ミャンマー(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
189 | 896 | 19,124 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 0 | 0.0% |
高等教育 | 855 | 4.5% |
学校教育以外 | 18,269 | 95.5% |
合計 | 19,124 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
学校教育としての日本語教育は、1964年の国立外国語学院(Institute of Foreign Languages:IFL)創設時に日本語学科が設置されたことから始まる。国立外国語学院は1996年にヤンゴン外国語大学(Yangon University of Foreign Languages:YUFL)に改組され、1997年12月にはミャンマー第2の都市マンダレーにマンダレー外国語大学(Mandalay University of Foreign Languages:MUFL)が創設された。ミャンマーで日本語専攻課程としての日本語教育が行われているのは、この2校のみである。両大学とも当初は、専門課程のみだったが、1999年に学士課程が設置されて今日に至っている。また、2009年にはYFFLに、2012年にはMUFLに修士課程が設置された。また一部の大学では選択科目として日本語教育を実施しているところもあった。
学校教育以外での日本語教育は、ミャンマー人が日本語を教授する日本語教育機関に始まり、1980年代後半になると日本人ボランティアによる日本語教室がヤンゴン市内の僧院で開かれるようになった。1990年代中頃には、ミャンマー人による教育機関がヤンゴンを中心に増加しはじめ、日本人による民間の教育機関も設立された。2011年に軍事政権から民政移管されると、日本語学校数も一気に増え、2018年度機関調査では、ミャンマー全国で400校ちかくの民間の教育機関が日本語教育を行っていることが確認されている。これまではYUFLやMUFLで学んだ卒業生や訪日経験者などが小規模な学習塾を開いたり、または家庭教師として日本語教育を行ったりしているケースが多かったが、2010年代に入って資金力を持った大きな学校や、日本国内の日本語学校の提携校などが増えつつある。また、日系もしくは日本と取引のある企業内で社員を対象とした日本語教育が行なわれている場合もあり、技能実習生送り出し機関による日本語教育も数多く行われている。2020年10月時点では、技能実習や特定技能の送り出し機関を含め500以上の日本語教育機関が確認されていた。
日本語能力試験は1999年12月より実施されており、2015年からは7月にマンダレー、12月にヤンゴンという変則年2回の実施となった後、2018年試験からはヤンゴン・マンダレー両都市で年2回の実施となった。2015年はマンダレー・ヤンゴン合わせて約8,500名であった応募者数が、2016年は約13,000名、2017年は約22,000名、2018年は約38,000名、2019年は約63,000名と激増した。
背景
第二次世界大戦前からの長い日本との長い関わりから、ミャンマーは日本文化に高い関心を持つ親日国であると言える。高齢者の中には日本語を解する者もあり、若年層でも日本にあこがれを抱く者が多い。
一方、1988年に起こった学生による民主化運動と、軍事政権によるその制圧以降、政治的には閉鎖的な状況が続き、1990年代後半に一時政策が緩み日系企業の進出や日本人観光客が増加した時期があったものの、結局一時的なものに終わった。その後2011年に民政移管されたのち、民主開放路線が一気に進んだ。現在は、日系企業の進出や日本人訪問客の増加に伴い、日本語を使用する就業機会も劇的に増加しており、学習者数も大幅に増えている。
特徴
初等・中等教育機関には第二外国語の授業がないため日本語教育も実施されていない。よって、高等教育機関入学後、あるいは学校教育終了後に日本語学習を開始する者が多い。
2000年代以降、ミャンマーでの日本語学習熱は高まりを見せてきたが、2011年の民政移管後はその傾向が顕著となり、外国語大学、民間の教育機関、僧院など、さまざまな機関で多くの人が日本語を学んでいる。日本語学習の主な目的は、就労や留学あるいは訪日実習であるが、日本へのあこがれや期待が大きいことも考えられる。
最新動向
上述のとおり、ミャンマーでの日本語教育は高い関心と規模の拡大をみせてきたが、2020年の新型コロナ流行によって、また、2021年の政治的社会的状況の混乱によって、多数の日本語教育機関が授業継続の面で次第に困難に陥り、閉鎖(または一時閉鎖)に追い込まれた。基金が確認した日本語教育機関数は、411機関(2018年度)から189機関(2021年度)に減少した。その後、2022年に入り、民間日本語学校が徐々に授業を再開するなど、各種活動が復活しつつあるように見受けられる。
JLPT応募者数は、2016年は約13,000名、2017年は約22,000名、2018年は約38,000名、2019年は約63,000名と激増している。2020年はコロナ禍のため、7月、12月ともに実施されなかったが、2021年12月から再開した。なお、2022年7月JLPTへの応募者数は13,789名であった。
JFT-Basicが2020年3月に実施されたがコロナ禍のため、それ以降実施を見合わせていた。その後、2021年1月に再開したものの、現地の社会的混乱のため、3月から再び実施が見送られたが、2022年10月から再開した。なおミャンマーで認められている特定技能職種は「宿泊」「ビルクリーニング」「介護」「外食」「農業」の5分野であり、それぞれの技能試験が実施されている。2022年12月現在、ミャンマー政府認定の技能実習生送り出し機関は299機関であり、特定技能送り出し機関は146機関ある。
当地の昨今の経済的状況により、日本での就労を希望する者が増えており、その流れの一環で、JLPT及びJFT-Basicの受験希望者が急激に増えていることが確認されている。
2020年9月、J-SAT出版より『まるごと日本のことばと文化入門』の「活動編」「理解編」が出版された。
年に2回実施されている「日本語教師セミナー」はコロナ禍のため、2020年度以降はオンライン形式で実施されている。
教育段階別の状況
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない(一部インターナショナルスクールのみ)。外国語教育は英語のみである。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。外国語教育は英語のみである。
高等教育
YUFLとMUFLに学部(B.A.)、修士(M.A)、専門課程(Diploma Course)、夜間部(Certificate Course)の4コースが設置されている。
また両校に日本語教師育成コースが設置されている。
両校の日本語学科は、英語学科と並んで人気が高く、医科大学、工科大学、歯科大学に次いで入学に際して高い得点が必要とされている。
学部は修了期間4年間の学士課程であり、1コマ50分の授業で朝9時から午後3時半までの全日課程である。
修士課程は修了期間2年間だが、修士1年次の前に1年間の修士予備課程(Qualify Course)が設けられており、計3年間の課程となっている。
専門課程は大卒以上が対象で講義は週5日、午前7時~8時40分に実施されている。修了期間4年間であり、働きながら通学する者が多い。
夜間部は高卒以上が対象で、3か月1タームで初級Ⅰ(前半・後半)・初級Ⅱ、中級Ⅰ(前半・後半)・中級Ⅱ、上級Ⅰ(前半・後半)Ⅱの9レベルに分けられている。学士取得以上で夜間部の全レベルを修了すれば専門課程3年に編入できるが実際に編入するケースは少ない。
学校教育以外
学校教育以外の日本語教育機関は、2018年度日本語教育機関調査においては411機関、2020年10月時点で500以上の機関が確認されていた。その多くがヤンゴンに集中しているが、第2の都市マンダレーはもちろん、バゴー地域、ザガイン地域、シャン州、モン州などの地方都市にも民間の日本語教育機関がある。また、僧院のほか小規模な学習塾や家庭教師が日本語教育を行っていた。その後、前述のとおり、 2020年の新型コロナ流行によって、また、2021年の政治的社会的状況の混乱によって、民間日本語教育機関の規模が縮小したが、2022年に入り、次第に復活の兆しをみせている。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
現行の11年間(5歳~15歳)の基礎教育(幼稚園1年、小学校4年、中学校4年、高校2年)を13年間(5歳~17歳)の基礎教育(幼稚園1年、小学校5年、中学校4年、高校3年)とすることに向けてカリキュラムを改定する抜本的な改革が進んでいる。2016年6月に5歳児を対象として一年間の就学前教育(幼稚園)を導入した。
また、2017年6月には国際協力機構(JICA)の支援を受けて開発されたGrade 1の教科書を導入した。以降5年間をかけて小学校(Grade1-5)のカリキュラム改定が行われる予定で、2020年現在Grade4まで進んでいる。またそれと同時に、並行して中学校、高校の改定も行われる。高校は現行の二年間から一年追加され三年間となる予定である。
基礎教育終了後は、各種職業学校、短期大学、大学、大学院が設置されており、在学期間は、短期大学が2年、大学は学部により異なり4~6年である。
教育行政
基礎教育は教育省の管轄下にある。高等教育機関については、予算などは教育省が所掌しているものの、学術面などは関連する各省が管轄している。外国語大学は教育省、医科大学は保健・スポーツ省が管轄している。
言語事情
ミャンマー語(チベット・ミャンマー語族系)が公用語である。
その他、少数民族の間ではそれぞれの言語が使用されている(ミャンマー政府の発表によれば、ミャンマーには135以上の民族がある)。中国系・インド系住民の間では、それぞれ中国語ならびにインド系諸語も使用されている。国境沿いなどの一部の地域では、初等・中等教育において地元の少数民族言語教育を行っている場合もある。
外国語教育
初等・中等教育における外国語教育は、国境地域の一部を除き、英語以外認められていない。
高等教育においては、長らく英語以外の外国語を履修できるのはYUFLとMUFLのみであり、外国語専攻の学生以外、英語以外の外国語は正規科目として履修科目に含まれなかった。しかし、2016年よりヤンゴン工科大学とマンダレー工科大学において選択外国語としての第二外国語として日本語・韓国語・フランス語・ドイツ語が採用された。また、マンダレーコンピューター大学など一部の大学は日系企業や民間日本語学校の協力を得て日本語教育を実施しているところが出てきている。
YUFLとMUFLでは、日本語のほかに、英語、フランス語、ドイツ語、中国語、韓国語、ロシア語、タイ語が学士課程で教えられている。その他イタリア語が専門課程で教えられている。
外国語の中での日本語の人気
外国語大学の入学の難易度は、以前は英語、中国語、日本語の順であったが、2012年に日本語が中国語を上回った。2011年の民主化以降、日系企業の進出や、日本人訪問客の増加により、就職の機会や日本留学への関心の高まりに伴い日本語学習熱が高まってきている。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
YUFL及びMUFLにおいて、以下の教材が使用されている。
- 1.学部
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- 『初級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)
- 『毎日のききとり』(前出)
- 『日本語かな入門』国際交流基金日本語国際センター(凡人社)
- 『日本語読解入門』富岡純子(アルク)
- 『たのしく聞こう』(前出)
- 『中級から学ぶ日本語』松田浩志ほか(研究社)
- 『中級日本語』(前出)
- 『実例で学ぶ 日本語新聞の読み方』小笠原信之(専門教育出版社)
- 『ニュースで学ぶ日本語』(前出)
- 『テーマ別上級で学ぶ日本語』松田浩志ほか(研究社)
- 『外国人のための新聞の見方・読み方』KIT教材開発グループ(凡人社)
- 2.専門課程(Diploma)
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- 『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
- 『毎日のききとり』(初級)(中級)宮城幸枝ほか(凡人社)
- 『たのしく聞こう』文化外国語専門学校(凡人社)
- 『ニュースで学ぶ日本語』堀歌子ほか(凡人社)
- 『中級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)ほか
- 3.夜間部
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- 『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
- 『中級日本語』(前出)
- 『自然な日本語 中級用会話教材』桜井晴美(凡人社)
- 『日本語中級Ⅰ』国際交流基金日本語国際センター(凡人社) ほか
学校教育以外
民間の日本語教育機関においては、『新日本語の基礎』、『新日本語の中級』ともに海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)、『みんなの日本語初級Ⅰ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)などが使用されている。各教育機関のオリジナル教材を使用している学校もある。また「まるごと日本のことばと文化」を使用している機関もある。
IT・視聴覚機材
YUFL及びMUFLには日本国政府から援助を受けたLL機材が使える教室があり、マルチメディア教室として利用されている。しかし、まだまだ一部の教室でしかプロジェクターが使用できず、停電も頻繁に起きるため、通常授業でのコンピューターの使用は限定的である。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
YUFL、MUFLの常勤教員の採用条件は、「日本語学科を優秀な成績で修了したミャンマー国民であること」とされており、修士課程に進むことが条件の一つとなっている。
なお、大学の日本人日本語教師の受け入れに関しては、資格要件や採用枠は決められていないが、個別の申請に対してその都度、教育省など関係政府機関との協議の上判断されている。
学校教育以外
民間の日本語教育機関においての日本語教師の資格要件の定めはない。
日本語教師養成機関(プログラム)
2018年12月からYUFLにてJFとの共催で教師育成プログラムが実施されている。尚、2019年12月からMUFLでも同プログラムを開始した。しかしながら、新型コロナの流行や政治的社会的状況の混乱によって、2020年4月以降、一時中断し、2021年12月からオンライン形式で再開した。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
大手の民間教育機関の中にはネイティブ教師を採用するところもある。また、日本人経営であったり、日本の日本語学校の姉妹校であったりする機関も増えつつあり、ネイティブ教師の数も増加傾向にある。機関によってその役割はまちまちであるが、文法を教えるミャンマー人教員と協力し、主に会話を担当するケースが多く見られる。
しかしながら、2020年の新型コロナ流行によって、また、2021年の政治的社会的状況の混乱を原因として、日本語のネイティブ教師を含む多くの在留邦人がミャンマーを出国したことが確認されている。
教師研修
YUFL、MUFLでは、修士課程で外国語教育に関する教育を行ってきた。また、2007年以降、JFが主催する「日本語教師セミナー」を原則として年2回(春・秋)実施している。
また、JFの訪日研修プログラムには毎年数名が参加している。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
現在ヤンゴン在住の日本人教師が中心となって設立したヤンゴン日本語教師会と、主に民間の教師の底上げ勉強会を母体として設立されたミャンマー日本語教師会という二つの団体が存在する。両団体ともそれぞれEメールやフェイスブックなどでつながり、総会や勉強会というかたちで定期的に活動を重ねている。ミャンマー日本語教師会は日本語教育セミナーにて立ち上げられた団体である。
日本語教師等派遣情報
国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)
日本語上級専門家
JFヤンゴン日本文化センター 1名 (日本国内でリモート勤務)
日本語専門家
JFヤンゴン日本文化センター 2名(日本国内でリモート勤務)
生活日本語コーディネーター
JFヤンゴン日本文化センター 1名 (日本国内でリモート勤務)
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
現在のところ、確認されていない。
シラバス
初等教育
日本語教育は基本的に実施されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
YUFLとMUFLは共通のシラバス・カリキュラムを使用している。その他共通シラバスなどは存在しない。
その他の教育機関
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
評価・試験
評価・試験の種類
ミャンマーにおける独自の評価基準や試験は存在しない。学習者の到達度を図るための試験としては日本語能力試験(JLPT)が広く認知されており、2019年度には約63,000名が応募し、実施見合わせを経て、2022年7月には13,789名が応募した。その他「NAT-Test」、「TOP JAPANESE(実用日本語運用能力試験)」「JPET(日本語能力評価試験)」が実施されている。また日本留学試験(EJU)も実施されている。
2019年3月にJFT-Basicが実施されたが、コロナ禍により以後実施見合わせとなり、2021年1月に再開したものの、当地の社会的混乱のため、同年3月から再び実施を見送り、2022年10月から再開した。
日本語教育略史
1964年 | 国立外国語学院(Institute of Foreign Language : IFL)に日本語学科設立 |
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1980年代後半 | ヤンゴン市内の僧院で日本人ボランティアによる日本語教育開始 |
1990年代中頃 | ヤンゴン市内にミャンマー人による日本語教育機関が増加 日本人による民間教育機関設立 |
1996年 | 国立外国語学院がヤンゴン外国語大学(Yangon University of Foreign Language : YUFL)に改組 |
1999年 | ヤンゴン外国語大学に学士コース設置 マンダレー外国語大学(Mandalay University of Foreign Languages : MUFL)に学士コース設置 ミャンマーでのJLPTの実施が始まる |
2009年 | ヤンゴン外国語大学に修士課程設置 |
2012年 | マンダレー外国語大学に修士課程設置 |
2013年以降 | 日系企業の激増、日本語学習者の増加 |
2019年 | ミャンマーでのJFT-Basicの実施が始まる。 |