チリ(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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11 | 39 | 1,096 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
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初等教育 | 44 | 4.0% |
中等教育 | 64 | 5.8% |
高等教育 | 323 | 29.5% |
学校教育以外 | 665 | 60.7% |
合計 | 1,096 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1975年に日智文化協会において、学生や社会人など広く一般人を対象とした日本語講座が開設されたのが始まり。その後、1993年にサンティアゴ大学(国立)に選択科目として日本語講座が始まり、1995年には5年制の翻訳課程(英語・日本語専攻)が人文学部に開設された。2003年以降は日本語を選択科目に取り入れる大学や日本語教育機関(語学学校)の増加傾向が見られる。
背景
日本とチリの関係は、要人往来の活発化を中心とする政治的関係や、経済連携協定(EPA)を通じた経済関係のみならず、日本料理やマンガ、アニメなどに対する人気が高まるにつれて、チリ人の間にも日本に触れる機会が身近に増え、日本文化全般に対する関心が高まっている。
特徴
一般的に外国語教育はあまり盛んでなく、中等教育で選択履修科目となっている英語やフランス語以外の外国語を学習する機会は少ないが、日本語学習者は、年々学習希望者が増加している。
チリ人にとって、日本語学習のきっかけは、日本文化への関心、母語であるスペイン語と全く異なる言語の学習への挑戦など、非実利的な傾向が一般的であるが、技術・経済的に発達した日本との結びつきから、留学、就職を意識した学習者も増加している。
最新動向
チリにおける日本語教育は、大学専門課程のサンティアゴ大学、一般人向けの中央日本人会、日智文化協会、日本総合学習センターなどで行われているほか、地方の大学や日本人会などでも行われている。さらには、日本の伝統文化への関心のみならず、若者層を中心に、特にマンガ、アニメ、音楽などのポップカルチャーへの人気が高まっており、多くのチリ人がインターネットなどを通じて最新情報を入手している。また、日本のアニメを専門に放映するケーブルテレビ、日本のアニメイベントなどもある。一方で、日本語学習への関心が高まる中、日本語教師(特に日本人教師)が不足しており、日本語学習の需要をカバーしきれていないのが現状である。2020年度、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として教育機関の活動がオンラインによる指導へと移行し、全ての日本語教育機関がオンラインによるコースを実施した。外出禁止令(自宅待機措置)の開始と共に初級の学習者の増加が見られたが、状況の長期化と共に同学習者は減少するとの見方がある。一方、日本語能力試験の受験者数は大幅な増加となり、2021年12月の試験における全体的な受験者数は2019年12月比で193%増えた。日本語を勉強している方法として、独学による学習者や、従来の日本語教育機関とは異なる非公式な学習グループなどに属して勉強していると述べた受験者が多かった。2022年後期時点、日本語学校におけるオンライン授業は継続されているが、一部では対面式な講座も再開された。
教育段階別の状況
初等教育
Colegio Bonsai Montessoriオンライン小中併設校で2022年から選択科目の日本語講座が開設された。
中等教育
Liceo B. Carmela Carvajal de Pratで2017年から選択科目の日本語講座が開設された。しかし、2020年度、新型コロナウイルス感染症の感染防止策として、授業はオンライン指導へ移行され、日本語講座は休止となった。
(注:チリの教育は、下記のとおり、初等、中等、高等教育の8-4-4制。)
高等教育
チリでは、高等教育が卒業後の職業と直結して考えられる傾向が強く、大学で外国語を専攻した場合、教員養成、翻訳者養成のコースがほとんどである。4年生まで修了すると学士号、5年生までの全課程を修了すると翻訳家の資格を授与される。
(1)サンティアゴ大学(Universidad de Santiago de Chile : USACH)
スペイン語圏の南米における高等教育機関で唯一、正式専攻課程としての日本語教育が行われている。1993年に選択科目としての日本語講座が設置され、1995年からは、人文学部言語文学学科翻訳課程に5年制の英語・日本語専攻としての日本語講座が開設された。2013年には翻訳課程のカリキュラムが改訂され、1年次に英語、日本語、ポルトガル語を学び、2年次に英語・日本語専攻か英語・ポルトガル語専攻を選択するというカリキュラムになった。翻訳課程であるため、日本語、文法、作文などのほか、翻訳、通訳などの科目も学ぶ。毎年入学希望者が増えており、国内における知名度も上がっている。課外活動として、チリの主要大学に留学中の日本人学生や在留邦人と交流する機会を定期的に設けている。また、毎年日本語専攻の学生たちが自主企画として「日本祭」という文化祭を開催している。
卒業時の到達レベルは日本語能力試験N3レベルだったが、2009年より能力試験N2合格を目指したプログラムを実施した。新カリキュラムではN2合格レベル到達を卒業条件にし、現在はそれに向けたシラバスを実施している。英語・日本語翻訳家の資格を取得することができる。2022年まで23期約400名の卒業生を送り出し、2022年後期時点、約93名が在籍している。文部科学省国費留学生、また国際青年交流事業などで短期渡日する者が毎年数名程度おり、日本企業の進出が進む中、卒業生で日本関連業種に就職する者も増えてきている。なお、サンティアゴ大学には、日本語課程(専攻)のほかに選択科目としての日本語講座もある。2020年度、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として、授業はオンライン指導へ移行されたが、2022年後期に対面授業が再開した。
(2)その他の大学
選択外国語科目として、次の日本語講座が開設されている。
- アウストラル大学(Universidad Austral)、私立、バルディビア(南部)、2003年
- コンセプシオン大学(Universidad de Concepción)、私立、コンセプシオン、2012年
学校教育以外
チリ中央日本人会、第5州バルパライソ日系人協会のほか、日智文化協会(Instituto Cultural Chileno Japones : ICCJ)、日本統合学習センター(Centro de Estudios Integrales de Japon : CEIJA)においてそれぞれ日本語教室が開設されている。また、2018年まで、チリでは毎年「日本語弁論大会」が開催された。(在チリ日本国大使館、日智商工会議所及びJFが協力。学習時間数により3レベルに分類)。当初は日智文化協会とサンティアゴ大学の2機関の学習者が中心であったが、徐々に他機関からの参加者が増え、地方からの参加者も増加している。2020年度、新型コロナウイルス感染症の拡大を考慮し、日本語弁論大会が中断となった。2022年に「朗読発表会」というオンラインイベントに変更した。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
8-4-4(~6)制。
幼稚園1年間(5歳)、初等教育が8年間(6~13歳)、中等教育が4年間(14~17歳)。高等教育機関は大学(専門により4~6年)、技術専門学校(専門により2~3年)がある。初等教育8年間と中等教育4年間の計12年間が義務教育とされている。
教育行政
すべて教育省(Ministerio de Educación Pública)の管轄下にある。
言語事情
主要言語(公用語)はスペイン語。
外国語教育
公立校では、一般に初等教育5年生より英語が教えられている。就学前教育あるいは小学校1年生から教育を開始する機関もある。以前は7~8年生の2年間、第二外国語としてフランス語が教えられていたが、2002年より選択制となった。私立校では学校により事情は大きく異なる。
外国語の中での日本語の人気
一般的に英語以外の外国語はあまり重視されておらず、日本語学習者についても、チリは計画的移民がなく日系社会の規模も極めて小さいことから、近隣諸国と比べると少なかった。しかしながら、上記のとおり教育機関数や学習者の増加が見られること等に鑑みれば、日本語の人気・ニーズは上昇傾向にあると考えられる。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
2022年からColegio Bonsai Montessoriオンライン小中併設校で選択科目の日本語講座が開設された。主に、『まるごと 日本のことばと文化』 来嶋洋美、柴原智代、八田直美(国際交流基金)及び、「ひらがな・カタカナを書いて覚えるために最適な練習帳」ケネス・G・ヘンシャ、タカガキ・テツオ (タトル)が利用されている。
中等教育
2017年から2019年までLiceo B. Carmela Carvajal de Pratで日本語教育が確認されたが、2020年度、新型コロナウイルス感染症の影響で、学校の必修科目の授業はオンライン指導へ移行され、選択科目としての日本語講座は休止となった。
高等教育
主に使われているテキストは『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)と『まるごと』 来嶋洋美、柴原智代、八田直美 (国際交流基金)。
サンティアゴ大学の日本語専攻では以下の教科書も利用している。
- 『漢字ベーシック』 山下 杉雄、 大西 匡輔(明治書院)
- 『漢検漢字学習』公益財団法人日本漢字能力検定協会(公益財団法人日本漢字能力検定協会)
- 『できる日本語』嶋田 和子 (アルク)
- 『総まとめ』佐々木仁子、松本紀子(アスク)
- 『完全マスター』田代ひとみ、宮田聖子、荒巻朋子(スリーエーネットワーク)
- 『中・上級のための速読の日本語』 岡 まゆみ (The Japan Times)
- 『小論文への12のステップ』 友松 悦子 (スリーエーネットワーク)
- 『大学生になるための日本語』 堤良一、長谷川哲子(ひつじ書房)
学校教育以外
『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)と『まるごと』 来嶋洋美、柴原智代、八田直美(国際交流基金)がよく使われている。
IT・視聴覚機材
サンティアゴ大学では、総合日本語の授業や学生の研究発表などにおいてほぼ毎時間パワーポイントを使用しており、DVDなどのメディア教材も多用している。教材の配布、課題の提出、学生との連絡には専用のサイトやメーリングリストを活用している。また、インターネットを利用した情報収集の方法を指導しているほか、日本語学習のサイトやスペイン語による日本関係のサイトなどを学生に紹介している。他機関においても、メディア教材やコンピューターが授業に活用されている。独習者の場合、インターネットでアニメや漫画を通じて勉強するとよく聞くが、2020年10月時点でJFのプラットフォーム「MINATO」のオンラインによるコースを使う学習者が増えた。
2020年度から、新型コロナウイルス感染症の対策とし、全ての授業はオンライン化のため、Zoom、Microsoft Teams、Google Formsなどを用いて行われている。また授業の準備をする際にも各種インターネットソフトやアプリなども利用している。
教師
資格要件
初等教育
例外を除いて、日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
選択科目としてコースが教育カリキュラムに含まれていないため、特に資格や条件は必要ない。
高等教育
特に日本語教師としての資格要件はない。実際に日本語教師になっている者は、学士号を持ち(専門不問)、外国語教育についてある程度の経験を持っている。チリ人が大学の正式な教員となるためには、日本語、言語学関連の修士号以上を取得していなければ難しい。
学校教育以外
特に日本語教師としての資格要件はない。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を行っている機関、プログラムは確認されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
常設講座のポスト(30名)では、53%の教師(16名)が日本人である。日系人を含むチリ人講師が増加傾向にある
大学と民間機関において、日本人教師が日本語講座を担当している。
教師研修
チリからは毎年日本で実施される日本語教師研修に参加している。
また、2015年~2019年にペルーで実施された南米スペイン語圏日本語教育連絡会議にチリから日本語教師が参加した。2020年に行うオンライン版にもチリ代表が参加する予定がある。2016年~2019年には、日本語教育専門家がチリ訪問の機会を捉え、日本語教育のワークショップが実施された。
さらに、サンティアゴ大学は、2014年~2016年に、サンティアゴ大学が外国語としての日本語教育セミナーを開催した。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
2003年5月にチリ日本語教師会が発足したが、現在日本語教育関係のネットワークは確認されていない。
最新動向
現在日本語教育関係のネットワークは確認されていない。
2019年からメーリングリストやオンライン会議に通じて日本語教師が日本語に関する情報共有や意見交換を行っている。2020年に新型コロナウイルス感染症により日本語授業がオンライン化し、教師の意見交換の機会が休止された。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
なし
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
なし
シラバス・ガイドライン
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。
評価・試験
共通の評価基準や試験は確認されていない。
2011年12月より日本語能力試験が実施されており、現在は7月と12月の年2回行われている。
日本語教育略史
1975年 | 日智文化協会に日本語講座開設 |
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1993年 | サンティアゴ大学人文学部に選択日本語講座開設 |
1995年 | 同大学人文学部言語文学学科に翻訳課程英語日本語専攻開設 |
2002年 | アウストラル大学に課外日本語講座開設 |
2003年 | 同講座が正式の選択科目になる 国立高校「Instituto Nacional」に課外日本語講座開設(現在は閉鎖) カトリカ・デル・ノルテ大学に日本語クラブ開設(現在は閉鎖) チリ中央日本人会に成人対象の日本語講座開設 |
2004年 | 小学校2校(エルターボ)に日本語講座開設(現在は閉鎖) 第5州バルパライソ日系協会に日本語講座開設 カトリカ・デル・ノルテ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) |
2005年 | ラ・セレナ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) |
2006年 | アコンカグア大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) カトリカ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) |
2007年 | 日本統合学習センター(CEIJA)に日本語講座開設 「日本の心」(Cdj)語学学校開設(現在は閉鎖) |
2009年 | 実行委員会主催による初の全国規模の弁論大会開催 アジアグローバル(日本語、中国語などのアジアの言語・文化を扱う)が初等・中等教育機関と連携し日本語講座を実施(現在は閉鎖) |
「第1回チリ共和国日本語教育セミナー」開催 |
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2011年 | 日本語能力試験実施開始 チリ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) ルカリウエン文化センターに日本語講座開設 |
2013年 | チリ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) コンセプシオン大学に選択日本語講座開設 |
2016年 | タルカ大学に選択日本語講座開設(現在は閉鎖) |
2017年 | Liceo B. Carmela Carvajal de Prat女子高等学校に選択日本語講座開設 (現在は休止) Universidad Abierta de Recoletaレコレタ区立開放的教育機関に選択日本語講座開設 (現在は休止) |
2022年 | Colegio Bonsai Montessoriオンライン小中併設校に選択日本語講座開設 |