令和元(2019)年度 日本語指導助手レポート 一緒に育つチームを作る―トルクメニスタンの日本語教育現場より

トルクメニスタン国立ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学/
トルクメニスタン教育省国民教育大学
大内 将史

トルクメニスタンは、カスピ海の西、ウズベキスタンとカザフスタンの南、イランの北に位置する中央アジアの国です。2019年のサッカーアジア・カップで初めてその国名を知った方も少なくないかもしれません。2019年5月現在、国際交流基金(以後、基金)からは日本語上級専門家(以後、上級専門家)と日本語指導助手(以後、指導助手)が派遣され2名体制で業務に当たっています。

トルクメニスタンの日本語教育は、2007年に受け入れ先機関の一つであるドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学(以後、アザディ大学)に日本語専攻が開設されたことに端を発します。その後2015年の安倍首相訪問を機に初中等・高等教育機関に急速に広まり、現在、トルクメニスタン国内の日本語教育実施機関数は19機関、学習者数は3,000人を超えています。

とはいえ、10年以上の歴史と近年学習者数が急増したという現状があるものの、まだまだ当地の日本語教育は黎明期といっても過言ではないというのが実情です。そこで、基金の派遣者は国内の日本語教育全体の支援というミッションの元、初中等教育支援、アザディ大学支援、教材開発などを行っています。これらの業務のうち、指導助手が特に重点的に携わっているのがアザディ大学での日本語学科の体制・カリキュラムの見直し、トルクメン人講師支援、日本語授業の実施です。アザディ大学でいわゆる現場屋として、人育てを意識しながら日々現地講師陣や学生達と向き合っています。

アザディ大学外観の写真
アザディ大学外観

指導助手の業務の中心であるアザディ大学は、トルクメニスタン唯一の日本語が専攻できる高等教育機関であり、事実上唯一の日本語教師養成機関です。アザディ大学支援に力を注ぐことにより、間接的にトルクメニスタンの日本語教育全体への効果の波及が期待されます。そのため、指導助手は、現場の講師を育てる、学生を育てる、そして、未来の先生を育てるという意識で日々アザディ大学での業務に取り組んでいます。

現場講師育ての観点では、現地講師の日本語能力、教授技術、仕事の進め方などの課題が挙げられます。

日本語能力の向上のためには、週に一度講師向けの勉強会を開き、日本語力のブラッシュアップを図っています。教授技術に関しては、授業見学や教材検討会、進め方の確認を行い、そして仕事の進め方の点では、授業進度表や、テストなどの共同の管理リソースの作成と共有、連絡体制の強化により、チームとしての日本語教師陣を作ることを目指しています。どれも至極当たり前の試みですが、現地の講師陣はこれまで個として働いており、チームとして働くことには不慣れです。現段階の目標は、まず今期試みているチームとして共同で働くという意識を徹底、定着させ、チーム力を高めることです。そして将来的には、今いる講師陣とメンバーが変わっても、アザディ大学スタイルと呼べる仕事の仕方と教え方の枠が常にしっかりあるという状況の確立を目標としたいと考えています。

また、学生を育てる・未来の先生を育てるという観点からは、授業活動を多様化させることを心がけています。上述の事情から、アザディ大学は、毎年必ず卒業生の何割かを日本語の教師として輩出しています。そのため在学中の学びの形は、将来の教師像に直結します。すでに教鞭を執っている現地講師にも当てはまることですが、どうしても、教えられたようにしか教えられないという実情があるため、学生のうちからなるべく多様な活動、リソースを使った授業を体験することが重要だと考えています。

スピーチ大会向けに指導をしている様子の写真
スピーチ大会向け指導の一コマ

日本語教育的な常識からすれば、やはり地味で当たり前のことばかりですが、自作教材を適宜利用する、ゲームを取り入れる、教科書の練習から離れたやり取りを豊富に行う、授業内のやりとりが教師→学生の一方通行に偏らないよう方向を多様化させる、プレゼンテーションを行わせる、必要ならばインターネットや各種機材なども使うなどを意識的に試みています。これらは、どれも他地域では珍しいことではありませんが、当地では伝統的な翻訳・暗記のみという形式で外国語教授が行われることも珍しくないため、他の教え方があるということを、学生として学ぶ日々を通じて体で感じていってもらいたいと考えています。

また、教師自身がチャレンジングな精神で授業を行うことは、授業体験が動的なものとなり、学生が言語を学ぶ楽しさをより立体的に感じられることに通じると考えられるため、教師志望でない学生に対しても結果的に役立つ試みになっているのではと信じています。

トルクメニスタンでの基金派遣者のミッションは、未来に資する人材を育て、そして、そのためのシステムを構築することです。そのために重要なのは、代が変わる度に振り出しに戻ってしまう活動を行うのではなく、教え方と学科運営のための再現と見直しの可能なシステムを作っていくことであると考えています。基金の派遣は専門家で長くて3年、指導助手は2年です。渡していくバトンの質が年々高くなるよう、上級専門家、そして現地講師の力を借りながら、日々自身も研鑽しつつ明日への改善の道を探っていきたいと思います。

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