令和元(2019)年度 日本語指導助手レポート 日本語学習を楽しむ手助けをする

ローマ日本文化会館
齊藤 タキ

ローマ日本文化会館(以下、会館)は、ローマ市民の憩いの場ボルゲーゼ公園の北部に位置する閑静な住宅街パリオリ地区にあります。10代~80代の様々な目的を持った約250名の学習者が日本語を学ぶ会館での日本語指導助手(以下、指導助手)の業務について紹介します。

会館 日本語講座における指導助手の業務

2018~2019年度(2018年10月~2019年5月)現在、以下4つのコース、総合(3時間×週2回)、夜間(2時間×週2回)、土曜(2時間×週1回)、自律学習支援講座(2時間×週1回)があり、総合・夜間・土曜コースでは全てのクラスで『まるごと 日本のことばと文化』(JF日本語教育スタンダード準拠コースブック)を使用し、日本語で何ができるか(Can-do)を重視した課題遂行型の授業を行なっています。今年度指導助手は、その内夜間コース週4時間、自律学習支援講座週2時間を担当しています。また指導助手は日本語講座全体の運営にも携わっています。具体的には、年に2回の講座登録業務、受講生及び一般からのメール問い合わせ対応補助、講座に関する広報、講師の先生方への連絡、日本語関連のイベントの企画・運営等です。今年度より日本語を初めて勉強する未修者クラスの登録は、先着順ではなく書類選考を行うことになったため、応募書類の伊日翻訳にも携わりました。翻訳を通して多様な学習の動機や学びたいという強い意欲に触れることができ、日本語を教える側として大変貴重な経験となりました。

ポートフォリオコンクール

講座全体のイベントとして、特に注力したのはポートフォリオコンクールです。このコンクールの運営は主に指導助手が担当しています。ポートフォリオとは、(1)Can-doチェックシート(毎回の授業の最後に、自分のCan-doの達成度や気付き等のコメントを記入する)、(2)学習成果物、(3)異文化体験の記録の3点からなり、自分自身の学習成果を記録するためのものです。このポートフォリオの作成を促し、学習の成果を披露する場として、2016~2017年度後期よりコンクールが開始され、年に2回学期末に行われています。各クラスで選出された代表者のポートフォリオを展示し、さらに総合・夜間・土曜各コースより最優秀賞を決定します。実施3年目の今年度は、残念ながらクラス代表に選ばれなかった方たちの中にも、大変熱心に、また楽しんで自主学習に取り組んだ素晴らしいポートフォリオがあると、講師の先生方から報告がありました。そこで、コンクールとは別に、そのような作品を展示する機会を設けました。これはポートフォリオ作成を通じた自律学習が浸透してきている証拠であると思います。今後も継続して学習者が積極的にポートフォリオ作成を行うような取り組みを考えて行きたいです。

自律学習支援講座 ―生涯学習、そして日本語を通した交流―

自律学習支援講座の写真
自律学習支援講座の様子

指導助手が担当する本講座は、学習者自身が、「日本語で何ができるようになりたいか(Can-do)」を考え、自分で決めた目標・学習方法に沿って各々のペースで学習を進めていく講座です。この講座は、様々な理由でクラス授業に通えなかったり、自分に合うレベルのクラスが無い学習者をフォローし、また授業以外での自律学習を促進することを目的として2017~2018年度より開講されました。そこでの教師の役割は、学習者が勉強を進める中で迷ったり助けを求めてきたりした際に助言することです。受講者の中には日本語学習歴が長く、生涯学習として学ぶ高齢者の方もいて、漢字の成り立ちに関する小冊子を作成したり、日本の近代文学作家に関する共同レポートを作成したりする、など独自の目標に向かって活き活きと学習に取り組んでいます。初めはどのように学習者をサポートしたら良いかわからず戸惑いましたが、回を重ねて学習者一人一人と話をしたり、成果物を添削したりすることで、各々が何に困っているのか、どんなことを実現したいのか深く理解することができました。その上で、学習者が自分で勉強を進める手がかりとして、オンライン学習ツールや本の紹介、日本語辞典やテキストの使い方の説明をじっくり行うよう努めたところ、学習者同士が自主的に情報交換をしたり、互いの学習内容にも興味を持ったりするようになり、授業担当者として大変嬉しく思いました。

しかし、一方で講座の目的が理解できなかったり、自律学習をハードルが高いと感じたりして途中で挫折してしまう受講者が多いという課題もあります。今後は、入門レベルや、初めて本講座に登録する学習者が諦めずに自律学習ができるきっかけを作るために、自分自身がもっとオンライン学習ツールなどの知識を深め、有益な情報を提供できるようになりたいと思います。そして、この講座を日本語という共通の興味・関心を通して、年代や職業を超えた様々な学習者が楽しく交流できる場にするべく、指導助手2年目も試行錯誤していきたいです。

日本語多読の会

日本語講座では、学習者が授業で扱うテキスト以外の日本語の本に触れる機会の提供や図書館の利用を促す目的で、月に1回「日本語多読の会」(以下、多読会)を会館の図書館で実施しています。多読とは、辞書を使わずに、イラストや場面から単語の意味を推測し、簡単なものから読み始め、たくさん読むことで日本語力を向上させるという方法です。多読会はこの方法を用いて日本語の本を読む読書会です。指導助手は、図書館司書と協力して会の企画・運営・広報を行っています。当日は、司書に本の準備をしていただき(様々なレベルの多読用教材及び絵本、簡単な小説等)、初回参加者向けにイタリア語で30分のレクチャーを行います。このレクチャーでは、指導助手が多読のメソッドやその効果について説明した後、司書が実際に本を見せながらデモンストレーションを行っています。今年度は、一般の学習者の方の参加も促すべく大学へのチラシ設置などの広報を行ったところ、一般のリピーターも増え、ディスカッションの時間には会館の学習者との交流が活発に行われました。次年度は、この会をもっといろいろな人に知ってもらい、初級レベルであっても日本語での読書を楽しむことができる、という感覚を味わってもらいたく、広報に力を入れていきたいと考えています。

5段階のレベル別に分けられた本の写真
多読会。5段階のレベル別に本を分けています。

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