平成30(2018)年度 日本語指導助手レポート ラオスでの一年を振り返って

ラオス国立大学
甲藤 瞳

メコン川のようにゆっくりと時間が流れる国、ラオス。私は今、首都ビエンチャンにあるラオス国立大学文学部日本語学科(以下、日本語学科)で日本語指導助手(以下、指導助手)として活動しています。
日本語学科では、現在4学年合わせて約100名の学生が日本語を学んでいます。教員は計10名で、うち8名はラオス人教師、2名は国際交流基金の上級専門家と指導助手です。国際交流基金の派遣は2003年からですが、指導助手の派遣は私で3代目になります。本レポートでは、日本語学科の様子や指導助手の活動についてご紹介したいと思います。

学生は、なぜ日本語を学ぶのか?

先日、授業の活動で1~3年生の学生に「日本語学科を選んだ理由」について聞く機会がありました(複数回答可。3学年計85名中81名が回答)。トップ3は3学年とも共通で、「ラオスにある日本の会社で働きたいから(64%)」「日本に留学したいから(63%)」「日本の文化に興味があるから(54%)」でした。このことからも、日本語学科の学生は日本語学習に対して文化的な関心だけでなく実用的な関心も強いことが分かります。

指導助手の役割

日本語学科での指導助手の仕事は、主に授業を担当することです。下の表は今学期、私が担当している授業です。対象は主に1・2年生(初級~初中級)で、計5科目6コマ(1コマは90分)を担当しています。

  月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
8時~9時30分
10時~11時30分 文法
(2年生)
文法
(1年生)
文法
(2年生)
11時30分~13時 昼休み
13時~14時30分 作文
(2年生)
聴解・会話
(1年生)
15時~16時30分 文法
(3年生)

「文法」は、指定の教科書を使ってラオス人の先生2~3人と交代で行っています。指導助手は、普段の授業の他に進度表の作成やテスト作成も担当します。歴代の専門家や指導助手の方々の蓄積があるので、まとめテストや参考書類などは十分に揃っています。
「作文」と「聴解・会話」は、指導助手が1人で担当しています。これは文法の授業とは違い指定の教科書がないので、教材選びからシラバス作成、テストの作成・評価まで全て1人でしなければなりません。経験が少ない私にとってはとてもチャレンジングですが、上級専門家からアドバイスをいただきながら進めています。手探りで進める中でも、1人で任されている授業で意識しているのは、「学生が日本語を手段として使う機会を増やすこと」です。たとえば、「聴解・会話」では日本人ゲストを招いてインタビューをしたり、「作文」では日本語学科を紹介するパンフレットを作ったりしています。「文法」では難しそうな顔をしている学生も、このような授業では目を輝かせて参加しています。

1年生の「聴解・会話」で日本人ゲストにインタビューをしている写真
1年生の「聴解・会話」で日本人ゲストにインタビューをしている様子。

その他、授業がない時間では授業の準備をしたり、学生の質問や相談に応えたりしています。また、日本語スピーチ大会のときにはスピーチ指導なども担当しています。下の表は、大まかな年間スケジュール表です。

前期(9月~翌年1月) 後期(2月~6月)
9月初旬:
前期授業スタート
10月初旬:
教師の日イベント(日本語学科)
10月下旬:
留学試験(日本語学科)
11月上旬:
中間試験
12月初旬:
日本語能力試験(学外)
12月中旬:
国際フードフェスティバル(文学部)
1月中旬:
期末試験
2月上旬:
後期授業スタート
2月下旬:
日本人大学生との交流会(日本語学科)
3月中旬:
日本語スピーチ大会(学外)
3月下旬:
中間試験
4月中旬:
ラオス正月
6月中旬:
期末試験
6月下旬:
卒業試験

授業にまつわるエピソード

授業は学生とコミュニケーションをしながら進むので、授業の準備中には予想もしなかった展開になることが多々あります。その中でも特に記憶に残っているエピソードを2つご紹介したいと思います。

すき焼き?

1年生の「文法」で「~てもらう」という文型を担当していた日のこと。絵を見て「すき焼きを作ってもらいました」と答える練習の後、私は絵を指さし、「食べたことがありますか?ラオスにもありますか?」と質問しました。学生たちからは「はい、あります」という答えだったのですが、授業の後、何人かの学生が私のところへ来て、「先生、今度、すき焼きを食べに行きませんか?」と誘ってくれました。その後に学生たちと行ってみると、すき焼きではなくラオス式の焼肉だったのですが、今でもこの文型を担当するとその日の授業のことを思い出します。

「はっ?」

ラオスでは相手が何と言ったか聞こえなかったとき、日本語で「え?」と聞く感覚で「はっ?」と言います。初めて聞いたときは学生が怒っているのかと思い、びっくりしました。後日、授業で「コミュニケーションの違い」というトピックが出たとき、「日本人は『はっ?』と言われると、怒っていると思ってしまいます」と話すと学生たちはびっくり。それ以降、学生たちは授業外でも、私と話しているときについ「はっ?」が出てしまうと、すぐ「あ、すみません!」と言って、授業のことを思い出してくれているようです。

以上、授業でのやりとりが教室を越えて繋がっているのを嬉しく感じたエピソードでした。

日本語学科の雰囲気

日本語学科は、先生同士、学生同士、そして先生と学生もとても仲が良く、一つの家族のようです。困ったことがあれば気軽に相談できる関係で、いつも助け合いながら過ごしています。ラオスの人は明るくておしゃべりが大好きな人が多く、先生や学生と顔を合わせるとおしゃべりが始まり、ついつい時間を忘れて話してしまうこともあります。ここでは、授業でなくても先生や学生との関わりがあるので、とても居心地がいいです。

日本語学科の先生や学生の集合写真
日本語スピーチ大会の後、日本語学科の先生や学生のみんなと記念撮影。

一年目を終えて感じること

上でご紹介したように、日本語学科は先生も学生も明るくて温かい人たちばかりです。ですが、ラオスではまだまだ日本語の使用機会は少なく、学生の中には学年が上がるにつれてモチベーションを維持できなくなる人もいます。残りの一年では、授業内で実際に使う機会を増やすのはもちろん、授業外にも繋がるようなきっかけ作りがもっとできたらと思っています。

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