パプアニューギニア(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
1 2 50
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 50 100.0%
高等教育 0 0.0%
学校教育以外 0 0.0%
合計 50 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

 パプアニューギニア(以下PNG)では、ソゲリ国立高校(セントラル州、ポートモレスビー近郊に所在)にて、仙台育英学園高等学校との姉妹校締結により2017年2月から日本語講師1名の派遣を受けて2年間の日本語コースが開始。同コース修了者に「修了証明書」が授与されている。
尚、以下の3教育機関で実施されていた日本語教育は何れもコロナ禍のために休止中。

  • パプアニューギニア大学(首都特別区ポートモレスビーに所在、以下UPNG):2019年2月からJICAシニア海外協力隊員が派遣されたがコロナ禍のため帰国、現在は不在。
  • 国立ポートモレスビー高校(首都特別区ポートモレスビーに所在):2008年より日本語コースは休止中であったが、2019年から放課後の自由選択コースが試行され、2020年も試行が継続されたが、2020年3月下旬以降、コロナ禍によって中断されている。
  • ゴロカ大学(東ハイランド州ゴロカ市所在):2020年2月より、コロナ禍により日本語コースは休止中。
 PNGの日本語教育は、特定の学校に限定されたレベルにとどまっている。

沿革

  1. 1.ソゲリ国立高校:1981年から2006年まで、日本語教育が行われた。2017年2月から仙台育英学園高等学校からの講師派遣により再開。
  2. 2.UPNG人文社会学部言語学科:1984年からJF専門家により初級日本語教育が選択単位科目の一つとして開始された。1999年以降はJICA海外協力隊員により引き継がれたが、コロナ禍のために帰国、現在休止中。
  3. 3.セント・イグナシウス高校:JICA青年海外協力隊員により、1999年から2013年まで日本語の初級教育が行われていた。
  4. 4.ゴロカ大学人文社会学部言語文学科:2003年からJICA海外協力隊員により初級日本語教育が選択単位科目の一つとして行われているが、現在は隊員未確保により休止中である。
  5. 5.ポートモレスビー国立高校:2007年から選択科目として日本語コース開設。2008年より休止。2019年に仙台育英学園高等学校の講師により日本語課外選択授業が試行されたが現在は休止中。

背景

 豪州で盛んだった日本語教育の影響を受け、PNGでも1980年代に日本語教育開始。同時期日本企業の進出が進み、市場に日本製品が出回るにつれて日本への興味関心が高まり、日本語履修者も増加したが、1990年代から日本企業が徐々に撤退し始めたのに伴い減少していった。しかしながら、2010年3月に日・PNG投資協定が署名され、両国間の投資や投資に伴う人的交流が相互に促進され、またPNG国内における日本のテレビ番組の放映が増えている。こうした環境が、今後日本語教育の需要を高める動機付けとして期待されている。

特徴

 国全体としての日本語需要は高くない。中等・高等教育ともに選択科目としての位置づけで、そのため入門・初級レベルにとどまっている。

最新動向

 日本の経済協力については、よく知られており、社会・経済開発等の面での日本の認知度は高い。また、当地でトヨタ車を販売するエラ・モーターズ社(豊田通商)など日本企業への就職や国費留学生試験の合格あるいは当地大学在学中の交換留学で日本に滞在することを目的に日本語を学習する学生はコンスタントに存在する(UPNGは早稲田大学及び琉球大学と留学提携している)。なお、当地では、日本語履修者の意欲向上、地域での社会的認知を狙いとして、日本語スピーチコンテストがさまざまな教育機関において断続的に実施され、2016年にUPNGで日本語ビデオコンテストが開催された。
 2016年には、ソゲリ国立高校と仙台育英学園高等学校が姉妹校締結し、2017年、同校から日本語教師が派遣された。さらに2019年からは、同校は当国の教師を日本へ招いて日本語教師養成のための研修を実施している。2022年現在、G11の15名が週4時限日本語を学習している。そのほか10月から理数系生徒35名の特別授業を週2回(各回90分間)実施している。教師は日本人教師1名と現地人教師1名の2名体制。学習者の日本語のレベルは全員入門から初級前半の範囲にあり、JLPTの尺度に照らせばN5か或いはそれ以下の水準。
2020年にはPNG初の日本語能力試験の実施が発表され、願書が受け付けられたが、コロナ禍によって中止となった。2022年のJLPTでは初めての合格者を輩出(3名)。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 同国の教育制度では、11、12学年のカリキュラムにおいて主要科目以外の選択必修科目は各高校の裁量により設定ができることになっている。ソゲリ国立高校では日本の高校2,3年生に相当する11,12年生を対象に正規の授業時間内で初級日本語を指導している。2022年11月現在で、ソゲリ国立高校の他に日本語教育を実施する高校はない。
 現地人日本語教師の可能性については、現状の社会情勢では現地人日本語教師に生活可能な給与が支払われることは困難。必修科目を持った教員に選択科目として担当させるというアイディアもあるがほとんどの学校で教員不足のため、追加的に他科目を担当する余力はない。これらの状況を変えるためにはさまざまな問題があることから、現地人日本語教師が誕生する可能性は非常に低いと思われる。その中でも、ソゲリ国立高校など一部の学校では、意欲のある教員を日本語授業に参加させたり、日本の学校との姉妹校交流の一環として教員を日本へ派遣したりするなどの努力を行っている。同校は日本語指導を拡充することにより学校の独自性を強めようと考えている。
 ほかにコロナ禍前には理数科教師やコミュニティ開発のため派遣されたJICA海外青年協力隊員が高校などの依頼により選択科目で日本語コースを運営する事例が散見されていた。その内容は専門的な日本語教育ではなく、異文化の理解や関心を高めることに主眼においた日本語クラブ的なものである。現在までにバイタバグ小学校、聖ポール記念小学校、ココポ高校、タブビル高校、メルシー高校、ココポ・ビジネス・カレッジで日本語教育が実施された実績がある。

高等教育

 UPNG及びゴロカ大学(2020年まで)では、人文学部1~4年生を対象とした単位科目として日本語クラスレベル1~4を、4年間を通じて取得するコースを開講していたが、コロナ禍のために現在は休止中。
 両校ともに、ほとんどの学生が初級レベルで学習を終える。国内の日本語需要は低く、在留邦人も少ないため学習の動機付けが課題となっている。他方、文部科学省の国費留学制度が日本語学習の数少ない動機の一つとなっている。日本語を生かした進路がほとんどないため、継続して学習意欲を維持するのが困難な状況にある。
 UPNGでは、琉球大学との間で交換留学生受入制度が2002年度から導入され、日本語を履修する学生から日本への留学生を毎年1~2名送り出している。早稲田大学との間にも交換留学制度が設けられ、数名の学生を送り出している。

学校教育以外

 セント・イグナシウス高校では、2002年に当時のJICA海外青年協力隊員が校内の教員向け日本語クラスを開設。受講者から日本語教師を2名輩出した実績がある。両名はともに数学教師で、生徒対象の日本語クラスにおいて当該隊員とチームティーチングを行った。同様にJICA海外青年協力隊員が地域の一般住民や教員を対象に日本語クラスを開講するケースはあり、2019年は、東ニューブリテン州ココポの観光業従事者120名に、観光客との実際の会話に焦点を当てて、1人16~48時間の初級日本語教室が開催された。
 ゴロカ大学では、2004年に日本語クラスの履修が出来なかった学生、大学職員、外部一般社会人によりJapanese Student Associationが設立され、日本語や文化紹介などに関する行事をJICAシニア海外協力隊員と協議・調整しながら実施していた。2007年7月には当該大学においてJapanese Culture Dayが開催された。
 2005年6月からポートモレスビーにおいて現地人日本語教師が個人で毎週土曜日と日曜日の各2時間、一般人を対象に初級日本語クラスを開いていたが、現在は行われていない。また2005年8月に大使館にて観光業者、ホテル勤務の社会人を対象に3日間の日本語講習を行ったところ、それが報道されるなど反響があった。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 PNGでは就学前学年及び1年生から8年生までの9学年は義務教育である。教育制度は、3-6-4制〔初等教育:Elementary School 3年間(Prep~2年生)及びPrimary School 6年間(3~8年生)、続いて中等教育:Secondary School 4年間(9~12年生)と国立高校:National High School2年間(11〜12年)〕である。なお、政府は、新しい3-6-6制〔幼児教育:Kinder garden School 3年間(Kinder 1~2とPrep 1学年)、及びPrimary School 6年間(1〜6年生)、続いて中等教育:Secondary School 6年間(7~12年生)〕への移行を決定し、2019年から試験的に一部の学校で新制度の導入を開始した。高等教育は大学(4年制)、初等教員養成カレッジ(2019年から3年生から4年制の大学へ移行)、技術短期大学(2年制)で、大学、初等教員養成カレッジ及び技術短期大学への入学資格は12年生修了となっている。初等・中等教育は4学期制、大学と初等教員養成カレッジは前・後期制をとっている。
 2011年に就任したオニール首相(2017年総選挙で首相続投)は教育を重点分野の一つに揚げ、2017年に12学年までの教育無料を宣言したが、2019年に成立したマラペ首相は、財政的困難を理由に同政策を取り下げ、保護者が学費の一部を負担することになった。

教育行政

 公立学校とミッション系の学校、インターナショナルスクールがあるが、インターナショナルスクールを除き教育省・州教育局の管轄下にあり、教職に携わる修道僧を除き、教員は公務員に位置づけられる。国立高校は教育省直轄、その他のSecondary School以下の教育機関は州教育局が管轄する。高等教育機関は高等教育省が所管する。

言語事情

 約800種以上の言語があると言われている。公用語は英語、共通語はピジン語、モツ語である。Elementary Schoolでは、現地語か地域で使われている共通語が指導媒体言語となっており、英語教育も除々に行われる。Primary School以上の学校教育は原則英語で行われる。

外国語教育

 PNGでは初等・中等教育課程において外国語が指導科目として位置づけられていないため、外国語教育はほとんど行われていないが、11~12年生(日本の高校2~3年生に相当)のカリキュラムでは教育省の承認のもと高校(Secondary School)ごとの裁量により選択科目を設けることができる。
 高等教育では、UPNGで日本語以外に、同じく選択課目としてフランス語、インドネシア語のコースがあるが、2020年は講師の病気やビザのトラブルで、両コースとも開講されていない。

外国語の中での日本語の人気

 PNGのインターナショナルスクールではフランス語、中国語、インドネシア語などが教えられている。大学において日本語の人気はあるものの、他の授業時間と日本語授業時間が重なるなど大学側の運営の問題もあり、あまり多くの学生が履修できる状況とはなっていない。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 ソゲリ国立高校では『まるごと日本のことばと文化』、『みんなの日本語』、『にほんご45時間』、『漢字マスターシリーズ』、『げんき』などが進度に応じて使用されている。

高等教育

 PNGの日本語教育の共通化を図る環境が十分整っていないため、中等教育から高等教育まで一貫した共通シラバスに基づいた教科書が作成される見通しはない。

学校教育以外

 日本語教育の実施は確認されていない。

IT・視聴覚機材

 日本語教育にIT・視聴覚機材は使用されていない。

教師

資格要件

 中等教育制度では日本語が履修科目にないため、日本語教師になるための特別な資格要件は規定されていない。現在ソゲリ国立高校で日本語を担当する現地人教員1名は、日本留学経験者もしくは日本語学習者であることが考慮され日本語教師として雇用されている。
大学等の高等教育機関では、教員の雇用には原則として優等学士(Honours Degree)以上の学位が求められる。現在、高等教育機関には現地人日本語教員はいない。

日本語教師養成機関

 当国には日本語教師養成機関はない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 ソゲリ国立高校では、その姉妹校である仙台育英学園によって日本語学習センターが設立され、同学園によりセンター長として日本人教師が雇用され、日本から派遣されている。同教師は日本語教育のみならず、現地人日本語教師養成の任も担っている。また、同校、セント・イグナシウス高校、UPNG、ゴロカ大学では、JICA海外協力隊員がネイティブ教師として派遣された期間があった。

教師研修

 当国の教育機関には、日本語教師を研修する制度及び機関はない。

現職教師研修プログラム

 ソゲリ国立高校日本語学習センターの現地人教師1名が2020年度のJFの「3-(2)海外日本語教師日本語研修」に参加予定だったが、コロナ禍のため中止。2023年度の同「海外日本語教師研修」を申請中。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2019年に日本語教師会が結成され、授業見学などを実施している。

最新動向

 PNGでは初となる日本語能力試験(JLPT)を2020年7月に実施予定だったがコロナ禍により中止。2021年に初めて実施したが合格者は出ず、2022年7月に実施したJLPTでは初めての合格者を輩出(N4 1名、N5 2名)。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

 なし

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 仙台育英学園より日本語教師1名が、ソゲリ国立高校日本語学習センターにセンター長として2017年2月から派遣されているが、コロナ禍のために2020年5月より一時帰国中。現在は現地状況を見ながら行き来している。

シラバス・ガイドライン

 同国教育省に認定されたシラバス・ガイドラインはない。

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 シラバス・ガイドラインは、以前はJICA派遣ボランテイアが各自作成していた。内容は初級程度の日本語。

高等教育

 シラバス・ガイドラインはJICA派遣ボランテイアが各自作成。内容は初級程度の日本語。

学校教育以外

 日本語教育の実施は確認されていない。

評価・試験

日本語教育略史

1980年 ソゲリ国立高校で日本語教育パイロットプロジェクト開始
1981年 ソゲリ国立高校で日本語教育開始(2006年12月終了)
1984年 パプアニューギニア大学人文社会学部言語文学科にて初級日本語教育(選択単位科目)開始
1999年 セント・イグナシウス高校にて選択科目として日本語コース開設
2002年 セント・イグナシウス高校にてJICA海外協力隊員が教員向け日本語クラス開設(2005年7月終了)
2003年 ゴロカ大学人文社会学部言語文学科にて初級日本語教育(選択単位科目)開始
2007年 国立ポートモレスビー高校にて選択必修科目として日本語コース開設(2008年より休止中)
2008年 ゴロカ大学、UPNG日本語コースがJICA海外協力隊員未確保で一時休止
2009年 ゴロカ大学、UPNG日本語コースが再開
2015年 ゴロカ大学、JICA海外協力隊員未確保で一時休止
2017年 UPNGJICA海外協力隊員未確保で一時休止
ソゲリ国立高校で日本語教育再開(仙台育英学園による支援)
2018年 ゴロカ大学で、日本語コースが再開
2019年 UPNGで、日本語コースが再開
国立ポートモレスビー高校で日本語授業が試行的に実施(仙台育英学園による支援)
パプアニューギニア日本語教師会結成
2020年 7月、PNGでは初の日本語能力試験(JLPT)を実施予定だったが、コロナ禍により延期
ゴロカ大学、JICA海外協力隊員未確保で一時休止
2021年 7月4日JLPT実施(第1回)
2022年 7月3日JLPT実施(第2回)
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