴビナは、2つのエンティティ(ボシュニャク(ムスリム)系及びクロアチア系を中心とする「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」とセルビア系を中心とするスルプスカ共和国)及びいずれのエンティティにも属さないブルチュコ特別区により構成される高度に分権的な国家である。教育行政は、国レベルでは、民生省(Ministry of Civil Affairs)が統括を行っているが、両エンティティの各教育省が強い権限を有し、「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」においては10のカントン(県)にそれぞれ存在する教育省も教育行政に大きな権限を有する。

言語事情

 ボスニア語、クロアチア語及びセルビア語が憲法で公用語とされている。旧ユーゴ時代は、これらの言語は「セルボ・クロアチア語」と呼ばれていた。ボスニア語とクロアチア語はラテン文字表記、セルビア語はキリル文字表記が多い。

外国語教育

 英語は初等教育第1学年(6歳)より必修科目。第二外国語としてフランス語またはドイツ語を第5学年(10歳)より、選択履修。

外国語の中での日本語の人気

 初等教育で履修する外国語(英語、フランス語、ドイツ語)を除けば、当地で学習可能な言語はイタリア語、スペイン語、ロシア語、トルコ語、アラブ語、ペルシャ語などである。これらの言語は大学で履修可能であるため、これらの言語と比較すると日本語学習者の数は少ないが、サラエボ大学における日本語公開講座開設時には、200名以上の応募があり、一部学生や一般市民の間で日本語学習に対する関心の高い層が存在する。また、サラエボ大学で日本語講座を開始した際、すでに独学で日本語を学習し、それなりのレベルにある者もいたことを踏まえれば、独学者も相当数あると思われる。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 スマートボードを活用し、JF日本語教育スタンダード準拠JFオフィシャル日本語コースブック『まるごと 日本のことばと文化』の内容に沿って日本語や日本文化が学べるサイト「まるごと+(まるごとプラス)」を主教材として用いている。

高等教育

 初級教材として、『げんき 第二版』(坂野永理ほか、1999、 The Japan Times)シリーズ、中級教材として『上級へのとびら』(岡まゆみほか、 2009、くろしお出版)シリーズを主教材として用いている。また、副教材として2013年よりJFから寄贈された日本語教材を多数用いている。

学校教育以外

 特になし。

IT・視聴覚機材

 高校の比較的大きな教室や大学の講堂にはコンピュータ、プロジェクター、インターネット環境が整っており、教育現場のIT化は進んでいる。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 資格に関しては不明。

高等教育

日本人教師に対して求められる条件としては、一般的には修士号を取得していることが望まれている。

学校教育以外

 一般的にJLPT(日本語能力試験)N3レベル以上が望まれている。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成を行っている機関、プログラムは確認されていない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 日本語ネイティブ教師1名(サラエボ大学)が教師として、非正規の日本語公開講座及び正規の日本語選択コースの指導を一任されている。

教師研修

 特になし

現職教師研修プログラム(一覧)

 特になし

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2016年度よりサラエボ大学哲学部公開日本語講座が、JF「中東欧日本語教育プラットフォーム」、ベオクラード大学による「セルビア日本語教師会」に参加。情報交換などを行っている。

最新動向

 特になし

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 JFJICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

日本語教育略史

2000年 デルベンタ市の高校にてボランティアによる日本語教室開講(一時休講)
在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本大使館にて日本語教室を開講(既に閉講)
2003年 ビイェリナ市の外国語学校にて初心者のための日本語教室開講(休講中)
2004年 バニャルカ市の外国語学校「マルコ・ポーロ」にて、初心者向けの日本語教室を開講(休講中)
2006年 在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本大使館に代わり「BH-日本友好協会」の下、初級クラス開講(既に閉鎖)
2013年 サラエボ大学非正規講座として日本語公開講座開講
2015年 サラエボ大学が「さくらネットワーク」のメンバーとなる
2016年 サラエボ大学哲学部において、上智大学大学院生が講師を務める夏期日本語講座開講
2019年 サラエボ大学哲学部において、正規の日本語選択コース開設
2021年 令和元年度草の根文化無償資金協力「サラエボ大学哲学部日本語・日本文化教室整備計画」によって、サラエボ大学哲学部内に日本語及び日本文化コース専用の教室が新設
2022年 デルベンタ市の高校にて日本語教室再開
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