令和元(2019)年度 日本語指導助手レポート ロンドンでの経験、学び、挑戦

ロンドン日本文化センター
堀江 真梨香

毎日の通勤ラッシュ時、ロンドンのぎゅうぎゅうの地下鉄の中で人々の会話に耳を傾けていると、公用語が英語だということをついつい忘れてしまうくらい多種多様な言語であふれています。そんな日常的に言語や文化の違いを感じることができる環境の中で日々刺激を受けながら、「日本語」に携わることができるのはとても面白く、やりがいを感じています。2018年7月にロンドン日本文化センター(以下、JFロンドン)に派遣されてから約1年、日本語指導助手(以下、指導助手)として経験させていただいている様々な業務をご紹介します。

初等教育への取り組み

近年JFロンドンでは、特に初等・中等教育における日本語教育の支援を重点的に行っています。Japanese Language Local Project Support Programme という助成金プログラムをはじめ、要望のある小中学校へ日本語ボランティアが出向いて日本語体験講座を行う Japanese Taster for Schools Programme 、教師研修、スピーチコンテスト、教材開発など、多岐にわたる事業やイベントを通して支援活動を行っています。今回はその中でも特に深く関わっている、初等教育への取り組みについてお話しします。

日本語体験講座の写真
日本語体験講座の様子

今年、JFロンドンの助成金プログラムを利用して、新しく日本語クラブを始めた小学校の「Japanese Day」というイベントに、日本語体験講座の担当も兼ねて参加する機会に恵まれました。ブリストル郊外にあるこの小学校を訪問してまず驚いたのは、生徒の多様性です。両親が様々なバックグラウンドを持ち、英語が第二言語だという生徒も多く、“お互いに違うことが当たり前”の環境の中で、自分と違う文化や言語に興味を持ち、学ぶ素地を小学生ながらもすでに持っているのはさすがと感じました。この日は終日、クラス担任の先生がそれぞれ準備された“日本”に関する授業(漢字、書道、折り紙、俳句、ラジオ体操、童謡など)を通して日本語や日本文化を体験する日ということで、私は3つのクラスで日本語の授業を担当しました。Year3~5(7歳~9歳)の生徒に日本語を教えるのは初めてで、クラスに入った瞬間、生徒たちからあふれ出るエネルギーに圧倒されましたが、それに応えられるように全身を使って教えるのはとても面白かったです。クラスが終わってからも、日本についての色々な質問を受けたり、習った日本語を使って話しかけてくれたり、初めて日本人を見たという生徒に不思議そうにじっと見つめられたり…と、生徒たちの様々な反応がとても可愛らしくて、小学生に教える楽しさや面白さを感じた瞬間でした。しかし同時に、小学校で日本語を継続的に取り入れるのが難しいという現状も改めて感じました。せっかく日本語を始めても、助成金の期間が終わると、学校の予算の問題や校長先生の采配一つで継続できるかどうか決まってしまいます。加えて多くの小学校では、そもそも日本語を教えられる先生がほとんどいないのも事実です。日本語の導入・継続に意欲的な小学校でそういった現実問題が障壁にならないように、クロスカリキュラムなどを含めた教材や、それを教えられる先生の育成など、様々な角度からサポートしていくことが今後の課題です。

他にも英国では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本への関心がより高まっている中で日本語や日本文化に興味をもってもらうことを目的に、いくつかのプロジェクトが進行しています。その一つが、2018年3月に行われた「Coventry Young Ambassador Japan Conference」 というイベントから続いているプロジェクトで、現在は初等教育向けの教材作成の依頼を受けて、日本の「食べ物」や「小学校生活」など全部で12のトピックについて写真中心のスライド教材を作成しています。一つ一つのトピックの中でも、どんな情報を入れるか、どの写真を使うか、限られたリソースの中で作成するのは大変な作業ですが、小学生が興味を持ってくれるような教材になるように試行錯誤を繰り返しながら作成の補佐を担当しています。

その他の業務

「ハイブリッド型」研修会の写真
「ハイブリッド型」研修会

JFロンドンでの指導助手の業務は、初等・中等・高等教育の支援事業関連にとどまりません。月刊誌『ZOOM JAPAN』の「Let’s NihonGO!」 コラム連載を担当したり、JETプログラムや、日本学術振興会(JSPS)、Rugby Football Union (RFU)、British Olympic Association (BOA)など、様々な機関から依頼される渡日前の日本語出張講座をいくつか担当したりしています。また2019年4月には、英国日本語教育学会 (The British Association for Teaching Japanese as a Foreign Language, BATJ)と共催の研修会において、会場参加と並行してオンライン参加ができる「ハイブリッド型」が導入されました。日本語上級専門家が緻密な研修プランを作り上げられる過程を間近で見て学ぶことができたり、新しいIT知識を教えていただきながら実際に練習するチャンスをいただけたりするのは、指導助手の特権かもしれません。残りの1年も、色々なことを学んで吸収しながら、積極的に業務に取り組んでいきたいと思います。

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