令和2(2020)年度 日本語指導助手レポート 日本語で「できること」を増やす

ローマ日本文化会館
齊藤 タキ

私が日本語指導助手(以下、指導助手)として勤務しているローマ日本文化会館(以下、会館)は、世界初の日本文化会館として1962年に設立され、現在もイタリアにおける日本文化の発信における中心的な役割を担っています。展覧会、映画上映会、舞台公演などの事業や、イタリア最大の日本研究専門図書館(以下、図書館)を通し、会館を訪れる人はイタリアにいながら日本文化を身近に感じることができ、年齢・国籍・職業問わず様々な人が集い、活発な文化交流が行われる場所だと言えます。ここでの指導助手の主な役割は、日本語講座の運営です。具体的な業務は大きく分けて、(1)日本語講座の授業担当、(2)日本語講座の運営及び現地講師のサポート、(3)日本語関連イベントの企画実施の3つがありますが、今回は3つ目の「日本語関連イベントの企画実施」について詳しくレポートしたいと思います。

「日本語でできること(Can-do)」を増やすための取り組み

会館における日本語講座では、現在全てのクラスで『まるごと 日本のことばと文化』(JF日本語教育スタンダード準拠コースブック)を使用し、単なる文法知識や語彙の習得ではなく、実際の場面で日本語を使ってできること(Can-do)を増やすことを目標においた課題遂行型の授業を行なっています。しかし、イタリアで生活している学習者にとっては、日常生活において実際に日本語を使用する機会を得ることは容易ではありません。そこで、学習者が授業外でも日本語を使ったり、母語話者と交流したりできるようなイベントを積極的に企画実施するようにしています。これらのイベントは、企画から実施まで指導助手に一任されており、他の会館スタッフの協力を得ながらアイデアを形にしていくことができるのは、仕事の魅力の一つです。数年継続して行われている月に一度の日本語会話の会「和伊和伊しゃべりあーも」や「日本語多読の会」に加え、2019年度は以下の2つの新しい取り組みを行いました。

日本語プレゼンテーション「“好き”をシェアしあーも」

会館の日本語講座では、全てのコースの受講生に対して、日本語学習ポートフォリオの作成を促しています。ポートフォリオとは、(1)Can-doチェックシート、(2)学習成果物、(3)文化体験の記録の3分野からなり、自身の学習成果を記録するためのものです。このポートフォリオ作成を通し、日本語や日本文化に対する興味を表現したり創作したりする意欲の高い受講生の存在に気付き、このような受講生が自分の興味・関心について発表できる機会を提供したいと思い、授業とは別にイベントとして企画しました。また発表を通して、受講生同士が繋がりを作り、交流するきっかけになるのではないかと考えました。講座開講中に有志の発表者を募った結果、3名の立候補があり、「柔道」「好きな日本のアイドル」「編みぐるみ(私の趣味)」と三者三様のテーマでのプレゼンテーションが行われました。終わった後の発表者の顔は達成感で溢れ、発表を聞きに来た他の受講生にも大きな刺激となったことと思います。

柔道についてプレゼンテーションをする受講生の写真
柔道についてプレゼンテーションをする受講生

日本語読書会 Circolo di lettura in lingua

会館内外の中・上級レベルの学習者が日本語の文章を味わいながら小説を読むきっかけを提供したいと思い、図書館の司書と協力して定期的に日本語読書会を実施しました。事前に課題図書(日本語原文)を読み、イベント当日には作品の内容について日本語でディスカッションを行うという内容で、読書好きが集い、いつでも気軽に参加できるよう「Circolo(サークル)」と名付けました。また、日本語母語話者にも参加を呼びかけ、学習者とのディスカッションを通した日伊文化交流の促進も試みました。2019年度には11月と1月の計2回実施し、それぞれ川上弘美、村上龍の短編を取り上げたところ、参加者同士の熱く活発な議論が展開されました。議論の後は、各自が作品の印象を「ZINE(ジン)」という小冊子の形で表現し、発表し合うことで作品への理解を深めました。本イベントは新型コロナウイルス感染拡大による影響で2020年3月以降会館において対面での実施ができなくなりましたが、4月からはオンラインでも実施していく予定です。オンラインでは、イタリア全国のみならず日本やその他の国からの参加など、対面では実現できなかった効果も期待できるのではないかと考えています。

イラストやコラージュを用いて作品の印象を表現する活動の写真
イラストやコラージュを用いて作品の印象を表現する活動

指導助手としての会館での2年間の業務を通して、イタリアの学習者により近い立場で日本語教育に携わることができました。学習者は今どんな情報を求めているのか、何に伸び悩んでいるのか、何を実現したいのか、を常に考え応えていけるよう模索していたように思います。この経験を活かし、今後は目の前の学習者だけではなくさらに広い視野で日本語教育を見られるよう自分自身も成長していきたいです。

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